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24話

24話


「タロウ様、ミランダ商会と独占取引を行えば、1枚あたり5万クローネの卸値で売却できます。今回の取引は400枚ですから2000万クローネが取引成立額となり、仲介手数料10%の200万クローネを引かせて頂きまして、1800万クローネがタロウ様の取り分となりますが、この卸値で宜しいでしょうか?」


 は?


 1枚5万クローネの卸値?


 20クローネが?


 というか、昨日の最高値の卸値の予想は4万クローネだったのでは?


 アンタ、実家とどんだけ争ったの?


 ミリスさんが『どうです?ご満足でしょう?』と静かにドヤ顔してる……。

 

 異世界2日目。


 朝にユーグレナ様の神像に祈りを捧げた後、昼前に商業ギルドに立ち寄ったらミリスさんに個室へと誘われ、昨日の実家との取り引きの詳細を教えてくれた。


 いやいやいや。


 ミリスさん、ミランダ商会ってお宅の実家でしょ?


 手加減無くボコボコにして、絞り取って来てない?


 そりゃ独占取引だから強気の交渉をしてきたんでしょうけど……。


 俺は驚愕と恐怖から唖然となり、実家ですら食い殺す獰猛な商人ミリスさんを眺める……。


「…………」


「タロウ様?」


「…………」


「タロウ様ー?」


「…………」


「タロウ様、もしかして卸値にご不満でしたでしょうか?しかしながら、おそらくこれ以上の卸値を叩き出すのなら、他の壁内の商家と粘り強く交渉しなければなりませんので、かなりのお時間を頂く形となりますが……」


「……ハッ!?いえいえいえ!!とんでもない!!卸値には非常に満足しております!!その……余りにもミリスさんの手腕が凄くて、驚愕して呆然としておりました……」


「まぁ!御冗談を♪これ程の高品質で精密なパピルスを仕入れて来たタロウ様の手腕こそ、驚愕の一言でございますわ」


 ヤバい……。


 実家ですらその豪腕でボコボコにぶん殴る獰猛な商人ミリスさんからの過剰な評価が怖い……。


「み、ミリスさんからそのように評価されるとは光栄です。えっと、独占取引の契約はどうすれば宜しいでしょうか?」


「タロウ様、ご説明させて頂きますね。こちらのパピルスの契約内容をご確認ください。重要な点はこちらの4点です」


 ミリスさんがパピルスに指を指しながら、説明していく。


「まず、ラーネル王国内で高品質パピルスを商会や商人に卸す場合は、タロウ様の専属仲介人の私ミリスを通すこと」


 ふむ。


 俺とミリスさんが専属仲介人の契約を結び、俺はミリスさんにだけコピー用紙を卸し、それ以外の人間に勝手に卸すなと。


 つまり『ワイが商家のガキどもと喧嘩したるから、オメーは後ろですっこんでろ』ってことか……。


 いきなりミリスさんから、戦力外通告でぶん殴られたんですけど……。


「次に、私ミリスを通してミランダ商会は高品質パピルスの独占取引と交渉を行えること」


 ふむふむ。


 仲介人のミリスさんがミランダ商会と取引の交渉をすると。


 ミリスさんを無視して、ミランダ商会が俺と直接取り引きをするなと。


 必ず交渉事はミリスさんを通せと。


 つまり『ワイの面子を潰したら、どうなるか分かっとるんやろな?ん?そういや野犬が餌を欲しがっとったな』ってことか……。


 ミリスさん、怖いんすけど……。


「次に、高品質パピルスの卸値は1枚5万クローネとし、状況に応じて卸値の変更の交渉をミランダ商会は願い出ることができ、私ミリスを通して交渉をすること」


 ふむふむふむ。


 とりあえずは1枚の卸値が5万クローネだけど、卸値を向こうの判断で安くして欲しいと言ってくる。


 で、ミリスさんが交渉してくれると。


 つまり『あん?ワイが決めた卸値が気に食わんのか?ええぞ?いつでも戦争したるがな。お前ら全員、晒し首にしたるわ』とミリスさんが実家をボコボコに殴ると……。


 実家との関係、本当に大丈夫なの?


