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80話

80話


「えっと……その……理由をお聞かせ願えますか?」


 ヤバい。


 想定外に交渉が破綻したから、少し動揺しているな……。


 とりあえず冷静になり落ち着け。


「ええ、もちろんですわ。ですがタロウ様の表情を見てますと、まるで『交渉が破綻することが想定外だった』と見受けられますが、もしかして『死神将軍の知恵袋』ペロシ様すらも交渉が破綻すると『想定』されて無かったのですか?」


 チッ。


 俺の表情一つから、こちらの情報を抜きに来てやがるな。


 まぁ、既に『もろバレ』しているから隠す必要もないけど。


「……ええ、そうですね。もちろん少なからず交渉が破綻する可能性はあるとは考えておりましたが、その可能性はほんの僅かとしか予測してなかったですね」


「でしょうね。未だ迷宮都市ハリスの価値観と常識に戸惑われるタロウ様に、一つ御助言を申し上げます。タロウ様、私たち『商人』とクラウス様やペロシ様たち『軍人』とでは考え方や行動も、そして『生き方』すらも全然違いますわ。それはタロウ様もご存知だと思います」


 もちろん知ってるさ。


 『商人』と『軍人』では、価値観も常識も生き方も全く違う。


 だが、そんな『当たり前』の話をして、何になるんだ?


「……ええ、そうですね。私たちと彼らでは、大きく異なる生き方でしょうね」


「タロウ様、そこをご理解されておられるのでしたら、後は簡単な話ですわ。『軍人』と『政治家』も考え方や行動も、そして『生き方』すらも全然違いますわ。『軍人』は所詮、『軍事的観点』からでしか物事を測れないのです。私たち『商人』が持つ『経済的観点』や『政治家』が持つ『政治的観点』を理解できないのが『軍人』なのです。もちろん少しばかりの『経済的観点』や『政治的観点』は持てるでしょうが、『専門的観点』は持てません。彼ら『軍人』は、あくまでも『軍事的観点』の『専門家』でしかないのです」


 なるほどな。


 痛い所を突いて来やがる。


 つまり俺たちには『商人』と『軍人』はいるが、『政治家』はいない、って話だろ?


 『政治的観点』を持つ専門家がいないから、今回の交渉が破綻することを全く予測できなかった。


 そう言いたいんだろ?


「……なるほど。非常に耳が痛い御助言をくださり、感謝申し上げます。とすると……交渉が破綻したのは『政治的観点』からですよね?ならば『女神ユーグレナ様の布教の許可』が、今回の交渉が破綻した原因ですか……」


 そう。


 『向こう』の現代ですら、『宗教問題』は解決不可能なほどの『政治的問題』になっている。


 メアリーちゃんは交渉の問題点にはならない。


 港の使用権は政治的問題も含むが、あくまでも経済的問題でしかない。


 純粋な『政治的観点』による政治的問題は、『宗教問題』でしかないハズだ。


「タロウ様、その通りでございます。ハリス子爵家は『それだけは絶対に許さない』とのことです」


 なるほどな。


 俺が考えていた以上に、迷宮都市ハリスの内部に『宗教問題』を抱えたくない、って話だな。


 つまり『似たような大問題』が以前あり、大問題の再発生を恐れている。


 そして『ハリス内部の宗教問題』と『ウィリアムズ王国との問題』を天秤に掛け、ハリス内部で『宗教問題』を抱えるぐらいならウィリアムズ王国との関係悪化の方が『まだマシ』という『政治的判断』を下したのか……。


 とすると……ハリス子爵家が言いたいことは『こちらの要求を引き下げて、互いの問題の重みを釣り合わせろ』ということか。


 問題の『重み』のバランスを、次は『俺たち』が悩み苦しめと。


 ならば交渉は破綻していない。


 ここからが交渉の始まりなんだ。


 ユーグレナ様、すみません。


 『恩返し』は、もう少し先になります。


「……ではミリスさん。『女神ユーグレナ様の布教の許可』を取り下げ、『政治的問題』が発生しない別の要求に『交換』すれば、ハリス子爵家との交渉は纏まりますか?」


「ええ、もちろんですわ。ハリス子爵家もそのことを望まれておられますわ」


 ニッコリと微笑むミリスさん。


 チッ。


 『こうなると初めから分かっていた』と言いたい感じの笑顔だな。


「なるほど。少しだけ考えるお時間をください」


「タロウ様、どうぞ代わりの『要求』をお考えになってください」


 ふーむ。


 話の筋だと、メアリーちゃんと港の使用権はクリアーしている。


 つまり『コチラ』の戦略的目的は達成している。


 ふーむ。


 何かあるか?


 ヤバい……。


 今は特に何か要求したいことが思い浮かばないんすけど……。


 そもそも迷宮都市ハリスのことを、あんまり知らないし……。


 とすると……俺たちユーグレナ共同体の問題の解決を要求すべきか。


 ユーグレナ共同体は『奴隷の王国』だ。


 奴隷をひたすら集めて、共同体を作っている。


 なら、要求はコイツで良いか。


「……ミリスさん。メアリーちゃんがミリス商会で奴隷商人となった場合、ユーグレナ商会御用達の専属奴隷商人にすることは可能ですか?」


「タロウ様、分かりました。そちらの確約は私の権限で行えますので、必ずメアリー様をユーグレナ商会御用達の専属奴隷商人に致しますわ」


 こうしてメアリーちゃんの与り知らぬ場所で『奴隷商人メアリー』の進退が勝手に決まった。

 

 メアリーちゃん、ごめんね。


 君を『隠れ蓑』にさせてもらうよ。



タロウ・コバヤシ

※クローネ

約35億クローネ

※ユーグレナ

約200万ユーグレナ


ニホン村

※クローネ

約40億クローネ


ユーグレナ共同体

※魔石ポイント

約850万MP

※通貨供給量

1億ユーグレナ


ユーグレナ軍

※軍事予算

230億クローネ


所有奴隷

男 325人

女 184人


 ※タイトルの全回収が終了。

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