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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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停戦の巻

 王様が用意してくれた浴室はとても豪華だった。でも今の私にはそれを楽しむ余裕はない。


(まずい……このままじゃダブジェ島の時と同じだ!)


 服を脱いでからようやくみんなの熱い視線と荒い呼吸に気がついた。私たちの貸し切りで、誰も邪魔が入らないとなると、またやる気だ。



(いや、この間と同じどころじゃないかも………)


 私がリング上でやったことが温泉のやり返しなら、それに対するやり返しはここしかない。


「実はぼくたち、とても不安だったんですよ。ダブジェ島ではやりすぎちゃったんじゃないかって。ジャッキー様を怒らせてしまったかもしれないと……」


「い、いや。別に怒ってないよ」


「不快や嫌悪の気持ちを隠している……それが心配でした。口にはしなくても心の中で私たちに愛想を尽かして、そのせいでトーゴーに惹かれたのではと思いました」


 そこまでの悪感情はなかった。ただ、あれはやりすぎだったから少し反省してもらいたくて冷たく接していた時もあった。



「しかし今日、ジャクリーン様の本心が明らかになりました。わたくしたち以上に飢えた獣であり、欲望を秘めていたとは!」


「………え?いや、あれは違……」


「ジャッキー、お前の気持ちはわかる。自分が実は破廉恥な人間だと認めるのはとても恥ずかしいだろう。だがそんなお前でも私は離れない、安心していいんだ」


 それはサキーのことでしょ、と反論する気にもなれなかった。これから起こることが楽しみなサキーは、すでに鼻血を垂らしながら興奮している。私を守ろうなんて全く考えていない。



「やっぱりあとで入ろうかな。一人でのんびり……」


「逃げられないよ、お姉ちゃん。わたしたちだってここは手を組むんだから、お姉ちゃんも仲良くしなきゃ」


 標的は同じなのだから一時休戦というわけか。マキたちが順番や方法で争ってくれたら私にも脱出のチャンスはあったのに………。



「まあ……別にいやらしいことをするわけではありませんからね。汗や汚れを落とすだけですから」


「そうそう。間違って手が滑ったりするかもしれないけど、事故だからしょうがないよね」


「……………」


 試合中にやらかした罰だと思って諦めよう。それに罰と呼ぶには気持ちいい………いや、それを認めたら終わりだ。私が陥落したら、もう止まらなくなる。


(みんなでろくに働きもしないで堕落した毎日……そんなの駄目だ。私はどうでもいいとして、将来有望なみんなのことを守らなきゃ!負けないぞ!)


 何を勝ち負けの基準とするのかわからない戦いが始まった。





「………はひっ……はひっ………」


「ま……まさかジャッキー様が反撃するとは………」


 結果は引き分け、浴室を出たらみんなで倒れた。他国の王族をもてなすための部屋だから、休むには最高の場所だった。


「……やっぱりジャクリーン様も相当の……」


「そ……それは……ない………」


 チーム・ジャッキーは今後も停戦するようで、私のために争う事態は避けられた。激しい戦いの末に得るものが私では、世界一くだらない戦いと断言できる。



「最高の一日だったよ。またトーゴーを連れてきてお姉ちゃんを悪くしてもらうのもいいかもね」


「………あれはもういいよ……」


 半殺しにされては全回復、それを何十回も繰り返されたのだから、もうトーゴーが私たちを狙うことはないだろう。二度と近づくまいと誓っているはずだ。







 トーゴーとの戦いが終わって一週間が過ぎ、私たちはまだお城にいた。その間にザ・グレーテストはダブジェ島に帰り、ハウス・オブ・ホーリーは解散した。


 マキとの関係修復を目指したマッチョ王子、サキーを狙っていたシューター王子は二人とも撤退した。勝ち目のない勝負はしないとのことで、私を恨んでいる様子もないからよかった。



「家のことは奴隷たちに任せてあるし、滞在費は全てあいつらの負担だ。だからこそ妙だな」


「どんな理由があって帰さないのか……」


 お父さんとお母さんが抱いている疑問は私たちもずっと気にしていたことだ。大聖女の仕事があるマキ以外は食べて飲んで遊ぶ毎日で、そのマキもたった二日、数時間働いただけだった。


「そろそろ『スーパー闘技大会』ですよね。それが関係しているに違いありません。実力者であるジャッキーさん、それにサキーさんを怠けさせるのが狙いでは?」


「自分の息子に勝たせるためにか……どうだろうな。四年に一度のこの大会は他国からも強豪が集結する。あの王子どもでは厳しいことくらいゲンキもわかっているはずだがな」


 私はまだ出場すら決まっていない。闘技大会で優勝したマキは予選免除で決勝トーナメントから参戦する権利があるけど、決勝戦で反則を繰り返した私は予選の舞台に立てるかもわからない。サキーはともかく私を弱くしても、意味のない努力だ。



「ビューティ家への援助は婚約破棄と同時に終わった。なのにこの厚遇……やはり陰謀を警戒したほうが」


「もしくは危険で面倒な仕事を持ってくるか。贅沢させたのだから文句は言わせない、そのつもりで……」


 どんな目的があるとしても、そろそろむこうから動いてくるはずだ。時間が経てば経つほど疑いは強くなり、私たちを引き留めるのが難しくなっていく。


「今日何もなければもう帰ろう。信頼できる者たちに預けているとはいえ、いつまでも家を留守にできない」



 時間切れ目前、その時だった。私たちが集まっていたところに兵士たちがやってきた。


「ゲンキ・アントニオ王が皆様を呼ぶようにと。王の間までご案内します」


「ようやくか。どんな用だ?」


「それは国王が自らお話されるでしょう。実のところ、我々は何も知らないのです。皆様の力を必要としている理由は、国王と数人の重臣以外には隠されています」


 一難去ってまた一難、王国を襲う新たな危機が迫っているのかもしれない。

 またしばらくの間いなくなります。連載が再開する時には横浜DeNAベイスターズが奇跡の逆転優勝を果たしているでしょう。


 オーカーン様と天空歩人の戦いはどんな決着を迎えるのか………楽しみですが非常に恐ろしくもあります。

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