44話
※後書きに告知があります。
44話
「タロウ様、私の至らなさと管理不足で大変なご迷惑をお掛けし、申し訳ございませんでした。こちらの『紅茶の葉』は全てお返しします。そして当然のことでございますが、明日からは別の人間を派遣致しますので平にご容赦ください」
『ミランダ商会の煌めく宝石』とのバトルで気疲れした俺は、仕事部屋で少し休憩していた。
夕刻の鐘がなり食堂で夕食を食べていると、青い顔したミリスさんと泣いているカレンちゃんが慌ててやって来た。
そして3つの茶筒を返却してくる。
「えーと……カレンちゃんの独断専行かな?」
「タロウ様、お恥ずかしい話ですがその通りです。タロウ様との関係は『利』では無く『義』に基づくようにと伝えておりましたが、未熟なカレンの独断によりタロウ様には大変ご迷惑をお掛けしました。この度は深くお詫び申し上げます」
「ぐすっ……タロウしゃま、大変申し訳……ぐすっ……ごじゃいましぇんでした……びえーん」
あー、なるほど?
ミリスさんとしては『義』から俺と長期的な信頼関係を作って行きたいが、幼いカレンちゃんはミリス商会の『利』を考えて独断専行で商品を奪いに来たって感じか……?
独断専行はともかく、末恐ろしいガキだな……。
「ミリスさん、顔を上げてください。私とミリスさんの『仲』ですから、今回のことは水に流します。それに見たところカレンちゃんも深く反省しているようですし……」
「タロウ様、ありがとうございます。カレン、許してくださったタロウ様に深く感謝しなさい」
「ぐすっ……タロウしゃま……許してくだしゃり……ぐすっ……ありがとう……ごじゃいましゅ……びえーん」
『あの』ミリスさんから相当絞られ怒られたのか、幼くて可愛い少女が『びえんびえん』泣いている……。
何一つ俺は悪くないのになぜか気まずくなるんだけど……。
「一つ伺いたいのですが、カレンちゃんが話した内容に嘘は無かったのですか?それとも嘘の内容で私を欺いたのですか?」
「カレン、タロウ様に嘘偽り無く真実を述べなさい」
「ぐすっ……タロウしゃま……嘘は付いて……ぐすっ……ないでしゅ……びえーん」
嘘を付くことなく、あの手腕なのかよ……。
13歳だよな?
商人としての将来が楽しみだ。
ミリスさんとしては教育や経験の一環でカレンちゃんを派遣したのだろうか……?
真摯に謝罪して来たし、ミリスさんには義理と恩もあるし仕方ないな……。
「なるほど、分かりました。深く反省しているようですし、明日からもカレンちゃんを派遣して大丈夫ですよ。独断専行はともかく、商人としての手腕は確かだと思います」
それにカレンちゃんは、めちゃくちゃ可愛いしな!!
「タロウ様、ありがとうございます。カレンも感謝を述べなさい」
「ぐすっ……タロウしゃま、ありがとう……ごじゃいましゅ……ぐすっ……」
少し泣き止んできたな……。
あとは……。
「それとミリスさん、ミリス商会の立ち上げのお祝いとして『紅茶の葉』を独占取引で卸します。こちらの3つの茶筒はミリスさんにプレゼントします。卸値や研究等で使ってください」
一度卸すと決断したし、二度目は簡単に決断できる。
最初の決断が一番重くて動かない。
ここは気持ち良くミリスさんにプレゼントしよう。
「よ、宜しいのですか?お恥ずかしい話ですが、私たちが苦境なのは確かです。ですが苦境に陥らない商会と商人はございません。苦境を跳ね返すのも商会と商人の手腕です。そこも含めて私たちはミリス商会を立ち上げました」
ふむ。
直ぐには受け取らず謙遜してきたか……。
日本人的で好感が持てるな。
「ミリスさんが高品質パピルスを翌日には高値で卸値を仲介してくださったことは、苦境に陥っていた私にとって非常に助かりました。それにクラウスさんたちを紹介してくださったこともです。命の恩人に対する恩返しの一環ですから、気兼ね無く受け取って頂きたい」
カレンちゃんとのバトルでミリス商会に嫌気が差してたが、真摯に謝罪して来たなら話は別だ。
