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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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最有力候補の欠場の巻

「……強気に振る舞ってはいたものの、やはり恐怖していたか……」


「いきなり違う世界に来た不安もあるでしょうし……」


 それでも赤ちゃんみたいになることはない、とは誰も言わなかった。もちろんこれは私たちだけの秘密にした。


「それにしても……あんな遊びをするならちゃんと扉くらい閉めろって思いませんか?」


「そうだよね。普通は確かめるはずだけど」


 私も気をつけよう。一つのベッドでみんなと寝るようになってから、朝には服が乱れていることが増えた。人数が多すぎて、自分や誰かの寝返り、腕の動きだけで脱げてしまうのだと思う。扉や窓は確認してから寝よう。


(もっと注意することがあるような気がするけど……まあいいや、思いつかないならそれまでの話だ)






 転移者たちの訓練が始まった。勇者の力をもらう前から身体能力は高かったそうで、ユミさんの成長は速い。


「これが勇者……!確かに強い!リングの支配者になるのも時間の問題かもな」


「そ……そうか!?」


「ロープの使い方が上手いよ。わたしも練習しないとすぐに追い越されちゃうな」


 サキーとマキに褒められて、ユミさんは笑顔になっていた。確かにユミさんは魔法も剣術もすでに一流、体術も王国のトップレベルだ。私なんか何一つ勝っているものがない。


 しかし初対面の時と比べたらサキーもマキも態度が柔らかくなった。赤ちゃんのように激しく泣きわめく姿を見てしまったらさすがの二人も気を遣う。



「丁寧で優しい指導のおかげでユミちゃんがどんどん成長しているのがわかります。私も回復魔法をマスターして支えないと……」


「焦らなくていいですよ。治癒の仕事でお金がもらえるくらいの力はすでにありますし、さすがは神様が選んだ方です」


 キヨさんは後方からの支援に向いている。攻撃よりも仲間の回復や強化、敵の妨害をする魔法が得意で、この人がいれば前衛は安心して戦える。


 しかしキヨさんの一番の武器は魔法の才能ではなかった。真の恐ろしさを知ることになる。




「……ところでジャッキーさん、あなたは見ましたね?私がユミちゃんを慰めているのを」


「えっ!?い…いや、それは」


「隠す必要はないです。扉が開いていたでしょう?あれはわざとです。見てもらうためにそうしました」


 あんなところを見られたら最悪のはず。意味がわからなかった。


「理由は簡単です。勇者の力を手に入れたユミちゃんはこれからまさに無双状態!難なく最強の座を手にすることでしょう。そしてユミちゃんの特別な存在になろうと多くの人間が群がります」


「……………」


「それなら最初からユミちゃんの全てと私たちの関係を明らかにしてしまえばいいと思いました。現に皆さんは一歩引いたところでユミちゃんを見ている……今のところ私の思い通りに事が進んでいます。あっ、このことは当然ユミちゃんには内緒ですからね?」


 これはとんでもない策士だ。敵にしたくない。





「四年に一度のスーパー闘技大会……勇者のデビュー戦にふさわしい舞台だ。どんなやつが出場するんだ?」


「強敵揃いですよ?先日行われた大会の上位入賞者はもちろん、よその国からも腕自慢がやってきます」


 前回は500人だった予選出場者が今回は1000人に増える。決勝トーナメントに進めるのは12人で、大会のレベルが上がることを考えたらとても狭い門だ。


「リングで戦うのは決勝トーナメントからです。予選の競技は当日までわかりません」


「もうくじ引きは勘弁だ。戦ったり競ったりして脱落するなら納得できるがあれは……」


 一人ずつくじを引いたら時間がかかる。別の形で一気に人数を減らしてくるだろう。


「まあ運任せになったとしてもマキは予選なしで決勝に進める。高みの見物ができるよ。私やサキーは頑張んなきゃいけないけどね!」


 笑いながらマキの肩に手を置く。するとマキはきょとんとした顔で私を見つめてくる。そして衝撃の発言が飛び出した。



「……え?わたしは出場しないよ」


「ええっ!?」 「は?」 「……あ?」


「この間は第300回の記念大会だから出てあげただけで、今回はやらないってもう決まってるよ」


 優勝に一番近いマキがまさかの不参加を表明して、部屋は騒然とした。王様たちが許さないだろうと思っていたらすでに了承済みだという。



(………あっ!そういうことか!)


 前回はマキの圧勝がほぼ決まっていた。でも未知の強豪がやってくる今回は、マキが無傷で優勝できるとは限らず、危険は数倍……いや、数十倍だ。


 参加人数が増えるせいで、暗殺者や魔族が紛れ込んでも発見は困難だ。大聖女が死んだら闘技大会どころではなくなり、世界が混乱に包まれる。


(王国の名声よりもマキの安全と世界の平和を優先した……アントニオ家、見直したよ!)


 私はこの決定に大賛成だ。マキには安全な場所から四年に一度の大会を楽しんでもらいたい。マキを利用するのではなく守る方向に考えを変えた王様には感謝の気持ちでいっぱいだ。






「大聖女様!あなたは大会に出場する義務があります!主役であるあなたがいなければ……」


「わたしはもうお姉ちゃんと戦いたくない。決勝戦だろうと構わず棄権するよ。だったら最初からいないほうがいいでしょ?」


 マキの欠場の真相を私が知るのはもう少し先の話だった。王様たちは最後までマキを出そうと説得を続けていた。大聖女を余計な戦いに巻き込んで危険に晒すことを少しも悪いと思っていなかった。


「お姉ちゃんの応援に専念したいんだ」


「……お言葉ですがジャクリーン・ビューティが予選を突破できるとは思えません」


 その場にいたシューター王子がつい本音を漏らしてしまった。この一言がマキをとても怒らせた。



「……わかった、じゃあ出るよ。ちゃんと予選からね」


「よ、予選から?」


「お姉ちゃんとわたし以外の無価値な連中、998人のゴミを予選で消す。わたしたち姉妹だけが決勝トーナメント進出だから、いきなり決勝戦になるね」


「なっ………!!」 「あわわわわ」


 マキの脅しは強烈だった。大会をぶち壊しにすると宣言された王様たちは青ざめていたという。マキにはその力があるし、この様子なら本気でやる。



 最後は「どうか参加しないでください」と頭を下げてきたという。王様に感謝する必要はなくなったけど、謝罪はしたほうがよさそうだ。

 プロ野球のレギュラーシーズンが終わり、今年も多くの選手がユニフォームを脱ぐことになりました。どんなスポーツでも引退試合ができる選手はごく一部ですが、このまま市川(ストーカー市川)選手の引退試合が今から楽しみです。

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