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23話

23話


 宿に戻った俺はメアリーちゃんから鍵を受け取り、部屋へと戻る。


 メアリーちゃんから『銀馬車のお兄さん!!夕刻の鐘が鳴ったら夕御飯の時間だから、1階の食堂まで来てね!!』とニコニコと笑顔で告げられた。


 ミリスさんの獰猛な笑顔と違い、ホント癒される笑顔だ……。


 部屋に入ると、ダンボールを次々と開けながら複製スキルで存在を記憶していく。


 異世界に降り立った時は荷物全体の存在を記憶したが、今してるのは一つ一つの存在を記憶する作業。


 正直クソほど面倒くさい。


 まだまだ存在を記憶する作業が残っているのに、夕刻の鐘が鳴る。


 作業を一旦中止し、ある荷物一つを持って1階の食堂まで降りる。


 食堂に着くと、他の客が既に飯を食っていた。


 60人ぐらいだろうか?


 結構、人が多いな。


「銀馬車のお兄さん!!好きなテーブル席に着いて、少し待ってて!!」


「了解。あの席で待ってるよ」


 食堂の最奥の席に座り、周囲を観察する。


 給仕している若い奴隷の女性が6人いて、食堂にいる客たちをもてなしている。


 ん?


 女性の奴隷の1人が何かを受け取り、客の隣に座ったぞ?


 は?


 おいおいおい。


 客が奴隷の女性の躰をいやらしく弄っている……。


 まさか大人の有料サービスか?


 ……女性の奴隷に性的サービスか……。


「はい!!銀馬車のお兄さん!!今日の夕御飯はお肉のスープとサラダだよ!!パンはおかわり自由!!飲み物はお水は無料で、お酒は別途お金がかかるよ!!」


「メアリーちゃん、ありがとう。飲み物は自分で持って来たから、大丈夫」


 俺は部屋からわざわざ持って来たペットボトルの天然水をテーブルの上に出し、メアリーちゃんに見せる様に言った。


 海外の水ですら腹を下すのに、文明度の低そうな異世界の水なんて、怖くて飲めねーよ。


「ねぇねぇ!!何それ!!透明な水筒?綺麗!!銀馬車のお兄さん、何から何までオシャレだよね!!」


「ま、そんなところ。それよりメアリーちゃん、ここで油を売ってて大丈夫なのかい?後ろでモーリスさんが恐い顔してるよ?」


 さっきから厨房のドアから店主が恐い顔で睨んで来てるんだが……。


 俺は何も悪くないぞ?


「げっ!?パパっ!!銀馬車のお兄さん、またね!!」


 ピューっと逃げるように厨房まで行くメアリーちゃん。


 うーん、さっきから周囲を観察しているが、基本的に給仕の奴隷が客を席まで案内してるし、食事をテーブル席まで持って行って並べている。


 メアリーちゃん直々に案内と給仕をしてくれてたし、まさかお婿さんとして狙われてる?


 『お兄さんって、凄いお金持ちなの?』とか聞いてきたし、メアリーちゃん、まさかの獰猛な肉食女子の可能性が……。


 まぁ、それよりも異世界最初の飯だ。


 良く分からん『ナニカ』の肉のスープを木匙で掬い、口に含んで舌で転がす。


 ふむ……。


 肉の味が濃厚だが、塩味と香草ベースで味を調えている?


 ふーむ。


 不味くはないが、美味くもないな。


 なんつーのかな?


 アクセントが無いというか、味の奥行きが無いというか……。


 たぶん胡椒や唐辛子などが入っていたら、アクセントが利いてもっと美味しくなるとは思うんだけどな……。


 お次は良く分からん野菜のサラダを食べるか……。


 ふーむ。


 野菜の青臭い味と薄い塩味?って感じだ。


 たぶん塩水に浸して、塩水を切っただけじゃないか?


 野菜の青臭さを和らげる的な?


 お次は堅そうなパンだ。


 もう見るからに『イースト菌?ナニソレ、美味しいの?』と主張している。


 とりあえず手でちぎって……。


 って、堅いな!!


 俺は力任せに何とか堅いパンをちぎって、モグモグと食べる。


 ふーむ。


 小麦の香りがするから美味しいっちゃ美味しいが、アゴが疲れる。


 これはやっぱりあれか?


 スープに浸して食べろと?


 周囲の客を観察していると、パンをちぎってスープに浸して食べていた。


 そりゃそうだよな……。


 『まぁ、こんなものか』と思いながら、スープとサラダとパンを平らげる。


 ふー、食った食った。


 飯も食ったし、部屋でタバコでも吸うか。


 あ、食器とかはどうすんだろ?


