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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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大聖女の制裁の巻

「前世で受けた仕打ちや不幸の数々はすでに忘れていたはずでした。しかし奥底では恨みの炎を燃やしていたなんて……恥ずかしい話です」


「私も突然パートナーの悪いところばかりが気になるようになって………裏切って解散だ。もう取り返しはつかないけど、正気に戻れてよかった」


 エーベルとシヨウは本来の自分を取り戻したようだ。いろんなところで暴れまわって迷惑をかけたとしても、彼女たちをいいように操っていたトーゴーのせいだ。


 元々悪人のユーを除き、ハウス・オブ・ホーリーの他のメンバーたちも悪の支配から逃れた。さっきまでは全員とても悪そうだったのに、今ではどこにでもいる人たちに見える。



「巨大な闇を打ち破ったあなたたちの力……見事です。前世の私よりも遥かに上で、誰も異議を唱えることはできないでしょう」


「エーベルさん……ということは?」


「この戦いは大聖女の座を争うためのものでした。しかしもはや私にその気はなく、これ以上試合を続ける理由はありません」


 試合放棄だ。これで私たちの勝利……のはずが、意外な展開が待っていた。



「勝者、ハウス・オブ・ホーリー!」


 審判が相手の勝利を宣言してしまった。

 

「いや、関係ない人間が三人もリングに上がっているんだ、お前たちの反則負けだ」


「げっ………確かに」


 エーベルさんが棄権するほんの少し前に私たちの反則を取られて敗北。相手と違って審判がいる時にラーム、ルリさん、マキと次々にリングインした。



『か、勝ったのはハウス・オブ・ホーリー!終盤はジャクリーンが仲間たちを捕食しているだけでまともに戦っていませんでしたが……』


 相手が決勝戦で勝てばマキとエーベルさんの試合が始まるはずだった。しかしエーベルさんはすでに大聖女の座を争う戦いから降りている。


「国王様……どうします?」


「これで終わりだろう。続ける意味はない……」


 全員納得の大会終了だ。駒を失ったトーゴーも悔しそうに大闘技場を去ろうとしていた。ところが何者かがトーゴーの肩を掴み、敗走を許さなかった。



「……だ…大聖女、マキナ・ビューティ………」


「せっかくもう一試合やれるのにどこ行くの?やろうよ、わたしとあなたで」


 エーベルさんではなくトーゴーとの試合を提案した。もちろんトーゴーは慌てて拒否する。


「は!?どうして私たちが戦うんだ!?」


「王国の頂点に立ちたかったのはエーベルじゃなくてあなたでしょ?また別の人を連れてきて同じことをするかもしれない。回りくどいのはもういいよ、わたしとやろう」



 大聖女の座を奪って王国を乗っ取り、世界中を戦いで満たそうとしたトーゴーをマキが懲らしめる。この場にいるほとんどの人はそう思っていた。でも実際は、私の心を奪っていた憎い敵への復讐だった。


「いいぞいいぞ!やれやれっ!」


「そいつの家系はリング戦マスターなんだろ?大聖女様相手でも好勝負が期待できるかもしれんぞ!」


 観客たちは面白がって延長戦を歓迎した。王様も立会人席を離れてリングまで来た。そしてマキとトーゴーの間に立つと、


「よし!マキナ・ビューティ対スポイラー・トーゴーの特別試合決定だ!」


「あ……あああ〜〜〜っ………」


 トーゴーに逃げ場はなくなった。ただし3カウント制はこの試合でも有効で、電光石火の丸め込みは要注意だ。




「それでは両者、正々堂々戦うように!」


「はい!」 「……………」


 トーゴーの手には敵の首を絞めるための鞭がある。しかし一対一の戦いでは、不意打ちや背後からの攻撃はなかなか決まらない。仲間たちの介入ももうない。


(………ダメだ。どうやっても通用しない)


 隠し持っている粉で視界を奪う、いきなり審判を攻撃して無法地帯にする……反則の方法ならいくらでも思いつくトーゴーでも、マキ相手に有利に試合を進められる手はなかった。



「始めっ!!」


(こうなったら即降参………)


 頭を下げて試合終了、マキはそれすら認めなかった。



「ぐぼぁっ!?」


『………な、何が起きた!?』


 マキが軽く放ったように見えるパンチ。被弾した瞬間、トーゴーが舞った。 


「あ……危ないっ!!」 「逃げろっ!」


「げふぇっ!!」


 観客席の中段あたりに飛び込んだ。観客たちはどうにか避けられたようだけど椅子は粉々、きっとトーゴーの骨も……。



『ど、どれだけ飛ばしたんだ!?トーゴーが戦闘不能なのは明らかとして………あっ!?』


 マキが魔法を詠唱すると、観客席で倒れていたトーゴーがリング中央、つまりマキの目の前に移された。


「……………」


「………えっ?な、治すのか?」


 マキは無表情でトーゴーの傷を完璧に治した。力の差ははっきりしたのだから、無傷で許してあげて終わりという大聖女の慈悲だと皆は思った。ところが、



「えいっ」


「ゲハッ!!」


 横になるトーゴーの頭に足を置くと、躊躇なく踏みつけて顔面を破壊した。もちろんそれもすぐに回復させると、今度は足を掴んでぐるぐると回し始めた。


「こ、これはジャイアントスイング………ぶっ!!」


 20周以上回してから放り投げると、トーゴーは脳天からリングを支える鉄柱に激突させられた。攻めているマキも平衡感覚を失いそうな大技なのに、全くダメージはなさそうだった。



『トーゴーは血だらけ……いや、これもすぐに回復!すでに戦意を喪失しているようですが、マキナ様は容赦なし!』


「も、もうやめて!偽の大聖女とか言ったことは謝る!」


「まだ何もわかってないんだね。頭が弱すぎるんだから身体に教えるしかない……まだ終わらないよ」


 恥ずかしいことに私は、マキやサキーたちよりもトーゴーに惹かれていた時期があった。仮にトーゴーが善人だとしてもマキはこうして恨みを晴らしていただろうから、どうなってもいい悪人でほんとうによかった。



「……大聖女様があんな残虐ファイトをするなんて……ジャクリーンのせいとしか考えられない!簡単に邪気に飲まれたダメな姉の身代わりになって……」


「さっきのやつか!」


 トーゴーを徹底的に痛めつけるマキの狂乱ぶりに観客たちは困惑していた。それでもすぐに私のせいだという結論に達し、そう決めつけ始めた。


「またあいつかよ!どこまで害悪なんだ!あいつのバカな言葉でサキーが地味なコスチュームに変えちまうかもしれないだけでも重罪なのに!」


「そもそもどうしてあんなやつにいい女が集まる!?サキーに加え将来有望な美少女二人、それにタイガー家の娘まで!」


「トーゴーよりもジャクリーン・ビューティのほうが危険な存在だ!国外追放にしろ!」



 リング上ではマキが延々とトーゴーを嬲り続け、大闘技場は私への罵声とブーイングが響く。最後まで混乱したまま大会は幕を下ろしたのだった。

 東郷、散るっ!

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