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ブート

かつてアルノケミア王国には、ザラムと言う巨大都市が存在した。

王国の消滅後、ザラムは二つの民間軍事組織による大規模抗争の戦場となった。

抗争は決着がつかぬまま膠着状態に入り、両陣営が占拠していた場所は現在、ザラビアとザラロスカと言う名の二つの自治区となった。

そして、どちらの陣営の影響も受けなかった余り物の土地。

それがザラマチだった。


ザラマチにはその成り立ち故に、政府が存在していなかった。

ザラマチ軍と言う言葉は、ザラマチの土地を自主的に守る義勇軍を指す言葉であり、本物の軍隊が居る訳では無かった。

そしてそのザラマチ軍ですら、今は穏健派と過激派で分裂しており、内戦一歩手前の所まで来ている。


「ザラマチ軍の拠点?確か、南の荒野に彼らの基地があった筈だ。ハウンドの連中もあそこには近付かない。」


「ありがとう。助かります。」


情報をくれた浮浪者に、サヨは古びた金貨一つを渡す。


「何をしようとしてるかは知らないが、頑張れよ。」


サヨは浮浪者に見送られ、路地裏を後にする。


「…ん?」


不意にサヨは、ガラスに映った自分の姿が目に入る。


脛まで伸びた、長く美しい白色の髪。黒目の中心には目全体に放射状に光を散らす白い発光体があり、瞳に恒星を宿している様である。目眩がする程美しく、それでいてどこかあどけなく愛らしい顔立ち。180cmの背丈。たわわに隆起した胸。抜群のプロポーションを備えた体躯。

短ジーンズ。両腕脚にはルミナイト製の機械鎧。白いTシャツは布地が足りず、くびれた腹部が大幅に露出していた。


(誰だろう。この美人さん。綺麗だな。…………あ、僕か。)


サヨは、久方振りに見た自分の姿に感嘆する。

大人びた容姿ではあるものの、実際はまだ18歳であった。


(穏健派と過激派ねぇ…どっちが僕の思想と近いんだろう。)


不意に、向こうの通りから銃声が聞こえてくる。


(抗争かな?最近はここらも物騒になったなぁ。近寄らんとこ。それより早くザラマチ軍に接触しないと…)


ビルの頂点から下にかけて、銀色のラインが走る。

縦に両断されたビルは、倒壊して行った。


「ほぁ!?」


瓦礫と土埃の中から、一人の剣士が姿を現わす。

黒い霧の様なローブ。両手には骨を削り出して作った二本の刀。顔には白い円盤型の仮面。3mの身長。


(わぁ![デスソーダー]だ!久し振りに見た!あれ?でも変だな。あいつ普段は大人しい筈なんだけど。)


デスソーダーの仮面が、サヨの方を向く。

その仮面の端には、弾丸による僅かな欠けがあった。


「僕とやる気?」


デスソーサーは剣を構える。


(やれやれ。随分と気が立ってるご様子で。)

「【スタヴアサシン】」


サヨは、異界より取り出した漆黒の拳銃をデスソーダーの顔に向ける。

人間の武器を知らぬ魔物故、怯んだり止まったりはしない。

敗因があるとすれば、そこだった。


銃声が鳴る。

デスソーサーの仮面の中心に風穴が開く。


デスソーサーは若干のけぞったものの、すぐに剣を構え直しサヨに向かって行く。


銃声が何度も鳴る。

銃声と共に、仮面に欠けや銃創や風穴が次々と増えていく。

サヨの弾倉が尽きる頃には、デスソーサーの仮面はボロボロの蜂の巣状態になっていた。


“シイィ…シウィィィィ…”


存在の核となっている仮面を大きく損傷したデスソーサーの身体は、朧げになっていく。

それでもなお、デスソーサーは歩みを止めなかった。


「逃げて生き延びると言う選択肢が取れない。」


サヨは拳銃を魔法陣に格納する。


「だからお前らは、いつまでたっても生物以下の俗物、魔物なんだよ。」


サヨの纏う鎧のルミナイトの光が、次第に強くなって行く。


「【グラビティスケイル】。フルドライブ。」


とぼとぼとこちらに向かってくるデスソーサーに、サヨの方から近付いて行く。

間合いに入り、デスソーサーが剣を振り上げたところで、サヨの拳が仮面に直撃する。

拳が当たると同時に圧縮された重力エネルギーが解放され、着撃点を中心に一瞬だけ音と空間が歪む。

仮面は木っ端微塵に破壊され、その粒子が遥か彼方まで舞い散る。

デスソーサーの身体は霧散し、残ったのは二本の骨の剣だけだった。


(拳より剣、剣より銃とはよく言うけど、これだけの威力があればまあ、拳も捨てたもんじゃないよね。)


サヨは、デスソーサーの持っていた剣に目をやる。

剣には、まだ新しい血が付いていた。


(僕は何処も切られた覚えがな無い。つまり…)


サヨは倒壊したビルの向こう側、反対側の通りに出る。


「う…うう…」

「誰か…まだ動ける者は…」


重傷を負い倒れた、13人の兵士がそこに居た。


(うわーこりゃ酷い。)


サヨの周囲に、幾つもの小さな魔法陣が展開される。


「【メディックビット】」


白い円環模様の入った黒い円盤がいくつも放たれる。

メディックビットは患者の真上まで移動すると、そこに緑色の光のドームを展開する。


「ぐ…うう…ん?」

「何だ…痛みが引けて行く…」

「メディックライトか?いやしかし、この国に治癒魔導士は居ない筈…」


兵士達が回復して行く様子を、サヨは瓦礫に座りただ黙って見つめていた。


「…我々を助けたのはお前か?」


サヨは今、手元に展開された格納用魔法陣に、メディックビットが吸い込まれる様に消えて行く様を見ている。


「…」


全てのビットを回収し終えたサヨは、瓦礫から立ち上がり、その場を立ち去ろうとする。


「何故我々を助けた。」


「……」

(あれ?予想してた反応と違うな。もっとフレンドリーかと思ったのに。)


サヨはゆっくりと振り返る。


「曲がりなりにも銃を持った者らが16人も集まって、デスソーサー一匹如きに敗北している様があまりにも見ていられなかったのでな。」


兵士達は続々と立ち上がるが、皆一様にサヨに銃口を向けている。


「お前は何者だ。」


「ただの通りすがりだ。」


サヨはそれだけ答えると、踵を返す。


「…あ、そうだ。この辺りにザラマチ軍と言う組織があるらしいが、君達、何か知らないか?」


次の瞬間、一斉にリロード音が響く。


「我々に何か用か。“通りすがり”とやら。」


「…まじで?」


サヨは顎に手をあて試案を巡らせる。


(まっずいぞ…完全にアテが外れた。ザラマチ軍弱すぎじゃん…よく国土守れたね。)

「そ…そうか。最近ここに来たので、まだこの辺には疎くてな。」


「別な場所…?何処から来た!ザラビアか!ザラロスカか!」


「それは…だな…」

(まずい!今までずっと地下に引きこもってたなんて言えねー!何か…何か適当な身分を考えないと…)


「自分の魔法を学ぶ為、今までクロノス大陸に留学していた。いつか立派なザラム町長となって、この真っ暗な世界を変えようと思ってね。」


サヨは、両手を広げる。


「そしていざ帰国してみれば。何だこれは!街の治安も最悪。大通りに魔物が現れる始末。こんな場所ではまともに暮らせも無い!」


サヨは、ザラマチ軍を指差す。


「なので僕は、君達と“ザラマチ政府”を作りたいと考えている!」

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