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69   あらゆる暴力は暴力によって覆される(後)

吾輩があの嘘つきと出会ったのは、必然であったように思う。

 我が姉上はフォカッチャ王国最強と謳われ続けることを願い、あの嘘つきは獣人に寛容的なベーグル王国を存続させるために動いていた。

 オスカル王子の野心は母親によって増長され、ついには戦争にまで発展した以上、両者が邂逅することは必然であり――であるならば、やはり吾輩とあの嘘つきが出会ったのも必然であったと言うべきであろう。

 ……吾輩は最初から負けていた。

 興味を惹かれるままに馬車のわだちを追いかけたことを後悔したが、成人すらしていない以上、姉上が吾輩を戦場に連れていってくれることなどあり得なかった。

 せめてあと三年早く生まれていたら……!!

 吾輩は決して、姉上にあの嘘つきを会わせることなどさせなかったであろう。

 それほどまでにあの嘘つきは危険であり、姉上やマルティーナがあの嘘つきを信用する姿は、吾輩の目には異常に映った。

 なぜ、姉上はあんな者を信用するのであるか?

「俺がこの力を得てまだ一年ほどだが、様々な者と出会って、一つ、傾向のようなものは感じている。憎悪を燃やしている者、鬱屈したものを秘めている者、明日への不安を抱えている者、身に余る重荷を背負っている者――そういった、『心に影のある者』は、俺の言葉を信じやすく、俺のことを信用しやすい。まあ、貴様も知っての通り、影を操る力だしな。そういうことなんだろう。つまり、ああ見えて、貴様の姉も心に影があるわけだ」

 その答えは、意外にも嘘つき本人からもたらされた。

「……そんなことを吾輩に教えて良いのであるか? それとも、吾輩も『ケイン傭兵団』のようにするつもりであるか?」

「ふむ……まあ、それは簡単だが、子どもで試したことはなくてな。どのような影響が出るかわからん。もしかしたら、何年経っても成長せんという可能性もある」

「……! そ、そのような脅しに屈する吾輩ではないのである……!!」

「いや、脅したつもりはなかったんだが……。どのような影響が出るかわからんから、それなりの地位にいる貴様に使うつもりはないということだ」

 要するに、あの嘘つきは、不特定多数に自身の力がバレることを避けたい、と言いたいようであったが、それが嘘ではないという証拠はないし、仮に本当のことであったとしても、いつ心変わりするかわかったものではない。

 しかし、それでも確かなことはある。たとえそれがどれほどの嘘つきであったとしても。

 ベーグル王国の存続と、フォカッチャ王国の変革――獣人に寛容的な国を残し、さらに増やそうという試みが、いったい、どんな邪悪な目的につながっているか知れないが、あの嘘つきがそれらのために動いていることは確かであった。

 だから――

「もしも我が姉上を志半ばで死なせるようなことがあれば、吾輩の生涯全てをかけて汝を呪ってやるのである」

 だから、あの嘘つきは、「フルザキ公爵軍がとんでもない災厄を隠しているのである!!」という吾輩の言葉を歯牙にもかけないなどという愚行はしなかった。

 だから、あの嘘つきは、災厄の咆哮が戦場に轟き、「――……遅かった、であるか…………」と吾輩が絶望に呑まれても、ため息一つだけで再び立ち上がらせた。

 だから、あの嘘つきは――災厄がその威容を明らかにしてなお、吾輩にただ「問題ないな」と返して、災厄へと立ち向かっていく。




 人類など矮小な存在に過ぎないと、ただ姿を見せるだけで証明し得る圧倒的な巨躯。

 全身を覆う鱗は陽光に煌めき、大空すらつかめそうなほどに広げられた翼は、その皮膜をもって太陽を隠す。

 咆哮と共に解き放たれるブレスは大地に事実を焼き付けるであろう。トカゲに似た姿でありながら、それは全く別格の生物なのであると。

 すなわち――ドラゴンとは、天空の覇者であった。




 そして吾輩は戦場にいた。

「だから何でであるか!!?」

「ドラゴンだぞ、クラウディオ! 滅多に見れん討伐難易度S級のモンスターだ! しかもそれが戦う姿など、一生に一度見れるかどうか! これを間近で見んなどあり得ん!!」

