29話
29話
「タロウ殿、予算を伺っても宜しいですかな?」
客間に通され少し待たされると、大老が客間に入って来て『ビジネス』を始める。
「そうですね……とりあえず今日は4億6000万クローネが予算として考えてます」
「ほっほっほ。さすが御三家の客人、実に豪胆ですな。ですがミリス嬢も困った者ですな。タロウ殿、一般的な奴隷の値段はご存知ですかな?」
奴隷の値段?
知るわけねーだろ。
「いえ、異国生まれの私は迷宮都市ハリスの奴隷の相場を存じておりません」
「ほっほっほ、でしょうな。一般的な奴隷の相場は、護衛用奴隷なら500万クローネ、性奴隷なら300万クローネ、労働奴隷なら200万クローネ、この辺りが相場でしょうな。もちろん優れている奴隷なら相場から離れるでしょうが、それでも大半は相場の3~4倍が限界でしょうな」
護衛用奴隷の相場が500万で、最高の4倍でも2000万クローネ。
俺の予算が4億6000万。
なるほど。
『お前は相場を知ってるのか?』って話になるよな。
「大老、私は異国生まれですので、護衛用奴隷の良し悪しが分かりません。ですので、とりあえず護衛用奴隷で最高額の奴隷を何人か紹介して頂けましたら、助かります」
「ほっほっほ。もちろんですぞ。それにしてもさすが御三家……いや、『ミランダ商会の最高傑作』ですかな。もしかしたらミリス嬢には借りが出来ましたかな?いや、しかし……」
ミリスさんに借りが出来た?
どういう意味だ?
少し考え込んでると、ノックが鳴り従業員が大老に何かを耳打ちする。
「タロウ殿、護衛用奴隷たちの準備が出来ましたぞ。どうぞ儂の後について来てくだされ」
大老が立ち上がり、年の割に元気にスタスタと歩いて行く。
俺も立ち上がり大老の後に続くと、階段を上り大老が部屋へと入る。
『お?あの部屋に護衛用奴隷がいるのかな?どんな護衛用奴隷がいるんだろうな?仲良くできるのかなー』などと能天気に考えていたら、部屋に入った瞬間に『ゾワゾワゾワ!?』と全身に鳥肌が一斉に沸き立つ。
殺気。
殺気としか言いようがない。
部屋中に重苦しい殺気が充満している。
足が震え、部屋の中にこれ以上入ることが出来ない。
危険だ。
本能が危険を警告している。
部屋の中は危険だ。
逃げろ。
一刻も早くここから逃げ……ダメだ、足が竦んで……。
「ほっほっほ。タロウ殿、安心してくだされ」
「…………」
「タロウ殿?」
「…………」
「タロウ殿ー?」
「…………」
「クラウス殿、部隊長たちの殺気を抑えてもらえんかな?客人には、ちと厳しすぎるようだ」
「おいお前ら、客人の前だぞ?殺気を抑えろ」
「「「「はっ!!」」」」
一瞬にして部屋中に充満していた重苦しい殺気が霧散する。
重苦しさは霧散したが、それでも僅かながらもピリピリとした殺気を感じる。
「ほっほっほ。タロウ殿、どうぞこちらへ」
「……え?ええ……あの……その……正直、驚いております。彼らはいったい……?」
部屋には30人ほどのギラついた鋭い眼光をした男たちがいる。
みな貧相な布の服を着ているが、貧相な服装だからこそ余計に男たちの逞しい筋肉を強調させている。
「ほっほっほ。気に入って頂けたようですな。では、一つ一つ説明して行きますぞ。クラウス殿もこちらへ」
40代だろうか?
中年の男が前に出るが……右手が無い。
戦争の傷跡か?
「タロウ殿に紹介したいのは、こちらのクラウス殿。異国生まれのタロウ殿は存じてないと思うのだが、クラウス殿の名を知らぬ王国民はおらぬ。ラーネル王国と東の大国ガーランド王国との10年にも及ぶ大戦、そのガーランド王国の英雄がクラウス殿ですな」
「今は奴隷だがな」
「これ、クラウス殿。今は商い中ですぞ」
「へいへい。大老に任せるよ」
「話を戻すと、10年にも及ぶ大戦は2年前にラーネル王国の勝利で終わった。ガーランド王国との講和条件の中でラーネル王国が強く提示したのが、クラウス殿が率いる騎馬隊の解散と隊長格の奴隷堕ち、クラウス殿の利き手を切った上での奴隷堕ちですな。ここだけはラーネル王国は絶対に妥協しなかった。なんせクラウス殿に滅ぼされた男爵家や騎士家は両手じゃ数え切れんからの、ほっほっほ」
おいおいおい。
どー考えても敵国の英雄さんはラーネル王国中から嫌われてるだろ……。
というか、男爵家とかも滅ぼしてるとか……ヤベぇな。
「……つまり敵国の英雄を護衛奴隷として私に紹介すると?」
「ほっほっほ、その通りですな。奴隷契約スキルには様々な特約を付けることができ、その特約をクリアーできるのなら奴隷契約を結ぶことができる。あの『ミランダ商会の最高傑作』が唯一紹介したタロウ殿なら、おそらく特約をクリアーできると思うのだが……いや、しかし……」
「その特約とは?」
「大老、こっからは俺が話す。客人、時間がかかっても良い。俺が求めるのは部隊長全員を護衛奴隷として購入すること。1人として引き離すことは許されない」
ふむふむ。
時間がかかっても良いから全員を購入しろと。
金があれば解決できるよな?
