90話
90話
「タロウ様、『転送スキル』または『転移スキル』は存在しますか?」
インクが乾き、俺とミリスさんは『契約スキル』を用いて2点の質問に対しては『嘘が付けない』契約をした。
「ミリスさん。『転送スキル』は聞いたことがありませんし、存在もしていないと思います。しかしながら『転移スキル』は存在しております」
俺の『嘘偽りの無い』証言により、ハリマンやミリスさんはもちろんのこと、後ろで護衛しているクラウスたちもザワザワと響めき騒然としている。
なぜなら近隣諸国史上始めて伝説的夢想の『転送スキル』と同種の『転移スキル』の存在が、『契約スキル』を用いて確認された歴史的瞬間だからだ。
場が落ち着くのを待ってからミリスさんは口を開く。
「た、タロウ様は『転移スキル』をお持ちなのでしょうか?」
「ミリスさん、私は『転移スキル』は持っておりません」
先ほどの響めきとは違い、俺の『嘘偽りの無い』証言により酷く落胆した雰囲気が二人に漂う。
なんだろ?
ハリマンもミリスさんも『転移スキル』を体験してみたかったのかな?
まぁ、いいや。
俺には関係無いし。
「ハリマン様、ミリスさん。『嘘偽りの無い』証言により私の話に信憑性が増し、信じて頂けたかと思います」
「あぁ、もちろんだとも、タロウ殿」
「もちろんですわ、タロウ様」
よかった、よかった。
見た感じ、二人とも『俺の嘘』を完全に信じてくれたみたいだ。
さてと、この後は……。
「信じて頂き、ありがとうございます。ハリマン様、少しクラウスさんたちと相談したいことがありますので、一度席を外しても宜しいでしょうか?」
「タロウ殿、もちろん大丈夫だが……我々は部屋から出た方が良いのかな?」
「ハリマン様、お気遣いに感謝致します。ですが、お二人に聞かれても問題の無い相談になりますので、このまま少しお待ち頂けますでしょうか?」
「タロウ殿、了解した。気兼ねなく相談してくだされ」
「ハリマン様、ありがとうございます」
一礼をしてから席を立ち、クラウスたちと相談をする。
相談内容は、たったの一つ。
「クラウスさん、本日秘密にしている話をハリス上層部や近隣諸国にも伝えた方が良いでしょうか?おそらくですが、ハリマン様とミリスさん以外も『転送スキル』とやらを私が保持していると確信的に勘違いすると思うんですよね。みなさん私の足取りを調べてるでしょうし……。これから徐々に大規模な貿易が始まるのに襲撃されたくないですし、邪魔されたくもありません。私はただ国の許可の下に『転移スキル』を利用して貿易しているだけなんですけどね……」
そう、俺が『転移スキル』で『密輸的貿易』をしているという偽情報を近隣諸国に垂れ流し、『複製スキル』の存在を隠すこと。
その相談だ。
「……なるほどな、ボス。言いたいことは分かった。俺は問題は無いと思うが、ペロシ、お前はどう思う?」
「ハッ!!クラウス将軍、私も大きな問題は無いと思いますが、濫りに『転移スキル』の情報を流してボスの国は怒らないのですか?」
なるほど。
確かに先ほど、濫りに『転移スキル』の情報を流してはならない的な嘘を付いた。
その論理的整合性をどうすんの?って話か。
「ペロシさん、大丈夫です。近隣諸国には『転移スキル』と類似する『転送スキル』の伝説がありますので、既に『転移スキル』と同種の存在が知れ渡っており、私の身の安全を優先することを、私の権限から判断します」
「ボスの国が大丈夫なのでしたら、問題は無いと思います」
「お前ら、他に何か無いか?」
クラウスが副官を見回すが、これ以上は何も無さそうだな。
「では、クラウスさん、情報を流す方向で決定しますね」
「了解、ボス。お前らも良いな?」
「「「「ハッ!!」」」」
というわけで席に戻ろうとしたら、ペロシさんから『秘密会談』の契約書を渡される。
なんで渡した契約書を、再度俺に渡すの?
よく分からないが、まぁ、ペロシさんなら無意味な行動はしないだろうし、たぶん必要なことなんだろう。
契約書を受け取ったまま、席に戻り座る。
「すみません、お待たせ致しました。おそらく相談していた内容が聞こえていたと思いますが、説明した方が良いでしょうか?」
「いや、大丈夫だ。むしろ我々にとっても有り難い話だ。念の為に確認するが、タロウ殿、本日の内容を他者に話をしても大丈夫なのかな?」
「ハリマン様、大丈夫です」
「タロウ殿、助かるよ。ミリス、進めろ」
「ハリマン様、かしこまりました。それではタロウ様、契約を解除致しますので、契約書をテーブルの上に置いて、手を置いて頂けますか?」
は?
契約の解除も出来んの?
と、とりあえず言われた通りに契約書を置き手を置くと、次いでハリマンが、そしてミリスさんが手を置き『契約スキル』と唱える。
心臓から手へと熱が移り、更に手から熱が消えた。
「タロウ様、ハリマン様、これで契約スキルによる契約の解除は完了致しました。ご存知の通り、契約スキルの解除により魂は解放され、互いの行動が契約内容から自由になりましたのでご安心ください。また契約書だった高品質パピルスは責任を持って私ミリスが処分致します」
そう言って、鞄の中にコピー用紙を入れる。
さて、そろそろ『秘密会談』は終わりかな?
次はマリア様に贈答だっけ?
「おっと聞き忘れたことが二つあるんだが、タロウ殿、まだ話を聞いても大丈夫かな?」
ん?
なんだ?
まだ何かあるのか?
「ハリマン様、大丈夫ですよ」
「タロウ殿、まず一つ目なんだが、タロウ殿の国との国交や外交は可能かい?または少なくとも高官に会えないかい?」
『在りもしない国』なんだ。
無理言うな。
「……ハリマン様、申し訳ございません。基本的に私の国は貿易以外は不干渉を貫いておりますので、高官が訪れることはまずありません」
「国交や外交も不可能かい?」
「はい」
『在りもしない国』なんで、ホント無理なんです。
「なるほど。次の質問なんだが、タロウ殿、近隣諸国にはタロウ殿と同じ直接的に交流する同胞はいるのかな?それともタロウ殿だけかな?」
なんだ?
嫌な予感がする……。
何を探っているんだ?
さっきの質問とこの質問に何の関連が……?
機密情報にしてノーコメントにするか?
いや、どうせ商品の流れで俺しかいないことは時間の問題でバレるよな……。
「……ハリマン様、近隣諸国が何処を指しているのか『我々』と齟齬があるとは思いますが、おそらくハリマン様が考えられている以上の広い範囲を私一人が貿易を担当しております」
「なるほどなるほど。やはりそうか」
ん?
何が?
というか、さっきから何か嫌な予感がするんだが……。
「タロウ殿、貴殿は近隣諸国、いやそれ以上に広い地域を担当する『全権大使』では無いのかな?」
は?
全権大使?
さすが異世界。
そうきたか……。
タロウ・コバヤシ
※クローネ
約43億クローネ
※ユーグレナ
約230万ユーグレナ
ニホン村
※クローネ
約40億クローネ
ユーグレナ共同体
※魔石ポイント
約900万MP
※通貨供給量
1億ユーグレナ
ユーグレナ軍
※軍事予算
330億クローネ
所有奴隷
男 325人
女 184人