 ……言わずもがな、今回も原因は我が姉上であった。

 正確にはケルツェ平原の中央からやや西寄りに掘られた塹壕の中に吾輩はいる。

 そして、興味を惹かれたら吾輩以上に突っ走る姉上は、隣で爛々と瞳を輝かせながら力説していた。

「しかし、あやつが失敗したらどうするつもりであるか? まさか、姉上が戦うとでも?」

「……いや、それはない。……あのドラゴンは反乱軍が用意した切り札だろ? ならオレが戦う理由はねえよ」

「……なら何で完全武装してきたであるか? 王族の証であるブレスレットを対価に差し出してまで」

「そりゃ、いざとなったらオマエを守らなきゃならんからな」

「…………そうであるか……」

 ならば吾輩を連れてこなければ良かったであろうに、という言葉は努めて呑みこんだ。姉上を困らせてしまうのは明白であったからである。

 つまり、弟を言い訳に使い、危険に晒してでも、姉上はドラゴンと戦わなければならなかった。なぜなら、今、ベーグル王国軍の陣には、「緋色の戦士団」が捕らわれている。

 すなわち、ドラゴンに人類一人ひとりの差異がわかるであろうか? という疑問こそが理由であった。

 答えは「否」であろうな。

 フルザキ公爵とやらは知らないが、オスカル王子はどうにもそのことを理解しているようには見えなかった。

 おそらく、あの紺碧のドラゴンは、南に集まっている人類は好きにして良いとか、そんな大雑把なことしか理解していないであろう。

 このままでは、「緋色の戦士団」はベーグル王国軍とともに滅ぼされる。それが嫌なら戦う他ないのである。

 しかし……ベーグル王国軍が吾輩の他に連れ出すことを許したのは、クラリッサという明るい茶髪に黄色い瞳の者だけであった。しかもエレオノーラとの交換で。

 姉上は、本当はマルティーナを連れ出したかったようであるが、ベーグル王国騎士団は長と副官を同時に解放することをさすがに拒んだ。まあ、理由が石砂魔法で塹壕を作るためであるからな……。

 そして吾輩は、突撃槍を握った時に姉上が若干顔をしかめたことにも気付いていた。どうやら左手が気になるようであったが……。

 さて、問題のドラゴンであるが、実を言うと、まだベーグル王国軍と衝突してはいない。

 今はケルツェ平原のど真ん中であの嘘つきと対峙している。

 吾輩が白旗を振ってベーグル王国軍に降伏し、姉上もしくは姉上を捕らえた者達との面会を求めたところ、許されたのはやはり後者だけであった。

「つまり、汝が単独で『緋色の戦士団』のみならず、我が姉上まで捕らえたと……?」

「そうだ。信じる信じんは勝手だが、ベーグル王国軍にとってはそれが事実だ」

 まあ、それがたった一人であったのは、まさかという思いであったが。

 真偽はともかく、伝えるべきことは伝えなければならないと、吾輩はフルザキ公爵軍が山の中の洞窟にドラゴンを隠していることを話した。おそらく、餌付けされているとも。

 しかし、ベーグル王国の騎士団長は一顧だにしなかった。まあ、敵国の王子の言葉を鵜呑みにする者はそうそういないであろうな。

「……一つ訊くが、なぜ餌付けされていると思った?」

 そうではなかったのは、ザインザード・ブラッドハイドと名乗った男――あの嘘つきだけであった。

「骨があったからである」

「ブラッドハイド、放言に付き合うな」

「いや、騎士団長殿、反乱軍がさほど動かん理由として、何らかの切り札を隠し持っているからというのは得心がいく。ドラゴンという言葉のみで嘘と決めつけるのは早計だろう」

