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決起の夜

ルミナイト製の漆黒の鎧。

右手には白色に輝く劔、左手にはアサルトライフル。

黒いマントをはためかせ、ただ目の前の敵を殲滅し続ける彼の名は、【ノクターン】。

その一挙一動全てはサクラがプレイしているゲーム画面に同期しており、ノクターンが取得しらありとあらゆる情報は、シームレスにサクラのゲームに反映されて行く。


穏健派の倍は居た過激派だったが、その数はみるみる減っていき、ついに襲撃者は全滅した。


(やった!ゲームクリアだ!意外と簡単だったなぁ。)


外からの銃声も止んでいたので、サクラは階段の裏から這い出てくる。


(襲撃はもう終わったのかな…)


広間から歓声が聞こえてきたので、サクラもそちらに行ってみる。


「凄いじゃないか!流石は異能者だ!」

「君が我が軍に入ってくれて、本当に心強いよ。」

「これで一層、ザラマチの平和は守られるな。」


先程見かけたスキル持ちの女性、サヨが、沢山のメンバーに囲われ讃えられていた。

然しサヨの表情は堅く、何か言いたげである。


「…来たか。」


サヨは、部屋に入ってきたサクラを見付ける。

するとサヨは、少し声を張って演説を始めた。


「君達は少し勘違いをしている。僕はあくまでも、パートナーとしてザラマチ軍を選んだのであって、入隊した訳では無い。それともう一つ、先程の自動機械【ノクターン】を操作していたのは僕では無く、彼女だ。」


サヨはそう言って、サクラの方に手を向ける。


「僕のスキルは、あくまでも平気を提供するだけのもの。この戦いの勝因は僕では無く、彼女だ。」


他のメンバーの視線が一瞬にしてサクラに集結する。


「え…?え…?」


困惑するサクラ。

サヨはそんなサクラの元までやってくると、彼女を窓辺まで案内する。


「見てごらん。あれが君の戦果だ。」


窓の外には、一機の黒騎士型機械が佇んでいた。

その姿に既視感のあったサクラは、咄嗟にタブレットを確認する。

画面の中の黒騎士と、窓の外の機械は、その周辺地形を含めて全く同じ姿勢だった。

その周囲には血と骸の海が広がっており、それもサクラの画面の中の風景と同じ。


「これを…私が…?」


「ああそうさ。君は本当に器用だ。初めて見るインターフェースに瞬時に順応し、これ程までの戦果を挙げるとは。」


サヨは、サクラの肩にポンと手を置く。


「これで君も、立派な兵士だな。」


サヨはそう言い残し、その場を後にする。


「凄いぜサクラ!どうりで動きが的確な訳だ!」

「ああ。今思い返して見れば、動きの端々にうちの兵法の面影があったな。」

「拾われただけの弱っちいビビリだと思ってたが、ビビリなだけだったみてえだな!がはははは!」


讃えられるサクラを尻目に、サヨは広間を後にする。


「…さて、僕はそろそろ次の準備をしなければ。」

(弱虫兵士を特殊技能兵にクラスアップさせ、手柄も取らずにその場を後にする僕…かっこいい!)


ザラマチ軍は歓喜に満ちていた。

当の本人であるサクラを除いて。


(あれを…私が…)


サクラは初めて人を殺した。

その事実は重圧と変わり、随分と長い間サクラを締め上げ続けた。



〜〜〜



「ふはははは!見たかチェレドフ!これが正義の力だ!」


窓の外を睥睨しながら、ドルンは歓喜していた。


ドルンと、彼の優秀な副将だったチェレドフが決別したのは、数年前の事だった。


「今、何と言った。チェレドフ。」


「このザラマチ軍を、ハウンドの支部にしてもらうんだ。彼らの武器と物資があれば、この国をより多くの脅威から守る事が出来る。」


「だからその“脅威”そのものと手を組むと言うのか!ふざけるな!」


「ふざけてなど居ない。ドルン、何かを守るには、お前はあまりにも甘過ぎるんだ。大義には犠牲が付き物、先の防衛戦で散々学んだ事だろう!」


「犠牲だと…?貴様!奴らに何を差し出した!?」


ドルンは、目の前に置いてある書類をひったくり、絶句する。

そこにはハウンドからの物資援助と引き換えに、ハウンドがザラマチで無制限活動に活動する事を許すと言うか記載があった。


「ドルン。これはチャンスなんだ。奴らと手を組み、奴らを利用し、いずれその立場を逆転させる。この犠牲も、大義の為の必要な投資なのだ。」


「お前は何も解っちゃいない。奴らは狂犬(ハウンド)だ。決して飼いならせやしない、獣共なんだぞ!」


「お前の方こそ解っちゃいない!奴らは魔物じゃ無い、人間だ!ならば必ず、付け入る隙がある筈だ!」


「それは奢りだぞ!チェドレフ!」


「ッチ…この臆病者が!」


結局、二人の論争に決着が付く事は無く、そのままザラマチ軍は真二つに分裂した。

過激派よりザラマチでの自由を受け取ったハウンドがみるみるうちに勢いを増していき、狂犬の猛進を食い止めるべく、ザラビアがザラマチ全土を焦土に変えたのは記憶に新しい。


