33話
33話
「ボス、護衛任務に関しては俺たちが全てを計画し実行する。素人が口を出して良いことは何一つ無い。護衛に関する全ての権限を渡してもらうぞ」
「分かりました。クラウスさんたちに全てを任せますので、護衛をお願いします」
奴隷商会であるバロット商会から宿屋までの帰り道は、この世の地獄だった。
アンナさんとマリーさんが俺を両サイドで挟み、ミーナちゃんは俺の前を歩く。
そこにさらに聖剣クラウスたちが俺と女性たちを大きく囲い込む護衛の陣形で帰ったんだけど……。
もうね、聖剣クラウスたちの殺気がヤバいのよ。
俺の右横を歩いていたマリーさんは俯きながら、全身と大きなおっぱいをプルプルと震わせてんのよ。
たぶん涙目だったと思うよ?
俺の左横を歩いていたアンナさんも俯きながら股に尻尾を挟み込み、全身とおっぱいがプルプル震えてんのよ。
たぶん涙目だったと思うよ?
ミーナちゃんも全身がプルプル震えてて股に尻尾を挟み込み、恐怖で足が竦み一歩も動けないから聖剣クラウスの『命令』で俺がおんぶした。
俺の背中をギュッと強く抱きしめて、ずっとプルプル震えてんのよ。
たぶん涙目だったと思うよ?
帰りの道中にいた壁内の人も壁外の人もさ、明らかにこっちは絶対に見ない感じで俯きながら家屋の壁の方を向いてんのよ。
もちろん全身プルプル震えて。
たぶん涙目だったと思うよ?
俺?
もちろん俺もミーナちゃんをおんぶしながら俯き、涙目で全身がプルプル震えてて生きた心地がしなかったさ。
もうね、聖剣クラウスたち以外は全員プルプル涙目地獄だったのさ。
俺はきっと伝説の聖剣を解放したんじゃなく、この世に厄災をもたらす魔剣か妖刀の類いを解放したと思うんだよな。
地獄の釜の蓋や世界を呪うパンドラの箱など、人類が絶対に解放したらアカンやつ。
俺はその邪悪な類いを解放したと思うんだよな。
だって、この世に地獄が舞い降りたんだぞ?
生きとし生ける物、みんな涙目でプルプル震えてたんだぞ?
有り得ないだろ?
………………。
…………。
……。
無言。
全くの無言のまま、何とか宿屋にまで辿り着いた。
「……く、クラウスさん。あ、あれが泊まっている宿です……」
「了解、ボス。お前ら、警戒レベルを少し下げろ」
「「「「はっ!!」」」」
聖剣クラウスの号令で一瞬で重苦しい殺気が霧散する。
ホッと一息を付く。
やっと聖剣クラウスによるプルプル涙目地獄から解放されたぞ。
アンナさんもマリーさんも、見るからにホッとしている。
ミーナちゃんを降ろすと、直ぐさまタタタと走りアンナさんに抱き着く。
よっぽど怖かったんだろうな。
俺も怖かったし……。
「ふむ。壁外にしては良いな」
「たぶん壁外じゃ高級な宿屋だと思いますよ」
「ボス、そうじゃない。守りやすい立地をしている。垣根が高く土地も広い。周囲に高い建物が無く、宿の屋上から辺り一帯を見渡せる。壁外で拠点を求めるなら、ここは理想だな。ボス、護衛の権限で決めさせてもらう。ここを拠点とする。ここなら俺の部隊が揃えば完全にボスを守れる」
「なるほど。クラウスさん、分かりました。ここを拠点にします。宿の部屋を全て借りたら良いんですよね?」
「その通りだ。空き部屋があるなら、どんどん借りて行くべきだな。さてボス、そろそろ中に入るぞ……って、なんだこれは!!」
あ、聖剣クラウスが宿屋の庭にあるハ○レーダビッドソンとベ○スキャンプ16Xと物置を発見した。
聖剣クラウスの部下たちもベ○スキャンプ16Xを見て驚いている。
「お前ら、警戒レベルを下げるな」
「「「「はっ!!」」」」
「ボス、すまない。俺も含め驚いて一瞬だけ警戒レベルを下げた」
「いえ、瞬時に意識を護衛に戻してましたから大丈夫です。さすがプロの軍人ですね」
「戦場でも驚いて動きが止まる瞬間がある。そのまま動けない人間から死んで行く」
「なるほど。『銀馬車』については、部隊が揃い始めてから説明しますね」
「了解、ボス」
さて、夕刻前だが宿屋にまだ空き部屋があるかな?
