プロローグ2 欲求の暴走はまだ、先?
「私ね、欲求が異常に高まる時があるの」
茜色で照らされた放課後の屋上は物静かで、いるだけで心が落ち着く。屋上と言えば、学生の憧れであり、青春の聖地とも言える場所だ。
そんな場所で告げられたこの言葉である。
「えーっと、もう一回言ってくれるか」
「だからね、私、欲求が異常に高ま――」
「もう大丈夫だ。しっかり聞こえたから」
リンが全てを言い切る前に俺が遮った。
自信の耳を疑って聞き直してみたが、悲しくも俺の耳は正常だったようだ。
冷静を装ってみるものの、案外上手くいかないものだな、と痛感する。
何故なら頭にはハテナの文字が浮かぶし、体からも冷や汗のようなものが流れている。
「……俺にそれを伝えて何をしようと?」
俺は思っていた事をリンに投げかけた。
言い方があれだったからか、ちょっとだけ驚いている様子だったが、すぐに訳を話しだした。
「それはね、協力してほしくて」
「協力?」
俺が聞き返すとリンは、うん、と首を縦に振り、肯定してくる。
しかし、協力といっても、まるで見当がつかない。
それに、この件に対しては男子として、あまり深く突っ込みたくない。というのと、これからの人生を数えたとしても、一位か二位を争う暗いな厄介事だというのが直感的にわかり、正直面倒くさかった。
だが、そんな事はお構いなし、と言わんばかりにリンは続ける。
「そう、高まるようになるようになったのは、高校に入ってからなの。だから、その原因を一緒に探してほしくて」
訳がわからない――というよりかは、脳が理解することを拒否している。
理解してしまえば、これに付き合うと言っているような気がしてならなかった。
「……ごめん。それには協力できない」
俺がそう言うと、リンはどこか納得した様子で、空に目を向けた。
「……そっか」
もしかしたら、最初からおよその事は分かっていて、俺をここに呼んだのかもしれない。
協力してくれるなら、それでよし。協力してくれなくても、仕方ないと割り切る。それなら、こんなにも潔いのも頷ける話だ。
「それじゃあ、帰ろっか!」
「……そうだな」
リンの言葉に頷き、俺達は神秘的な光で照らされる屋上を後にする。
これで終わりか? と未だ不信感が消えないが、今は家に帰りたい。その気持ちが勝ち、一度考えを殺し、ゆっくりと深呼吸をした。