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涜命

「…何て?」


「先程、ザラビアとデルガード王国からほぼ同時に宣戦布告を受けました!通牒は別々でしたが、かの二国が既に軍事同盟を結成している可能性もあります!」


「何でやねん!」


サヨは携帯を壁に叩き付け、木っ端みじんにする。


「サヨさん!?どうしたんですか!?」


慌てて駆け寄るコトリン。


「僕らのザラマチが、ザラビアとデルガードから宣戦布告を受けた。事前外交も最後通牒も一切無し。こんなの理不尽だ!」


「宣戦布告?それって…」


「帰るよコトリン。僕らのモダンな生活を護る為に戦うんだ。」


ガタンッと、アフジェトホテプが勢い良く立ち上がる。


「何?デルガードだと?」


「ああ。君の祖国だ。全く迷惑な話だよ。一体僕らに何の恨みがあるってんだ。」

(大方ハウンド絡みだろうけど。)


コトリンは操縦席に戻ると、機体をUターンさせてザラマチの方に向ける。


「あ、君はどうする?アフジェト…」


「アフで良い。女王としての資格無き今、ホテプを名乗る資格など妾には無い。」


「そうか。アフ。で、どうする?これから君の祖国を更地に変える訳だけど、着いて来る?」


「それは…」


アフは迷っていた。

追放された身とは言え、かの国には愛すべき罪なき民草も沢山居る。

もしサヨに付くと言う事は、彼等への裏切りに他ならないからだ。


「できればアフにも手伝ってほしいんだよね。ほら、普通の服はだめとか言ってたじゃん。砂漠の民への待遇ってどういうのが良いか、僕、ぜんぜん判らないからさ。」


「…?」


「言っておくけど非戦闘員には絶対に手を出さないし、戦闘員も出来る限り捕虜に取る。僕の世界征服には、沢山の人手がいるからね。」


「ほ…本当…なのか?戦争と言うのはもっとこう…」


「そりゃお互いが拮抗するから、敵の事を考える余裕が無くなっちゃうんだよ。でも僕は違う。これから挑む相手と比べたら、これくらいの困難…」


サヨの別な携帯が鳴る。


「もしもし。」


『第一波のミサイル攻撃により、国境防壁が陥落!一時間もしないうちに侵攻が開始するかと!』


「はやすぎるやろがい!」


サヨは携帯を天井に叩きつけ、木っ端みじんにする。


「野郎…一匹残らず駆逐してやるから覚悟しとけよ…!コトリン!操縦変わって!飛ばすよ!」


「は…はい!」





デルガード王国首都、デービニア。

ザラビア、デルガード共同司令部の一室。


(既に砦の突破に突破したか。対応があまりに遅いのを見るに、ザラマチは国力の割には諸外国情勢に無頓着と見た。)


ザラマチ侵攻作戦は、驚くほどうまくいった。

まず、大規模政変で不安定になっているデルガード王国に付け入る事に成功した。熱砂で鍛えられた強靭な兵士達が手に入ったのは実に大きい。

次に、ザラマチの諜報が気持ち悪いほどの大成功を収めた。難民に紛れさせ何人ものスパイを送り込み続けたが、疑われるどころか出て行った時より血色が良くなって全員帰ってきた。今ではザラマチの最高指導者である、ドルンの詳細なスケジュールすら把握できている。

そして最大の嬉しい誤算として、軍事力が【ルミナイトフォージ】に頼り切りであった事だ。つまりそれは、術者を倒せば実質的な勝利を得られるも同然だ。


(魔法使いなんて、同じくらいの魔法使いを2、3人ぶつければ倒せる。増長の速度が不自然だと思ったが、やはり所詮は見せかけの栄華か。)


"ガタンッ"


ドアが開く。


「遅くなって済まない。デビン司令官殿。」


「おお!ブルスドホテプ殿!戴冠式も無事に済んだ模様で。」


入室したブルスドホテプは、デビンの向かえに座る。


「して、デビン殿。戦況は。」


「万事順調でございます。かつての先王達の悲願である砂外の統治も、直ぐに実現するかと。」


「おお…素晴らしい!出来損ないの穏健派の妹を消して正解であった!」


バカが。

デビン司令官は心の中で呟いた。


ザラマチを消したら次はデルガードの番だ。

ろくな兵器も持たぬ砂漠の蛮族共。

事が終われば、ザラビアの誇る魔法使いと重火器によって皆殺しにしてくれよう。


そうすれば、地下に眠る大規模油田は全てザラビアの物。

別大陸との対等な外交も夢ではない。


「して、ブルスドホテプ殿。その出来損ないの妹は今何処に?」


「はっはっは!今頃は母なる砂海の上で干からびて…」


"ダンッ!"


