54話
54話
「ボス、俺は賛成だな。メッヘル侯爵家もガードナー家も御用達を抱えて保護していた。基本的に庶子の分家筋が御用達になるが、庶子以外も御用達になることは稀にある。そして御用達商会は貴族家の歴史的な慣習だ。間違いなくハリス子爵家はユーグレナ商会とボスを他の貴族家や都市外の商家から全力で保護してくれる。いつか必ず貴族家とやり合うだろうが、その時が来るのを引き延ばすことができる」
ミリスさんを食堂に待たせて、俺たちは3階の会議室でハリス子爵家の御用達商会になるかどうかを話し合った。
「クラウスさんは時間稼ぎとして賛成ですか。ペロシさんはどう思われます?何か問題点がありませんか?」
「ボス、貴族家に関しては問題点は無いと思われますが、強いて指摘するのならばミリス商会に凄まじい巨大な権力が集中すると思われますよ」
ん?
あー、つまり紅茶の葉の『競り売り』利権でミリス商会が他家の商家をボコボコにぶん殴り、他家の商家が持つ利権をしゃぶり尽くすってことか……。
別に良くね?
ユーグレナ商会の『隠れ蓑』がミリス商会だし。
嫌われ役と憎まれ役はミリス商会が引き受けてくれるでしょ。
「……ペロシさん、確かにミリス商会に巨大な権力が集中しますが、その分ミリス商会の背中に隠れるようにユーグレナ商会は他の貴族家や商家の『敵意』から逃がれることが出来ますよね?」
「ボス、その通りです。本来なら我々ユーグレナ商会が持つべき巨大な権力をミリス商会に明け渡すことが気掛かりでした。ボスがその事を容認されるのでしたら、私は何も言いません」
ふーむ。
なるほど。
ペロシさんとしては、ユーグレナ商会が本来なら巨大な権力を握れるのに、易々とミリス商会に巨大な権力を手渡しても良いのか?と気になってるのか。
別に良くね?
何よりもまず俺の身の安全こそが重要であり、得られるべき巨大な権力を『手段』として放棄することで俺の身の安全を図れるなら、俺は喜んで巨大な権力を手放すよ。
別に俺は巨大な権力が欲しい訳じゃないし。
「ペロシさん、巨大な権力をミリス商会に手放すことで、我々ユーグレナ商会はより安全を得れますよね?」
「ボス、その通りです。巨大な権力と安全を天秤に掛けることになります」
「ペロシさん、私は巨大な権力を手放してでも我々の安全を重視したいと思います」
「ボス、了解です」
ペロシさんはたぶん俺を試した感じかな?
『巨大な権力と身の安全、どちらを選びますか?』と。
そんなん安全に決まっとるやろ。
俺は君ら生粋の軍人とちゃうんやぞ?
「他のみなさんは、どうですか?」
副官からの反対意見は出ない。
基本的に君ら、俺を無視してでも聖剣クラウスの意見に従うよね。
「反対意見も無さそうですし、ユーグレナ商会はハリス子爵家の御用達になると決めます」
「了解、ボス。お前らも分かったな?」
「「「「ハッ!!」」」」
会議が終わったので食堂に降りると、ミリスさんとメアリーちゃんがキャッキャウフフしていた。
……しまった。
またもやメアリーちゃんがミリス商会に取り込まれている……。
またメアリーちゃんを一から餌付けしないと……。
「……み、ミリスさん、大変お待たせしました」
「タロウ様、大丈夫ですわ。メアリー様と楽しくお話をさせて頂きましたから」
「銀馬車のお兄さん!!ミリス商会を助けて上げてね!!ミリス商会は商家に生まれて来た全ての女性の夢と希望なんだから!!私もいつか必ずミリス商会に入って商人になるから!!」
『ミリスお姉様、またね!!』との言葉に戦慄する。
既にミリスさんを『お姉様』呼びとは……。
「……み、ミリスさん、ハリス子爵家に優先的に紅茶の葉を定額で販売しようと思います」
「まぁ!タロウ様、ありがとうございます。ハリス子爵家も大変喜ぶことでしょう。ではタロウ様、こちらの『競り売り』に関する独占取引の契約書をお読みください」
まるで『相談せんでも分かっとる話やろに。ガタガタぬかさんとさっさと独占取引の契約をせんかい』と契約書をスッと差し出すミリスさん……。
さっき話したばかりの『競り売り』の独占取引の契約書を前以て持って来てるとか、さすがだよな……。
とりあえず『高品質パピルス』に書かれた独占取引の契約書を見て見るか。
ふむふむ。
至って公平な契約内容だな。
『競り売り』の販売価格の50%をユーグレナ商会の取り分と書いてるし、ハリス子爵家に卸す紅茶の葉は1つ10万クローネで卸すし、もちろん転売も贈答も禁止、さらにユーグレナ商会の内情はハリス子爵家にも秘密にするとも書いている。
隅々まで隈無く内容を確認したけど、何一つ問題は無さそうだな。
さすがに今回は契約に毒を盛り込んでいない。
それでも強いて指摘するのなら、ハリス子爵家だけに紅茶の葉を卸すことだ。
仕方ないな……。
「……ミリスさん、この契約内容ですと……ハリス子爵家だけに紅茶の葉を優先的に卸す契約になっていることが少し気になりますが……」
