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27話

 ※後書きに告知があります。


 ※yama様から素敵なレビューを頂きました。

 初投稿24時間以内にレビューを頂けて、心から感謝申し上げます。

27話


「高品質パピルスの卸値1枚あたり5万クローネが1万枚ですので5億クローネとなります。仲介手数料が10%で5000万クローネとなり、タロウ様の取り分が4億5000万クローネとなります。どうぞ、ご確認ください」


「あれ?卸値が変わるので、実家のミランダ商会と交渉してから取り引きするのでは?」


「タロウ様、ご説明致します。まず1万枚の卸値自体は5億クローネになります。そこに付加価値として、芸術的価値のある高品質パピルスで包装しておりますので、この付加価値の部分だけを交渉し後日タロウ様にお支払い致します」


 あー、なるほど?


 高品質パピルス1万枚は担保として既に渡してるから、その分は先に支払うと。


 で、付加価値の部分は実家と大喧嘩してくるから、後日に渡すと。


 別に全部後日で良くね?


「私は大丈夫ですけど、変則的ではありませんか?ミランダ商会との卸値の交渉が終わってからでも、支払いは大丈夫ですよ?」


「タロウ様、この様な変則的な取り引きになった理由は、2つの点からになります。まず1つ目は、ミランダ商会から早急に高品質パピルスを手元に置きたいとのこと。無いとは思いますが、付加価値の点で交渉が破綻した場合は、全ての包装用紙を取り上げて来ます」


 んー、なるほど?


 おそらく昼前の最初の取り引きの400枚が人気が出たのかな?


 んで、客から『次の入荷はいつなんじゃ!!』とクレームが来てるとか?


 まぁ、俺には関係無いか。


 というか、交渉が破綻したら包装用紙を全部破り捨てるとか、クソ笑える。


 ミリスさん、実家をどんだけ豪腕でぶん殴るつもりなの?


「2点目ですが、タロウ様に早急に億単位のクローネをお渡ししたかったからです」 


 ん?


 さすが異世界。


 意味不明だな。


 何で早急に大金を渡したいんだ?


 ん?


 んんん?


 もしかして……。


 おいおいおい。


 まさか………。


「……なぜ私が早急に億単位のクローネが必要になるのですか!?もしかして、何か問題でも発生したのですか!?」

 

「タロウ様。私の言葉足らずですので、どうか落ち着いてください」


 なんだ、違ったのか。


 驚かすなよ。


「タロウ様に伺いたいのですが、奴隷を所有されてますか?」


 は?


 奴隷を所有?


 んなわけねーだろ。


 俺は現代人だぞ?


「いえ、所有していませんけど……何か問題でもありましたか?」


「これから問題が発生すると、私もミランダ商会も考えております」


 奴隷を所有していないと、これから問題が発生する?


 おいおいおい。


 異世界の常識は、本当に意味不明だな……。


「すみません……異国の生まれですので、ミリスさんの仰っていることが全く理解できません。なぜ奴隷を所有していないと問題が発生するのですか?」


「タロウ様、逆にお尋ねします。近隣諸国有数の大都市ハリスにおいて、これだけの高品質のパピルスが出回ります。近隣諸国も王国も王族も貴族も官僚も軍人も商会も商人も行商人も市民も自由民も、あらゆる人間が商機と利益を求めて高品質パピルスの出所を探るでしょう。それではタロウ様にお聞きします。何も問題が発生しないと、なぜそう思われるのですか?」


 ゾッとなり鳥肌が立つ。


 ミリスさんの言葉に背筋が凍る。


 ヤバいヤバいヤバい!!


 先に億単位の金を渡し、この話が出てるってことは……。


「まさかもう既に出所が……私の存在がバレてると?」


「当然でございます。これほどの高品質なパピルスです。驚異的な技術力を誇る遙か彼方の異国で生産されたのでしょう。そして『とある宿屋』には驚異的な技術力を見せ付ける銀色に輝く巨大な馬車があります。後は簡単な話です。壁内の商家の全てが遙か彼方の異国の商人の存在に辿り着き、現在壁内では『銀馬車の紙商人』の話題で盛り上がっておりますよ」


 いくら何でもバレるのが早過ぎるだろ!!


 異世界2日目の昼過ぎだぞ!!


 やっと今日から取り引きが成立しただけで、何一つ生活基盤も計画も立てて無いぞ!!

 

「……さ、最初の400枚の取り引きの成立は……今日の昼前ですよね?」


「もちろんです。そして取り引き成立直後から、高品質パピルスの販売がミランダ商会で始まりました。昼間には壁内の商家で高品質パピルスを知らぬ者はいなかったでしょう。情報が命の商家たちの間では昼過ぎには『銀馬車の紙商人』の話題で盛り上がっていたようですね」


「……つまり話の筋を考えると、先に億単位のクローネを渡したのだから、護衛の奴隷を購入し自衛しろということですよね?」


「それがミランダ商会に連なる全ての者たちの総意です」


 マジか……。


 ほぼほぼ詰みじゃね?


