21話
21話
「すみません。商業ギルドに加盟したいのですが、こちらで受付をされてますか?」
魔石販売店を出た後、帰り道にある商業ギルドに立ち寄った。
とりあえず商業ギルドに加盟し、この街で生活の基盤を立てないとな……。
受付カウンターが40席ほどあり、空いてる受付の中で『コイツは出来るオーラを持ってるな』と思った受付嬢に話しかける。
というか他はみんな男だし、受付なら美人の女性が嬉しいしな!
てか、商業ギルドに入った瞬間に空いてる受付の人らが一斉に俺を見て、緊張した空気が流れてたんだけど?
受付に並んだ瞬間に空気が和んだと言うか落ち込んだ雰囲気が流れたが、何かあるのかな?
「はい。こちらで大丈夫ですよ。私は受付のミリスと申します。ハリス商業ギルドへの加盟費10万クローネとお名前を頂けますか?」
10万クローネも取るのかよ……。
俺はゴソゴソと皮袋から10万クローネを取り出し、受付のミリスさんに手渡す。
ミリスさんは『私は出来る女ですよ』って感じの獰猛なオーラを醸し出すスラリと細身の若い女性だ。
綺麗な赤い髪を肩の辺りで切り揃えている。
20代前半だろうか?
意志の強そうな大きな瞳が特徴的だ。
「名前はタロウ・コバヤシです」
「……異国の貴族様でございますか?」
「ミリスさん違います。異国の生まれですが、私の国では誰もが家名を名乗りますので貴族階級ではありません」
「かしこまりました。タロウ・コバヤシ様ですね。会員証を渡しますので、少々お待ちください」
家名を聞いて一瞬だけ緊張感が走ったが、受付嬢のミリスさんは手際良く手続き業務を始める。
……身分制度というか、この国の貴族どもは結構色々とやらかしてないか?
『貴族の俺様に逆らうのか?ああん?』的な……。
「タロウ様、お待たせ致しました。こちらのパピルスがハリス商業ギルドに加盟した証明書となります。こちらにタロウ様のお名前が書かれており、また本日の日付がこちらに書かれております。有効期限は1年間となりますので、お気を付けください」
ふむ。
これがこの世界のパピルスか……。
ザラザラと手触りも悪いし、インクも所々少し滲んでいる。
あと日焼けのせいなのか分からないが、ボロくて貧相。
なるほどね。
「かしこまりました。このパピルスの証明書がありましたら、安全に壁内に入れますか?」
「はい。城壁の門番にこちらの証明書を提示して頂けましたら身分証明書ともなり、また入都税1万クローネを取られずに壁内に入れます。ちなみにタロウ様は壁内で取引を考えておられますか?」
「ええ、壁内でパピルスに似た商品を販売しようかと考えておりますが……」
「タロウ様は異国の方と伺っておりましたが、壁内の商家への紹介状などはお持ちでしたでしょうか?」
「いえ、無いです……商品には自信がありますが、もしかして門前払いされますか?」
「家名はございませんが、壁内の商家たちは商会を家名の代わりとする歴史ある名家たちです。タロウ様には申し訳ありませんが……紹介状が無い場合、十中八九、門前払いされるかと思います」
マジか……。
さすが身分制度万歳の世の中。
社会的信用が無いと門前払いとか……。
マジ辛い。
というか、まさか……。
「えっと……もしかして商業ギルドに加盟したの、無意味でしたかね?ミリスさん、返金キャンセルとか出来ますか?」
「タロウ様、商人でしたら事を急いてはなりません。商業ギルドへの加盟は、何も壁内に入ることを目的とはしておりませんよ。身分証明書を持ち入都税を支払えば、誰でも壁内に入れますから」
「えっと、つまり商業ギルドに加盟した利点がもっとあると?」
「その通りです、タロウ様。例えば、タロウ様専属の仲介人を付けて壁内の商家と交渉が出来ます。もちろん仲介の手数料を頂く形となりますが、信用の無い行商人が商業ギルドの仲介人の信用を借りて壁内の商家と交渉を行うのは、ラーネル王国の一般的な取引方法となります」
あー、なるほど?
紹介状や信用が無い行商人に『ワイら商業ギルドが仲介したるで?もちろん金は払ってもらうけどな!ガハハハハ!!』ってことだろ?
「ミリスさん、仲介の手数料はおいくらでしょうか?」
「タロウ様、手数料は売買が成立した際に販売額の10%を頂く形となっております。例えば100万クローネで取り引きが成立した場合、10万クローネを仲介人に支払って頂く形になります」
「なるほど……売買が成立するまでに仲介人に対して何らかの費用はかかりますか?例えば手付金とか?」
「いえ、費用はかかりませんが、商品を吟味した仲介人が壁内の商家と交渉や仲介が出来ないと判断した場合、理由を述べてお断りしております。一番多い理由は、壁内の商家と売買せずに壁外の街中で行商や店舗と取り引きをされた方が良い、ですね」
「なるほど。ミリスさん、仲介人を紹介して頂けますか?」
「もちろんです。宜しければ、壁内の商家ミランダ商会の商会長の孫である私ミリスが、タロウ様の仲介人をさせて頂きますが如何でしょうか?」
え?
何?
ミリスさんって商家の子女なの?
ミランダ商会ってヤツに俺は取り込まれる?
というか、もしかして最初に商業ギルドに入った瞬間の受付の緊張した空気って、仲介の取り合いというか商会での利権競争か?
受付した人が最初に仲介の紹介が出来るシステムみたいな?
んで、お互いに合わないと感じたら、他の仲介人を紹介する感じか?
ん?
んんん?
ということは……。
もしかして商業ギルドって、壁内の商家の子息子女を養う為の利権?
『ワイら壁内の商家と取り引きをしたいなら、息子や娘や可愛い孫に金を払いな!ガハハハハ!!』的な。
「……ミリスさん、失礼なことを聞いてしまいますが……ミランダ商会以外とも取り引きの仲介をお願いするかもしれませんが、大丈夫でしたでしょうか?」
「タロウ様、もちろん大丈夫ですよ。商業ギルドの仲介人は契約により、不正は出来ないように拘束されております。もちろん私はミランダ商会に連なる者ですから、ミランダ商会との仲介でしたらスムーズに取り引きが行われるでしょう」
なるほど……。
他の商家とも公正に仲介はするが、それでも身内のミランダ商会との取り引きが一番手っ取り早いと……。
「かしこまりました。では、ミリスさんに専属の仲介をお願いします」
「タロウ様、ありがとうございます。では、タロウ様が仕入れた商品は本日お持ちでしたでしょうか?」
あ、コピー用紙は宿屋だわ。
しまったなぁ……。
「ミリスさん、申し訳ありません。商品は宿に置いておりまして、取りに戻るので少しお待ち頂けますか?」
「もちろんお待ちしております。ハリス商業ギルドは夕刻の鐘がなりましたら門を閉めますので、その時間までにお越しください」
ミリスさんにしばしの別れの挨拶をした後、駆け足で宿に戻る。
うーん、二度手間だったな。
資金
49万400クローネ




