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61   虎より威のある狐はいるか(前)

 奴が我々の前に現れたのは、ある晩春の日の早朝だった。

 その日、俺はいつも通り、酒場のカウンターで前日の上がりを数え、ボスに上納する分と、自分の取り分とを分けていた。「棺桶屋」という名の酒場のマスターが俺の本業だからだ。

 ウチのボスはどうにも金に無頓着で、定期的な上納金の額は他に比べてだいぶ低い。だからこそ俺ら幹部から下っ端連中まで慕っているんだが、おかげで組織の規模はフォカッチャ王国キコリッティ侯爵領の領都コテッリを拠点とする組織の中で最も小さく、ボスに相応しい生活をさせられているかというとそうでもない。

 かといって、上がりの多い俺ら幹部が自主的に上納しようとしても、自分のために使えと言って受け取りやしないんだから困ったもんだ。

 仕方がないから、ボスが金に無頓着なことを利用して、何人かの幹部でボスの金庫の金を勝手に増やしている。

 その日、分けていた分もその勝手に増やしている分というわけだ。

 だから、客の来店を告げるベルがカランコロンと鳴った時、俺は非常に気分を害した。

「……表の札が見えなかったか? まだ準備中だ」

「無論、わかっている。だが、こちらには時間が無くてな。それに内容が内容だけに、余計な者はおらん方がいい。とはいえ、貴様らにも貴様らなりのルールがあることも理解している。故に――」

 再び、客の来店を告げるベルが鳴った。

「――言い訳できる人物を連れてきた」

「毎度どうもでございます」

「チッ……」

 声だけで誰が来たかわかるような奴を連れてこられては、思わず舌打ちも出るというもんだ。

 金を置いて視線を上げれば、この街で二番目に敵に回してはならない男が丸つばの帽子を軽く持ち上げていた。

 コルネリオ=フェルディナンド。

 正確な年齢は知らないが、髪にも口髭にも白いものが混じっている。たぶん同年代か少し上くらいだろう。

 この領都コテッリで、いつも全身真っ黒な服を着ているのは、葬儀屋かこのコルネリオくらいだ。一度、なぜいつも真っ黒な服装なのかウチのボスが尋ねたことがあるんだが、その時、コルネリオは「血や(すす)がついても目立ちませんので」と答えた。ボスはその答えに納得し、俺ら幹部は顔を青ざめさせ、下っ端連中はきっと別の理由があるに違いないと噂した。

 奴の職業を知りながらも下っ端連中がその答えを信じなかったのは、コルネリオがいつも物腰柔らかで、キレたところを見たことがないからだ。だが、ボスや俺ら幹部は知っている。コルネリオがどうやって「商品」を集めているのかを。

 何しろコルネリオ=フェルディナンドという男は、私兵を使って数多くの獣人を攫い、違法奴隷として売りさばいてきた奴隷商人だからだ。

「さすがにコルネリオさんを連れてこられたら断るわけにはいかないな……」

「ありがとうございます」

 コルネリオは帽子を被りなおして軽く会釈すると、店の外へ出ていった。表に馬車でも停めてあるんだろう。

「……つまり、用があるのはあんたらか」

 言いつつ、コルネリオを連れてきた迷惑な客を改めて見る。

 二人の若い男だった。

 一方は背が高く、癖の強い青い髪に空色の瞳をしていた。冒険者がよく着けている革鎧で身を固め、大剣を背負っている。パッと見だけでも、かなりできる。

 もう一方は中肉中背で、この辺じゃ珍しい黒い髪に、金色の瞳を鋭く光らせていた。こいつも全体的に黒い服装だったが、コルネリオとは違い、ところどころに白も入っている。武器らしい武器は持っていない。だが、多少はできる。……格闘家か?

「まあ、座れや」

 俺がそう言うと、黒髪の方はカウンター前の席に座ったが、青髪の方は立ったままだった。

 なるほど、黒髪の方が頭で、青髪の方が腕――というより、用心棒か?

「ザインザード・ブラッドハイドだ。ザインでいい。横にいるのはマックス」

「レオポルドだ。何か飲むか?」

「ではオススメのリキュールを」

「……オレはエールでいい」

 二人にそれぞれ酒を出し、俺も自分で白ワインを注いで一口含む。

 リキュールにエールか……。

 青髪の方――マックスは、どうやら叩き上げのようだ。自分の実力だけでのし上がってきた奴は、高い酒を飲み慣れていないから、不意の時には最も飲み慣れている安酒を頼んでしまう。

 一方、黒髪の方――ザインは、それなりに裕福な家の出らしい。立ち振る舞いは貴族のようにも見えるが、奴らはこんな路地裏の酒場じゃ酒など頼まれても飲まない。だが商人の匂いもしない。貴族と交流を持てるほどの武術家とも思えない。となるとあとは……格闘家と見せかけて実は魔法師か、自ら外に出る研究者か。

