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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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ジャッキーの選ぶ道の巻

 マキがくれたお守りに秘められていた魔法についてもう少し補足すると、自分より強い魔物には効かない。何を基準にして魔法の使用者と魔物の強さを比べているかはいまだに明らかにされていないとはいえ、ほとんどの場合で正確だと言われている。


 私たちが弱すぎるから魔物の群れに無視されていたというのは間違いで、私たちのほうが強いからお守りの力が発動したのが真相だった。自信を失いかけていたけどこれで少しほっとした。


「お二人はどうしてここに……」


 この人型スライムも私たちより弱いということだ。でも気を抜くのはまだ早い。その姿のせいか人間の言葉を話し、薬草を集める行為からも知性の高さがわかる。ラームと同い年くらいに見えてもこれが真の姿とは限らない。油断を誘う罠の可能性もある。



「君と目的は同じ、薬草が欲しくて来たんだ。私たちが使うわけじゃないんだけど……君はなぜ?」


 私たちのギルドに依頼を出している薬師は薬草を材料の一部にして回復薬を精製する。治癒魔法が使えない冒険者や兵士でもこれがあれば安心して戦場に向かうことができた。


「一族の集落が何者かに襲撃されて……ボロボロなんです。無傷だった私がみんなのために薬草を集めに来ました。早く、それもたくさん集めなきゃ……」


 草のままでもそれなりの効果はある。大量に使えば命が危ないほどの重傷を負っても回復できる。何日もかかる旅や狭いダンジョンに大量の薬草を持っていくと邪魔だから、薬師が手を加えて小さな薬にしている。



「スライムの巣を襲う……貴重な品物や見返りは何もないはず。人間の脅威になるわけでもないし、私たちのギルドにスライムの討伐依頼はなかった」


「頭の悪い魔物、弱い者いじめがしたい人間……犯人はそのあたりでしょうね。ジャッキー様、どうします?」


 私に聖女の力があればスライムたちを一瞬で全快させることもできた。でも聖女だったら魔物を助けたりしない。だから私はいま、ある意味で自由だった。強制も制限もなく、自分の信じた道を行ける。



「で、どれくらいいるのかな?」


「はい……あればあるだけほしいです。皆を治すためにはどれだけ持っていけばいいのかわかりませんから。でもあなたたちも薬草が必要なんですよね」


 奪い合いになれば勝てないと思っているようで、私たちに順番を譲ろうとした。私たちが終わってから残ったぶんを集めようという考えか。


「先にやっていいの?じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうよ。ラーム!残らず採っちゃおう!」


 私の言葉を聞き、スライムは青くなった。そのときの感情に合わせて体色が変わるらしい。


「全部……ですか。確かにそれなら報酬の上積みは確実、明日から別な仕事ができますね」


「薬草を必要な人たちが待っている。すぐにやろう。完全に狩りつくすんだ」



 スライムがどんどん真っ青になっていく。早く教えてあげないとかわいそうだから、持っていた袋を一つ渡した。


「………えっ?これは?」


「君もやるんだよ。私たちが採っている薬草は全て君の群れに持っていくんだから、君が作業しないでどうするの」


「…………!はいっ!」


 三人いれば持ち運べる量も増える。チームで協力して効率のいい作業ができるはずだ。



「ジャッキー様!なぜですか!?こいつに薬草をあげたら魔物を助けた上に受けた仕事は失敗です!」


「嫌なら自分の分だけ集めてギルドに帰っていいよ。私はこの子といっしょに行く」


 貴族の道楽で来ただけで真面目に働かないだろうと私を拒否したギルドがいくつかあった。そんなことは絶対ないと誓ったけど、その人たちのほうが正しかったのかもしれない。


「この子は家族や仲間を助けるためにたった一人で人間や別の魔物がいる危険な場所に来た。私たちは二人、しかもお守りまで持っていた。勇気や決意、信念……戦うまでもなく私たちの完敗だ」


「………」


「勝った者の要求が通るのは当然、とにかくたくさん必要だって言うんだからこれはもう仕方がないよ」


 ラームは黙ったままだ。一応筋は通っている理由のはずだけど、苦しい後付けと言われたらそれまでだ。目の前にいるスライムを助けたい、そんな子どもみたいな本心を話せばラームに幻滅されるかもと思った私の弱さだった。



(………さすがジャッキー様。惚れ直した!真の強さを持ち、慈悲と愛に満ちているとぼくが信じた人……これからも離れずにそばにいるぞっ!)


 後で聞いたことだけど、ラームは感動のあまりしばらく何も言えず動かなかったという。私が隠した本心はバレバレで、自分の立場や相手が何者かに関わらず優しさを示したところを見て、一生ついていくと決めたそうだ。


 ラームもなかなかの物好きだ。これなら正直に言えばよかった。今後はラーム相手に隠し事は無用だ。




「よしっ、狩り残しはほとんどない!君たちの住むところへ急ごう!」


「早く歩いて一時間、途中に何箇所か危険なところがあります。近くなったら教えます!」


 三人で大量に薬草を抱えているからそんなにスピードは出せない。ラームの小さくなる術は自分にしか使えず、荷物を小さくして運びやすくすることはできない。スライムも変身能力はないそうだ。


 スライムたちが住んでいる場所だから、人間があまり出入りしない森の中を進んでいく。昼間なのに足元が暗かったり死角が多かったりで確かに危ないけど、このスライムが森の魔物たちに知られていなければマキがくれたお守りが役に立つ。



(最後はマキの魔力頼みか……私もこういう時に役に立つ魔法をたくさん唱えられたら……)


 使える魔法の数も魔力も少ない。地道に前へ進むしかなかった。 

 この作品を面白いと思っていただけたら、ブックマーク&星での支援をお願いします。総合評価点が500を達成したら、地方大会と後楽園ホール大会を開催します(大赤字確定)!(この元ネタの団体がわかった方はいるでしょうか?)

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