 奴隷を購入?


 現代人の俺が?


 ははは、乾いた笑いしかでねーよ。


 ……いや、諦めるな。


 考えろ。


 考えるんだ。


 問題は、コピー用紙の出所を探る人間たちが引き起こすであろう危険の発生だ。


 誘拐や拷問、最悪は生命を落とすほどの危険の発生だ。


 その問題の解決方法が奴隷を購入しての護衛と自衛だ。


 つまり護衛と自衛が出来れば、何でも良いんだろ?


 達成するべき目的は奴隷の購入では無く、あくまでも護衛と自衛だ。


 奴隷の購入は、目的を叶える為の手段の一つでしか無い。


 ならば別の手段を考えるんだ……。


「……奴隷を購入せずとも、護衛と自衛が出来れば良いんですよね?冒険者ギルドなど、護衛の依頼とか出来ないのでしょうか?」


「タロウ様、もちろん冒険者ギルドや傭兵ギルドなどに護衛を依頼することが出来ます。彼らと護衛契約を結び、そして護衛契約の隙間である生命尊重の契約から護衛者たちは『自らの身の安全の為』になぜか喜んで襲撃者に降伏し……タロウ様は誘拐され拷問され高品質パピルスの出所を吐いた後には、野犬の餌となるんでしょうね。それがタロウ様のお望みでしたら冒険者ギルドと傭兵ギルドをご紹介致します」


 だよな……。


 日本の治安の良さを基準に異世界を見てたら、野犬の餌にしかならんよな……。


「……護衛代を払いますので、ミランダ商会に護衛の依頼を出すことは出来ないでしょうか?」


「昼前までなら護衛は可能でしたが……ここまで『銀馬車の紙商人』の噂が広まった以上は貴族家も出所を探るでしょうし、ミランダ商会はタロウ様の命の責任を取れません」


 御三家でも護衛が無理とか、貴族家は本当にヤバいのか……。


 というか、そんなに危機的な状況なのか?


 単なるコピー用紙だぞ?


 元々の低品質なパピルスがあるんだろ?


 低品質なパピルスとコピー用紙は、値段の違いで棲み分けができるハズだ。


 御三家のミランダ商会が珍しい異国のコピー用紙を仕入れて、高値で売って儲けるだけの話だろ?


 なんで近隣諸国やら貴族やら商家やらに、命と出所を狙われなければならないわけ?


 何かおかしくないか?


「……なぜ、ここまでの騒ぎになっているのですか?別に低品質なパピルスが市場で無くなるわけではないですよね?低品質と高品質とでは値段が全然違いますし、市場で棲み分けて共存共栄ができるハズでは?ミランダ商会がちょっと儲けるだけの話ですよね?」


「タロウ様、壁内の商家ではパピルスの代わりに安い木板が使えません。つまりはそういうことです」


 意味が分からん。


 木板なんて使いたいなら使えば良いし、木板が使えないって何だよ?


 壁内の法律で木板禁止と決まっているのか?


 頭おかし過ぎるだろ。


 異世界の常識は、本当に意味不明だ。


「……迷宮都市ハリスの常識や価値観をまだ理解してないのですが……」


「壁内の商家が木板を使った場合、一月以内に商会を畳むか壁外へと追いやられるでしょう。タロウ様、壁内の商家が奴隷と同じ貧相な服を着ますか?壁内の商家が貧相な木板を使いますか?貧相な格好や道具を使う人間には壁内では信用が発生しません」


「つ、つまり……低品質なパピルスは木板と同様に貧相な道具になると?」


「その通りです。高品質パピルスを持たざる者は商家に非ず、となるでしょう」


 さすが異世界だ。


 経済的合理性の便利さとか不便さとかじゃなく、政治的判断の身分が全てとは……。


 貧相な道具と化した低品質パピルスの需要が、近隣諸国中の壁内では皆無になる。


 そしてコピー用紙に駆逐された低品質パピルスの行き場は、安い木板を使う壁外には無い。


 もちろん壁外で低品質パピルスを木板並みに安く販売することは可能かも知れないが、原価ですら元が取れないだろう。


 つまり低品質パピルスを扱っていた壁内の商家や商人も行き場を失う。


 ……既存の紙商人たちは死に物狂いでコピー用紙の出所を探すハズだ。


 探さないと、商会を畳み家族が路頭に迷う。


 最悪は、最愛の家族が奴隷に堕ちる。


 最愛の家族の為ならばどんな手を使ってでも、俺を拉致して拷問し出所を吐かせるだろう。


「……ミリスさん、いつ『こうなる』と予想してました?最初から?途中から?」


「予想自体は最初からしておりましたが、確信したのは昼前に1万枚を卸すと聞いた時ですね。400枚程度では壁内の需要を満たせませんが、1万枚では話が変わってきます。高品質パピルスは遙か遠い異国の地で大量に生産されていることを明らかに示していますから」


 『なぜ、それほど重要なことを俺に伝えなかったんだ!!』と言いそうになるのをグッと奥歯を噛み締め、八つ当たり気味の怒りが込み上げて来るのを我慢する。


 ミリスさんは何一つ悪くない。


 むしろ親身になり、全てのお膳立てを準備してくれている。


 能天気で間抜けな俺が悪いだけだ。


 まずは冷静になれ。


 何が悪かった?