「うぅむ……」

「で、それは何の骨だったかわかるか?」

「人骨であったのは確かである」

 そう言った瞬間、ベーグル王国の騎士団長の表情が少し変わった。

「しかし、種族までとなると……」

 気が動転していたであるからな……。細部まで見る余裕はなかった。

 それでも、思い出せることは……。

 人間にしては全体的にやや大きく太めであった。

 角はなく、牙があり、翼らしき骨はなく、尾らしき骨はあった。

 そして――……耳の穴が……。

「……いや……十中八九、獣人であるな」

「本当か?」

「うん?」

「本当に獣人の骨だったんだな?」

「あくまで十中八九であるが……」

 ベーグル王国の騎士団長が、なぜ「獣人の骨」かどうかにこだわるのかはわからなかった。

 しかし、その直後、天幕の隅でベーグル王国の騎士団長とあの嘘つきが小声で話している中に、「オルシュテン伯爵」という言葉があったことは確かである。

 ――ドラゴンの咆哮が戦場に轟いたのは、そのさなかのことであった。

「何だ!?」

 動揺するベーグル王国の騎士団長を放置し、吾輩と嘘つきは天幕の外へ飛び出した。

 その時にはもう、北の空に紺碧の威容が現出していたのである。

「なるほど、貴様の言は確かだったらしい」

 遅かったという事実に打ちのめされ、絶望に呑まれた吾輩とは違い、嘘つきはそれでもあくまで冷静であった。

 そして短いため息が一つ。

「別に手遅れではないんだがな」

「……どこがであるか……? 相手はドラゴンであるぞ。小国にとっては、あらゆる力を結集してなお、勝てるかどうかわからない存在である。……あの連中は、それに人の味を覚えさせてしまった。今、ここで確実に倒さねば、その災厄は北方小国家群全てに及ぶであろう」

 いったい、どれほどの者が犠牲になるか……。

 であるというのに、フォカッチャ王国最強の姉上は未だ捕らわれの身。武器を持つことすら許されずにいる。

「たとえ、汝が姉上より強くとも――決して勝てない。それがドラゴンという存在である」

「たたかい方次第だと思うが」

「何……?」

「まあ、見ていろ。――領域(ゾーン)

 嘘つきが右腕を横に振るうと、その足下から地面が真っ黒に染まっていく。

 それは当然、そばにいた吾輩の下にも広がったが、地面の感触は何ら変わらなかった。

 これは――影、であるか……?

 直径二十メートルほどの円に広がったところで、嘘つきはケルツェ平原の中央へ向かって歩き始めた。それに合わせて、影の円も移動していく。

「騎士団長殿! 兵を退かせろ!」

「はあ!? ブラッドハイド、何を――」

「退かせろ」

「――…………わかった」

 どこか寒気がするような威圧をもって、嘘つきはベーグル王国の騎士団長の首を縦に振らせた。

「さて……俺の予想通りだといいんだが……。――巨人(タイタン)

 そして吾輩は、黒き巨人が屹立(きつりつ)するのを見た。




 で、事態を把握した姉上がごねにごねて、ついには王家の証であるブレスレットすら人質代わりとして差し出し、なぜか吾輩も戦場のど真ん中に連れてきたわけであるが……。

 そもそもなぜここなのかというと、不思議なことに、それまで一直線に南へ向かって来ていた紺碧のドラゴンは、黒き巨人が現れると同時に速度を緩め、ケルツェ平原のど真ん中に降り立ったからである。

 それだけ黒き巨人を警戒しているということなのか、それとも別の理由があるのかは定かではない。

 ただ一つ言えることは、ドラゴンと巨人の対峙を両軍共々邪魔する気はなさそうということである。

 先に動いたのは嘘つきの方であった。

「俺はザインザード・ブラッドハイドという! 貴殿は神淵龍の系譜に連なる者で相違ないか!?」

 ――……いや、あやつ、なぜ普通に名乗っているのであるか?

 通じるわけないであろう……、と予想外の行動に呆れ、

『わーお、よく見たらこれガワだけじゃん。ってことはそっちのアンタが本体? レベル高そ~。もしかしてアァシの声も聞こえてたりする? するする?』

 しかし、めちゃくちゃノリの軽い少女のような声に、吾輩はポカンとすることになった。

「ああ、聞こえている!」

『マジ!? やっと話できる人間に会ったわ~。もうさ~、偉そうな人間もうるさい人間もアタシの声聞こえなくてさ~、マジダルだったんだよね~……』

「それは大変だったな!」

『あ、おっきな声出さなくてもOK。もぅ調整したし~』

――(そうか)――――(それは助かる)

