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97話

 ※Twitterを再開します。

97話


「タロウ様、申し訳ございませんでした」


 贈答の儀式の後、ハリマンから返礼品に300億クローネを受け取り、ハリス子爵家は部屋から退出した。


 今回の贈答品の出費は約200万ユーグレナ。


 ユーグレナ共同体の問題なのに、なぜか俺の個人資産から支払った。


 ペロシさん曰く『ボスは金持ちなんですからケチケチしないでくださいよ』とのこと。


 解せぬ。


 ハリス宮殿でやるべきことは終わったし、後は帰るだけと思った時にミリスさんが深く一礼しながら謝罪してきた。


 はぁ……。


 俺は、はよ帰りたいんやけど?


「ミリスさん、私は何一つミリスさんに対して怒っておりませんし、今回の件でミリスさんが謝罪する必要は全くありませんから、顔を上げてください」


「……タロウ様、不義理を犯した私ミリスに、タロウ様に上げる顔はございません」


 このねーちゃん、強欲なのに変に生真面目なんだよな。


 まぁ、そこがミリスさんの個性でもあり良さでもあるんだろうけど……。


 はぁ……。


 仕方ないか……。


「ミリスさん、今回の件には私やミリスさんはもちろんのこと、ハリマン様やハリス子爵家、更にはハリス上層部など様々な人間の思惑があり、また関わっております。当然です。『政治的交渉』なのですから」


 そう。


 今回の話は『売買』の話じゃない。


 『商人』同士の話じゃないんだ。


「そして様々な人間の思惑が絡まり合い重なり合う『政治的交渉』の中で……誰が一番の政治的不利益を被り、誰が一番の政治的被害者なのか?それはミリスさん、貴女だ。その証左が、貴女の真摯な謝罪です」


 俺との『商人』同士の関係を『壊したくない』という願いと共に、ミリスさんは深く謝罪している。


 はよ顔を上げてくれんかな?


「貴女が得られる利益は関税が安くなるだけ。そのほんの僅かな利益と不釣り合いな『私とミリスさんが仲違いする』リスクと不利益を被ってまで、貴女は私とハリス子爵家の『仲介』をした。その理由も今なら分かります。ですから顔を上げてください。私とミリスさんの『仲』ではありませんか?」


 暫しの刻の後、沈痛な面持ちで顔を上げるミリスさん。


「ミリスさん、私もこの後に少し所用がありますので、帰りの道中に色々話しましょうか」


 はよ帰って、獣人ちゃんたちにモフモフパラダイスで俺は癒されたいんよ。


 マイクさんが護衛部隊と下級兵士を呼び、ゾロゾロと『ゴロツキの集団』が宮殿から立ち去り、トコトコと歩きながら俺はミリスさんに話しかける。


「ミリスさん、今回の件で私はミリスさんに違和感を感じてました。私の知るミリスさんとは違い『義』を結ぼうとする相手の利益を考えずに余りにも稚拙で強引な交渉……正直に話すと少しムカついてましたが、『上客の取引先』を不快にさせるなんて優れた『商人』なら有り得ない言動です。その違和感の正体は当時の私には分かりませんでしたが、タネと仕掛けが分かれば簡単です。『大問題が発生している』と貴女は私に暗に伝えたかった。ミリスさん、違いませんか?」


「……タロウ様、その通りです」


 だよね。


 俺が能天気だから『ミリスさんからのシグナル』に全く気が付かなかっただけ。


「色々と違和感を感じてましたが、最も違和感を感じていたのはメアリーちゃんの件ですね。そもそもなぜメアリーちゃんは『壁外の商家』の娘なのに、圧倒的格差が目の前にある『壁内の商家』のミリス商会に入会したいと思ったのか?いや、分を弁えずに思えたのか?当時から分かっていましたが、あからさまにミリスさんがメアリーちゃんをミリス商会に入会出来ると暗に唆していたからです。ミリスさん、違いませんか?」


「……タロウ様、その通りです」


 だよね。


 いくらメアリーちゃんが馬鹿可愛くても、そこまで馬鹿じゃない。


 しかも相手はハリス子爵家の高貴なる血を引く御三家のミリスさん。


 現代人の俺ですら高貴なハリス子爵家と関わりたくないんだし、ゴリゴリの身分社会に生きる人間なら身を引くのが当然なんだ。


 それが身分社会だ。


「なぜ私に分かる様にあからさまに唆したのか?違和感を感じたのはココです。稚拙で強引にあからさまにミリスさんがメアリーちゃんを唆したのにも関わらず、それなのにミリスさんはメアリーちゃんをミリス商会に入会させることを何度も『拒否』しました。あからさまなことはお互い分かっているのなら、何度も『拒否』する必要性が無いんですよ。直ぐに『許可』して、婚姻と関税関連の話を持って行けば良いのですから。では、なぜ何度も『拒否』したのか?私からすれば矛盾した行為です。当時の私は不思議でした。しかしタネと仕掛けが分かれば簡単です。それは婚姻と関税関連以外の『大問題が発生している』と、私に暗に伝えたかった。ミリスさん、違いませんか?」


