94話
94話
「た、タロウ殿、ニホン国の王太子というのは、ほ、本当の話なのか……?」
さすが異世界。
意味不明だ。
意味不明に俺は今、危機的状況に陥っている。
しかも仲間の一撃必殺によって。
振り返って震え声のハリマンと話すべきなのだろうが、振り返れない。
振り返りたくない。
さて、どうやって『言い逃れ』すべきか……。
そんな俺の『王太子とかふざんけんな!?』という雰囲気を読み取ったのか、更にクラウスは口を開く。
「あー、ハリス子爵、俺の失言だった。ボスが超大国ニホンの王太子というのは忘れてくれ。だが、贈答品を見れば、疑うことすら馬鹿らしくなるぞ?」
この野郎!!
俺の『逃げ道』を塞ぎ始めたぞ!?
いや、まぁ、俺の身の安全の為に『高い身分』が必要なのは、分かってるよ?
でも、高過ぎじゃね?
全権大使かつ王太子とか、俺は何処に向かっているんだ?
もう、訳分からん。
「クラウス殿、それはどういう意味だ?」
これ以上、聖剣クラウスを暴走させたら駄目だ。
何処に着地するのか?全く分からん。
仕方ない……。
「ハリマン様、ニホン国は他国に対して不干渉を貫いております。それゆえニホン国の身分を他国に干渉または強制することもありません。他国において私は、ニホン国を代表する『全権大使』という官職を持つ市民でしかありません」
振り返り、澄ました顔でハリマンと対峙する。
そして、たとえ王太子だろうと全権大使として扱ってくれ、的に逃げる。
逃げるしかない。
『王太子殿下!』とか言われても、鼻で嗤ってしまうし。
「ふむ。タロウ殿、それはタロウ殿をニホン国の王太子として扱うのは、我々の意志と判断になる?ということか?」
「ハリマン様、その通りです。ハリス子爵家が私を王太子として扱っても、また扱わなくてもニホン国も私も干渉または強制することはありません。ですが、私はニホン国の国是である不干渉を信条としておりますので、その意を酌み取って頂ければ幸いです」
とりあえず責任をハリマンに押し付け、できれば『お忍びの王太子』として扱ってくれと匂わせながら『要望』を出す。
「なるほど。ではタロウ殿の意を酌み取り『全権大使』を任された市民として扱わせて頂く。ところでタロウ殿、先ほどクラウス殿が贈答品を見れば、タロウ殿が王太子だと分かると言っていたが、どういう意味だろうか?」
お?
『全権大使』の市民として扱ってくれるのか。
嫌々『全権大使』となったのに、なぜか嬉しくなる。
人間、ホント不思議。
「ハリマン様、おそらく近隣諸国の価値観を遥かに越えた贈答品だと、クラウスさんは伝えたかったのだと思います」
「ふむ。タロウ殿、贈答品を見てみないことには何とも言えないが、それ程の品を贈答して頂けるのかな?」
「ハリマン様、もちろん贈答すると約束しておりますので、気兼ねなく贈答品を受け取って頂きたい」
こっちは苦労して贈答する品を選んだんやぞ?
「なるほど。タロウ殿、そろそろ良い時間になる。会談は今後も重ねることが出来るし、贈答品の確認と返礼品に移っても宜しいかな?」
「ハリマン様、もちろんです」
ふー。
何とか会談一発目は無事に終わりそう。
早く帰って、獣人ちゃんたちと癒されタイムしたい。
「あー、ボス、ハリス子爵。その前に一つ齟齬と誤解を解いた方が良い。おそらくだが、ハリス子爵やミリス嬢が『転移スキル』をボスが持ってないことに落胆した理由を、ボスは全く理解していない」
ん?
なんだ?
まだ何かあるのか?
「ふむ。確認してみるか。タロウ殿、クラウス殿が述べる様に、我々はタロウ殿が『転移スキル』を持っていないことに落胆した。なぜだと思われる?」
そりゃ貿易に利用できるからだろ?
「えっと……ハリマン様もミリスさんも『転移スキル』を利用してみたかったからでしょうか?『我々』同様に、貿易に利用できますから」
「なるほど。近隣諸国とニホン国では、これ程までに価値観が違うのか……」
ん?
違うの?
「タロウ殿、我々がタロウ殿『個人』に『転送スキル』や『転移スキル』の保持の有無を執拗に尋ねたのは、まず『転送スキル』なり『転移スキル』なりが女神からの天恵のスキルだと判断していたからだ。それゆえタロウ殿が『使徒』または我々と同じ『使徒の子孫』では無いのか?それを疑っていた」
ギ、ギクぅぅぅ!?
あ、危なかった……。
何も知らず、紙一重で凌いでいたのか……。
でも、さすが俺。
きちんと凌いだ。
ガハハハハ!!
「近隣諸国、いや我々が知りうる全ての地域や大陸で、我々は女神の『真名』を喪失した。それと同時に新たな『使徒』も喪失した。ゆえに何十年、何百年、何千年もの悠久の刻を、女神の『真名』を喪失した『大罪』を抱えながら我々は女神に深く謝罪し懺悔し生きている」
ふむふむ。
ユーグレナ様が『神力』を使い果たし他の神々に借金して利息を払ってるから、確か3000年ほどは『使徒』はいないハズ。
その結果、下界ではこうなっていたのか……。
実に興味深い文化形成だ。
「そして『真名』と『使徒』を喪失し、『大罪』と『後悔』を抱えながら生きねばならぬ絶望感は、いつしか女神信仰を守る人々の間で希望と救いを求めることに至った。いつか必ず慈悲深い女神は『大罪』を犯した我々を赦してくださり、いつか必ず女神の『真名』を伝道する『使徒』を遣わすと」
ほー、なるほどね。
ユーグレナ様もニッコニコと『俺の意志と無関係に』俺を勝手に『使徒』にしたし、下界はこんな感じで懺悔しているし、ずっと気掛かりだったんだろうな。
イレギュラーで俺がユーグレナ様に拾われたのは、ユーグレナ様にとっても有り難かったんだろうな。
「いつか来たる女神の『真名』を伝道する特別な『使徒』を、我々は深く信仰している。なぜなら我々の『大罪』を女神が赦してくださった『証』なのだから。それは『救済の証』なのだ」
ん?
んんん?
おいおいおい。
まさか……。
「その『伝道の使徒』を、我々は『救世主』と呼ぶ。女神信仰は『救世主』信仰と共にある」
ははは。
今度は『救世主』ですか。
さすが異世界。
本当に意味不明だ。
俺はいったい何処に向かってるんだ?
タロウ・コバヤシ
※クローネ
約43億クローネ
※ユーグレナ
約230万ユーグレナ
ニホン村
※クローネ
約40億クローネ
ユーグレナ共同体
※魔石ポイント
約900万MP
※通貨供給量
1億ユーグレナ
ユーグレナ軍
※軍事予算
330億クローネ
所有奴隷
男 325人
女 184人




