72話
72話
「タロウ様、お待たせ致しました」
聖剣クラウスとの相談が終わり、部屋の外で待機していた女性の奴隷にミリスさんを呼んで欲しいと伝え、部屋で少し待っているとミリスさんが部屋に入って来た。
「いえ、こちらこそお待たせ致しました」
「いえいえ、大丈夫ですわ。それでタロウ様、ご返答を頂けますでしょうか?」
ミリスさんが意志の強い瞳をギラギラとギラつかせる。
コチラに少しでも何か落ち度があれば『足下を掬ってやる』とも見える目だ。
そんな怖い目を向けるなよ……。
そんな怖い目を向けたって、今回の話は全く『割に合わない』話だぞ?
『割に合わない』話なら、取るべき手段は3つだ。
1つ目は、『話を無かったことにする』こと。
つまりメアリーちゃんをミリス商会に加盟するお願い事を引き下げること。
これで相手の話すら無かったことにし、互いの問題の『重み』すら無くすことができる。
2つ目は、『アチラの要求を下げる』こと。
つまりウィリアムズ王国との関係改善と関税の引き下げの要求を突っぱね、より軽い問題の要求にさせること。
これで互いの問題の『重み』のバランスをとることができる。
3つ目は、『コチラの要求を上げる』こと。
つまりメアリーちゃんの問題以外の要求をどんどん上乗せすること。
これで互いの問題の『重み』のバランスをとることができる。
俺が選んだ手段は……。
「……ミリスさん、マリア様に美容品を贈答することを前向きに検討したいと、私どもは思っております。ですが3つのことを確約して頂きたい」
もちろん、これは『チャンス』でもある。
俺は3つ目の手段である『要求の上乗せ』を選ぶ。
「……タロウ様、その3つのことを教えて頂けますでしょうか?」
「ええ、もちろんです。まず1つ目は、ウィリアムズ王国との関係改善と関税の引き下げに関係なく、マリア様に美容品を贈答した時点でメアリーちゃんがミリス商会に加盟できることを、まず確約して頂きたい」
とりあえずはウィリアムズ王国とは無関係に、メアリーちゃんの問題を片付ける。
「……タロウ様、分かりました。そちらの確約は私の権限で行えますので、必ずメアリー様をミリス商会に加盟できることを約束致します」
「ミリスさん、ありがとうございます。2つ目は、我々はハリス子爵家とウィリアムズ王国との関係改善と関税引き下げの為に美容品以外の商品もマリア様に贈答し、マリア様が婚約者になられるように全力で協力を致します。ですので、たとえマリア様が婚約者に成られなくても、ここハリス子爵領で私の信仰する女神ユーグレナ様の布教をすることを全面的に許して頂きたい」
ユーグレナ様には凄いお世話になったからね。
ここらできちんとユーグレナ様の名前をどんどん布教させたい。
これはユーグレナ様に対する『恩返し』だ。
「……タロウ様、そちらの確約は私の権限を越えておりますので、ハリス子爵家に相談する必要があります」
だろうな。
だからこそ、この要求を上乗せした。
ミリス商会とハリス子爵家を『分断』させる為にな。
「ええ、もちろん構いませんよ。そして3つ目ですが、我々は全力でマリア様が婚約者に成られるように協力しますので、もしマリア様がウィリアムズ王国の第一王子の婚約者に成られた暁には、北部にあるハリスの水運を支えている『港の使用権』をユーグレナ商会にも頂きたい」
そして、最大の要求である『港の使用権』だ。
俺たちは他国からも魔石を『輸入』する必要がある。
水運で大規模に魔石を『輸入』できるのなら、とことん『輸入』したい。
もちろんハリス子爵家にもミリス商会にも『知られず』に。
「……タロウ様、そちらの確約も私の権限を越えておりますので、ハリス子爵家に相談する必要があります」
だろうな。
ハリスの水運を支えている『港』だ。
ハリスの『命綱』を、何処ぞの異国の商会に簡単に使わせるわけがない。
「ええ、もちろん構いませんよ。ですが、この3つ全てを同時に確約して頂けない限り、メアリーちゃんの話も含めて今回の話は『無かったこと』にして頂きたい」
そして、トドメの一撃だ。
『お前たち』は軽い要求のメアリーちゃんのミリス商会の加盟と、重い要求のハリスにとって聞いたこともない意味不明な宗教の布教とユーグレナ商会の港の使用権、それらを天秤に掛けるしかなくなる。
別に俺たちはメアリーちゃんがミリス商会に加盟出来なくても何一つ問題はない。
宿の2号店さえ出来れば、店主との『仲』は抑えられる。
3号店以降の『名義貸し』はオマケの話だ。
別に『名義貸し』が無くとも、他所の宿屋の部屋を借り上げて奴隷を住まわせれば良いだけだ。
情報が漏れることを恐れて、3号店以降の『拠点』が欲しいだけの話だ。
取るべき手段は他にもある。
天秤。
全ては天秤だ。
メアリーちゃんと、新興宗教と港の使用権。
これらの要求と、ウィリアムズ王国との関係改善と関税問題。
全てを天秤に掛けて、問題の『重み』を判断するしかない。
さぁ、問題の『重み』のバランスを、次は『お前たち』が悩み苦しめ。
「……タロウ様、その3つだけで宜しかったでしょうか?こちらも『これ以上の要求の上乗せ』が無いことを確約して頂きたいのですが……」
「ええ、もちろん『これ以上の要求の上乗せ』はありませんよ」
「……分かりました。ハリス子爵家と相談し、明日か明後日にはご返答致します」
ふん。
ミリスさんの権限を越えた話だ。
日本人のお家芸『その案件は一度持ち帰って、相談してからお答えします』を使うしかないだろ?
「ええ、もちろん大丈夫ですよ。ハリス子爵家からの『色好い返事』をお待ちしておりますね。それでは、そろそろお暇させてもらいます」
「……タロウ様。ご相談に乗って頂き、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
ミリスさんと別れの挨拶をし、俺たちは『拠点』へと向かう。
『ガーランド王国の英雄』は、『俺からは何も無い』と言った。
その意味は、俺が何をしようとも『1年以内に侵略戦争をする』という意味だ。
俺と『ガーランド王国の英雄たち』は、一つの『契約』をしている。
俺は自由に商売をしてもよい。
それにより何か問題が発生しても『ガーランド王国の英雄たち』が暴力を行使して、俺が発生させた問題を全て解決してくれる。
俺は亜人差別問題で大問題を発生させた。
それでも『ガーランド王国の英雄たち』は、俺の主体性を尊重し大問題が発生しようとも『全て暴力で解決する』と覚悟している。
侵略戦争も同様だ。
結局は、俺の複製スキルは戦争を発生させる。
そりゃそうだ。
『無限の富』を生むスキルだ。
大問題の大問題、戦争が発生しないわけがない。
俺と『ガーランド王国の英雄たち』は一蓮托生だ。
たとえ互いの理想と意見が異なろうとも一蓮托生だ。
俺たちは『水と油』であろうとも、一蓮托生でこの世界を生きて行く。
タロウ・コバヤシ
※クローネ
約41億クローネ
※ユーグレナ
約100万ユーグレナ
ニホン村
※クローネ
約40億クローネ
ユーグレナ共同体
※魔石ポイント
約850万MP
※通貨供給量
1億ユーグレナ
ユーグレナ軍
※軍事予算
130億クローネ
所有奴隷
男 325人
女 184人




