46話
46話
「ボス、今日は何を話す」
重たい気分のまま、聖剣クラウスたちと会議室で話し合う。
はぁー。
何を話そうかな……。
とりあえず現在抱える問題の案件をボールペンでコピー用紙にメモするか。
俺がメモをしている間、聖剣クラウスたちがボールペンをジッと見ている。
ふふん。
便利そうだろ?
もちろんすごく便利だぞ。
聖剣クラウスたちが興味深そうに見ているし、仕方ないなー。
俺は『複製スキル』と唱え、ボールペン5本とコピー用紙5枚を顕現させる。
それを聖剣クラウスたちに渡すと、真剣な眼差しでボールペンでコピー用紙に何かをメモし始めた。
現在抱えている問題は様々だ。
ユーグレナ商会の軍事的目的や獣人差別問題、さらには性剣クラウスたちに世話する女性の話など、多様な問題が結構ある。
んー、どうすっかなー。
とりあえず解決が出来そうな案件から解決して行くか。
「クラウスさん、話を再開しようと思います」
「ん?了解、ボス。その前にボス、この『ボールペン』とやらは絶対に商売に使うな。高品質パピルスとボールペンを使用すれば、戦争における文書の作成時間が大きく変わる。近隣諸国では羽先にインクを付けてパピルスに文書を書くが、何度もインクに付け直したり、羽先の余分なインクを調整して落としたり、さらにはインクを乾かす時間を大幅に取る。その時間を大幅に短縮させることが出来るのなら、戦争や諜報が一気に大きく変わるぞ」
ははは。
コピー用紙とボールペンで戦争や諜報が大きく変わるとか、頭おかしいだろ。
そんなん俺に分かるかよっ!!
もう何かの商品を『身内以外』に卸す時は、絶対に聖剣クラウスたちの『許可』が必要だな。
俺の安易な判断で商品を卸したら、それこそコピー用紙の二の舞で命をまた狙われそうだ……。
「……クラウスさん、分かりました。それでは話を再開します。まず、軍人の給与について話し合いたいと思います。私は軍人の給与の相場が全く分かりませんので、ガーランド王国での軍人の給与を教えて頂けますか?」
異世界の軍人の給与の相場なんて、知るわけねーし。
「ふむ。ボス、平時と戦時下では給与が大きく変わる。平時は安く、戦争時は高くなる。どっちの給与が知りたい?」
なるほど。
命を賭けるからこそ戦争時は給与が高くなるのか……。
そりゃそうだよな。
そして聖剣クラウスたちは命と人生を賭けて、俺の身の安全を守ってくれる。
ならば彼らに報いるのが、在るべき人の道だ。
「もちろん戦時下でお願いします」
「ふむ。ペロシ、ガーランド王国の戦時下での軍人の給与を答えろ」
「ハッ!まず王国の英雄であるクラウス将軍は月1000万クローネが王国から支払われておりました。副官のマイク殿、ピーター殿、ビル殿は月700万クローネが王国から支払われておりました。自分は月500万クローネです。部隊長は月200万クローネであります。下級兵士は最高100万クローネから最低30万クローネの間になります」
なるほど。
安いのか高いのかも全く分からん。
全く分からんから、とりあえずそれを基準にしとけば聖剣クラウスたちからは不満は出ないだろ、たぶん。
それに金ならいっぱいあるし。
「……なるほど。とりあえずそれを基準にクラウスさんたちの給与を先払いで支払おうかと思います」
「了解、ボス。先払いは助かるな」
だよね。
君ら全くの無一文だし。
「クラウス将軍、宜しいでしょうか?」
「ん?ペロシ、何だ?」
「護衛奴隷からなる下級兵士も給与を支払う予定でしょうか?」
ん?
あー、全く考えて無かったけど、まぁ、別に良いんじゃない?
命と人生を賭けて貰うし、支払うよ。
金ならいっぱいあるし。
「ボス、どうなんだ?」
「ええ、もちろん給与を支払うつもりです」
「それではボス、我々軍人の給与は当然ですがクローネでの支払いで宜しかったでしょうか?」
ん?
当たり前だろ。
クローネ以外の通貨なんて持ってないし、さっきの話の筋だと給与はクローネで払うって話だろ。
ペロシさんは何を意味不明な質問をしてんだ?
また異世界特有の常識でもあるのか?
「……ペロシさん、もちろんクローネで支払うつもりですが……何か問題でもありましたか?」
「ボス、クローネで支払うと問題が発生すると思います」
ん?
クローネで支払ったら何か問題でも発生するのか?
……どんな問題が発生するんだ?
全く分からないんだけど……。
さすが異世界、日本の常識が全然通用しない……。
ふと周囲を見ると、ペロシさん以外はどっかの宇宙の猫みたいに『???』と困惑顔をしている。
なるほど。
異世界特有の問題じゃないみたいだ……。
「……すみません、ペロシさん。全く分からないんですが、どの様な問題が発生するのでしょうか?」
「ボス、我々軍人にクローネで給与を支払うと魔石ポイントが枯渇します」
ん?
なんで魔石ポイントが枯渇すんの?
