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拾い子

(サヨさん…今頃何処に居るんでしょう…)


ビルの屋上にて。

サクラは一人、忽然と消えたリーダーに思いを馳せる。


サヨは、ザラマチの都市化が軌道に乗ったと同時に姿を消した。

新しい領土を持ってくると言い残し。


(きっといつもの様に、ルミナイトフォージの力で敵を蹂躙しているのかな…)


サヨはあまり人前に姿を見せない。

にも関わらず、出会った者全員に鮮烈な印象を残す。


新たな領土を持ってくると言うサヨの言葉は、きっと此処を去る口実でしか無いのだろう。

しかしザラマチの者は皆、どこかでその台詞を疑い切れていなかった。


(…まさか、ね…)



〜〜〜



「な…生で食べるんですか!?」


ザラロスカの一角。

高級料亭にて。

サヨは目の前に出された奇怪な食べ物に驚愕していた。


金銀爛々豪華絢爛な更には、白米に生魚が重なった物が盛り付けられている。

サヨは今、回らない寿司屋に来ていた。


「東の国で古くから伝わる伝統料理さ。このアルラントの内陸じゃあ、そうそう見ない代物だぜ。」


カウンター席に座るサヨの目の前には、気の良い中年の大将。


「にしても嬢ちゃん、この辺じゃ見ねー顔だな。」


「はい!僕はこの砕けたアルラントを旅するバックパッカーなのです!」


「はっはっは!そりゃ随分と勇敢なこった!」


紺色のキャップ、オリーブ色のチョッキとその下から覗く白いシャツ、本物のダメージが入ったジーンズ。その全ては薄汚れている。

長く美しい銀髪。耽美な顔立ち。長身高スタイルの体躯。

ただ一挙一動一言からは、少女の様なあどけなさが垣間見える。


「わ!おいしい!僕、生魚なんて初めて食べたよ!」


「がはははは!最初に来る奴は皆そう言うんだ!」


不意に、大将はサヨの耳元まで顔を近付ける。


「…ザラロスカはあまり良い場所じゃ無え。早く出て行きな。」


「?」


サヨがその耳打ちに反応する頃には、大将はいつも通りに戻っていた。


「はっはっは。…お?どした?ワサビが辛かったか?」


「大将!ウニってあのトゲトゲした奴ですよね!?あれって食べれるんですか!?」


「お?試してみるか?」


その後、サヨは一時間ほどこの料亭にて食事を楽しんだ。

その間サヨは大将の心配を他所に、店内の客の注目を一身に集め続けた。

一時間ぶっ通しで注文を続け、然し底を見せる気配すら無いその財力は、当然ながらこの国を牛耳るギャング達の目に留まった。


「寿司ってサイコーだね!また来ても良い?」


「おう!いつでも来な!大食い野郎は大歓迎だぜ!」


超高額な会計にチップまで添えて支払いを終えたサヨは、上機嫌で店を後にした。


外はすっかり夜も更けている

だが、街明かりのせいで星は見えない。


「やあお姉さん。見てたよ、すごく羽振りが良さそうじゃありませんか。どうです?うちのカジノで、少し遊んで行きません?」


「え〜?でも僕運無いし〜」


「じゃあウチの店で飲んでか無いか?良い酒揃ってるよ。」


「でも僕未成年だし〜」


ものの数分で、サヨはキャッチに囲われた。


(さしずめ、金持ちの旅行客が来たとでも認識されたかな。想定内ではあるけど、まだまだインパクトに欠けるな。)


キャッチを引き連れたサヨが、街中を流れる川の河川敷に差し掛かった頃だった。


「ん?」


数人、キャンプファイアを囲んでいる。

ガラの悪い男4名と、小柄な少女が一人。


「…お姉さん。ああいうのには近付かないってのがこの辺りの常識ですよ。」


「ふぅん。」


サヨはキャッチの制止を聞き流しながら、その一団の方へと向かって行く。


「あ、ちょ!お姉さん!」

「ほっとけ。どのみちあいつの金はファミリーに入る。巻き込まれる前に逃げちまおう。」


サヨにくっついていた客引きは、一瞬にして全て剥がれる。

彼等もまた、ロスカーノファミリーの末端メンバーだった。


(なんだろうあれ。バーベキューって訳では無さそう。)


近付くにつれて、詳細な状況が露わになって行く。

男達の腰には拳銃やナイフがちらつき、対する少女は傷だらけの上、泣いている。


「いつまで待たせる。早く火に入れ。」


「嫌…嫌…です…」


「早く!じゃねえとまた拷問だぞ!」


「ひぃ…」


火の中に自らの意思で飛び込ませるのは、ギャングでは良くある処刑方法である。


(まさかあの子が処刑対象?何したんだろう…)


