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接敵

(デルガードを敵に回した場合、最も厄介なのは魔法師団…いや、サッドサッドだな。)


デビン司令官は廊下を歩きながら思案に耽っていた。


サッドサッドはアルラント大陸、否、世界的に見ても強力な魔法使いだ。

【バーサーカーモジュール】によってただでさえ高い攻撃能力が、攻撃力の上昇や自己回復が行える【ダークエンチャンター】によって更に強化されるスキルセットはある種の結論だ。

そこに戦術的洞察力と残忍な性格が足し合わさり、もはや生ける災害と化している。


(奴は狡猾な上に、デルガードですら制御しきれていない様子だ。機会があれば懐柔を狙うのも良いかも知れないが…)


武力行使をするにしても、サッドサッドの力は一国の軍隊とも拮抗する。


(今回の攻国戦で消耗してくれるのが一番ありがたいが、そう都合よくも行かないだろう。今のうちに何か対応策を考えておかなければ。)





ザラマチ議事堂(と言う名の超高層ビル)前に、ザラビアの魔法使い四名が到着する。


「あれ?もう本丸か?最後の番人は?鍵を探すギミックは?」


ウォレスが首を傾げる。


「ここはダンジョンじゃなくてただの政府施設だぞ?そんな物ねーよ。」


ギーンが応答する。


「本拠地だってのに敵が見当たらないね。道中で全部倒しちゃったのかな?」


辺りを見回しながらビルが言う。


「気を付けて下さい。こういう静かな時は、大抵大ボスがやって来る前兆ですから。」


アンナの予言は、すぐに当たった。


「侵入者共め、そこまでだ!」


議事堂の屋上から人が一人飛び降りてくる。

ルミナイトの機械でできた剣と鎧を身に纏う、ココナである。


「我が名は漆黒の再誕者!ナイトレンジャーだ!ザラマチの平和を脅かす侵入者共は、全員纏めてここで駆逐してくれよう!」





旧市街地、スクランブル交差点。

かつて、ザラマチ軍過激派が滅んだ場所。

あえて整備を行わず、時間と自然のなすがままにしてあるザラマチの史跡。


裸足の大男が踏みしめる地面は焼けつき、コンクリートの割れ目から芽吹く草花はみるみるうちに枯れていった。


「来てやったぞ。」


サッドサッドの視線の先にはサヨがいた。

銀色の水筒を片手に、まっすぐとサッドサッドを見つめている。


「参考程度に一つ聞かせてほしい。何故僕が判ったんだい?」


「この俺が、強者の気配を(たが)えるとでも?」


「ははは。嬉しいねぇ。」


サヨは水筒を懐にしまう。


「君の目は知っているよ。人を人たらしめている大事な何かが、欠け落ちてしまった目だ。サッドサッド、思うに僕らは解り合えると思うんだよ。」


「………」


サッドサッドの纏う黒い瘴気が、一層濃く、禍々しいものになっていく。


「【スキルメイド】の伝説を知っているか?」


サッドサッドが話し始める。


「この世界には、願えばどんなスキルでも授ける事ができる究極のアーティファクトがあるそうだ。少し、それが要る。」


「…なるほど、よく分かったよ。」


サヨの背後に、四機のルミナイトキャノンが構築される。


「何かを心から強く追い求めている者は、いいえて人間性を失うものだ。やっぱり僕らは同族なんだね、サッドサッド。」





剣の音が、議事堂前広場に響く。


「はあああああああ!」


“カキンッ!”


ウォレスの大剣が、ココナの細剣に弾かれる。


「てやあああああ!」


ギーンの兜割りが迫ってきたが、ココナの剣に受け止められた。


「ルミナイトってのはそんなに凄いのかよ…もはや化け物じゃねえか!」


ビルの矢がココナの首に突き刺さるが、血も出なければ怯む様子も無い。


「あれはもう(いびつ)な存在、魔物と同じです!」


アリアが叫ぶ。


“ガコンッ!”


ウォレスが剣ごと弾き出される。


「く…あいつほんとに人間か!?かてーしつえーし、何より動きが正確すぎて気持ちわりーぞ!機械みたいだ!」


ココナは、首に刺さった矢を引き抜く。


(痛みを感じない…つまり今の私にとって、外傷は危険では無いと言う事か?)


ココナは矢を投げ捨てる。

首筋にできた傷はすぐさまルミナイトの繊維によって再構築され、肌は再生し、最後は跡形も残らなかった。


(この身体があれば、私も成れるかも知れない…!)


幼少の頃に見た、とある青年の英雄譚が脳裏に蘇る。

伝説の剣を手に、悪しき魔王の軍勢を打ち倒し、罪無き人々を救い出す勇者の、架空の物語だ。


(本物の、正義のヒーローに!)