「ペロシさん、なぜですか?」
「我々は既にボスの魅力的な商品を『身内価格』の格安で購入出来ると約束を頂きました。そうすると例えば、現在ボスの魔石ポイントは約900万ポイントです。では、クラウス将軍に先払いで1000万クローネを渡したとします。既にこの時点で魔石ポイントが100万ポイントも足りません。我々にも先払いで給与をクローネで支払えば尚更です。つまり我々がクローネで給与を頂いても、ボスの魅力的な商品が購入できず給与の意味がありません」
ん?
それなら魔石を購入すれば良いだけの話なのでは?
「えっと、ペロシさん、それなら魔石を購入すれば良いだけでは?」
「ボス、魔石をどれだけ購入するつもりですか?我々軍人と同じ給与全額でしょうか?さらにはボスの商売に使う分もあります。クラウス将軍を含め部隊長以上の給与は毎月8400万クローネです。ここに下級兵士の給与も上乗せして行きます。近隣諸国で魔石を購入する体制も整えておりませんので、毎月魔石3億~5億ポイントも迷宮都市ハリスで購入することになります。さすがに迷宮都市ハリスの貴族家も商家もその異常さに『何かがある』と気が付きますよ」
な、なるほど……。
さすがこの世界の兵站を担って来たペロシさんだ……。
近隣諸国で魔石を購入する体制がまだ無いから、ハリスで魔石をアホみたいに購入し過ぎると『国に持って帰るにしても、なんでオメーはそんなに魔石を買ってんだ?何かあるだろ』って話になるわな……。
「さらに付け加えますと、現在ボスの資産を見ても明らかですがボスの資産は約31億クローネ、魔石ポイント約900万であります。このクローネと魔石ポイントの不均衡は永続的に発生するかと思われます。魔石ポイント20が5万クローネになるのですから」
な、なるほど……。
確かに俺はクローネは勝手に増えると思っているから『大盤振る舞い』をしていた……。
なら、どうすりゃ良いの?
軍人にクローネで給与を支払うと確約していて、でもクローネだと商品が買えず給与の意味が無くなるとか……。
一休さん的なトンチ?
さすが異世界、意味不明な状況になって来た。
えーと……。
ヤバい。
全く解決策が思い浮かばない……。
全く分からんから『死神将軍の知恵袋』に聞くか。
助けて、ペロえもん!
「……ペロシさん、解決策は何かありませんか?」
「ボス、問題点はハッキリしております。軍人の給与をガーランド王国基準のクローネで支払うから問題が発生します。給与を魔石ポイントで支払えば魔石ポイントを必ずコントロールできます」
ん?
魔石ポイントを給与にする?
どういうこと?
「例えばですが、魔石ポイントを1000万ポイント購入したとします。半分をボスの商売に使い、半分を階級に応じて軍人たちで公平に分配します。そしてボスの魅力的な商品を身内価格の利益を乗せた魔石ポイントで購入出来る様にします。これならば、魔石は枯渇しません」
なるほど……。
結局は聖剣クラウスたちが欲しいのはクローネじゃなく俺の商品だから、商品を自由に買える体制を作れば良いだけの話なのか。
「さらに付け加えますと、数日以内に我々軍人はハリスの迷宮に潜り込み魔石を入手し始め、ボスに供給する体制が取れます。例えば、この入手した魔石ポイントの半分をボスに、半分を我々軍人に分配することで我々軍人はある種の自立を成し遂げます」
な、なるほど……。
古典経済学のアダム・スミスが書いてたよな。
軍人は何も生み出さず消費するだけだと……。
まぁ、安全というサービスは生み出してるけど。
でも迷宮で魔石を入手して来るなら、軍人が生産活動に従事していることになる。
しかもモンスターと戦うだろうし、戦闘訓練にもなる。
一石二鳥ってヤツ?
でも、実際問題どうやって魔石ポイントを管理すれば良いんだ?
人それぞれ保有する魔石ポイントが違うわけだろ?
銀行の通帳みたいに魔石ポイントを記帳して行けば良いのか?
クソほど面倒くさくね?
「……ペロシさん、大変魅力的な提案なのですが、魔石ポイントの管理が大変だと思うんですよね。人それぞれ保有する魔石ポイントをどうやって管理すれば良いのですか?」
「ボス、偽造不可能なチケットを発行すれば良いかと思います。ボスの商品の写真の裏にでも数字の1、10、100、1000とでも書いて複製すれば、簡単に魔石ポイントをチケットで管理できます」
あー、なるほど?
つまり魔石ポイントってのは『デジタル通貨』だから、その『デジタル通貨』用の通貨を作れば良いのか。
んで、偽造不可能な通貨を複製しながらも通貨量をきちんとコントロールすれば、インフレやデフレなどの混乱は起きない。
というか、偽造不可能なチケットって紙幣のことだろ?
父親の形見の通貨コレクションに様々な紙幣があるぞ?
資金
約31億4800万クローネ
魔石ポイント
約900万MP
軍事予算
6億2000万クローネ
所有奴隷
男 29人
女 9人