「次に、奴隷堕ちした俺たち全員を蔑むな。奴隷堕ちしたとは言え、俺たちはあの大戦を最前線で戦い抜き、生き残った英雄たちだ。奴隷として蔑むな。命を賭けて戦った男たちに、それだけは絶対に許されない」
ふむふむ。
頑張った戦士たちは奴隷に堕ちたけど、差別すんな!って話か。
奴隷制という毒から皿までを俺は既に食った。
合理的に考えれば、奴隷と言っても結局は契約なんだろ?
重く考える必要は無い。
ビジネスライクで行こうぜ。
「最後に、奴隷堕ちした俺たち全員に美味い飯を食わせろ。美味い酒を飲ませろ。上等な服を着させろ。上等な住まいに住まわせろ。誰もが羨む極上の性奴隷たちを俺たち全員に宛がい子孫を残させろ。あの地獄の大戦を最前線で戦い抜いた俺たち全員に人生を楽しむ権利がある。これらを奴隷契約で守れるなら、客人、アンタを俺たち全員のボスと認める」
ふむふむ。
衣食住と女性の奴隷を男たちに世話すれば良いと。
話を全部聞いたけど、金があれば簡単じゃね?
「クラウスさん、それだけで良いのですか?」
「ガッハッハ!!おい、聞いたかよ大老?『それだけ』だとよ!!こりゃ傑作だ!!」
「クラウス殿、タロウ殿に伝えてないことがまだありますな。タロウ殿、クラウス殿の値段は3億クローネですぞ」
ん?
3億クローネ?
高くても2000万クローネじゃないの?
「相場からかなり離れてますが、何か理由がありますか?」
「クラウス殿はガーランド王国のメッヘル侯爵家に連なる者で、ハリス子爵家とメッヘル侯爵家は少なからず遠戚でもありますな。メッヘル侯爵家がハリス子爵家に頼み、ハリス子爵が国内で政治工作をしてクラウス殿はバロット商会に来られたのですぞ」
「つまり色々と経費が掛かったから、その分を上乗せさせてると?」
「平たく言うと、そう言うことですな」
「分かりました。3億クローネ払います」
「さ、さすが『銀馬車の紙商人』ですな。即決とは……」
「即決と言いますか、話の筋を考えると……ミランダ商会とミリスさんは私の護衛にクラウスさんを購入しろという話ですよね?ですから大老もクラウスさんを私に紹介したと」
「その通りですな。ミランダ商会から受け取った手紙にはミランダ商会の最重要人物としてタロウ殿の名があり、クラウス殿を一度紹介して欲しいと書かれてましたな」
ミリスさんも、何気に過保護だよね。
まぁ、確かに最重要人物が能天気だから過保護になるとは思うけど……。
ゴソゴソと皮袋から大金貨3枚を取り出す。
「はい、3億クローネになります。奴隷契約はどうすれば宜しいでしょうか?」
「3億クローネは仮受け取りさせて頂きますぞ。奴隷契約が成功すれば3億クローネをそのまま頂き、奴隷契約が失敗すれば3億クローネはお返ししますぞ。では、タロウ殿、私の左手を握ってくだされ」
指示通りに大老の左手を握ると、大老の右手をクラウスさんが握る。
大老が『奴隷契約スキル』と唱えると、大老の手から熱が体内に入って来て首元が熱くなる。
魔力だろうか?
「どっ、奴隷契約が成功しましたぞっっ!!!」
大老が驚愕の表情で驚いてる。
というか、そこまで驚くことなのか?
全員購入して衣食住と女の面倒を見れば良いんでしょ?
金持ってたら、普通に奴隷契約できると思うんだけど?
御三家とか簡単に出来そうじゃん?
「クックック、ハーハッハッハ!!まさか奴隷を蔑まない人間が本当にこの世にいるとはな!!」
え?
そこ?
そこが問題だったの?
「大老、今までもクラウスさんと奴隷契約しようとする人がいましたよね?何人ぐらい挑戦されたんですか?」
「…………」
「大老?」
「…………」
「大老ー?」
「ハッ!?……危うく三途の川を渡りかけましたぞ……タロウ殿、何の話でしたかな?」
「……今までクラウスさんとの奴隷契約は何人ぐらい挑戦されたんですかね?」
「数えておりませんが、近隣諸国からも殺到し数万人は挑戦されましたな。もちろんミリス嬢も挑戦されてますぞ。クラウス殿との奴隷契約の挑戦は、様々な条件下での賭事の対象にもなってましてな。積もり積もって数十億クローネがキャリーオーバーで貯まっていたハズ。おそらく御三家のミランダ商会、いや『ミランダ商会の最高傑作』ミリス嬢が総取りでしょうな、ほっほっほ」
数万人が挑戦?
まさかの聖剣クラウス説?
この台座に刺さった聖剣を抜いたら、聖剣に選ばれた勇者的な……。
これから心の中でクラウスさんは、聖剣クラウスだな。
そしてミリスさん、俺に大金を賭けてそうだよな……。
億単位のクローネを渡して、ここを紹介してるのミリスさんだし……。
資金
約1億6720万クローネ
魔石ポイント
79万5000MP
所有奴隷
男 1人
女 0人