正義の名の下に剣を振るう英雄。或いは、大義名分を盾に殺戮を繰り返す狂人。

ココナにとってヒーローは憧れだった。

どれだけ沢山殺しても、人々の為でさえあれば全て許されるどころか、英雄として、勇者として、讃えられ賞賛され後世に語り継がれる。


「ふひっ…どうした?来ないのか…?」


地鳴りがする。

広場に、二機の大型機械が現れた。


機械の獅子ヘンリーと、機械の騎士ノクターンである。


「もっとかかってこい!もっとこの国の平和を脅かすんだ!もっと私に、正義と言う名のカタルシスを寄越せ!」


ココナが、パーティに剣を向ける。

剣全体に白い稲光が纏わりつき、刀身は微かに振動する様になった。


「来ないのか?ならこっちから行くぞ悪党ど」


直後、ココナを中心に火柱があがった。

ノクターンは回避したが、ヘンリーもその巻き添えを食らう。


「最初は英雄気取りのただのクソガキだと思ったが、どうやらただのクソ野郎だった様だな。」


シー・ナミブの到着だ。


「おーい兄貴ー。そんな急ぐなよー。」


クリカ・ナミブもやって来る。


「クリカか。サッドサッドはどうした?」


「なんか、強者の気配がー、とか言ってどっか行った。」


「そうか。」


魔導師兄妹は、炎の中からこちらを睨む英雄もどきと相対する。

皮膚が焼け、その下に隠されていた正体が露わになっていた。


「お前も悪者か?はは、良いねぇ最高だ!悪い奴はいればいるほど良い!」


ルミナイトによって形作られた、鎧を纏う人骨。

内臓は生体組織が納められたルミナイトが担い、鎧の一部は骨格とそのままくっついている。

ココナが炎から出ると、皮膚や頭髪が再生していき、直ぐに生前となんら変わりない姿に戻った。


「マジのバケモンだなありゃ。」


ギーンが呟く。


「おい、斧使い。俺とクリカで足止めする。その隙に奴を攻撃しろ。貴様の斧ならルミナイトも砕けるだろう。」


シーが命令する。


「は、ウチのパーティを見くびってもらっちゃ困るぜ。」


ウォレス、ギーン、ビル、アリアの四人が各々の武器を構える。


「急所が見えればこっちのもんだぜ!お前ら、俺様に続けぇ!」


そう叫びながら、ウォレスは偽りの英雄に切り込んでいった。





サッドサッドの拳が二度、サヨの鼻先をかする。

サヨはサッドサッドの攻撃を軽々かわしながら、時々思い出したかの様に、背後に浮遊しているルミナイトキャノンを放つ。


「…くっ…」


そのたびにサッドサッドが後退し距離を取るので、サヨの気まぐれで定期的に攻勢は途切れた。


「【スキルメイド】ねぇ。神様のご加護たるスキルが、そんな都合良く手に入るものなのかな。」


サヨは開戦直後と変わらない、不敵な笑みのすまし顔。

一方サッドサッドは、全ての戦闘行為が肉体を資本としているので、戦い続ければその分だけ疲弊する。


(クソッ…このままじゃジリ貧だ…まずはあの兵器をなんとかしなくては…)


呼吸を整えるサッドサッド。

一方サヨは、その様子をただ黙って見ているだけである。

その理由は一つ。


(やばいやばいやばいどうしよう!こいつ僕の手に負えない系の相手だ!主戦場から引き剥がしたのが完全に間違いだった!どうしよう…今ある武器を全部壊されちゃったらマジで終わりだぁ…!)


サヨが一番パニクっていた。


即座に発動できる通常のスキルとは違い、生産系であるサヨのスキルは一度製造を挟まなければいけない。

格納魔法から取り出す事によって、武器を無から発生させている様に見せかけることもできる。が、知識がある、ないし戦いが長期戦になればそのブラフも破られる。

サヨの超人的な身体能力も、厳密に言えば身につけている武装の力である。


(こんな事なら今から武器を作っておけば…いや無理だぁ…街の再開発とココナを復活させるのに使いまくったせいで、僕も土地も魔力カラカラだよぉ…どうしよう…)


今使える最高戦力はココナだが、彼女をここに寄越してしまうとザラマチ政府が確実に陥落する。

現状二番手の機械獅子ヘンリーも、不意打ちの炎魔法で重傷。こんな状態のものを召喚してしまっては政府防衛側の戦力を落とすと共にからくりもバレてしまう。


(…幸いにも僕にはルミナイトキャノンも、一匹だけだけど予備の機械獣がいる。こいつを出すタイミングを考えれば、ココナが敵を殲滅するまでの時間を稼ごう。あれは不死の再誕者、負ける事はないだろうから。)


プランを練りおえ、サヨはサッドサッドに向き直る。


「はれ?」


サッドサッドは消えていた。


そもそも暗殺者あがりのサッドサッドから、一瞬でも注意を逸らしたのが間違いだった。


バラバラと崩れ落ちる四機のルミナイトキャノン。

首筋に迫ってくる冷たい感触。


「ひぅ!?」


自身とサッドサッドの間に割り込ませるように、サヨは予備の一体を召喚した。

機械のステゴサウルス、防衛特化機械獣【ジリアン】を出してしまった。

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