「最後の点ですが、私ミリスとミランダ商会との卸値の交渉が難航し破綻した場合は、タロウ様の意思に基づいてミランダ商会との独占取引の契約を解除することができ、私ミリスを通して他の商会や商人と交渉し独占取引の契約を結べること」


 ふむふむふむ、ふむっ!?


 え?


 これって……。


 ミリスさんが実家をボコボコに殴り過ぎて大喧嘩の戦争をしたら『ウチのバックに付いてる卸屋に言って、お前をハブいて他の御三家と独占取引の契約するぞ?それでも良いんか?ウチを舐め取ったら、いてまうぞ?ああん』と実家のミランダ商会を完全に脅してるよな……。


 実家とどんな交渉をして来たんだよ……。


 血の雨、降ってないよな?


「以上の4点が本契約の肝であり、その他の契約内容にも満足されましたら契約スキルを用いて契約を行います」


 なるほど。


 契約スキルね。


 迷宮から契約のスキルオーブが取れるのか……。


 とりあえず今は契約内容を詳しく読むとするか。


 ふむ。


 至極真っ当で公平な契約だな。


 ミリスさんは俺の利益の為に最大限の努力で仲介するし、仲介手数料10%も契約に盛り込んでいるし、俺の個人情報を秘匿する内容もある。


 だが、何処かに落とし穴が無いか隈無く探す。


 ふーむ。


 特に落とし穴は見当たらないが、何か問題点は無いのだろうか?


 強いて言えば、コピー用紙の商売はミリスさんを専属仲介人とすることだけを契約に盛り込んでいることだ。


 俺の不利益ではないが、かといって利益でも無い。


 あくまでもミリスさん本人の利益だ。


 例えば卸値の交渉が破綻した場合、ミランダ商会との独占取引の契約を解除できるが、ミリスさんの専属仲介の契約を解除できるわけではない。


 この契約はミランダ商会との独占取引の契約が主点ではあるが、永続的なミリスさんと俺との仲介契約にもなっている。


 つまり実質的にミリスさんこそが高品質パピルスの独占取引を永続的に行っており、ミランダ商会との独占取引が破綻すれば……強固な利権により様々な差配を行える非常に強力な権力を握る。


 実家なのにミランダ商会をミリスさんの『隠れ蓑』にしているな。


 真面目な顔してとぼけているが、なかなか喰えない姉ちゃんだな。


 お前、この契約書に毒を盛り込んだな?


 チラっと横目でミリスさんを見ると、澄ました表情で俺の判断を刻々と待っているが……内から溢れ出る緊張感を隠しきれていない。


 ラーネル王国トップ3の経済規模を持つ迷宮都市ハリス。


 そのハリスで御三家と呼ばれる大商会の実家を豪腕でボコボコにぶん殴り食い殺す獰猛な商人ですら、緊張するほどの利権か……。


 そりゃそうだよな。


 競争相手のいない商品を右から左に渡すだけで仲介手数料10%だ。


 今回の400枚の取り引きですら、手数料で200万クローネの売上を叩き出している。


 そしておそらくは俺のベ○スキャンプ16Xと物置の大きさも、調べはついているだろう。


 あれが街の噂にならないわけがない。


 それに俺が宿に帰る時に人を付けて身辺調査を軽くしたハズだ。


 つまり大量のコピー用紙の在庫がまだまだあると踏んでいる。


 俺の意思でミリスさんと専属仲介を解除できる契約を盛り込んでも良いが、卸値1枚あたり5万クローネを実家から分捕って来た『凄腕の商人』だ。


 良いだろう。


 その素晴らしい成果に報いるのも、在るべき人の道だ。


 このまま永続的に独占取引してやるよ。


 だがな、ミリスさんよ。


 俺もお前を『隠れ蓑』にして、お前以上に成り上がることも忘れるなよ?


