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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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治癒魔法の巻

「もうそろそろ着きます。見張りがいますが私から言えばお二人も入れます」


「ここまで来た以上最後まで付き合うよ。このお守りは外しておかないと……」


 説明して中に入れてくれるのならこれは不要だ。一度も魔物と戦うことなく到着、マキの力に感謝だ。



「おおマユ!無事に帰ってきたか!薬草もあるようだが……人間を連れてきたのか!?」


「この人たちは味方だ。手出しするな」


 私たちと話す時は常に敬語で、常に腰が低かった。それでもスライムの群れの中では上位にいる実力者らしく、この『マユ』について知らないことはまだ多い。


「ぼくらが予想していた以上にしっかりした集落ですね。おい、スライムはみんな人の言葉を使うのか?」


「使える者と使えない者がいます。姿も私のような人型だけではありません。説明するより実際にご覧になったほうが早いでしょう」


 何者かの襲撃を受けて、たくさんのスライムが薬草を待っている。案内する時間も惜しい気持ちはよくわかる。重傷のスライムたちがいる建物へ急いだ。




「うわっ!」 「これは………」


 確かにいろんな形や種類のスライムがいる。知力や戦闘力、長所と短所もそれぞれだろう。でも私たちがびっくりさせられたのは、その数の多さだ。


「何千?いや、それ以上かも……」


「大勢負傷しましたがここにいるのは重傷の者だけ、まずはこの者たちに薬草を!」


 つまり、まだまだいる。いくらスライムが弱くても数万とか数十万もいれば数の暴力で私たち二人を簡単に倒せる。変なことはできなくなった。



「しかしこれだけいると薬草の数が足りませんよ?一匹に一枚もないんじゃ、とりあえず命の危機を凌ぐだけで終わりですよ」


「私が治癒魔法を使えたらなぁ。12歳になるまで練習はさせられてたんだ。なかなかうまくいかなかったけど、聖女の力と神の加護を授かれば問題ないって言われて……」


「で、聖女になれないとわかった日から練習もやめてしまったと。大聖女の妹様がいればやる必要はありませんからね……」



 時々試してはみた。基礎は繰り返し練習したのだから特別な力がなくてもいつか使えるはずと思い、そのたびにがっかりした。特別どころか普通の力すら私にはないのだと。


「オニタを倒したときはうまく発動しましたよね?グレンとの戦いでも魔法自体は成功していました」


「自分の足や片手、狭い範囲に短い時間だからね。ラームだってちゃんと練習すればあれくらいすぐできるようになるよ。でも治癒はもっと難しくて……」


 そのうちラームは私を追い越していくだろう。その邪魔だけはしないようにと自分に言い聞かせている。ところがラームの考えは違った。



「……ジャッキー様は自分を極端に過小評価しているのでは?いつもぼくに「買いかぶりすぎだよ」と言いますが、間違っているのはジャッキー様のほうではないかと……」


「………へ?」


「どうせできない、これくらいしかできない……そう思いながらやっていたら失敗するのは当然です!ジャッキー様の奥底に眠る真の力、ぼくは信じています!」

 

 私が魔法を成功させたのは、これならできるという自信があったからだ。だから高度な魔法でも使いこなせると思えばちゃんと発動する、それがラームの言い分だ。


 思い込みの力だけで何でもできるほど魔法は甘くない。ただ、私が勝手に自分の限界を定めてしまって、本来の限界よりずっと低い位置に線を引いていたのなら………。



(練習だからと真剣さが足りなかったのは事実だ。マキがいるから私は無能でもいいと最初から諦めていたかもしれない。いつか捨てられると怯えてばかりで前を向いていなかった時間もあった……)


 家を追い出されても文句は言えないダメな私を愛し続けてくれた大切な家族。今ではラームもその一員だ。皆のために強くなって、守ることで恩返しすると誓った。


 オニタを倒すのは手段を問わない邪道からマキを守るため、グレンを追い払うのはラームを暗い未来から救うため。家族への愛と悪への怒り、私に必要なものはそれだけでよかった。


(スライムの集落を壊滅させたら敵は勢いに乗って破壊を続ける。そのうちギルドにも、私の家にも手を伸ばすかも。そこまで離れていないのだからありえる話だ!)


 苦しむスライムたちを助けたい、ビューティ家を守りたい。その思いで私の中にある魔力を一つに集めると、今ならできる気がした。




「癒やしの奇跡をここに――――――っ!!」


「ジャッキー様の全身が光った……!」


 重傷のスライムをどれくらい治せるのか、一度に何人を癒やせるのか、私にもわからない。それでもこの神聖さすら感じる光、持てる力を出し尽くした手応え、何も起こらないはずは………。



「………」 「……何も起こりませんね」


 ………これはひどい。治癒魔法のはずがただの発光、そうでなければ肩透かしの魔法とは。ラームに乗せられて私はできると思ったのが間違いだった!



「なんだよあの人間は。もう帰ってもらえよ」


「何が癒やしの奇跡だ。一瞬でも期待して損した。薬草で地道に治していかないと………えっ!?」


 スライムたちも私に失望しながらそれぞれの持ち場に戻った。ところが何やら様子がおかしい。


「か、完璧に傷が癒えている!すり潰してまだ一滴しか飲ませていないのに!」


「葉っぱの欠片が身体に触れただけでみるみる治っていくぞ!これなら全員分足りそうだ!」


 一枚の薬草で何人も治せることにスライムたちは大喜びだ。薬草は魔法と違って回復に時間がかかるのに、これなら最上級の治癒魔法にも劣らない。



「……あの薬草、こんなすごいものだったんだ!」


「ぼくたちが知らなかっただけかもしれませんよ」


 まさかの急展開でスライムの集落は救われた。私の魔法は失敗したけどそれはもう忘れよう。

 G道選手は箴言集でも出すつもりなのでしょうか。謎の呟きが続きます。

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