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96話

96話


「……つ、次の贈答品に、う、移ります……」


 新たなる贈答品が入った木箱を開ける度にミリスさんは顔をより青くして固まり、新たなる贈答品を見る度にハリス子爵家も顔をより青くして固まった。


 俺が贈答した品は様々。


 女性陣の為にアンティーク調の高級鏡や茶会用の高級茶器類など、男性陣には各種の高級酒や高級食器類など、近隣諸国を遥かに超越した品々を贈答した。


 顔を真っ青にしたミリスさんが、未開封の残り2つ目の木箱に移動する。


 顔を真っ青にしているのは、ミリスさんだけでは無い。


 ハリマンも含めたハリス子爵家全員が、顔を真っ青にしている。


 マジ、ごめん。


 お互いの齟齬と誤解で結果的にこうなったんだ。


 『あ、今から贈答する品を変えても良いですか?』なんて言えない。


 賽は既に投げれた後であり、そのまま突き進むしかない。


 というか『ちょっかい』を先に出したのは、君らの方やで?


 だから俺は何一つ反省もしてないし、何一つ後悔もしていない。


 人類みな兄弟。


 話せば分かる。


 恐る恐るミリスさんが木箱の蓋を開けると、また固まった。


「ミリスさん?」


「…………」


「ミリスさーん?」


「…………」


「ミリスさーーん?」


「…………」


 はぁ……仕方ない。


「ハリマン様、少し席を外します」


「あ、あぁ……」


 顔を真っ青にしたハリマンも、既に上の空の空返事になってるな。


 まぁ、いい。


 こうなっては、もうやどうにも出来ない。


 行き着く果てまで、行くしかない。


 俺はミリスさんに近付き、優しく肩を叩く。


「ミリスさん?大丈夫ですか?」


「…………」


「ミリスさーん?」


「ハッ!!……た、タロウ様、た、大変失礼を致しました!!」


「ミリスさん、大丈夫ですよ。落ち着いてください。もう少しで贈答が終わりますので、頑張ってくださいね」


 そう言って、席に戻り座る。


「……み、皆様、た、大変失礼を致しました……。そ、それでは次に『宝飾類』を贈答致します……。こ、こちらがニホン国から贈答される『宝飾類』の数々になります……」


 そう言ってからミリスさんは、非常に美しく芸術的な数々の母親の形見である豪華絢爛な『宝飾類』をハリス子爵家に見せる様に一つ一つ丁寧に持ち上げ、テーブルに優しく一つ一つ丁寧に置いていく。


「ハリマン様、こちらが『我々』ニホン国が誇る『宝飾類』になります。ニホン国とハリス子爵家の友好の証とし、これら数々の『宝飾類』をハリス子爵家に贈答致します」


「…………」


 はぁ……またか。


 とりあえずハリマンが再起動するまで待つか。


「クックック。ボス、今度は意識が戻ってくるまで、おそらく長いぞ?」


「クラウスさん、少し雑談しましょうか?」


 俺と聖剣クラウスが雑談していると、ハリマンがやっとこさ再起動した。


「……タロウ殿、ニホン国の大変素晴らしい品を贈答してくださり、感謝する……。だが、何が目的なのかそろそろ教えてくださらんか?」


 目的?


 そりゃ最後の木箱を開けりゃ分かる。


「ハリマン様、『我々』ニホン国の目的は最後の贈答品を見れば理解されると思います」


「……ミリス、次の贈答品は何だ?」


「……ハリマン様、『絵画』となっております。直ぐに贈答品をお持ち致します……」


 そう述べてから、ミリスさんは最後の木箱へと向かう。


 元々、俺はここまで全力を出すつもりは無かった。


 ユーグレナ様の布教と港なら、港を諦めても良いと思っていた。


 大恩あるユーグレナ様の布教こそが、俺の第一の目的だった。


 でも、齟齬と誤解から布教は駄目だとハリス子爵家は答えた。


 齟齬と誤解を知らない当時の俺は、静かに激怒していた。


 そして俺は素知らぬ顔で、聖剣クラウスから贈答と返礼に関する貴族家の慣習を聞いた。


 その結果、一つの結論を出した。


 贈与論。


 近代資本主義を打ち立てたアダム・スミスの『交換』理論、その理論を踏まえた上で経済理論から社会理論まで発展させたマルセル・モースの『贈与』理論が成り立っていると結論を出した。