「……タロウ様、その通りです」


 だよね。


 当時の俺は『なんやコイツ?お前があからさまにメアリーちゃんを唆したのに何度も拒否するとか、意味不明だな。ミリスさんにしては変だな?んー?なんや?何が目的や?おいおいおい。まさかその程度の問題に対して、問題の重みでも吊り上げてんのか?俺は上客の取引先やぞ?いくら何でも強欲で強引で稚拙過ぎるだろうが……』とか感じてたな。


「ならば直接的に私に『大問題が発生している』と伝えれば良かった。またはハリス子爵家の内情を私に直接的に伝えれば良かった。それで終わる話です。だが、直接的に伝えることが出来なかった。なぜか?ミリスさん、貴女は『契約スキル』を用いてハリマン様と何らかの契約を結んだ。それもミリスさんの言動を重く制約する何らかの契約を結んだ。ミリスさん、違いませんか?」


「……タロウ様、私ミリスからは何も言えません」


 だよね。


 契約スキルで言動が拘束されてるよね。


 パニック状態になっていたハリス上層部はミリスさんの『裏切り』を何よりも恐れたハズやし。


「おそらく半ば強制的な、それこそ貴族家の権力と圧力に基づいた契約でしょうけど、いつ契約したのか?おそらくですけど、初めてハリス子爵家に紅茶を薦めた時かな?ハリス上層部からの圧力的交渉に対して、まず優先的に交渉したのは……おそらくミリス商会と下部組織のユーグレナ商会をハリス子爵家御用達にすること。ミリスさん、違いませんか?」


「……タロウ様、私ミリスは何も言えません」


 だよね。


 『契約スキル』で拘束されてるやろし。


 そしてまたミリスさんに蔭ながら助けられていた。


「ミリスさんが『布教の許可』に反対し交渉を優先させたのも、おそらく私とハリス一族が決定的に仲違いすることを防ぐ為でしょう。あのままではハリス一族は『我々』ニホン国の軍事力に屈し、誇りを穢され、鬱屈した感情を子々孫々まで持ちます。ミリスさん、『私の身の安全』を何よりも優先してくださり、心から深く感謝致します。ミリスさんのお陰で、ハリス一族との間に『禍根』を残さずに済みました」


 俺は深く一礼し、感謝を伝える。


「……タロウ様、私は『当然のこと』をしたまでです」


 暗に誉められて恥ずかしいのか、少し頬を赤くしながら謙遜するミリスさん。


「一見すると、これまでのミリスさんの言動はハリス子爵家『側』の言動に見えます。その意味で、ミリスさんは不義理を犯したと、私に謝罪したのでしょう。しかし、タネと仕掛けが分かり一つ一つ丁寧に紐解けば『契約スキル』で重く言動が制約されていたのにも関わらず、ミリスさんの言動は不義理ではない」


 そう。


 不義理なんかじゃない。


 そして義理でもない。


「私とミリスさんとの義理を通すどころか、ミリスさんは『義』そのモノを貫き通した。その行為は、心から敬服に値する。ミリスさん、謝罪は不必要です。遥か彼方の遠い異国のニホンで生まれ育った私は、右も左も分からぬ遥か彼方の異国の迷宮都市ハリスで……貴女の様な『偉大な商人』に出逢えて、心から光栄なんです」


「タロウ様、私ミリスも伝道の使徒『救世主』様に出逢えて、心から光栄です」


 ギ、ギクぅぅぅ!?


「み、ミリスさん!!私は『使徒』でも『救世主』でもありませんよ!!ほらっ、『転移スキル』も持ってませんし!!」


「タロウ様、私ミリスは愛する迷宮都市ハリスと素晴らしき商家たちから『ミランダ商会の最高傑作』と讃えられ、その名を深く誇りに思い胸の奥深くに抱いて生きております。そして私は、その名を恥じぬように私の『人を見る目』を心から信じております。その私の瞳が告げております。タロウ様、貴方が伝道の使徒『救世主』様だと」


 愚直なまでに真っ直ぐな瞳で、俺を直視するミリスさん。


「……み、ミリスさんが私を伝道の使徒や『救世主』だと思うのは『内心の自由』ですから私は干渉も強制もしませんが、本当に私は伝道の使徒や『救世主』ではありませんからね?」


「タロウ様、かしこまりました。私ミリスの胸の内に秘めておきます」


 そう言って、深く一礼するミリスさん。


 もう完全に『お前が否定しようが、お前が救世主だと分かっとるんやぞ?』と暗に告げているよ……。



タロウ・コバヤシ

※クローネ

約343億クローネ

※ユーグレナ

約30万ユーグレナ


ニホン村

※クローネ

約40億クローネ


ユーグレナ共同体

※魔石ポイント

約700万MP

※通貨供給量

1億ユーグレナ


ユーグレナ軍

※軍事予算

330億クローネ


所有奴隷

男 325人

女 184人

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