91話
91話
「……ハリマン様、なぜその様に思われたのですか?」
俺は迷宮都市ハリスに来て、最初に一つの『嘘』を吐いた。
『在りもしない国』という『嘘』を。
その『嘘』がバレない為に更に『嘘』を塗り固め、更に更にと『嘘』を塗り固めた。
矛盾しない限り『嘘』は『真相』に成り得る。
言い換えれば、矛盾する『真相』は『嘘』に成り得る。
それが『嘘』と『真相』の関係だ。
そして塗り固めた『嘘』の最果てに、現在『全権大使』という『嘘』が目の前に迫っている。
俺は『全権大使』という『嘘』を塗り固めるのか?塗り固めないのか?
その選択を迫られている……。
まぁ、とりあえずは考える時間を稼ぐけど。
「ふむ。タロウ殿、なぜ隠すのか良く分からないが……我々はタロウ殿が少なくともハリス子爵領に対する『全権大使』だと判断していた」
なるほど……。
だから『宮殿』内にも関わらず、護衛の帯剣を許可したのか……。
座る順番も俺からで上位者として扱ったのも、圧倒的技術力と文化力、いや未知のスキルを持つ超越的な軍事力を誇る『在りもしない国』の『全権大使』という肩書きと誤解が『真相』か。
もしかしたらアンナさんたちの送り迎えの豪華絢爛な馬車すら、『全権大使』という肩書きと誤解から用意された物かも知れない。
つまり俺が『全権大使』を否定しても信じる気がさらさら無いだろうし、信じたら信じたで勘違いしたのはソッチなのに『コヤツ、無礼者じゃー!!』に成りそう……。
とりあえず考える時間を稼ぎ、保険で『匂わせる』程度から始めるか……。
「……ハリマン様、その様に思われる行動をしているつもりはありませんでしたが、なぜその様に思われたのか後学の為に教えて頂けないでしょうか?」
「ふむ。あくまで隠すのか。よかろう。タロウ殿、まず我々はタロウ殿が『転送スキル』で迷宮都市ハリスに訪れたと確信していた。なぜ我々は確信したのか?それは『銀馬車』の存在だ」
なるほど。
言いたいことは分かった。
「ハリマン様、つまり『転送スキル』、いえ『転移スキル』を隠すつもりなら『銀馬車』の存在が矛盾するのですね。『転移スキル』を隠すつもりもなら、身体一つで迷宮都市ハリスに来訪すれば良いのですから」
「タロウ殿、その通りだ。では、なぜタロウ殿の国は矛盾するにも関わらず『銀馬車』も『転移』させたのか?なぜ『許可』したのか?まるで『銀馬車』も『転移スキル』もその存在を隠すつもりが何一つも無く、また知られても何一つ困ることも無い素振りだ。つまりそれは、我々に対する『力の誇示』でしか有り得ない」
な、なるほど……。
そうくるのか……。
俺が『宮殿』という『力の誇示』を見てハリス子爵家が王族並みの一族と判断したように、ハリス子爵家も『銀馬車』や『転送スキル』とやらを使える俺が、パンピーどころか一角の人物、それこそ『全権大使』だと『力の誇示』から判断したのか……。
しかも『力の誇示』と勘違いしたハリス上層部は、超越的な軍事力を誇る『在りもしない国』からの侵略に心底怯えていた。
それが『真相』なのだろう。
さすが異世界。
意味不明な状況だ。
「……ハリマン様、確かに『転移スキル』を隠すつもりなら『銀馬車』の存在は矛盾しますが、『力の誇示』をもって私が『全権大使』だと判断するのは……些か論理が飛躍しておりませんか?」
「タロウ殿、タロウ殿の国の目的は理解しておる。貿易、迷宮攻略、そして貴殿の国が信仰する『宗教の布教』だ。タロウ殿の国からの『理不尽な要求』に我々は判断を迷ったよ。内部から迷宮都市ハリスを長期的平和的に乗っ取ると宣言した『理不尽な要求』を断れば、『転送スキル』、いや『転移スキル』という未知なるスキルや更なる未知なるスキルで短期的暴力的に侵略され、たかが1日すら保たずに歴史ある迷宮都市ハリスが即座に陥落するのかもしれないのだから」
なるほどな。
つまり『宗教の布教』という判断を下せる『全権限』が俺にあると言いたいのか……。
確かに俺は『信仰の自由』なんて全く存在しないだろうと思って、『宗教の布教』の許可を権力者であるハリス子爵家にお伺いというか『交渉』をした。