 ①与える義務


 贈与する義務を拒むのは敵対を意味する。


 また、人間は有形は勿論のこと、無形の贈与も行う。


 ポジティブであろうがネガティブであろうが贈与を行う。


 相手を喜ばせる感謝の気持ちという無形の贈与もあれば、言わなくても良いのに相手を不快な気分にさせる無形の贈与もある。


 恩師である米山部長が徹底的に俺に叩き込んだことの一つ。


 世界は贈与で成り立っている。


 それが真理の一つだと俺は思っている。


 ②受け取る義務


 贈与される義務を拒むのは敵対を意味する。


 また返礼する財力すら無いと社会的に判断される。


 贈与されることを拒否することは、縁の切れ目になる。


 また、贈与することを拒否することも、縁の切れ目になる。


 人間関係は贈与関係で成り立っている。


 それも真理の一つだと俺は思っている。


 ③返礼の義務


 返礼の義務を果たさないと社会不適合者として権力と地位を失う。


 その為、敵対者に対して贈与と返礼を繰り返す過当競争を行い相手を社会不適合者にし、権力と地位を失わせることが可能となる。


 贈与されれば、贈与を返さなければならない。


 この人間社会の一般的ルールを逸脱した者は、社会の中には入れない。


 一般的ルールすら知らない野蛮な人間、または社会的地位の下層に位置する乞食や盗人と変わらない人間だと社会から拒絶される。


 俺は過剰なまでにハリス子爵家に贈与した。


 その為、ハリス子爵家は最低限において過剰なまでの贈与に『釣り合った』返礼をしなければならない。


 そうしなければ乞食や盗人だと、社会から判断される。


 貴族家ならば『見栄』もある。


 『釣り合い』以上の返礼が出来なければ、それは貴族としての『恥』となる。


 だからミリスさんもハリマンもハリス子爵家の全員も、顔を真っ青にしている。


 最低限、近隣諸国を遥かに超越した価値を持つ贈答品の数々に『釣り合った』返礼をしなければならないからだ。


「…………」


「ミリス」


「…………」


「ミリス!!」


「ハッ!!…………は、ハリマン様、た、大変失礼を致しました……。そ、それでは最後に『絵画』を贈答致します……。こ、こちらがニホン国から贈答される『絵画』になります……」


 そう。


 最後の最後にA0サイズの『ユーグレナ様の絵画』を用意した。


「ハリマン様、こちらが『我々』ニホン国が誇る『女神ユーグレナ様の似姿をモチーフにした絵画』になります。ニホン国とハリス子爵家の友好の証とし、女神ユーグレナ様のオリハルコンの神像を色彩豊かに写実的に描いた『絵画』をハリス子爵家に贈答致します」


「…………」


「ハリマン様?」


「…………」


「ハリマン様ー?」


「ハッ!!……た、タロウ殿、し、失礼をした。それでこの幻想的で美しい『絵画』は何でしたかな?」


「……ハリマン様、こちらが『我々』ニホン国が誇る『女神ユーグレナ様の似姿をモチーフにした絵画』になります。ニホン国とハリス子爵家の友好の証とし、女神ユーグレナ様のオリハルコンの神像を色彩豊かに写実的に描いた『絵画』をハリス子爵家に贈答致します」


「……こ、この幻想的で美しき人が女神なのか……なるほど。タロウ殿、ニホン国の目的は理解した。贈答品の返礼として『布教の許可』の『再交渉』だな?いや『布教の許可』そのモノか……」


「ハリマン様、その通りです」


「タロウ殿、齟齬と誤解の行き着く果てが、まさかこの様な形と結末になるとはな……」


「ハリマン様、全くもって不可思議な結末になりましたが……もし本日『鑑定スキル』により『真名』が確定したならば、贈答品の返礼品として『ハリス子爵領における全面的な布教の許可』を頂きたい」


「タロウ殿、慈悲と気遣いに感謝する。しかしながら、それでもまだまだ返礼品として『釣り合って』おらぬよ。まずウィリアムズ王国との婚姻と『真名』とは無関係に『港の使用権』の許可を出す。次にミリスをニホン国の外交担当とし、更に何か他の要望があればミリスに伝えて欲しい。こちらに出来うることは返礼品が『釣り合う』まで許可を出す。タロウ殿、それで宜しいかな?」


「ハリマン様、ハリス子爵家の返礼品に心から感謝致します」


 こうして俺は、全くもって無意味に近隣諸国を超越する数々の贈答品でハリス子爵家とミリスさんを恐怖のドン底に叩き落とし、代わりに『無条件降伏』に近い返礼品を貰うことになった。


 マジ、ごめん。


 お互いの齟齬と誤解で結果的にこうなったんだ。


 つ、次からはお互い反省して、ちゃんと話し合おうぜ……。



タロウ・コバヤシ

※クローネ

約43億クローネ

※ユーグレナ

約230万ユーグレナ


ニホン村

※クローネ

約40億クローネ


ユーグレナ共同体

※魔石ポイント

約900万MP

※通貨供給量

1億ユーグレナ


ユーグレナ軍

※軍事予算

330億クローネ


所有奴隷

男 325人

女 184人

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