好奇心のままに、サヨは火の光があたる場所までやってくる。

そこでようやく、一団はサヨに気が付いた。


「ん?なんだおめえ。」


男達はサヨを不審がる。

そして少女は、


「お願い!助けて!」


サヨに救いを求めた。


「あ、こらテメぇ!…チ。良いか他所(よそ)モン。どっから来たのか知らねえが、此処には此処のルールってもんがあるんだ。分かった引き返せ。今回だけは目を瞑っといてやる。」


火が夜風に揺らめく。

そう言うものかと割り切ったサヨは、踵を返す。


「その子、何かしたの?」


去り際、サヨは問い掛ける。


「よそ者に話す義理は無ぇ。分かったらとっととどっか行…」


不意に少女が割り込み。


「お願い!助けてくれたら何でもするから!」


「…え?」


その一言で、サヨの気が180度変わる。


「テメェまた余計な事を!もう良い!」


男達は拳銃を抜く。

一人は少女、三人はサヨに向けている。


「良いか。直ぐに立ち去…」


“ダダダン!”


淡く輝く弾丸が、三人の拳銃を破壊する。

三人が何が起こったかを認識する前に、サヨの右手に現れた槌が、少女に銃を向ける男の頭に叩き付けられる。


(わお!初めて使ったけど、結構良い感じじゃん!かっこいいし!名前は…ここはシンプルに、【ルミナスの大槌】と命名しよう。)


大槌を受けた男は潰れた。


「あいつ、どっからあんな物を!?」

「スキル持ちだ!今直ぐ逃げ…」


槌を構えたサヨが、三人に急接近する。

まず二人が殴打によって同時に吹き飛ばされ、一人は堤防にめり込み、もう一人は川の上流側にの遥か彼方まで吹き飛ばされた。

最後の一人は真上に弾き出され、数分後に川に落ちた。


「さてと…」


サヨは、少女に手を差し伸べる。


「逃げよっか。」


「…はい!」



〜〜〜



明け方、ギャング4人の変死体が見つかった。

いずれも途轍も無く強い力が加えられた痕跡があり、原型を留めていた者もその体内はミンチ同然だった。

警察はこれを、何らかの重機による処刑と断定し、捜査を進めている。

この警察も、ロスカーノファミリーの支部でしか無いが。


サヨは、昨夜の事件を報じた新聞をドローンに持ち上げさせながら、古びた厨房にて料理をしていた。


「ふふふ。自分のした事が新聞に載るのは、少し変な気分だな。」


此処はザラロスカの一角にある、超安価なアパートの一室。

サヨが潜伏先に選んだ場所だった。


「…コトリン?」


返事が来ない事を不審に思ったサヨは、居間の方に目をやる。

羊の様にふわふわとした金髪で長髪の少女が、済んだ青い目でサヨを見つめていた。

彼女こそ、サヨが昨晩助け出した少女、コトリンだった。

人形の様に美しく愛らしいコトリンの前では、その身に纏うボロボロの麻布のワンピースですら、華やいで見える。


「あ、いえ、その…」


コトリンは慌てて視線を逸らす。


今のサヨの格好は、下着の上からそのままエプロンを付けた状態である。

目のやり場に困るのに、どうしても惹きつけられてしまう。

コトリンは今、大変困っていた。


「傷がまだ痛むのか?待っていてくれ。直ぐに【メディックドローン】を…」


「いえ、違うんです!その…昨日会った時と、何だか印象が違うなーって…」


「?」


昨晩コトリンが出会ったサヨは、子供の様に無邪気だった。

然し今のサヨは、口調や立ち振る舞いその全てに一切の隙が無く、その雰囲気は厳格さを感じさせる物である。


「ああ。昨日は少し、“役”を演じていたのでね。」

(僕の知られざる一面って言う役をね。)


「役…サヨさんは、その、何者なんですか?」


「知りたいかね?」


キッチンから、皿を乗せたドローンが食卓まで料理を運んでくる。

こんがり焼けたバタートースト、生ハム、スクランブルエッグにレタスのサラダ。

それはサヨの考える普通の朝食だったが、コトリンにとってはこの上ない贅沢な朝だった。


「僕はサヨ。ザラマチ共和国の…提督?総統?とにかく、最高指導者だ。」


「さ…最高指導者!?」


コトリンは更に困った。

ザラマチなどと言う国など聞いた事も無いし、最高指導者と言うのもにわかには信じられない。

然しサヨは自分の命の恩人だ、狂人だと割り切って無下にも出来ない。


「そ…それは凄いですね!」


「ふふふ。そうだろう?凄いだろう?だが、この事はまだ内緒だぞ。」


「それで、最高指導者のサヨさんは何をしにこんな所まで?」


「そりゃあ決まっている。」


サヨは両手を広げ、静かに、然し高らかに宣言する。


「この国を頂戴しに来た。」

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