「はい?タロウ様、それが何か問題がありましたか?」
珍しくミリスさんがどっかの宇宙の猫の様に『???』な顔をしている。
ふっ、その顔が見たかったのさ。
「問題がありますね」
「えっと……申し訳ございません。タロウ様、どの様な問題点があるのかを教えて頂け無いでしょうか?」
「この契約内容ですと、ミリス商会も御三家も『競り売り』で紅茶の葉を入手するしかありませんよね」
俺のその言葉にカッ!と目を見開くミリスさん。
ふっ、その顔も見たかったのさ。
「た、タロウ様……ま、まさか我々にも10万クローネで紅茶の葉を卸して下さるのですか……?」
「ええ、もちろんですよ。ユーグレナ商会はミリス商会と『義』によって長期的な信頼関係を築くべきだと判断しております。それにミリスさんもカレンちゃんも紅茶を気軽に飲みたいでしょ?あ、ただ、御三家に卸すのはミリスさんの判断で構いませんよ」
「タロウ様、ありがとうございます!!……コホン。ミリス商会一同はタロウ様の慈悲に心より感謝申し上げます。直ぐに契約内容を改めますので、少々お待ちください」
久々に喜びの感情を爆発させたミリスさんを見て苦笑する。
ふっ、完璧だな。
その顔も見たかったのさ。
ミリスさんは皮袋からインク壺と羽先を取り出し、スラスラとミリス商会と御三家への定額販売の契約内容を盛り込む。
それも2枚だ。たぶん1枚は控えの契約書だろうな。
そして、インクが乾くのをひたすら雑談しながら待つ。
時間にして20分ぐらいだろうか?
確かにインクが乾く待ち時間は不便だな……。
「タロウ様、再度ご確認ください」
ふむふむ。
へー、他の御三家の名前はモルモン商会とベヘット商会なんだ。
覚えとこ。
「……確認しました。この契約内容で満足です。このまま契約を結びましょう」
俺はそう言ってから、そっと契約書に手を伸ばす。
ミリスさんも契約書に手を伸ばし『契約スキル』と唱えた。
手から魔力が侵入し、魔力が心臓を包む。
「タロウ様、これで契約スキルによる契約は完了致しました。契約スキルにより魂は拘束され、互いに行動が契約内容通りに義務付けされますのでご安心ください。また本契約書はミリス商会が責任を持って管理致します。こちらは写しの契約書になります」
「……はい、確認致しました。先程の雑談で聞くのを忘れてましたが、また質問をしても宜しいでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「今日、大量の馬車と共に来られてましたが、何かあったのですか?」
「はい?あの……ペロシ様からお手紙を頂きまして、ミリス商会が商品の仲介をして運んで来ましたが……ペロシ様から何も伺ってないのでしょうか?」
あー、なるほど。
そういや昼前にペロシさんがカレンちゃんに手紙を渡してたな。
おそらく庭で寝泊まりする下級兵士の物資だろうな。
「ペロシさんからの要望でしたか。奴隷の生活に関してはペロシさんの判断に全て任せてますので、聞いてなかったですね。何も問題はありませんので、ペロシさんの要望は私の要望と受け取ってください」
「かしこまりました。タロウ様、私も質問をしても宜しいでしょうか?」
何の質問かは分かってるよ……。
「ええ、もちろん大丈夫ですよ」
「タロウ様、紅茶の葉はいつ頃から卸して頂けるのでしょうか?」
やっぱりその質問だよね。
ホント豪腕で客をぶん殴るよな。
「明日の昼前の取り引きからお願い致します。個数は1000個だけ卸しますので、『競り売り』用とハリス子爵家と御三家、そしてミリス商会でよしなに分配してくださいね。1000個全て無くなったら、私かペロシさんにお伝えください」
「かしこまりました。『競り売り』はお時間を頂きますので、『競り売り』が終わり次第ユーグレナ商会の取り分をお渡しします。ハリス子爵家と御三家とミリス商会の定額代金は明日の昼前にお渡しします」
「かしこまりました。それではそろそろお開きにしましょうか」
「はい。タロウ様、本日はお時間を頂き、ありがとうございました。では、お暇させて頂きます。ご機嫌よう」
俺とミリスさんは互いに別れの挨拶をし、ミリスさんはメアリーちゃんにも挨拶してから宿を出て行った。
……ミリスさんよ、アンタが巨大な権力を握るのは良い。
だがな、必ず俺たちユーグレナ商会を何としてでも守れよ?
もし裏切ったなら俺たちは絶対に容赦しない。
万が一、俺たちを裏切ったなら……。
近代経済学を動員してでもハリス子爵家と御三家、そしてミリス商会を潰す。
巨大な権力を握ったとしても、絶対に俺たちを舐めるなよ?
タロウ・コバヤシ
※クローネ
約52億800万クローネ
※ユーグレナ
約29万ユーグレナ
ユーグレナ共同体
※魔石ポイント
約500万MP
※通貨供給量
1億ユーグレナ
ユーグレナ軍
※軍事予算
32億2000万クローネ
所有奴隷
男 138人
女 95人




