12話
12話
「ユーグレナ様。先ほどの約200ヵ所の内、奴隷制を採用しているのは、何ヵ所でしょうか?」
異世界モノの定番、奴隷制を聞いておくか。
これで文明度も何となく分かるだろ……。
候補地が少なくなればなる程、文明度は高いハズだ……。
「小林様♪先ほどの約200ヵ所と同数です♪」
あうち。
これは俺が思っている以上に文明度が低い可能性が出てきたぞ……。
「降り立つ世界には国や社会があるとは思いますが、奴隷制を採用していない国や社会はありますか?」
「小林様♪全ての国や社会が奴隷制を採用しております♪」
おいっ!!
奴隷制が当たり前の世界とか文明度はどうなってんだ!?
地球の中世ですら、建前でも奴隷制は否定していたぞ!?
ん?
んんん?
おいおいおい。
まさか……。
「……ユーグレナ様。先ほどの約200ヵ所で10年以上、軍隊を派遣せず戦争に参加しなかった都市は何ヵ所でしょうか?」
「小林様♪0ヵ所です♪」
おいっ!!
候補地の全てが10年以内に戦争に参加して、軍隊を派遣してるのかよ!?
まさか修羅の世界?
みんなヒャッハー!!してるとか?
って言うか、戦争ばかりして経済とか回るのか!?
ヤバいヤバいヤバい。
俺が思っている以上にヤバい世界だぞ。
まずは平和だ。
俺の平和が何より重要だ。
世界に降り立って『ハイ、サヨウナラ』とかありえん。
俺の平和を守るには……。
やっぱり強力な国なり都市だ。
弱小都市に降り立って、いきなり周辺から侵略されて『ハイ、サヨウナラ』とかありえん。
つまり……選択すべきなのは……。
「……先ほどの約200ヵ所の都市で、一番長く他の国や他の都市から侵略されていない都市を教えて頂けますか?」
「小林様♪ラーネル王国ハリス子爵領の迷宮都市ハリスが約300年ほど侵略されたことがないです♪」
王国で子爵とか、封建制の匂いがプンプンするぜ……。
「迷宮都市ハリスの人口と、あとハリス子爵領はラーネル王国での経済規模は上から何番目ぐらいでしょうか?」
「小林様♪人口は城壁内が約1万2000人です♪城壁外も含めると約10万人です♪ハリス子爵領はラーネル王国では上から3番目に位置する経済規模です♪」
よし!!
人口10万人で経済規模が王国上位なら、文明度が低くてもビジネス関係で飯が食えそうだ!!
迷宮でモンスター退治?
自衛ならともかく、日本人に好戦的に戦争とか戦闘とか無理ですわ。
「ハリス子爵領に海はありますか?」
「小林様♪ハリス子爵領に海はありません♪」
え?
海が無いの?
王国自体が内陸国か?
流通とか塩とか、どうしてんの?
もしかして迷宮バブル?
「ラーネル王国では、都市から都市へ商品を運ぶ時は奴隷や馬車を用いてますか?」
「小林様♪奴隷や馬車などを使ってます♪」
だよな。
奴隷を使い潰してそうな予感。
どー考えても文明度は低そうだ。
「迷宮都市ハリスで使われている通貨を教えて頂けますか?」
「小林様♪迷宮都市ハリスではクローネ通貨が使われております♪銅貨、銀貨、金貨、星貨とあり、それぞれ小中大と大きさを変えて利用してます♪小銅貨が1クローネ、中銅貨が10クローネ、大銅貨は100クローネと1桁づつ上がります♪」
あーなるほど?
小銀貨で1000クローネ、中銀貨で1万クローネってことだろ?
ん?
ということは、100,000,000クローネは大金貨1枚か?
下三桁が銅貨で、真ん中三桁が銀貨で、上三桁が金貨だよな?