出来れば最低でも空き部屋が2部屋あれば良いんだけど。
じゃないと荷物がごった返している8人部屋で全員が寝るはめに……。
宿の中に入り、暇そうにしていた店主に話しかける。
「モーリスさん、部屋はまだ空いてますか?」
「おう、お前さんか。またゾロゾロと奴隷を連れて来たな」
ジロッと店主が聖剣クラウスたちや女性、特にアンナさんとミーナちゃんをジロジロと見ている。
もしかして獣人差別でお断り的な?
アンナさんもミーナちゃんも、肩身が狭いのか躰を小さくする様にシュンとしている。
「ふむ。空き部屋ならあるぞ。お前さんと同じ3階の6人部屋が2つ、4人部屋1つ、2人部屋が3つ、2階に4人部屋1つと2人部屋が1つだな。空き部屋は以上だ」
お?
獣人も泊まれるみたいだな。
「それ全部、借りれますか?」
「は?」
「いえ、ですから空き部屋を全て借りれますか?」
「いや、もちろん空き部屋は喜んで貸すが……」
「ありがとうございます。とりあえず1日分で彼らも含めて全部で何クローネになりますか?」
「お、おう……ちょっと計算するから待ってくれ。えーと……」
店主が小銅貨を取り出し『3階の6人部屋が2つだから14枚、4人部屋が1つで4枚……』と小銅貨を用いて計算している。
なるほど。
指で計算する代わりに、小銅貨を使って計算してるのか。
木板や紙が気軽に使えないからこその、生活の知恵ってやつだな。
「……36、37、38枚。2度計算し数え直したが、部屋代と奴隷8人分を含めて1日38万クローネだ」
「分かりました。2日分で76万クローネです」
「えーと……ああ、たしかに76万クローネだな。お前さん、計算が早いな」
「いえいえ。あ、そうだ。モーリスさん、空き部屋が増えたら声をかけて貰えますか?」
「それは別に構わんが……お前さん、まさか宿の全部の部屋を借りるつもりか?」
「はい。ご迷惑になりますか?」
「客が余所に逃げるだろ。こう見えてもウチは常連客を持っている。月に1回は行商で必ず泊まりに来たり、ハリスに来たら必ず泊まる客もいる。そういう客が余所に行って、そこの常連客に成られたらウチの宿に常連客がいなくなるだろうが」
なるほど。
持続可能な経営を脅かすから止めてくれ、ってことだな。
なら……。
「なるほど。確かに問題が発生しますね。では、二日後からは部屋代を10倍にして1年間分を前払いします。半年後に次の1年間分を払います。その日を基準に、以後1年間毎に支払います。それでも全ての部屋を借りるのは厳しいでしょうか?」
つまり全部屋の通常料金10年分を前払いする。
半年後には20年間分だ。
これで俺たちは全部屋を長期間も借りる常連客だ。
金の問題なら金で解決する。
それでも無理なら、さらに金を積んで金で解決する。
「お、おう……それなら、まぁ、全ての部屋を貸しても良いぞ」
「ありがとうございます。私たちが部屋を借りて何か宿に問題が発生したら、気軽に仰ってください。出来うる限り一緒に問題を解決して行きます」
「おう、分かった。そんときは遠慮なく言わせてもらう。これが部屋の鍵だ」
ふー。
何とか金で宿屋を乗っ取れそうだな。
金は幾らでも湧いてくる、俺が死なない限りは……。
資金
約42万クローネ
魔石ポイント
79万5000MP
所有奴隷
男 5人
女 3人




