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新築旅行

荒野の真ん中に、漆黒の建造物が組みあがっていく。

地面から生えてきたルミナイトが変形し、壁や床や天井や、その他様々な設備となって組み合わさっていく。


(ここまで大規模にすると、流石に土地の魔力が持たないな…)


サヨは追加の建材を確保するため、自身のすぐ横に積み上げられた死体の山に手をかざす。

そこから大量のルミナイトが生成され、形を変えながら建造物の方へと飛んで行った。


(ドルン達を此処に来させなくて正解だったな。新築の拠点がかつての仲間からできてるなんて知ったら、気が引けちゃうからね。)


ザラマチ過激派から、魔力の最後の一片が絞り出される。

かつて死体の山だったそれは、詰み上がった装備の山と石灰の塊に変わっていた。


(さあ完成したぞ。みんな喜んでくれるかな~)


サヨは妄想を膨らませながら、徐に拳銃を召喚し、振り向きざまに背後に向ける。


「初対面の相手に銃口を向けるとは、穏やかでは無いね。」


サヨの命を狙っていたのは、ボロボロの軍服に身を包むチェドレフだった。


「何故だ…ルミナイトフォージよ…この世界は既に、貴様ら異能者の物の筈だろう!何故我々の小競り合いに干渉する!」


銃を握るチェドレフの手には血が滲んでいる。


「暫し、僕等スキル持ちは上位存在か何かだと勘違いされがちだ。だが、それは誤りだ。

僕もまた自分がしたい事をして生きているだけの一人の人間に過ぎない。たまたま力が付随しただけのね。」


二人の銃が同時に火を噴くが、チェドレフの弾丸はサヨの腕甲で弾かれる。

眉間に穴が開き、チェドレフは仲間の元に旅立った。


(まさか、あの弾幕を生き残ったの?凄い事もあるもんだね。…折角生き残ったなら、その命を大事にすれば良かったのに。)


かくして、ザラマチ過激派はこの世から消滅した。


「…お客はもう一人居る様だね。」


ザラマチの国土の丁度中心から、半透明の黒色の物体が湧き上がってくる。

山の形をしたそれからは無数の紫色の触手が突き出してきて、頂点付近にはエジプトの壁画を思わせる目が開いた。


「やあ。【ザラマチのメシェド】君。」


かの魔物は、このザラマチの土地神の様な物だった。

然し、土地や人を護る様な事などは一切しない。

何故なら彼は、魔物の神なのだから。


サヨはボウガンを取り出す。


「悪いけど、この土地は僕が貰い受けるよ。」


メシェドは、自らの縄張りの統治が脅かされる時にのみその姿を現す。

つまりこれは、サヨがザラマチの土地を治めるに値すると言う証である。


サヨは、メシェドの周囲を大回りする様に駆け出す。

メシェドの触手の先から荷電粒子の光線が放たれるが、サヨはそれをかいくぐりながらボウガンを放ち続けた。



~~~



対立組織、魔物、その他諸々。

ありとあらゆる障害が消え去ったので、ザラマチ政府は呆気なく樹立した。


政府樹立から、ザラマチはその様相を大きく変えた。

街に溢れ返っていた廃墟はルミナイト製の頑強で機能的な建築物に置き換えられ、夜にはルミナイト光とネオンが美しい夜景を描く様になった。

僅かに生き残っていた浮浪者達には安全な住み家と職が与えられ、廃都同然だったザラマチは、ものの一か月でメトロポリスへと姿を変えた。


「オヴィラ、二グロポク、カラマルからの難民がこちらにやって来ました。総数は300人を超えるかと。」


ドルンは秘書からの報告を聞きながら、目の前に広げられた書類を見渡す。

戦う相手が居なくなったため、旧ザラマチ軍もといザラマチ政府職員達は、銃をペンに持ち替えて、日々事務作業に追われていた。

メシェドとの戦い以降サヨが此処に顔を出す事は滅多に無く、ザラマチの総統もドルンが務めていた。


「…一つ聞きたい。これは、我々の努力の成果なのだろうか?」


ドルンは唐突に、訝しむように聞く。


「え?」


「ザラマチは平和になった。しかし、どう見ても全てサヨのお陰だ。結局我々は、一握りの上位者が決めた世界の形に従っているだけなのでは無いだろうか。」


「………」


ドルンは立ち会がり、大窓から覗く夜景を見下ろす。

魔物は無く、最早ハウンドも表立った活動はしておらず、戦争の爪痕は綺麗さっぱり治癒してしまっている。

ルミナイトのビルが立ち並ぶその様は、街そのものがサヨの概念の延長である事を暗示しているかの様だった。


「確かに、この街はサヨの御業かも知れません。然し、彼女が我らを選んだのは、紛れも無く我らの活動の結果だと考えています。」


ドルンの横に、彼の秘書もやってくる。


「確かに我々は、生物としては彼女に劣っているかも知れません。しかし決して、我々が成した事が消えて無くなる事もありません。きっとただ存在の在り方が違うだけだと、少なくとも私はそう思っています。」


「…在り方…か。」


ドルンはふと、審査場へと向かう難民の一団を見つける。

ドルンは彼らの命運を決められるが、ドルンと彼らの間には何一つ差は無い。たまたま立場が違うだけである。


「それに我々がこうして統治活動を行うからこそ、サヨはサヨだけが出来る何かに取り組めるのだとも思います。」


「そうか…はは、そうだな。急に仕事内容が変わったから、少し気疲れしていたらしい。」



~~~



メシェドを打倒し、正当な土地の統治者となってからやや一か月。

サヨは既に、次の標的を定めていた。


満月に照らされ、サヨは枯れた森にて馬を駆っていた。

目指すはロスカーノファミリーによって切り取られたザラムの一部、ザラロスカとの国境だった。


ロスカーノファミリーは傭兵を起源とした組織で、傭兵活動や密航のあっせんに始まり、現在では偽造品、薬物、そして人身売買によって利益を挙げるギャングである。

ファミリーはハウンドとの密接な繋がりも持ち、彼らの収入源としても機能している。

だが彼らの本拠地たるザラロスカは、アルラント大陸では珍しく都市を形成していた。

最もそこの治安は最悪で、暴力と不正の温床と化しており、裏社会の人間以外は寄り付こうとすらしないが。


「………」


森を抜け、サヨは木々の間に間からザラロスカの街を見る。

深夜だと言うのに街は煌々と光を放っており、サヨは一瞬目を眩まされた。


(初めての海外旅行だ!ワクワクするなぁ。でも、このまま行ったら流石に怪しまれるよね。うーん…身分証が要らなくても怪しまれない身分を考えないと…)


サヨは馬から降りると、馬の腹を二度軽く叩く。

指令を受け取った馬は踵を返し、そのまま静かにザラマチへと帰って行った。


(あ!(ひらめ)いた!)

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