92話
92話
「タロウ殿、こちらこそよしなにお願いする。タロウ殿と様々なことを話し合いたいのだが……特に話し合いたいのが互いの価値観の差だ。ミリスから聞いているが、近隣諸国とニホン国では価値観が違い過ぎる。おそらく互いに多くの齟齬があると思うのだが、どうだろうか?」
なぜか俺は『全権大使』として、『ハリス子爵家』と会談することになった。
さすが異世界。
意味不明だ。
「ええ、もちろんです、ハリマン様。おそらく互いに多くの齟齬と誤解が発生していると思われます」
お互い、すんごい勘違いしてるよね。
「だろうな。先ほどの会話一つでも価値観の差と誤解があった。『宗教の布教』に対して我々は『理不尽な要求』と捉え、ニホン国は『要望』と答えた」
ですよねー。
『理不尽な要求』とか、何の話?って感じだわ。
ホンマ意味不明。
「ハリマン様、その通りです。『我々』はハリス子爵領並びに迷宮都市ハリスを治めるハリス子爵家を最大限に尊重し、『許可』を求めたに過ぎません。『我々』の国では『信仰の自由』という価値観があり、明らかに反社会的な信仰心以外は、誰もが自己の信ずる宗教を信仰できます。ですが、その『我々』の価値観をハリス子爵領並びに迷宮都市ハリスに対して、軍事力に基づいて強制することも干渉することもありません」
こっちは気軽に行政に届け出を出した感覚なんやけどな。
事を大きくしてるのは、君らの方やで?
「ふむ。あくまでも我々の『許可』を求めたと?」
「ハリマン様、その通りです。その証左に、我々は『宗教の布教』の『許可』を取り下げて、ミリス商会に専属奴隷商人の『許可』を求めました。そこに在るのは、互いの意志の尊重です」
俺は『商人』やぞ?
きちんと『対価』は払うよ。
「なるほど。我々に『布教の許可』を求めたのも、我々の意志と信仰をまず最大限に尊重した、ということなのかな?」
「ハリマン様、その通りです。『我々』は対立を望んでおりません。互いに尊重し合える共存共栄を目指しております」
「ふむ。先ほどの話だと、おそらくニホン国には多数の宗教があると思われるのだが、確か女神ユーグレナだったかな?なぜその女神だけの宗教の『許可』をニホン国は求めたのかな?ニホン国の価値観の『信仰の自由』の『許可』を求めなかったのは、なぜかな?」
うっ……。
そうきたか……。
「ニホン国には多数の宗教がありますが、数多くの市民が信仰しているのが女神ユーグレナになります。少数派の宗教を弾圧しているわけではありません。制度として国教はありませんが、実質的には国教に近いとも言えます。また女神ユーグレナの教義は『信仰を強制しない』だけですので、実質的にニホン国は『信仰の自由』の『許可』を求めたことにもなります」
論理的に厳しいか?
屁理屈に近いか?
どうなんだろ?
矛盾しない『嘘』を塗り固めるのも、しんどい。
「ん?それしか教義が無いのか?それで宗教として成り立つのか?」
ん?
どうなんだろ?
あんま興味ないわ。
「近隣諸国の価値観において宗教として成り立っているのかは分かりませんが、ニホン国では各々の信仰心から女神ユーグレナ様に感謝を祈り捧げており、信仰は成り立っております」
「伝承や言い伝えは?祭りや儀式などは?」
………………。
…………。
……。
「……何もありません」
「タロウ殿、ニホン国の価値観が少し理解が出来ないのだが……その話が全て本当ならば、そもそも我々に『許可』を取る必要があったのか?いや、ここにも齟齬と誤解が発生しているのか……」
ん?
『許可』を取ることすら必要なかったの?
なんで?
「ハリマン様、齟齬と誤解とは?」
「タロウ殿は我々が信仰しているハリス聖教や近隣諸国の宗教をご存知かな?」
「ハリマン様、迷宮都市ハリスに来たばかりなので、まだハリス聖教も近隣諸国の宗教も調査できておりません」
「なるほど。タロウ殿、少し説明しよう。まず近隣諸国の宗教は大きくは二つに分かれる。男神信仰と女神信仰だ。超大国メイナード王国などは男神を信仰し、ハリス聖教は女神を信仰している」
ふむふむ。
男性の神様と女性の神様がいると。
で、迷宮都市ハリスは女神を信仰していると。
「ハリス聖教は我々が文字を利用する遥か以前の太古の時代から口伝による伝承によって連綿と続く由緒ある正統な宗教だ。しかしながら口伝による伝承ゆえに様々な真実を失い、様々な伝承が互いに対立し矛盾している。だからこそ公式な伝承を決める必要性が発生し、それが教義になったのだろう」
ふむふむ。
考古の時代から言い伝えの伝聞ゲームで口伝が歪み、多様な伝承が発生してどっちが真の伝承なのかと喧嘩したと。
「ハリス聖教の教義では、我々の始祖ハリスから始まる。つまりハリス聖教とは、始祖ハリスも信仰している」
ほへー。
そんな太古の昔から一族が続いたのか。
ホンマかいな?
