学校一の美少女が「このクラスに好きな人がいる」と言ったのでクラス全員で順番に告白していくことになった
「う、うん。いるよ、このクラスに」
学校のパソコン部のアプリ『校内美少女ランキング』で圧倒的一位を独占し続けていた美少女が友達との会話で、ポツリと漏らした。クラスの男子たちは完全に聞き耳を立てていた。
すぐに、パソコン部が制作していた『多数決は民主主義』アプリが起動した。ちなみに、パソコン部は歴代男子しか入部しない伝統を部の創設以来継続し続けている。パソコン部製のアプリは男子だけが共有していて、女子には全く知られていない。
パソコン部こそ、我が校のディープステイト、フリーメイソン。部室は明らかな萌え系キャラクターで埋め尽くされ、女人禁制の聖域と化している。女子のみのマンガ研究会と双璧をなす変人部だ。
閑話休題。
『多数決は民主主義』とは、クラスの男子ならば誰でも提案できる「⚪︎⚪︎しよう」に投票で「する」「しない」を選択する簡単なアプリだ。投票結果に男子は全員強制で参加することになる。もしこの民主主義を破れば、パソコン部からその男子のヤバい秘密が暴露されるから、みんなきちんと守っている。
『クラス全員で告白しよう』
数時間後ーー。
「はい20、いいえ10、棄権3、無回答5」
「はい」「いいえ」以外に、一応棄権票が存在し、時間経過で無回答となる設定にもなっている。
こうして、クラスの男子は全員で告白することになり、どうやって告白するのかの詳細を、『〇〇高校男子A組相談掲示板』というアプリで匿名で決めていった。
夏目創は、告白の順番がトリだった。ラストーー、つまり回ってこないものだと思っていた。途中で告白が成功して終わるに決まっているとタカをくくっていた。
夏目は、美少女ランキング一位の彼女を憎からず想ってはいたが、本命の女子は別にいた。日直をしていた時に、優しくしてくれたあの子、美少女ランキングの圏外の子が好きだった。
1日一回、男子が一人ずつ告白していった結果、クラス内は大盛り上がりになっていった。けれど、徐々に、男子の数が減っていくと、クラスの中に重い緊張感が生まれていた。
そろそろ、そろそろ来るぞ、と。
そして、残り二人になれば、張り詰めた糸は教師でも感じられるほどだった。異様な雰囲気。クラスに漂う静かな重さに、担任はユーモアを加えようと必死だったが、誰も笑うこともなかった。
「俺、男になってくる」
俺の前のお調子者は、もはや決まったとばかりに意気揚々と告白の場所へと行った。
たしかに夏目とそのクラスメイトを客観的に比較すれば、オッズは限りなくそちらに傾くに違いない。しかし、学校一の美少女は今までのイケメンな男子や優しくてコミュ力強者な男子もフっている。
安心はできなかった。もし振られれば、夏目は確定で告白を成功させてしまう。それは夏目的にはおいしくなかった。
「……振られた」
玉砕した男は、ちゃんと帰ってきた。
夏目は、理解した。
つまりーー、俺こそが彼女の想い人なのだと。
「ごめんなさい」
あれだけ覚悟を決め切ったのに、夏目は振られていた。
「もしかして、他の男子にオッケーだして黙ってるってことかな。よかったー。俺、他に好きな子いたから」
緊張も解けた夏目は、気が楽になって、気になったことを尋ねていた。
「え、全員振ったよ」
「ってことは、クラスに好きな子いるって嘘だったのか」
勝手に盛り上がっていたけど。ただのクラス内の雑談にすぎなかったと。もしくは好きだったけど、このノリで嫌いになったとか。
「ううん。ちゃんといるよ」
「ああ、好きと言ってもライクとか、実は女の子が好きとか。うんうん、そういうのね」
「せ、先生が、好き」
「あー、なるほど。俺と一緒だな」
こうして夏目と美少女は協力関係を構築したのだった。
同性同士だったら、話かけやすいし、先生の情報をうまく手に入れて交換し合うことになった。
「先生な、好きな人がいるんだ」
夏目は上手く先生に取り入った。プライベートなことを話せる段階にまでなった。
「先生、最近の生徒の発育の良さに緊張しすぎてしまうんだ」
先生は、男子校で大学でも男子ばかりとつるんでいて、免疫力がなさすぎたようだ。緊張で女子に教えづらいという悩みがあったようだ。思えば、よく当てられるのも男子ばかりだった。
「先生、女子に緊張しないように、協力してくれそうな人材がいます」
超絶美少女を紹介した。
「それで、俺の方はーー」
「本当にあの先生でいいの。マンガ研究会の顧問だよ。最近は先生とある男子の親密な関係に、筆が進んでいる」
「やっぱ、なしで」