特にミリスさんには義理と恩がある。
義理と恩は返す。
それが在るべき人の道だ。
「タロウ様、心から深く感謝を申し上げます。カレン、これがタロウ様です。誠心誠意仕えれば『義』を返されるのです。貴女はまだ13歳です。どれ程の見事な手腕があろうとも、まずは『人を見る目』を養いなさい。商人にとって重要なのは『人を見る目』です」
その言葉にゾッとし、背筋が凍る。
なるほど。
『人を見る目』か。
確かに当たり前の話だ。
当たり前の話過ぎて、当たり前の話を疎かにしていた。
これが『ミランダ商会の最高傑作』か。
戦慄するほどの商才と手腕だな……。
おそらく……。
「ぐすっ……はい、ミリスねえしゃま……ぐすっ……タロウしゃま、慈悲をくだしゃり……ぐすっ……ありがとうごじゃいましゅ……ぐすっ…」
「……夜も深くなりますから、そろそろ話を終わりましょうか。ミリスさんもカレンちゃんも気を付けて帰ってくださいね」
「タロウ様、夜分遅く申し訳ございませんでした。カレン、挨拶をなさい」
「ぐすっ……タロウしゃま……おやしゅみなしゃい……ぐすっ……」
お互い別れの挨拶をした後、ミリスさんとカレンちゃんがトボトボと帰った。
宿の垣根の門を出る際にミリスさんが優しくカレンちゃんの頭をポンポンと叩く。
まるで『良くやりました。貴女は私の誇りです』と姉が愛する妹を褒めるように……。
危うくミリスさんにイチコロで欺かれる所だった。
もちろん確証は無い。
確証は無いが『この絵』を書いたのは『ミランダ商会の最高傑作』であるミリスさんだろ?
商人にとって重要なのは『人を見る目』か。
その通りだ。
その通りだからこそ『違和感』がある。
カレンちゃんは愛する肉親だ。
ミリスさんが傍らで見てきた可愛い末妹だ。
ミリス姉様!ミリス姉様!と可愛いく慕って来る末妹だ。
『ミランダ商会の最高傑作』であるミリスさんなら、間近で見てきたカレンちゃんの能力も性格も全部正確に把握しているだろう。
把握していない方がおかしい。
にも拘わらず、カレンちゃんが独断専行すると予測出来なかったのか?
そんな馬鹿な。
『人を見る目』の無い無能な商人なら話は分かる。
でも『ミランダ商会の最高傑作』だぞ?
『あの』ミリスさんだぞ?
極めて不自然な話だ。
確証は無い。
確証は無いが……ミリスさんよ、カレンちゃんが独断専行すると『分かってて』派遣したんだろ?
独断専行してもカレンちゃんの手腕なら、俺から『何らかの商品』をもぎ取って来ると判断したんだろ?
そしてカレンちゃんの教育の為に俺を出しにしたのか……。
幼いながらもあれ程の商才と手腕だ……おそらくカレンちゃんは昔から自信満々で独断専行する癖があったんだろうな。
しかも末妹だ。
蝶よ花よとみんなから可愛がられ甘やかされ何不自由なく育ったのだろう。
だからこそ、ここで一度ガツンと絞って怒って『商人として生きる道を選んだ』カレンちゃんの為に、その甘えた性格と独断専行の癖を直したかったんだろ?
そして『人を見る目』で俺がどんな人間なのか?
それをジッと『観察』していたミリスさん。
どうすれば不自然なく俺から『気持ち良く』魅力的な商品を吐き出すことが出来るのか?
それをジッと『観察』していたのだろう……。
事実、真摯に謝罪しに来たミリスさんたちに対して、俺は『気持ち良く』ミリス商会に『紅茶の葉』を卸す決断をした。
なぜ俺は『気持ち良く』商品を卸した?
その『気持ち』は何処から来た?
確証は無い。
確証は無いが……これが『ミランダ商会の最高傑作』か。
戦慄するほどの商才と手腕だ……。
そんなことを考えながら、俺は異世界の料理を食べる。
資金
約31億4800万クローネ
魔石ポイント
約900万MP
軍事予算
6億2000万クローネ
所有奴隷
男 29人
女 9人
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