これはこれで分かりやすいな。
「迷宮都市ハリスの城壁内での1ヶ月の生活費は、貴族を抜いて平均的に何クローネが必要でしょうか?また城壁外での1ヶ月の生活費の平均も教えて頂けますか?」
「小林様♪城壁内は約324万クローネです♪城壁外は約6万クローネです♪」
おうふ。
貧富の格差が酷そうだ。
いや、むしろ城壁内はインフレが激しいのか?
城壁内という限定された土地過ぎて、資産バブルが発生しているというか……。
さて、攻めるか……。
「ユーグレナ様。私は全くクローネを持っておらず、例えば迷宮都市ハリスに降り立ったとしても、右も左も分からず生活が出来ません。人間にはお金が必要でして、いくらか生活費を恵んで頂けないでしょうか?」
「小林様♪少しお待ち頂けますか♪んー♪んー♪んー♪小林様♪お待たせしました♪小林様の世界の女神から神力を分けて貰いました♪世界に降り立つ前に100万クローネを渡します♪」
きたっ!!
やっぱり何でも言ってみるもんだっ!!
でも『んー♪んー♪んー♪』と可愛らしく神界通信してたし金を出すのに神力を使ってたし、神界の掟的にグレーゾーンなのか?
ってか、今更だけど神力って何?
神力が無いと、お金が出せないの?
それにウチのポンコツ女神から神力を貰ってるのは……。
事故の責任者はウチのポンコツ女神だから?
『お前んとこの迷い子なんやから、お前が神力を出せや!ウチはビタ一文、神力を出さへんで!』って感じか?
ユーグレナ様、何気にドライな性格なんかな?
「……ありがとうございます。私の世界の女神様にも感謝の気持ちとお礼をお伝え願えますか?」
「小林様♪お伝えしておきます♪んー♪んー♪んー♪」
さて、資本金も揃えたし、そろそろ人生設計に沿ったスキルを選択しに行くか……。
「ありがとうございます。私が迷宮都市ハリスに降り立った時、私の世界の言語で相手に言葉や文字が通じますか?」
「小林様♪言葉や文字は通じません♪また降り立つ世界の全ての国や社会で通じません♪小林様が頑張って現地の言葉を覚えるしかありません♪」
だよねー。
日本語が通じるわけねーよな。
「ユーグレナ様。スキルで言葉や文字が通じるようになりますか?また、それはスキルオーブでも取得できますか?取得できるなら、迷宮都市ハリスに降り立って直ぐにそのスキルオーブを私は取得できますか?」
「小林様♪言語理解のスキルで可能です♪また言語理解のスキルオーブでも取得可能です♪神界の掟により、基本的に世界の生命体に対しては直接的に関与は出来ません♪」
ん?
んんん?
今、重要な情報がまた出たよな?
基本的に世界の生命体には直接的に関与出来ないのか?
つまり依怙贔屓できない?
いや、間接的には関与できるのか?
今、俺に直接的に関与してるのは神界だから?
ルールの隙間、いわゆるグレーゾーン?
もしかしてユーグレナ様も俺の世界の女神も、結構危ない橋を渡ってる?
「……それは動物とも言葉が通じるスキルでしょうか?」
「小林様♪違います♪動物と心を通わすスキルはユニークスキルにあります♪」
なるほどね……。
さて、異世界人生の最初の選択肢だ。
言語理解スキルってヤツを、ここで覚えるのか?
スキルオーブで取得するまで、現地の言葉を自力で覚えるのか?
二つに一つだ。
言語理解スキルをここで覚えたなら、ユニークスキル枠を一つ潰す形になる。
だが、初期から言語が話せる。
圧倒的な時間短縮のロケットスタートだ。
スキルオーブと自力学習を選択した場合、数週間は言語が全く分からず右往左往。
モノの相場も分からず、現地の人間に喰い物にされるよな。
頭お花畑な物語なら、言語が分からなくても親切な人間が手取り足取り世話してくれるのだろう。
だが、戦争と差別が蔓延している世界だ。
淡い夢を見たら死んでしまうだろう。
これ以上、考える必要も無いよな。
ユニークスキル枠を一つ潰してでも、言語理解スキルは取得しておくべきだ。




