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89話

89話


「ひ、秘密です……」


 ミリスさんからの核心的追及に、ノーコメントで逃げる俺。


 というか、言えない。


 言っても信じないし、頭のおかしな人にしか見られないし、なにより『在りもしない国』のアドバンテージが消えるし。


「はっはっは。タロウ殿、それでは『答え』を言っているようなモノではないか。はっはっは」


 は?


 答え?


 何の話だ?


「ミリス、やはり『存在する』。次に進めろ」


 は?


 存在する?


 何が存在するんだ?


 というか、何の話なんだ?


「かしこまりました、ハリマン様」


 ミリスさんも心なしか嬉しそうにしている。


 いったい、何が起きているんだ?


 さすが異世界。


 全くの意味不明なんだが……。


「タロウ様、近隣諸国には荒唐無稽な夢想が山ほどあります」


 は?


 荒唐無稽な夢想?


 今度はいったい、何を話し始めたんだ?


「迷宮を更新すれば、どの様なスキルを新たに取得できるのか?太古より人類は夢を見てきました。例えば、雷を操るスキルや雨を降らすスキル、更には海流を操り海を割るスキルなど、それはもう荒唐無稽なスキルの夢想が山ほどあります」


 は?


 えっと……。


 つまり話の筋的には、荒唐無稽と思われているスキルで迷宮都市ハリスに来たんだろ?的な話?


 空を飛んで来たとか?


 さすが異世界。


 何処に着地するのか全く分からんほど、ぶっ飛んだ話になってきたぞ……。


「荒唐無稽な数々の夢想的スキルの中でも、現実に存在するであろうスキルが近隣諸国では昔から語られております。それは大勢の人間が迷宮で体験しながらも、迷宮の壁に阻まれて近隣諸国では未だに取得出来ないスキル」


 は?


 大勢の人間が迷宮で体験していて、未だ取得出来ないスキル?


 何それ?


 そんなのあるの?


「そのスキルの名は……」


 そのスキルの名は?


「『転送スキル』」


 は?


 『転送スキル』?


 初めて聞いたスキルなんすけど?


「迷宮では、転送魔法陣に乗り、何の痕跡一つも無く様々な階層に移動できます」


 あー、なるほどね。


 つまり俺の状況と迷宮の転送魔法陣が酷似しているのか……。


 さすが異世界。


 俺では絶対に辿り着けない結論だ。


「タロウ様、ハリス上層部は、『転送スキル』を用いてタロウ様は迷宮都市ハリスに来られたと確信しております」


 いえ、違います。


 完全に誤解してます。


「タロウ様は『転送スキル』をお持ちですよね?」


 いえ、持っておりません。


 というか、『転送スキル』を持っていると疑われているのかよ……。


「タロウ様、お答え頂けないでしょうか?」


 何を答えろと?


 とりあえず……。


「……すみません。少し考えても宜しいでしょうか?」


 ミリスさんがチラりとハリマンを見ると、コクりと頷くハリマン。


「タロウ様、どうぞお考えください」


「ありがとうございます」


 ふーむ。


 今までの話を整理すると、まず……俺は『転送スキル』とやらを持っていると疑われている。


 で、この『転送スキル』は国の軍事力として使える、って話の筋だよな?


 で、それは迷宮都市ハリスにおいて、有史以来の未曾有の危機って話なんだよな?


 おそらく『転送スキル』とやらを使えば、迷宮都市ハリスの目の前に、いや、それどころか壁内にすら軍隊を転送でき、それは迷宮都市ハリスの安全保障に致命的で危機的な問題を抱える的な話なんだよな?


 で、俺と話をして、おそらく『在りもしない国』は軍事的目的での『転送スキル』を使わない的な感じで、ホッと一安心した感じか?


 ふーむ。


 マズいな……。


 話を聞いている感じ、少なくとも『転送スキル』は存在していると、二人とも確信してそうなんだよな……。


 例えば、俺が『転送スキルなんて知りませんし、存在しない』と真実を言っても、二人とも信じないだろうし『じゃあ、お前は迷宮都市ハリスまで、どうやって来たんだ?』って、話にしかならんのよな……。


 それはそれで説明に困る。


 じゃあ、逆に『転送スキルは存在しますが、持ってません』と伝えても、『いや、持ってるだろ?』とも疑われそうなんだよな。


 問題はソコなんだよな……。


 ふーむ。


 『転送スキル』か……。


 話を聞いている感じ、まるで……。


 え?


 あれ?


 もしかして……。


 天啓。


 それはまさに天啓とも言える一瞬の閃き。


 イケるか?


 イケるよな?


 ここをこうして、こうすれば……。


 さらにこうして、ああして……。


 よし。


 イケる。


 ロジックは組み立てた。


 しめしめ。


 これで、堂々と魔石を大量に購入できるぞ!


 ガハハハハ!!


「……ハリマン様、ミリスさん、長いこと待たせてしまい、申し訳ありません」


 結構待たせたからね。


 とりあえずは謝罪から始める。


「まず『転送スキル』ですが、私は持っておりませんし聞いたことも無いスキルです。おそらく存在しないスキルだと思います」


 俺の発言を聞いた二人ともが目をスッと細め、疑惑の眼差しを向けてくる。


 二人とも恐いんすけど……。


「『転送スキル』は聞いたこともありませんが……話を聞く限り、その夢想的スキルに近いスキルは存在します」


「た、タロウ殿、ほ、本当にそんなスキルが存在するのかい?」


 ん?


 何か動揺しているみたいだが、お前、俺を疑ってたのでは?