 異世界の文明度には警戒をしていたハズだ。


 しかし、心の何処かで『旅行気分』だったのは否定できない。


 何処か心が浮ついていたのだろう。


 その浮つきが、俺の足下を掬った。


 生き残る為に金が全てだと思っていた。


 生き残る為に金を稼がなければならなかった。


 生き残る為に金が楽に稼げると思っていた。


 万能の神である金のおかげで、現代人の俺はこの世界でも生き残れるハズだった。


 その万能の神が俺の生命をここまで窮地に立たせた。


 本末転倒とはこのことだ。


 問題点は何だ?


 奴隷?護衛?自衛?


 違うだろ。


 俺の世界観だ。


 『奴隷制を否定しなければならない』とする現代人の倫理的世界観こそが、最大の問題点だ。


 奴隷制は俺たち現代人にとって、最大の禁忌なんだ。


 ミリスさんもミランダ商会も『護衛の奴隷を所有して自衛しろ』とこの世界の子供ですら知っている当たり前の常識と世界観から、本当に親身にアドバイスをしてくれている。


 『嫌だ!嫌だ!嫌だ!』と子供のように駄々を捏ねて我が儘を主張しているのは、異世界から来た現代人の俺の方だ。


 この世界で生きて来たミリスさんから見て、俺は異様で異端な人間にしか映らないだろう。


 奴隷を所有せず、奴隷を利用することは可能だ。


 既にそれは宿屋での荷物運びで実践した。


 ならば誰かに奴隷の所有者となってもらい、奴隷を借りるだけで良い。


 奴隷の所有者にミリスさんなんてどうだろう?


 うん、実に合理的だ。


 自分の手を汚さず、他人の手を汚させ、上澄みの利益だけを頂く。


 実に資本主義的だ。


 実に合理的で資本主義的だが、吐き気がするほどの偽善でもある。


 結局は奴隷制を利用している。


 奴隷を所有したとしても、罪悪感から奴隷解放運動でもするか?


 後日、民衆を煽動した罪で野犬の餌だな。


 奴隷解放運動は世界の全てを敵に回す。


 認めよう。


 認めるしかない。


 この世界に堕ちて来た時点で、奴隷制を利用するしかなかったんだ。


 世界が奴隷を所有していることを前提にしている時点で、この世界で生きることは奴隷を間接的にでも必ず利用している。


 そして実際に俺は奴隷を荷物運びで利用した。


 俺は弱いから、そのことに見て見ぬフリをしていた。


 俺の生命と、俺たちが大切にしてきた世界観。


 どちらを選ぶ?


 どっちかしか選べない。


 死と世界観の完全な2択だ。


 何日も思い悩む時間は無い。


 既に死の気配が訪れている。


 俺の真後ろにまで、死の気配が訪れている。


 考えるまでもない。


 分かりきった話だ。


 美咲先輩、ごめん。


 美咲先輩の子供の頃を考えたら、奴隷制なんて受け入れちゃ絶対に駄目なんだ。


 でも俺は弱いから、大罪を背負うよ。


 アイツと同じになる。


 美咲先輩が心から憎む、アイツと同じになるよ。


 今までありがとう。


 色々とあったけど、素敵な思い出をいっぱいくれてありがとう。


 すげー楽しかったよ。


 めちゃくちゃ楽しかったよ。


 恥ずかしくて、美咲先輩に一度も言えなかったけど……。


 愛してる。


 心から愛している。


 美咲先輩が幸せになるのを、心から願っている。


 そしてさようなら。


 永遠にさようなら。


 俺はこの世界の人間になるよ。


「ミリスさん、迷宮都市ハリスで一番の奴隷商人を紹介してください」


 こうして俺は元の世界と完全に決別し、奴隷制を自分の意志で利用すると決断した。


 毒を食らわば皿までだ。


 世界で誰よりも徹底的に奴隷制を利用してやる。


 それが俺の初恋に対する供養であり弔いだ。


 俺に奴隷制を使わせたことを世界は後悔しろ。



資金

約4億6720万クローネ


魔石ポイント

79万5000MP


 27話まで読んで頂き、ありがとうございます。次話から3章になります。気軽に感想を頂ければ嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 0章、1章は、2章以降、物語を支える強固な土台だったのですね! この作品には、他にもいろいろと仕掛けがありそう。 もちろん物語も、最高に面白いです! [一言] 奴隷に対する葛藤は、七生も…
[良い点] 二十七話まで、読むと良いというお知らせが凄いと思いました。異世界小説は、ファンタジーなので軽視されがちですが矛盾と相性が悪いです。しかし理由を永遠書くと読まれません。とりあえず大体詰め込ん…
[良い点] ちゃんと考えて行動してるのがよかったです 次章も楽しみにしてます。
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