19話
19話
「モーリスさん、異国の行商人が宿を探してたので、連れて来ましたよ」
レンガの垣根に囲まれた、大きな庭付きの3階建ての宿に着いた。
周囲の建物と比べると、明らかにランクが一つ二つ上の高級な建物だ。
土地も広く、ベ○スキャンプ16Xと物置を軽々と置ける。
守衛が宿の店主と話しているが……。
ヤバい。
思っていた以上の高級な宿っぽいが、金が足りるのだろうか?
「ん?モランの倅か?って、何じゃありゃ!?」
「あー、モーリスさんで宜しかったでしょうか?宿を探しておりまして、本日泊まることは出来ますか?」
「それは大丈夫だが……アレは何だ?」
「あれは外国で使われている荷車ですね。それよりも宿賃を伺っても宜しいでしょうか?」
「あの馬鹿デカいのが荷車なのか……。や、宿賃だが、2人部屋からになるが2人部屋で部屋賃が2万クローネ、一人1万クローネの計3万クローネだ。朝と夕方に食事が付く」
ん?
思っていた以上に安いな。
それなら……。
「なるほど。荷物もありますのでより広い部屋をお借りしたいのですが、広い部屋は空いてますか?」
「あー、4人部屋なら部屋賃4万クローネ、6人部屋なら部屋賃7万クローネ、8人部屋なら部屋賃10万クローネだ。そこに一人に付き1万クローネだな」
「なるほど。部屋の大きさを見せて頂けることは可能でしょうか?」
「あぁ、別に構わんが……」
「ありがとうございます」
守衛に感謝と別れを告げ、宿の中に入りそれぞれの部屋を見させてもらう。
ふーむ。
大量の荷物を宿に入れるなら3階奥の8人部屋がベストだな。
部屋の中にトイレ部屋もあるし、部屋のドアには鍵も付いているし。
異世界のトイレは鉄の壺の中にスライムがいて、排泄物を食べて濾過するらしい。
さすがファンタジー。
意味不明過ぎる。
8人部屋を借りると、部屋賃含めて11万クローネ。
現在99万クローネがあるから、最大9日は泊まれる。
9日で生活の基盤が出来るのか?
かなり厳しいよな?
まぁ、3日経っても生活の基盤を作れる兆しが無いなら、途中から部屋のグレードを下げるか?
色々計算しながら最適解を探す。
「モーリスさん、8人部屋を3日お借り出来ますか?」
「もちろんだ。ただ今日は客が混雑してないが、明日以降に客が混雑し始めたら少人数部屋に代わってもらうか、そのまま部屋を代えないのなら7人分の7万クローネを別途もらうぞ?こっちも商売なんでな」
「かしこまりました。それで大丈夫です。支払いはどちらで?」
「1階で受け付けるよ」
モーリスさんに着いて行き、1階の受付で33万クローネを支払う。
そしてB5サイズぐらいの木板と彫刻刀を渡され、名前を書く様に言われた。
彫刻刀で木板に名前を書くのかよ……。
文明度低いな……。
「あー、すみません。私が住んでいた国では木板を使っておりませんでしたので、代筆をお願いしても大丈夫でしょうか?」
「ん?別に構わんが、お前さんの国ではパピルスを普段使いしてるのか?海の向こうのメイナード王国から来たのか?」
パピルスがあるのか……。
というか、メイナード王国?
そんなん知らんがな……。
「メイナード王国よりも遠い国ですね。えっと、名前ですがコバヤシ・タロウです。コバヤシが家名でタロウが名前です」
「お前さん、家名があるのかっ!?……もしかして異国の貴族様でしたでしょうか?」
ん?
貴族?
いきなり店主が言葉遣いを改め始めたな。
なるほど、これが身分制度か……。
「いえ、貴族階級ではありませんよ。私の国では誰もが家名を持ってます」
「なんだ……ビックリさせるなよ……こっちの国では貴族階級に連なる者にしか家名は名乗れないから、覚えておいた方が良いぞ。あと、こっちの慣習ならタロウ・コバヤシと家名は後ろに付ける」
「なるほど。ご忠告ありがとうございます。ではタロウ・コバヤシでお願いします」
「あいよ」
店主がガリガリと彫刻刀を使って名前を彫る。
クソほど不便だな。
つーか、木版か……。
「モーリスさん、少し質問があるのですが……宜しいでしょうか?」
「ん?別に構わんぞ、なんだ?」
「その木版、何クローネぐらいで売られているのですか?」
「コイツは2200クローネで買ったな」
「では、パピルスは何クローネぐらいで売られてますか?」
「パピルスなんて買わねーから詳しくは分からんが、少なくとも2万クローネ以上はするぞ?」
「なるほど……」
「なんだ、お前さん。パピルスでも仕入れて来たのか?もしパピルスを売るなら、ハリス商業ギルドに加入した方が良いぞ?」
「ふむ。理由を伺っても?」
「パピルスなんて壁外の街中じゃ、誰も買わねーだろ。なら壁内で商売するしかないだろ。だが商業ギルドに加入しないと、そもそも壁内で商売が出来ないぞ?」
「なるほど……。商業ギルドに加入しようと思います。近くにありますか?」
「ウチを出て右手に進めば、商業ギルドの支店がある」
「ありがとうございます。それと街中で迷宮から取れる魔石は売ってますか?」
「魔石なら冒険者ギルドの隣で売買してるな。商業ギルドより少し先に冒険者ギルドがあるから、そこで買える」
やっぱり異世界には定番の冒険者ギルドがあるのかよ……。
「ありがとうございます。あとすみません。荷物があるので、どなたか荷物運びを手伝って頂けませんか?もちろん荷物運びの代金は支払います」
「ん?代金はいらんよ。ウチのサービスで奴隷たちに荷物を運ばせる。荷物運びだけで良いのか?」
マジか……。
異世界でいきなり奴隷制度と向き合うとは……。
「荷物運びだけで良いとは?」
「お前さんの怪しい荷車の警備は要らないのか?あの大きさだと……最低でも奴隷2人が必要だな。別途料金1万クローネを貰うが、奴隷に昼夜警備をさせるぞ?」
マジか!?
それは助かる!!
余りにも珍しいから、変なヤツらに狙われそうだしな!!
「2万クローネを渡しますので、4人で警備できますか?」
「もちろん大丈夫だ。3日分で良いか?」
「はい。では6万クローネです」
「あいよ。んじゃ、これが部屋の鍵で奴隷たちを呼ぶから、運びたい荷物を指示してやってくれ」
さて、現代人の禁忌である奴隷制度とやらと初対面か……。
資金
60万クローネ