「始祖ハリスは女神から天恵のスキルを与えられ、迷宮と共に在った」
は?
え?
そ、それ、ユニーク・スキルなのでは?
ま、まさか……。
「始祖ハリスが女神の下に還ると莫大な量のスキルオーブが排出され、始祖ハリスの子孫がスキルを連綿と紡いだが……時代と共に始祖ハリスのスキルオーブは減少し、最後はたった一つのスキルオーブになった。その始祖ハリスの実在を証すスキルオーブを何としてでも守り抜くのが、ハリス聖教でありハリス一族だ」
え?
ユニーク・スキルのオーブが現在まで残ってるの?
マジで?
「は、ハリマン様、そのスキルオーブは本当に実在するのですか?」
「タロウ殿、当然だ。『鑑定スキル』によりスキルの名は簡単に分かる。そして近年ようやく到達できた迷宮41階層にすら、そのスキルオーブは存在しない。やはり伝承通り、始祖ハリスは女神から天恵のスキルを与えられたのだ。我々は始祖ハリスの子孫であり、女神の恩寵を賜った一族なのだ。その誇りは、決して誰にも穢させない。たとえ超大国ニホンであろうともな」
「は、ハリマン様、ハリス聖教の女神の名は何でしょうか?」
「ハリス聖教の教義では、女神に名はない。口伝ゆえに多様な女神の名があるのだ。どれが女神の真実の名なのか、もはや誰にも分からない。教義では、女神の『真名』を我々は失ったことになっている。ゆえに一族それぞれが好きに女神の『仮名』を名付け、信仰している。ハリス子爵家では女神ハルモニアが『仮名』だ。ミランダ商会なら女神ミルフィーユが『仮名』だ。ハリス聖教では教義を否定しない限り、別に女神の『仮名』をユーグレナにしようと、何一つ問題はない」
な、なるほど……。
そうなってるのか……。
ということは……。
「ハリマン様、率直にお尋ねします。ハリス聖教では、女神の似姿を現す『オリハルコンの神像』を失ったのでは?それゆえ女神の『真名』を失ったのでは?」
「タロウ殿、それを何処で聞いた?ハリス子爵家と御三家しか知らない秘中の秘だ。ミリス、まさかお前が秘伝を漏らしたのか?」
ハリマンがキッと目付きを鋭くし、ミリスさんを睨み付ける。
「ハリマン様、始祖ハリス様と女神ミルフィーユ様に誓って、その様な恥ずべき行為は決してしていないと宣誓します」
なるほどねー。
始祖の名前と女神の『仮名』を用いて宣誓するんだ。
興味深い文化だよなー。
「ふむ。タロウ殿、それを何処で聞いた?カレンか?まさかメッヘル侯爵家に連なるガードナー家のクラウス殿がメッヘル聖教の秘伝を漏らしたのか?」
鋭い目付きのまま、俺を睨み付けるハリマン。
その目付き、恐いんすけど……。
たぶん『オリハルコンの神像』を失ったことは、隠さなければならないほどの一族の大恥なんだろうな……。
というか、クラウスさんはメッヘル聖教の人間なのか。
「ハリマン様、ミリスさんもカレンちゃんも、そしてクラウスさんも何一つ言っておりません。また迷宮都市ハリスで聞いたわけでもありません」
「タロウ殿、ならばなぜ知っている?」
「ハリマン様、簡単な話です。我々ニホン国は『オリハルコンの神像』を複数体保持しており、女神の『真名』を遥か太古より連綿と受け継いで来たからです」
また、とんでもない『嘘』を塗り固めちまった……。
タロウ・コバヤシ
※クローネ
約43億クローネ
※ユーグレナ
約230万ユーグレナ
ニホン村
※クローネ
約40億クローネ
ユーグレナ共同体
※魔石ポイント
約900万MP
※通貨供給量
1億ユーグレナ
ユーグレナ軍
※軍事予算
330億クローネ
所有奴隷
男 325人
女 184人