そしてその『交渉』と『権限』は『経済的交渉や権限』では無く『政治的交渉や権限』に属する。
一介の異国の商人の『分』を遥かに超えすぎていると……。
おそらく近隣諸国では本来なら下々が異教を勝手に布教し、それを発見したハリス子爵家が怒り狂い、強権的高圧的に弾圧なり、または弾圧に抗議する異教国の高官や宗教的高位者との『交渉』なりの『手順』が発生するのだろう。
その『手順』を超えて、いきなりハリス子爵家と『政治的交渉』に入っている。
端から見れば、まるで近隣諸国でも有数の権力者であるハリス子爵家と『対等』に『政治的交渉』をするだけの『政治的身分』なり『政治的権限』なりがある素振りだ。
そしてそれは……おそらく近隣諸国では『外交』に属する外交官や大使……いや通信技術が未発達の地域や文明だ。
いちいち各々の国に戻って判断を仰ぐ時間と費用コストが勿体ない。
『その場での国の代表の判断』が要求される『全権大使』の『権限』になるのだろう。
現代人の俺からすれば、行政に宗教団体の許可の届け出を出した程度の、気軽な感覚だったんだが……。
マズいな……。
これは『全権大使』を俺がいくら否定しても、全く信じないだろうな……。
それこそ『契約スキル』を用いて否定しなければならないが……『在りもしない国』の『全権大使』というアドバンテージを完全に失う。
だが、『全権大使』と認めたら……今後俺はどうなる?
それが分からない。
うーむ。
どうすべきか?
とりあえず更に時間稼ぎをするか……。
「……なるほど。ハリマン様、それでも私が『全権大使』だと判断するのは、些か論理が飛躍しておりませんか?ただ私は、私の国からの『要望』を伝えただけかも知れませんよ?」
「タロウ殿、我々は『理不尽な要求』を飲むつもりだった。当然の判断だ。圧倒的軍事力の『格差』が目の前にあるのだから。断れば抵抗すら無意味に短期的暴力的に侵略され、全くの未知の国に占領されると判断していた。だが、ただ一人ミリスだけが一度『交渉』すべきだと強固に主張した。タロウ殿が『全権大使』ならば、必ず『交渉』が出来ると強固に主張した。そして『交渉』すれば、タロウ殿が『全権大使』なのかが必ず判明すると」
ん?
『要望』を飲むつもりだったの?
で、ミリスさんが止めたの?
ミリスさん、アンタ何してんのよ!?
おっと、意識が逸れた。
話を聞いている感じ、確信的に誤解しているんだよな。
だが、どう返答すべきか……?
「……なるほど。ハリマン様、少し考える時間を頂けますか?」
「タロウ殿、それは『答え』を言っているようなモノでは?もちろんこちらは返答を待つよ」
「ハリマン様、ありがとうございます」
今までの話の筋を考えると……。
つまり……こういうことだろ?
ハリス子爵家が『宗教の布教』を一度断り、それによる俺の言動を試したんだろ?
ハリス子爵家の判断を聞いた俺が『在りもしない国』に日本人お得意の『案件を一度持ち帰って相談し、返答します』をすれば、権限の無い使者だと判断する。
その場で、つまりミリスさんの目の前で俺が判断するなら、『その場での国の代表の判断』が必要な巨大な権限を持つ『全権大使』だと判断する。
そして俺は『在りもしない国』に案件を持ち帰ることなんか出来ないから、その場で安易に判断を下した。
で、俺が『全権大使』だと完全に誤解されたと……。
『真相』は、こんな感じなんだろ。
というか、『我が国を舐めとんのか?コヤツら無礼者じゃー!!』と短期的暴力的に侵略されるかもしれないのに、よくそんな博打を打てたよな?
まぁ、おそらく俺の『窓口』であるミリスさんが『俺を見て』、軍事力に頼らない人間だと判断してたんでしょうけど……。
ん?
とするとだな、そもそも関税やマリア様の贈答の話から一連の話が始まっただろ?
ということは、その時点でミリスさんはハリス子爵家から『高い要求』を俺にするように頼まれ、『全権大使』、少なくとも何らかの権限を持つ異国の高官だと俺は疑われていて、俺がどう行動するのか『試し行動』をしていたのか?
いや、違うな。
『在りもしない国』からの一方的な侵略に怯えて、俺や国が『話し合い』が出来る理知的な存在かを調べていた感じか?