「急報です!アフが、ザラマチに亡命しました!」


「何!?」

「なんだと!?」


バカが!

デビン司令官は心の中で盛大に罵倒した。

邪魔な政府関係者への処遇として、追放は最も愚かな手段だ。

無数の不確定要素を生み、場合によっては今回の様に、厄介な敵になる事も。


「あり得ん!身一つであの砂海を越えたと言うのか!?」


「ブルスドホテプ殿。今はそんなことはどうでも良い。問題は、そいつが敵として現れた場合に考えられるリスクだ。」


「奴らは軟弱者だが、未だに信奉している愚か者共も多い。奴がまだ動ける状態にあるなら、我が軍が分裂する可能性もある。」


「クソッ…今から粛清をする余裕はない…事が露見する前に、何とかして貴殿の妹を暗殺する。」


時代は変わり、砂漠への追放が意味する物も死では無くなった。

古くからの慣習ほど信用できない物もない。


(これだから砂漠の猿共は…まあ良い、元々予定にはなかったものだ。少しでも利用できるだけありがたいと思おう。)





綺麗な部屋。諸々の家電。空調。照明。装飾の一つ一つ。

アフにとってはその全てが目新しく映った。


「こ…これは何なのじゃ!?」


「冷蔵庫。物を冷やすのに使う。」


「これは!?」


「テレビ。色々映る。」


「ではこれは!?」


「LED。なんか光る。はぁ…いつまで続ける気?」


「済まぬ…其方の魔法があまりに珍妙な物で…」


「これは僕のじゃないよ。どれもこれも、歴史上の誰かが作った文明の利器だ。」


サヨの周囲に、つやつやとした黒色のプレートが浮遊する。


「僕が作れるのは、出力とかを制御しなくてもいい兵器だけ。器用に見えて、実はすっごく不器用な力なのさ。」


フォージとは一般に、刀や金属器の鍛冶職人の事をさす。

技術の良しあしはあれど、とどのつまり金属の形を変えているだけだ。

剣を打つのに細密な電子部品は使わないし、ソースコードも必要ない。

ルミナイトがただの鉄より万能なだけで、サヨのやっている事自体は刀鍛冶よりももっと単純だ。


少なくとも、サヨはそう考えている。


設計図を一から考え、ルミナイトをそれに沿った形に加工する事自体、非常に難易度の高い行為だった。

通常のルミナイトフォージは、実物を見ながらその形の通りにルミナイトを加工するので精一杯。

設計士にも工場にも頼らずに自力でルミナイトの生成から兵器化まで行うサヨは、ただの狂人だった。


「このアパートは僕が家主、ていうか僕の作品だから、好きに使っちゃっていいよ。表札はもう用意してあるから。」


サヨはそれだけ言い残すと、アフの部屋を後にした。




(そう言えば僕、自分の家を持ってないな。コトリンちゃんと潜伏してた部屋をそのまま使おうかな?)


サヨは今、暗い下り階段を下りている。

増大するザラマチ国民の為に、サヨは同じ形の巨大アパートを無数に用意した。ここは、そのうちの一つの地下である。


(木を隠すなら森。砂を隠すなら砂漠。人を隠すなら団地ってね。)


階段を下りきる。

暗く、何もない割にだばっぴろい地下室の真ん中に、ほのかに光る培養槽が一つ。


(魂をソフトウェアとするならば、肉体はいわばハードウェア。

生命は輪廻転生を続けているけど、自然に生まれるハードウェアの型番には一つとして同じ物が無いから、前世の記憶っていう領域が読みだされる事はほとんど無い。)


サヨは口の中で数回転がした後、小さい直方体のルミナイトを口から出す。


(そこで僕は考えた。もし、人為的に全く同じハードウェアを作ったらどうなるか。)


サヨは、そのルミナイトを培養槽の操作盤のカートリッジに挿入する。

容器の中に泡が散見できるようになり、あちこちで生体組織の成長が始まった。


(死者蘇生。絵空事だと思ってたけど、もしかして意外と簡単だったりして?)


サヨは無垢で無邪気なまま、力と能力を手に入れてしまった。

しかし天性のカリスマ性が邪魔をして、サヨを止めたり、物を教えたりする者はいなかった。


「おめでとう。ココナ。君はこれから二度目の誕生日を迎えられるんだ。ケーキもプレゼントも二倍、最高だろう?」


培養槽の中で育った肉片が、互いにくっつき始める。


もしもこの時誰かがサヨを止めていれば、未来はもう少しまともな物だったのかもしれない。

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