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26話

26話


「タロウ様、お待ちしておりました」


 特急で商業ギルドまで来たら、屋外の庭でミリスさんが待っていた。


 ……もしかして、ずっとここで立って待ってたの?


「ミリスさん、大変お待たせしました。布で隠しておりますが、高品質パピルス1万枚を持って来ました。どちらに積み降ろせば宜しいですか?」


「…………」


 うわー!!


 ミリスさんが客の俺を無視して、真剣な眼差しでジロジロとリアカーとベッドシーツの布を見てるよ!!


「ミリスさん?」


「…………」


「ミリスさーん?」


「ハッ!?……タロウ様、大変失礼を致しました。奴隷を呼びタロウ様の代わりに倉庫まで荷車を運ばせますので、荷車を奴隷に触らせても大丈夫でしょうか?」


 いやいやいや。


 引く重さや使い心地など、様々な情報が抜かれるじゃん!!


 ホント油断も隙も無いな、この姉ちゃん。


「奴隷は大丈夫ですよ。私が倉庫まで運びますので、どちらに行けば宜しいでしょうか?」


「……かしこまりました。ではタロウ様、私に付いて来てください」


 あれ?


 今、少し困惑顔をした?


 あー、断ったことで信用されてないと判断した感じだよな?


 まぁ、実際にまだそこまで信用してないし。


 ミリスさんの後を付いて行くと、2階建ての倉庫についた。


 倉庫のドアを開けると中は広々としており、おそらく荷馬車がそのまま入るガレージになっている。


「タロウ様、それでは枚数の確認をさせて頂きますので、少しお待ち頂けますか?」


 は?


 今から数えるの?


 1万枚も、1枚1枚ペラペラと手作業だろ?


 少しどころか、時間めちゃくちゃ掛かるよな?


 夕飯に間に合うのか?


 さすがに客を待たせ過ぎだろ。


 これでも急いで来たんだぞ?


 俺を巻き込むな。


 俺は帰る。


「……えーと、今から1万枚を数えるんですよね?結構時間がかかりますか?」


「タロウ様、ご説明致しますね。タロウ様が仕入れて来られた高品質パピルスを調べた所、驚異的でございますが1枚1枚全て精密にサイズも重さも同じでした」


 そりゃそうだ。


 複製してるし。


「そして、ここは近隣諸国にも名を轟かせる迷宮都市ハリスでございますわ。当然の如く商業ギルドにも精密に重さを量る魔道具を用意しておりますので、重さを量れば枚数の確認が出来ます。ですので、それほどお時間は掛からないかと思います。タロウ様、ご安心ください」


 ぐはっ!?


 藪蛇をつついた上に『お前が持って来た商品は、重さを量れば枚数が分かるじゃん。ペラペラと1枚1枚数えるとか、何処の田舎者なの?それともアンタ馬鹿?』と知的マウントを取られるとはっ!?


 文明度が低い異世界で、理系分野の知識で負けただとっ!?


 こ、心のダメージが凄まじく大きいぜ……。


 クソっ!?


 現代人として負けてはいられない!!


 何か反撃の手は無いのか……?

 

「……なるほど。さすが噂に名高い迷宮都市ハリスですね。私の国には迷宮が無いので、貴重な重さを量る魔道具まで商業ギルドがお持ちとは驚きの一言です。では、枚数の確認をお願い致します。前回と違い100枚づつ分けて用意しておりますので、ご確認ください」


 『べ、別にそんなこと知ってたし!重りで量るなんてウチの国でも常識だし!商業ギルドが魔道具持ってるなんて、知らなかっただけだし!』と素知らぬ顔でリアカーの荷台に掛けていた布を取り、ミリスさんに確認してもらう。


「……タロウ様、少し宜しいでしょうか?」


 ん?


 んんん?


 あれ?


 気のせいかな?


 ミリスさん、何か怒ってない?


「え?……えぇ、もちろん大丈夫ですが……どうかされましたか?」


「タロウ様がお持ちくださった品物を見たところ、色鮮やかな紋様で描かれた芸術的価値のある高品質パピルスで包装しているようですが、合っておりますか?」


「え?紋様?芸術的価値?ただの紙を保護する目的の包装用紙ですよ?」


「タロウ様、私の目には異国風の紋様が描かれた芸術的価値がある高品質パピルスにしか見えません。私の目は腐っておりましたでしょうか?」


 え?


 もしかしてミリスさん、めちゃくちゃ怒ってる?


「あ、いえ、その……異国出身の私は、まだこちらの常識や価値観が分からなくて……」


「なるほど。確かに異国出身のタロウ様にこちらの常識や価値観を強要することは愚かなことでしょう。ですが、タロウ様。高品質パピルスで包装された高品質パピルス100枚セットですと、卸値が変わります。それはご理解頂けますよね?」


「も、もちろんです……」


「現在、1枚あたり5万クローネが卸値であり、100枚で500万クローネが卸値になります。ではタロウ様にお聞きします。こちらの高品質パピルスで包装された高品質パピルス100枚セットの卸値は何クローネになるのでしょうか?」


 こ、ここで500万クローネとか答えたら、ミリスさんブチ切れそうだな……。


 俺は全然500万クローネで良いのに……。


「……再度、ミリスさんがミランダ商会と交渉して卸値が決まります。お手数をおかけしますが、ミランダ商会との仲介を宜しくお願い致します」


「かしこまりました。タロウ様が最大限の利益が得られるよう、ミランダ商会と交渉します」


 ふっと笑顔になるミリスさん。


 あー、こりゃ躾されたな。


 『話と違う物を持って来るなら、先に相談しろ』ってことだな。


 いわゆる報連相。


 急いでたとはいえ、完全に俺が悪いわ。


「いや、ホントに申し訳ない。ミリスさん、完全に二度手間ですよね?」


「いえ、大丈夫ですよ。それでは枚数の確認作業に入ります……色々と調べることがありますので、1セットだけ重さの基準とし包装を取っても大丈夫でしょうか?」


「はい、大丈夫です。ミリスさんの判断に任せます」


「ありがとうございます。それでは少しお待ちください」


 ミリスさんが奴隷を呼びに倉庫から出て行った。


 あー、マジで怖かったっ!!


 鋭く強い意志の瞳で睨まれ、ロジックでガチ詰めされるとか……。


 ミリスさんを安易に怒らせてはならない。


 うん。


 オレ、オボエタ……。



資金

約1720万クローネ


魔石ポイント

79万5000MP

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