 実は『転送スキル』に対して半信半疑だったのか?


「ハリマン様、存在します。そのスキルの名は『転移スキル』です。街から街へ、知っている場所なら、瞬間的に移動できるスキルです。もちろん強力なスキルです。魔石を大量に使います」


「た、タロウ様は、『転移スキル』をお持ちなのでしょうか?」


 え?


 ミリスさんも少し動揺しているけど、半信半疑だったの?


「ミリスさん、申し訳ありません。私は持っておりませんし、国が管理しておりますので専門機関の人間しか『転移スキル』は与えられません。理由として『転移スキル』を異国に奪われ無い為に厳しく管理され、異国の方々と直接的に交流する人間には絶対に与えられません」


「タロウ様、本当でしょうか?」


 スッと目を細め、疑惑の眼差しを向けるミリスさん。


 それ、本当に恐いんすけど……。


「ええ、本当です。ですが、信じて貰えないことも理解します。国の規則により話せることは制限されておりますが、もし宜しければ2点のことを『契約スキル』を用いて証明します」


 そう言って、右手の人差し指を上げる。


「1点目は、『転移スキル』が存在しているのか?を質問してください。その質問に対しては嘘偽り無く話すことに『契約スキル』で同意します。付け加えて『転送スキル』とやらが存在しないことも嘘偽り無く話すことに同意します」


 スッと右手の中指も上げる。


「2点目は、私が『転移スキル』を持っているのか?持っていないのか?を質問してください。その質問に対しては嘘偽り無く話すことに『契約スキル』で同意します。以上の2点を『契約スキル』を用いて証言すれば信憑性が増し、私の話すことを信じて貰えると愚考します。如何でしょうか?」


「タロウ殿、良いのかい?非常に重要で価値のある情報だ。おそらく機密情報に近いのでは?今ならまだ、確信に近い疑惑で終わる」


「ハリマン様、お気遣いありがとうございます。しかしながら、問題はありません。濫りに『転移スキル』を伝えるなら兎も角、『転移スキル』とスキルの保持を疑われた場合は私の身の安全が優先され、制限はありますがある程度のことを伝えることは許されております」


「なるほど。ミリス、契約内容を書いてくれ」


「ハリマン様、かしこまりました」


 ミリスさんがガサゴソと鞄からコピー用紙とインクと羽ペンを取り出し、スラスラと契約内容を書いていく。


「タロウ殿、インクが乾く時間もあるし、少しタロウ殿の国のことを聞いても良いかい?」


「ハリマン様、もちろん大丈夫です」


「タロウ殿やタロウ殿の国は、何を目的に迷宮都市ハリスに来たんだい?」


「おそらくハリマン様も既に正確に推測されておられると思いますが、貿易が主点です。私の国には迷宮がありませんので、貿易により魔道具や魔石など迷宮産アイテムを『転移スキル』を用いて輸入し、逆に私の国の商品を『転移スキル』を用いて輸出することが第一の目的になります。その意味で、迷宮都市ハリスは、非常に理想的な迷宮都市と『我々』は判断しております」


「やはりそうだったか。タロウ殿、主点や第一の目的と言ったね?次点や第二の目的も教えてくれるかい?」


「ハリマン様、もちろんです。おそらく次点や第二の目的も正確に推測されておられると思いますが、迷宮攻略が第二の目的となります」


「……タロウ殿、君たちの国は何階層まで攻略しているんだい?」


「ハリマン様、申し訳ございません。国の機密情報になります」


「だろうね。少なくとも『転移スキル』という未知で強力なスキルを入手できる階層まで辿り着いている。それは即ち、我々よりも遥か先を行ってることを示している。実に羨ましいよ。もう一つ聞いても良いかい?」


「ハリマン様、もちろん大丈夫です」


「迷宮都市ハリスの迷宮攻略が進み、我々には未知である迷宮産アイテムをハリスにも卸してくれるのかい?」


「ハリマン様、国の規則により卸して良い迷宮産アイテムと、禁止している迷宮産アイテムがあります。卸して良い迷宮産アイテムは卸すことが可能です」


「なるほど。その基準はやっぱり軍事利用の有無かい?」


「ハリマン様、その通りです。私の国は平和を愛しております。もちろん私も平和を何よりも愛しております」


「だろうね。ミリスから聞いたよ。タロウ殿は護衛すら付けて無いことが当たり前の感覚だったと。それは即ち、タロウ殿の国は我々では計り知れないほどの治安の良さを示している」


「ハリマン様、その通りです。私の国は世界最高峰の治安の良さを誇りに思っております」


「タロウ殿の国が羨ましいよ。迷宮都市ハリスでは壁内の治安すら……」


 ハリマンと契約内容を書き終わったミリスさんと共に、当初の目的であった談笑をしながら、インクが乾くのを待つ。


 どうやら既に成功したみたいだな。


 『複製スキル』の『隠れ蓑』が『転移スキル』だと。


 これで魔石を大量に購入し、『複製スキル』が使いたい放題になる。


 なぜなら二人とも『転移スキル』を用いた『密輸的貿易』だと、勘違いしてくれているのだから。



タロウ・コバヤシ

※クローネ

約43億クローネ

※ユーグレナ

約230万ユーグレナ


ニホン村

※クローネ

約40億クローネ


ユーグレナ共同体

※魔石ポイント

約900万MP

※通貨供給量

1億ユーグレナ


ユーグレナ軍

※軍事予算

330億クローネ


所有奴隷

男 325人

女 184人



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