そりゃそうだよな。
何の前触れも無く目と鼻の先で『未知のスキル』を使われたのだから。
その『在りもしない国』の行為は『我々は何時でも迷宮都市ハリスを侵略できますよ』と軍事的メッセージになる。
そのメッセージと脅威に対して、ハリス上層部は相当なパニック状態になっていた感じか?
元の世界ならUFOがワープで目の前に飛来した感じだろ?
そりゃパニック状態になるわな……。
で、ハリス子爵家は様子見で『高い要求』を出してみて、高官なり『全権大使』なりと思われている俺や『在りもしない国』がどんな言動をとるのか?
それを元々ミリスさんはハリス上層部から調べて欲しいと『仲介』を頼まれてた感じか?
おそらく早い段階で、俺が痕跡一つも無く迷宮都市ハリスに来たことをハリス上層部は摑んでいたハズだ。
ハリス子爵領は『庭』なんだから。
そして早い段階で『超越的な軍事力を誇示する在りもしない国』からの侵略に勝手に怯えていたハズだ。
で、『どんな国かなー?』と『高い要求』で様子見で薮蛇を突いたら、俺が『宗教の布教』という『政治的に極めて高い要求』をするものだから、逆に迷宮都市ハリスは危機的状況に陥った、的な感じだろ。
『三下のクソザコが舐めた要求をしやがって。ええぞ。ならコッチはもっと高い要求を出したるがな。断ったらどうなるか分かっとるよな?お?そういや武器弾薬がたんまりと溜まっとったな。在庫の一斉セールでもするかな』と、『在りもしない国』が激怒したとハリス上層部は勘違いして更にパニック状態になってそうだよな……。
『宮殿』内どころかハリマンの目の前ですら俺の護衛が帯剣を許され、ハリマンには護衛一人すら許されていないのは、全面的降伏や恭順を意味しているのだろう。
犬が寝転がり、無防備に腹を見せる降伏のポーズ的な感じか?
そんな近隣諸国有数の一族であるハリス子爵家ですら全面的降伏や恭順をするほどの『政治的に極めて高い要求』を出し、即座に取り下げることも出来る俺は『圧倒的な超大国の全権大使』だと疑惑が確信にまで更に勘違いされてそうだ……。
しかもさっきの2つの質問により、近隣諸国よりも広い地域を担当する圧倒的な権力と権限を持つ『全権大使』だと……。
さすが異世界。
意味不明な状況だ。
俺は何一つそんなことは望んでないのに……。
ふーむ。
どうすべきか……。
『在りもしない国』の『全権大使』だと、更に『嘘』を塗り固めるべきか?
それとも『大使』的な『限りなく制限された権限を持つ国の代表』的にすべきか?
それとも土下座して『いえ、実はパンピーなんです……』と真実を述べるべきか?
うーむ……。
余りにも身に余る『身分』を付けたら、今後俺はどうなる……?
とりあえず更に時間を稼ぐか?
「……ボス、考えている最中に申し訳ないが、もう隠し通すことは無理だ。素直に『全権大使』だと認めた方が良い。これ以上はボスの国が超大国だろうが、ハリス子爵家に対して極めて非礼にあたる」
おい!?
ふざけんな!!
何の相談も無く、背後から一撃必殺で『逃げ道』を完全に塞ぐなよ!?
いや、まぁ、ハリマンに確認すら取って聖剣クラウスたちの判断で助言しても良いと言ったのは、この俺なんだけどさ……。
おそらく護衛の権限を行使して、俺の身の安全の為に『全権大使』にすべきと判断したんだろ?
はぁ……仕方ないか……。
俺はスッと立ち上がり左手を腰に当て、右手は胸に、そして深く一礼をする。
「ハリマン様、度重なる非礼に深く謝罪の意を申し上げます。近隣諸国一帯の『全権大使』として、ニホン国の代表を任されているタロウ・コバヤシと申します。以後、よしなにお願い申し上げます」
こうして俺は、なぜか『在りもしない国』ニホンの『全権大使』となった。
さすが異世界。
意味不明過ぎる。
タロウ・コバヤシ
※クローネ
約43億クローネ
※ユーグレナ
約230万ユーグレナ
ニホン村
※クローネ
約40億クローネ
ユーグレナ共同体
※魔石ポイント
約900万MP
※通貨供給量
1億ユーグレナ
ユーグレナ軍
※軍事予算
330億クローネ
所有奴隷
男 325人
女 184人