 高品質パピルスの原価は、たったの24クローネなんだぜ?


「……ミリスさん、この契約内容ですと……ミリスさんとの仲介契約が解除できず、永続的な仲介契約になっていることが少し気になりますが……」


 ミリスさんから微かな動揺が漏れ出る。


 咄嗟に何かを言おうとするミリスさんを手を向けて動きを制し、本題を伝える。


「この契約内容で満足です。このまま契約を結びましょう」


「タロウ様、本当ですかっ!?ありがとうございますっ!!……コホン。タロウ様、大変失礼を致しました。それでは契約内容を記したパピルスに手を置いて頂けますか?」


 冷静沈着なミリスさんが感情を爆発させて喜び、俺は苦笑しながらも指示通りにパピルスの契約書に手を置くと、ミリスさんもまた契約書に手を置いて『契約スキル』と唱えた。


 手から心臓へと熱が入って来たが、魔力か?


「タロウ様、これで契約スキルによる契約は完了致しました。ご存知の通り、契約スキルにより魂は拘束され、互いに行動が契約内容通りに義務付けされますのでご安心ください。また本契約書はハリス商業ギルドが責任を持って管理致します」


 あー、なるほど?


 つまりミリスさん以外にコピー用紙を卸そうとしても、何らかの力が働いて出来ない感じ?


 つーか、一番安心したのはミリスさんでしょ。


「はい、大丈夫です。1800万クローネはいつ頃に頂けますか?」


 契約も終わったし、早くクローネをくれ。


 俺にも安心をくれ。


 ミリスさんがゴソゴソと皮袋を取り出す。


「タロウ様、ご確認ください。中金貨1枚と小金貨8枚、計1800万クローネとなります」


 さすが出来る女、ミリスさん。


 既に1800万クローネを用意していたか……。


 だが、これは用意しているのかな?


「確認しましたが……すみません。小金貨1枚を大銀貨9枚と中銀貨10枚で貰えますか?」


「はい、大丈夫ですよ」


 な、なんだとっ!?


 またもやゴソゴソと皮袋を取り出す出来る女、ミリスさん……。


 くっ、くそ!!


 ならば文明度が低い社会で、これは用意してはいないだろ!!


「どうぞ、ご確認ください」


「……はい、確認しました。ありがとうございます。あと、すみません。契約内容の写しは貰えますか?」


「ええ、もちろんです。こちらの写しをご確認ください」


 まるで『お見通しですわよ?』と、スッと契約書の写しを差し出す出来る女、ミリスさん。


 か、完敗だ……。


 ミリスさん、君こそ出来る女No.1だよ……。

 

 というか、アホなことを考えてないで契約書の写しでも確認するか……。


 どれどれ。


 ふむ。


 一言一句、同じ内容の契約書だな。


「確認致しました。ありがとうございます。ところで少し質問がありますが、宜しいでしょうか?」


「はい、どうぞ」


「興味本位なんですが、仲介手数料10%の内訳とか教えて貰えることは出来ますか?何%がミリスさんの取り分で、何%が商業ギルドの取り分なのか?ちょっと好奇心から疑問に思いまして……」


「タロウ様、仲介の仕事は仲介人が全て行いますので、手数料10%は仲介人の取り分になりますよ」


 は?


 マジで?


 んじゃ、コピー用紙400枚の仲介手数料200万クローネは、全部ミリスさんの取り分?


 これからの大量のコピー用紙の取り分も?


 うはっ!!


 この姉ちゃん、思っていたよりも強欲だったわ!?


「な、なるほど……」


「タロウ様と末永く取り引きが出来ることを心から願っておりますわ」


 満面の笑顔を浮かべながら意志の強い瞳で俺を眼差すミリスさんに、蛇に睨まれた蛙の如く怖じ気付く俺。


 異世界の商人、クソほど怖ぇよ……。



資金

1849万400クローネ


魔石ポイント

0MP

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