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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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欲望の解放の巻

 最初に言っておく。トーゴーによって私の中に眠る悪と欲望を最大限に引き出された時、私は意識を奪われていた。つまり、あれは私であって私ではない、そのことを知ってほしい。




「……………」


『トーゴーの術にやられてしまったジャクリーン、いつもと目つきが違います!仲間たちのもとへゆっくりと歩いていきますが……このまま同士討ちか!?』


 サキーとマユは数歩だけ下がったものの、逃げなかった。勇気を奮い立たせたサキーがマユの前に出た。


「ジャッキー!正気に戻ってくれ!」


 私を止めようとした。でも結論から言うと、遠くへ逃げるべきだった。この時の私は説得で止まる人間ではなく、恐ろしい怪物になっていた。



「ジャッキー……むぐっ!?」


 サキーの頭と背中に手を置いて固定すると、そのまま唇を奪った。乱暴に、強引に。



「あ、ああっ!?」 「何やってんだ!?」


『リ、リングの中央で大事件だっ!ジャクリーンが突然サキーに口づけを……いや、口づけなんてものじゃない、口の中に侵入しているぞ!』


 舌まで入れる暴挙。最初はサキーも手足をばたばたさせていたけど、やがて大人しくなった。



「ぷはっ」  


「あ……あうう」



 数十秒後、ようやくサキーを解放した。顔は真っ赤で鼻血が出ていた。そんなサキーに私は追撃した。


「ひゃんっ!?」


「かわいい声だね……サキーはウブなんだから、こんな薄いコスチュームはもうやめようね。私を不安にさせないでよ」


 サキーの肌が露出している背中やお腹のあたりを優しく指でなぞった。サキーは飛び跳ねると、その場にぺたりと座り込んでしまった。


「わ……わかった……なんでもいうとおりにすりゅ……」




 サキーは倒した。次の標的はマユだった。


「し、試合中ですよ!?それも大観衆の前!自分が何をやっているのか……んっ!?」


 問答無用。サキーと同じようにして黙らせた。



『ジャクリーン大暴走!また仲間を襲った!』

 

 マユも最初は抵抗した。それでも舌を使って激しく攻めていくと、そのうち静かになった。マユの口内を味わい尽くして満足するまで放さなかった。


「あ、あいつ……狂ってる!」 「近づけない!」


 ハウス・オブ・ホーリーの三人はリングからかなり離れた場所で唖然としながら様子を見るだけだった。私の暴れ方が予想していたものと全く違っていたから、安全な場所から動けずにいた。



「はぁ……はぁ……ジャッキーさん、どうして……」


 マユの全身はピンク色に変わっていた。目はとろりとして、だらしなくよだれを垂らしている。


「あれ?マユは私としたくなかったの?それならもうやらないほうがいいね。反省してるよ」


 試合後に聞いた話だと、この時の私はとても妖しげな魅力があったという。意地悪なことを言いながら、マユの顎をくいっと持ち上げて視線を合わせる。人によってはそれだけで失神するだろうと言われた。


「い…いや!したいです!したいですっ!」


「そうだよね。ご両親や女王様の前で私と結ばれるって誓ったんだから……この程度で限界じゃ困るよ。そう遠くない将来、もっと凄いことをしてあげるからね」


「………!」

 

 マユを抱き寄せ、軽いキスをした。するとマユのピンクの身体はサキーの顔のように真っ赤に染まり、仰向けに倒れた。



「ひゃい、がんばりましゅ………」


『マユもダウン!大闘技場は騒然としています!』




 皆が混乱し、どうしたらいいのか審判すらわからずにいる中で、ラームは私のやっていることとよく似た光景を思い出していた。


「ああ……そうだ!この間のダンジョンで見た技!ダンディーノという魔物が男たちを次々と戦闘不能に追い込んだキス攻撃とそっくりです!」


 気持ち悪さやショックでダメージを与えているだけと思いきや、あれには魔力が込められていたのではと被害者のサンシーロさんは語っていた。今回も私が特別な力を使い、サキーとマユからいろんなものを吸い取ったのだとラームは考えた。


「ぼくがジャッキー様を止めてきます!止められないとしてもヒントだけは!」


「ラームさん!」


 ルリさんの制止を振り切ってラームはリングに上がってきた。すでに異常事態だからか、審判に止められることもなかった。私の暴走を終わらせるためにラームが覚悟を決めた、その結末は………。



「むぐっ!むぐ――――――っ!!」


 勢いよくロープを飛び越えた瞬間、私に捕まった。その後はサキーたちと同じく獲物になるだけだった。


(しゅごいっ!しゅごいっ!脳が溶けりゅっ!)


 ラームの決意は理性ごと吸い取られた。私を止めようなんて気持ちは一瞬で消え失せた。



「はひゅっ……ジャッキーさま………」


 長い口づけが終わり、意識が朦朧としているラームは私に身体を預けてきた。小さな身体を震わせながら悦びの涙を流すラームは幼い子どもとは思えないほど色っぽくて、私を煽った。



「ひうっ!?」


「ラームが大きくなるまで我慢する……私の誓いをどうしても破らせたいのかな?そっちがその気ならもう遠慮しないよ」


 ラームの服の中に手を入れると、それだけで大きく跳ねて気を失ってしまった。上下に片手ずつ入り込み、これからというところだった。


「かわいいラーム……これからも大事にするよ」


 優しくリングの隅に寝かせてあげた。外にはトーゴーたちがいるから、無防備なラームが安全なのはリング内だ。



「ジャッキーしゃま………ぼくはずっと………」


 いつか立派に成長して私から巣立っていく。それが正しいと思っていたはずが、実は重い独占欲に満ちていた。保護者として失格なのだから、別の立場でラームを幸せにするしかなくなった。




「ジャクリーン様!わたくしの愛でお目覚めください!婚約者であるわたくしが……あなたを正気に!」


『今度はルリ・タイガーがリングイン!あのサトル・タイガーの娘、戦闘力はないと聞いていますが……』


「わたくしの目を見てください!もっと近くで……」


 愛の力で私を元に戻そうとしたルリさん。だけど今の私に接近するということは………。



「〜〜〜〜〜〜っ!!」


『あっさりやられた――――――っ!!』


 か弱い小動物が肉食獣に捕まった。何もできない。


『しかし……今の彼女は自らこうなることを望んで飛び込んでいったように見えます。ご覧ください!ジャクリーンにしっかり抱きついています!』


『あんな美人をどうやって夢中にさせたのかわかりませんが、羨ましすぎる!ジャクリーン・ビューティを殺したくなってきました』


 サキーたちに取り残されたくなかったようだ。自分からやられにきたというのなら、その気持ちに応えてあげよう。ルリさんが満足するまで続けた。



「はふっ………」


「ルリさん……いや、ルリ。幸せそうだね」


 黙ったまま私の胸に顔を埋めてきた。すぐそばにある頭と腰を撫でてあげると、ビクンと痙攣しながら私にますます強く抱きついた。


「早くあの魔法を完成させてよ。そうすればもっと幸せにしてあげられるからね。もしルリが望むなら魔法なんかなくても……」



 何度も言うけど、今の私は操られているも同然だ。この光景だけを見て、ジャクリーン・ビューティはこんなやつだったのかと思われたら困る。

 ジャッキー大暴走!

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