 周囲を観察すると、奴隷の女性たちが食器を片付けている。


 ふむ。


 このままテーブルに置いてて大丈夫そうだな。


 よし、部屋に戻ってタバコでも吸うか。


 席から立ち上がり部屋に戻ろうとすると、タタタっとメアリーちゃんが厨房から出て来た。


 やっぱりお婿さんとして狙われてる?


「銀馬車のお兄さん!!ご飯どうだった?」


「ごちそうさま、メアリーちゃん。美味しかったよ」


「でしょ!!でしょ!!ウチの宿はご飯が美味しいって街でも有名なんだよ!!ご飯だけ食べに来る街のお客さまもいるんだよ!!」


「だろうね。この味なら納得だよ。料理をしてるのは奴隷なのかな?」


「違うよ?もちろん奴隷も下拵えを手伝うけど、パパとママが料理が好きだから自分たちで作るんだ!!もちろん私も手伝ったよ!!」


「へぇー、メアリーちゃんも手伝ったんだ。偉いね」


「でしょ!!でしょ!!えへへ」


「……そろそろ部屋に戻ろうと思うけど、お湯を貰えるかい?」


「……もうお部屋に戻るの……?」


 見るからにションボリするメアリーちゃん。


 後ろ!!後ろ!!


「ごめんね。まだ仕事が残ってるんだ。また今度、お喋りしようね」


「はーい……。あっ!!お湯は男の奴隷が持って行くから、ノックが聞こえたらドアを開けてね!!」


「了解。それじゃ、またね」


「はーい!!銀馬車のお兄さん、おやすみなさーい!!」


「うん。おやすみ」


 ふー。


 また店主がメアリーちゃんから見えない位置で恐い顔で睨んでいたよ……。


 俺のせいじゃないってば……。


 って、店主のモーリスさんが近付いて来た……。


 何か注意される?


 『娘に近付くな、このゴミクズが』とか?


「お前さん、今日の夜は奴隷はいるのか?」


 は?


 夜は奴隷はいる?


 どういう意味だ?


「えっと、どういう意味でしょうか?異国から来ましたので、この街の常識がまだ分からないのですが……」


「ん?いや、だから性奴隷を店のサービスで貸してるから、抱くのか?もちろん金は貰うが」


 は?


 奴隷を貸す?


 抱く?


 さすが異世界。


 斜め上のぶっ飛んだ話が、いきなり飛び込んで来たぞ……。


 異世界の常識も分からないし、どうやって角を立てずに断ろうか……。


「えっと……ちなみに、おいくらぐらいで女性の奴隷を貸し出してるのですか?」


「1人1晩、1万クローネだな。お前さんが観察していた性奴隷5人が空いてるから、1人か2人どうだ?なんなら5人とも借りるか?サービスして4万クローネにしてやるぞ?」


 いやいやいや。


 異世界の女性には興味はあるが、誰が抱いたか分からんし、異世界の性病が怖いし、そもそも奴隷を抱くとか倫理的に現代人には無理だし。


 つーか、奴隷を観察してたのを逆に観察されてたのか……。


 さすが客商売の店主だ……。


「あー、今は財布が厳しいので、また今度お願いするかも知れません。今日の所は大丈夫です」


「そうか。性奴隷たちには俺自ら徹底的に性技を仕込んでいるし、客からも評判は上々だ。ウチの性奴隷目当てに泊まる客もいるしな。性奴隷を抱く気になったら俺に伝えろよ?娘の様子を見ていたが、お前さんに夜伽のサービスを伝えるかと思ったら伝えないし、あの様子だと俺の知らぬ間にキャンセルしそうだしな。全く、商売を何だと考えているんだ、アイツは……」


 えーと、メアリーちゃんも普段は客に女性の奴隷の性的サービスを薦めてるのか?


 奴隷の貸し出しは商売っぽいし、宿の受付もしてるから普通に夜伽を薦めてそうだな……。


 というか、店主が睨んでたのはメアリーちゃんの仕事ぶりを見ていた為か……。


 街中でも有名な宿なのに、それでも生き残る為に必死なんだろうな……。


 でも……。


 店主に別れを告げ、ユーグレナ様の神像に祈りを捧げながら異世界の常識について考え込む……。


 俺はこの世界でやっていけるのだろうか……?



資金

49万400クローネ


魔石ポイント

0MP


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