 そこで嘘つきが何と言っているか聞こえなくなった。

『OKOK聞こえる聞こえる。でさ、話の続きなんだけどさ~、ソイツら、生贄とか供物とか言って毎日毎日寝床に獣っぽい人間連れてくんの。しかも殺すだけ殺して置いてくしさ~……。ったく、アァシ、魚しか食べないっての! あ、今日も何かソイツらがコッチ行けってうるさくってさ~……。ってか、アンタはここで何してんの? 他にも人間いっぱいいたけど……お祭り?』

――(いや)――――(戦争をしている)

 首を横に振ったであるな。

『え、マジ!? うわ~……アンタらってさ、ホント、そういうとこあるよね……。誰が勝ってもどうせいつかは負けるんだし、仲良く日向ぼっこでもしてたら?』

――(確かにな)

 笑って頷いているであるな。

『でしょでしょ? あ、海にプカプカ浮くのもいいっしょ! 魚も食べ放題だし♪』

――――――(くはは、それもいいな)――(だが)……、―――――(貴殿は今、戦争に)―――――(利用されている)

『え……??? え、ちょ、え……それマジ?』

――(ああ)――――――(南はこの国の軍)――――――(北は別の国の軍)――――――(戦争の真っ最中だ)

 大きく頷いて、南を指したあと、北を指したであるな……。

『うわ……マジ腹立つ。激おこぷんぷん丸だわ~』

――――(意趣返しする)――――(気はないか)?」

『ん~……』

――――――(このままでは同じ)――――――(ことが起こりかねん)

『あ~、それもそっか~……。でも、あんま人間に関わるなって大祖母ちゃんに言われてるしな~……』

――(ふむ)……――――(無論、礼はするが)?」

『ん~……もう一声』

――(わかった)――――――(魚と宝石を用意する)

『OKOK、約束したかんね、ザドっち♪』

 ザドっち!??

 衝撃的なあだ名に戦慄している間にも事態は進行していく。

 紺碧のドラゴンは大きく口を開けると、勢いよく空気を吸い込み始めた。

 何が起きているかわからない両軍にとっては、ついにドラゴンと巨人の戦いが始まるかのように見えていたであろう。ドラゴンの声(と思いたくないほどノリが軽かったであるが)しか聞こえていなかった吾輩や姉上もそう思っていた。

 しかし、ついにその肺がいっぱいになった瞬間、紺碧のドラゴンはクルリと方向を百八十度変え――


『GUOOOOOOOOOOOOoooooooo――――――――!!!!!!!!』


 ――フルザキ公爵軍とフォカッチャ王国軍へ向けて咆哮した。

 完全に油断していたであろうあの連中が腰を抜かすところを見られなかったのは残念であったが、吾輩はその時、それ以上に、先ほどまで咆哮であると思っていたものがそうではなかったという事実に驚愕していた。あとであの嘘つきに訊いたところ、吾輩が咆哮であると思ったそれは、その実、ただのあくびであったらしい。

 真の咆哮を間近と言える場所で聞いた吾輩は、この天空の覇者を餌付けできると思ったオスカル王子の愚かさを思うと同時に、餌付けされていると思い込んだ自身の愚かさを実感した。

 それほどまでに、ドラゴンが全力をもって放った咆哮は圧倒的であったのである。

――(ふむ)――――(まあ充分だろう)――――(魚は少し待っ)――――(てほしいが)――――――(宝石はこの場で渡そう)

 顔色一つ変えず見届けた嘘つきは、懐から紅く光る何かを取り出し、それをドラゴンに見せると、差し出された手の上に置いた。

『んん~……? これって?』

 二十メートルほどの大きさからすれば、あまりにも小さいその何かを見つめ、ドラゴンは不満と言うよりも純粋な疑問を浮かべたような声を発した。

 嘘つきは少しの間、その何かについて説明していたが、

『へえ~、結構、貴重なものなんだ。じゃ、アンタの名前もここにちょーだい♪ そっちの方が自慢できそだし』

 どうやらドラゴンはそれで満足したようであった。

 いったい、何を渡したのかと思えば、オベリスク都市国家連合の遺跡都市アメンの王が、実力や技術、功績などを認めた者に送る褒章であったらしい。つまりは、手放す者など本来いるはずもないもので、北方小国家群では決して手に入らず、ドラゴンの身であればなお手に入らないであろう貴重なものであるな。

