14話
14話
旅。
そう、旅だ。
俺は『ハッ!』と気が付き、周囲を見回す。
ユーグレナ様の存在感が圧倒的だから、俺の目も意識もずっとユーグレナ様に釘付けだった。
神界ではユーグレナ様以外は、存在感が薄すぎるんだ。
これならイケるか?
どっちが先が良い?
どっちも確証の無いギャンブルになる。
後出しでアウトが来るか?
グレーゾーンだろうか?
女神様たちも危ない橋を渡っているハズだ。
だが、世界の生命体に干渉は出来ないと言っていた。
イケるか?
イケるな。
ロジックは組み立てた。
後は覚悟だけだ。
よし、まずは言質を取りに行くぞ。
「ユーグレナ様。もう一度だけ確認をしたいのですが、私は二度と元の世界には戻れないのですか?女神様たちのお力で何とか元の世界に帰ることは、出来ませんか?一度だけでも良いんです……一度だけ大切な人たちと会えませんか……?」
「小林様……本当にごめんなさい……私たちの力では小林様を元の世界に帰すことが出来ないのです……」
ふにょんと、とても悲しげな顔をするユーグレナ様……。
ぐっ、女神様を悲しませた罪悪感で……アイタタタタタタ!!
胸が物理的に痛ぇ!!
我慢だ、我慢!!
歯を食いしばれ!!
顔にも出すな!!
男だろ!?
この胸の痛みを我慢しろ!!
俺は逃げない!!
絶対に未来を勝ち取るぞ!!
「……では、せめて大切な人たちにだけでも、今生の別れの挨拶が出来ませんか……?元の世界の女神様から、私の大切な人たちにメッセージを送ってもらったりとかも出来ませんか……?たったそれだけでもお願いできませんか……?」
「小林様……申し訳ありません……神界の掟により、基本的に世界の生命体に干渉することを禁じております……メッセージすら送ることも出来ず、申し訳ありません……」
「そうですか……メッセージを送ることすらも出来ないんですね……本当に私は元の世界から完全に拒絶されたのか……お互いに触れ合うことも言葉を交わすことも許されないなんて、元の世界から見たら……まるで私は死者ですね……私から見たら元の世界が死者の国ですけど……」
「小林様……」
「……私の住んでいた国では、死者が大切にしていた物を形見という形で後生大事にする文化があります……ユーグレナ様の世界でも似たような文化はございますか……?」
「小林様……似たような文化はあります……」
「似たような文化があって良かったです……ユーグレナ様、私も触れ合うことも言葉を交わすことも許されない……死者の国となった元の世界の形見が欲しいのです……特にコチラとコチラは、元の世界でも特に思い入れがありました……どうか、これらも私と共にユーグレナ様の世界に持って行けませんか……?私からこれ以上、神様たちの事情で大切な物を奪わないでください……どうか……どうかお願い致します……」
「小林様……少しお待ち頂けますか?」
それまでの悲しげな顔から、覚悟を持った顔になるユーグレナ様。
胸の痛みが治まったよ!!
「ええ、大丈夫です。いくらでも待ちます」
「小林様。ありがとうございます。それでは神々と話をしますので、少しお待ちください…………」
すっ、と目をつぶるユーグレナ様。
くっ、やはり神界の掟に触れるのか?
さすがに文明レベルが違い過ぎるのか?
ってか、ユーグレナ様、目を瞑ってるだけで神界通信が出来るかよ!!
今までの可愛らしい『んー♪んー♪んー♪』は、何だったの!?
ユーグレナ様が目を瞑ってから、どれぐらい経ったのだろうか?
体感的に30分ぐらい過ぎた感じがする。
この暇な時間に3つ目のスキルの候補も立てた。
ある意味、死活問題になる話だ。
凶悪なシナジー効果を生み出す『共有収納』とのスキルコンボを封じてでも、選択しなければならない。
おそらく俺は、このままだと……。
「小林様……大変お待たせ致しました……」
「ユーグレナ様、大丈夫ですよ。それで……どうなりましたか?」
「小林様……神々が集う神界裁判にて最高判決が出ました」
は?
神々が集う神界裁判?
最高判決?
そんな大事になってたの!?
「小林様……神界の掟では異界の物体を世界に持ち込むことを厳しく禁止しております……」
え?
そもそもが禁輸品扱い?
世界に降ろすの無理そう?
「しかしながら……小林様の世界の女神と私の訴えが通り、今回は非常事態の特例措置として遺品・形見として私の世界に送ることが出来ます……」
「マジですかっ!?やったー!!」
「まぁ♪小林様♪そんなに喜んで頂けるのでしたら、神界裁判で頑張った甲斐がありましたわ♪」
「ユーグレナ様、本当にありがとうございます!!ちなみに今回の決定は神界の事情とかで覆らないですよね?」
「小林様♪神界裁判の最高判決ですので、覆ることはありませんよ♪」
「こちらの世界を司るユーグレナ様でもこの最高判決を覆すことは出来ず、履行する義務が発生している形でしょうか?」
「小林様♪その様に考えて頂いて、大丈夫ですよ♪」
よし!!
言質は取ったぞ。
これで後出しが来る可能性は低いハズだ。
あとは、さっさと……。
「なるほど、なるほど。では、そろそろ2つ目のスキルをお願いしたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「小林様♪もちろん大丈夫です♪」
「では、複製スキルをお願い致します」
「小林様♪少しお待ちください♪んー♪んー♪んー♪小林様♪先ほどと同様に複製のスキルオーブをご使用ください♪」
「はい!インストール!って、痛ぇっっ!?」
「あらあら♪まぁまぁ♪小林様♪大丈夫でしょうか♪」
「……だ、大丈夫ですけど、この一瞬バチっとするのはスキルオーブをインストールする度、毎回でしょうか?」
「小林様♪毎回ではありません♪」
毎回じゃないのに、2連続とか運が悪いのか?
それとも最初だけバチっとするのかな?
まぁ、ともかく、あとはスピード勝負だ。