ひとしきり喜び終えたドルンは、漸くドアの前に佇むサヨに気付く。


「おっと済まない。つい興奮してしまっていてね。何せ、分裂以降初めての我々の勝利な物で。」


「それは結構。お役に立てて、僕は大変嬉しく思っているよ。」


サヨはそのまま、ドルンのデスクの前まで移動する。


「それで、何か用かな。サヨ君。」


「ドルン殿。彼らもまたザラマチ軍と言う認識で宜しいでしょうか。」


「そうだ。最も、ハウンドの軍門に下った臆病者共だが。」


「成る程。どうりで奴らの武器を保持していた訳ですね。」


サヨの目が、いつにも増して更に凍て付く。

星を宿した様な目は、ドルンの背後の窓の向こう、遥か外より遥か先を見据えている様だった。


「思うに僕は、ハウンドは悪だと考えております。」


「当然だ。奴らはアルラント大陸を我が物顏で跋扈し、悪逆非道の限りを尽くしている。我々が分断されてしまった一因も、奴らにあると考えて良いだろう。」


「貴殿も僕と同じ考えで、とても安心しました。単刀直入に言います。僕は将来的に、ハウンドの撲滅を考えております。」


「…何だと?」


「通り掛かる人間全員に噛み付く狂犬の群れなどこのザラマチには、アルラントには、必要ありません。」


ハウンドが悪なのは周知の事実で、それを撲滅したいと思う気持ちも至極正常な物である。

しかし、なくなってしまえば良いと、なくしてしまおうとの間には、現実性に雲泥の差があった。

それこそ、病気は悪いものなので消してしまおう、と言っている様な物であった。


しかし、サヨはその様な夢物語をさも実行すべきタスクであるかの様に話している。

それを聞いた者は、当然以下の様な疑問が浮かぶ。


「見込みは、あるのか…?」


「計画がある。だがその為には色々と用意する物がある。先ずはこのザラマチを治める正当な政府だ。

…このザラマチで最も君主に近いのは、ドルン殿と過激派のリーダーだ。是非はさておきね。」


「待て、まさか、君は…」


「ザラマチ過激派を消す。ザラマチ軍を再び一つにし、そこを新政府の基盤とする。」



〜〜〜



ザラマチ軍過激派の拠点。

穏健派の拠点が民家を改装した物に対し、過激派の拠点はそれ専用に作られていた。

これの、ハウンドからの資材援助による物である。


「ふわぁ…今日はやけに早い朝礼っすね。」


クラウン・ガレカは隣の同胞にそう言う。

早朝、過激派のメンバーは講堂に集められていた。


「ああ。何でも重要告知だと。」


暫しして、正面の壇上にチェドレフがあがる。

彼が、今の過激派を率いるリーダーである。


「今日、諸君らに集まって貰った理由は他でも無い。戦う意思を問う為だ。」


チェドレフはそう言って、一枚の紙を広げ掲げる。


「穏健派からの宣戦布告が届いた。」


一瞬だけその場はさざめく。


「諸君らも知っての通り、先日、穏健派の用意した新戦力により、沢山の我らが同胞が散って行った。知らぬ間に、彼らも一筋縄では行かぬ相手と変わってしまっていたのだろう。…我らにハウンドとの関係を絶つ事を求めたこの書状の内容は、事実上我々に解散を要求している様な物、当然受理できる物では無い。

…然し戦うとなれば、命の危険も勿論伴う。そこで、今一度諸君らに問いたい。」


チェドレフは宣戦布告状を放り捨てると、構成員達に向けて右手を差し伸べる。


「今なら後を追ったりはしない。逃げた者を笑う事も、蔑む事も私が許さない。それでも私と共に戦いたい者は、居るか?我らが信念の為に、己が命を賭ける者は、居るか?」


クラウンは、くすくすと笑いながら手を挙げる。


「一体何処に逃げろと言うのです?あんたに付いてった日から、この命はあんたに…いや、ザラマチの平和と未来の為に捧げると誓ったんだ。それに今逃げれたとしても、今のザラマチに安全な場所なんてありゃしませんよ。このザラマチ軍以外にね。」


クラウンに続く様に、続々と手が挙がる。


「僕も戦います。一緒に平和なザラマチを手に入れましょう。」

「へ、たかが自動機械一機手に入れたくらいで、調子に乗って勝負を挑んでくる様な連中だ。捻り潰してくれよう。」

「敵の数はこちらの十分の一以下。はっきり言って、負ける可能性を見つけ出す方が難しいでしょう。」


その日、彼等は発起した。

それがザラマチ過激派最期の夜になるとも知らずに。

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