――(ところで)――――――(獣人達の死体は)――――――(どうしたんだ)?」

『ん~……放っとくのもかわいそだしさ、寝床の奥に穴掘って埋めたんだよね……。一度、そんなの要らないって追い返したんだけど、次の日、もっといっぱい連れてきてさ~……。しかも、肉だけに加工までしてきたんだよ!? ホント、大祖母ちゃんがあんま人間に関わるなって言ってた理由がわかったわ~……。アンタは別だけどさ、人間ってホンットに勝手だよね!!』

 その後もドラゴンは人間に対するいろいろな不満をぶちまけていた。

 しかし、そうなると吾輩が見たあの人骨の山は何だったのであろうか……?

――――(骨の山があっ)――――(たそうだが)?」

『ああ、あれ? 魔法でちょちょいと。こんな感じで』

 うわあ、急に人骨の山ができたのである!

 とまあ、最後にまたしても吾輩は驚かされ、誰一人死ぬことなくドラゴン騒動は終わった。




「なぜ、あのドラゴンと戦わなかったのであるか?」

「ん? いや、たたかってはいただろう。あのドラゴンを説得するというたたかいだがな」

 なるほど、たたかい方次第、とはそういう意味であったか……。

「あらゆる暴力は暴力によって覆される。ならば暴力によらないたたかい方をすればいい。俺は一つの解決方法を実践したに過ぎん。……いや、むしろ、暴力しか解決方法がないという状況はそうそうない。どんな状況であっても、一度は立ち止まって考えることだ。声高に暴力を叫ぶのは、知識が足りず、理解力に乏しい証拠だしな」

「チッ……!」

 後ろから大きな舌打ちが聞こえた。

 まあ、姉上には耳の痛い話であろうからな。

「知っていたのであるか? あのドラゴンが魚しか食べないと」

「青系統の鱗は神淵龍の系譜である証。ならば可能性は高いと思ったまでだ」

 神淵龍……その名はもはや神話の中にしかないはずであるが……。

「……実在するのであるか?」

「ああ、北の果ての海にな。おそらくは、今も」

 その確信があったからこそ、命を賭けることに躊躇しなかったということであるか。

 こうして吾輩は知識を増やし、また一つ学んでいく。

 一方、内戦は吾輩の予想通りとなった。

 姉上が捕らわれて士気が低下していたフォカッチャ王国軍は、ドラゴンの咆哮をまともに浴びたことでさらに士気が低下。ベーグル王国軍の陣から黒き巨人が現れたこともあり、もはや収拾がつかないほどに嫌戦感が広がってしまったらしい。

 父上もこれは無理であると悟ったのか、「緋色の戦士団」の解放を条件に即時撤退を約束した。

 なお、吾輩について特に言及はなかったという。

「何でであるか!??」

「いや、もちろん、クラウディオ王子がこちらにいることは伝えたとも。けど、『知らぬ』の一言だけでね」

 そう言って、交渉役として父上と話したジェシェフ伯爵は肩をすくめた。

 要するに、「勝手に降伏したバカの面倒は見ない」ということであるな。

 であるが……、

「ち、父上~~…………!!」

 結構、頑張ったと思う吾輩に対して、あまりにも冷た過ぎる対応ではないであろうか……。

 その後、吾輩を追い出すか連れていくか放置するかでベーグル王国の王や諸侯が話し合い、そこに「クラウディオが残るならオレも残る!」と姉上が突撃して、一悶着あったであるが、結局、吾輩も「緋色の戦士団」とともに祖国へ帰ることになった。ベーグル王国の王都ザンベグルへ連れていっても仕方がないということもあるであろうが、姉上が言うには、それ以上に内戦という形で終わらせることが重要であるらしい。

 ……オスカル王子がどうなったかを吾輩は知らない。いや、正確には、聞いていないだけで、十中八九死んだであろうなとは予想している。

 しかし、フルザキ公爵については最後まで抵抗したらしいと風の噂で聞いたが(結局、一度も対面しなかったであるな)、ただ担がれただけの王子のことなど、当たり前のように早々に忘れ去られ、相変わらず城の図書室で本を読んでばかりいる吾輩の耳に、その行方が入ることは終ぞなかった。

 細かい話は活動報告にて。

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