「――で、用件は?」

「二つある。一つは商売の話だ。鞘四十本に蛇の彫刻を入れたい。期限は明日の昼まで。出来は問わんが、蛇だと確実にわかる程度は欲しいな」

「……腕はそこそこだが仕事の早い彫刻師を二人紹介しよう。代金はそいつらと決めてくれ。紹介料は代金の一割だ」

 鞘に蛇の彫刻か……。

 それくらいコルネリオに頼めば良さそうなもんだが、あいつと関わりのある彫刻師は名の売れた奴しかいない。

 何のためか知らないが、おそらく誰が彫ったかわかっては困るんだろう。

 蛇と言えばフォカッチャ王国の象徴だしな。

 組織と付き合いのある彫刻師から裏仕事でも気にしない二人を選び、名前と住処を紙に書いてザインの前に置く。

 ザインはそれを手に取ったが、そのままマックスに渡し、マックスはエールを一気に飲み干すと内容も見ずに店を出ていった。

 その後すぐに、馬車が去る音が聞こえたが、マックスは戻ってこなかった。

 どうやら用心棒かという俺の予想は外れていたらしい。

 一人だけで残るとは不用心な気もするが、今はまだ客だから害されることはないと踏んだんだろう。

「……もう一つは?」

「取引の話だ。俺は明日、領都コテッリを離れ、夏の半ばにまた訪れる。その日から一カ月間、ある噂を流してほしい」

「噂?」

「内容はその時に教える」

 妙な要求だが……コルネリオを連れてきた奴だしな……。

 聞くだけ聞くか。

「……見返りは?」

「情報だ。貴様らが信じれば大儲けできる」

「それだけじゃ話にならないな」

 詐欺師の常套句に対し、首を横に振る。

 だが、ザインが次に発した言葉に、俺は興味を惹かれた。

「ベーグル王国のオルシュテン伯爵が自死したことは?」

「……初耳だ」

 だが、この情報だけで大儲けできるわけじゃない。これはまだ小出しして良い情報。ただでくれてやっても良い情報。つまり、調べればすぐにでもわかる情報か、もうすぐ大々的に広まる情報だ。

 ザインが見返りにすると言った情報は、そこからつながる何かのはず。

 ベーグル王国の話をフォカッチャ王国の我々にするということは、両国に何かしらの関係があることだろうが……。

 そもそもオルシュテン伯爵というのはどんな奴だ?

 いったい、誰を殺せば儲かる?

 ……わからない。

 俺だけじゃ判断ができない。

 となれば……、

「……なぜ我々に?」

 こいつはコルネリオとつながりがある。

 ただ殺すだけなら、コルネリオの私兵や奴が抱える殺し屋でもできる。それこそ、さっきのマックスでも良い。

 だから、わざわざ我々に頼む理由があるはず。

「貴様らを選んだ理由はいくつかある。キコリッティ侯爵とつながりがないこと。領軍相手でも最低限自分の身を守れること。それなりの頭数があること。……まあ、それくらいか」

「その条件ならコルネリオさんでもいいはずだ」

「コルネリオを選ばなかった理由か……」

 あのコルネリオを呼び捨てだと……!?

 俺がチクったらと考えないのか、こいつ!?

「言ってもいいが、貴様はボスではないだろう。言わば取りまとめ役――要はただの窓口だ。責任を取り切れるのか?」

「責任? 俺の責任は役目を果たすことだけだ」

「では、返答次第で俺を敵に回す責任を負った上で聞け。――いずれ消える者を選ぶことなどあり得ん」

「……!!!」

 今――こいつは何と言った……!?

 コルネリオが消える?

 あの奴隷商人が?

 質の悪い冗談――いいや、そんなわけないな。

 ……さて、どう――

「っ」

 ――その時、今、考えても不思議なことなんだが、すぐに返答すべきだと俺は直感した。

 そうしなければ――死ぬ、と。

「――わかった……ボスに会わせる」

 そんな俺に、ザインは薄っすらとした嗤いを返した。




 古びた木製の扉を開け、薄明かりしかない廊下の途中で左に折れる。その先の階段を上がり、ここで少し待てと告げた。

 一人で先に進み、突き当たりをさらに右へ。

 廊下の中ほどにある両開きの扉の前で止まり、三、一、二のリズムでノックする。

「ボス、客だ」

「――ちょっと待って! …………うん。いいよ、通して」

「はいよ」

 足早に階段まで戻り、待たせていた客――つまりザインを連れて、再び扉の前へ。

 今度は普通に二回ノックし、右側の扉を開ける。

「連れてきたぜ」

 先に部屋の中へ入り、右に避けてザインを通す。

 部屋を軽く見回したザインの目に疑問が浮かぶのが見えた。

 気持ちはよくわかる。

 ここは一見じゃ、何をする場所なのかよくわからないところだ。

 部屋の奥には、人が余裕で隠れられるほど大きな木の板が山積みされていて、部屋の主の後ろにある机の上には彫刻刀が並んでいる。にもかかわらず、部屋の中には絵の具の臭いが満ちていて、だが紙の(たぐい)はどこにもない。

 まあ、それもボスが名乗るまでだろうがな。

「――ようこそ、ボクのアトリエへ。キミは……初めましての人だね。うん。ボクが『棺桶屋』のボス、レオポルドだ」

「レオポルド……?」

 いぶかしげにザインが俺をチラリと見た。

 その気持ちもよくわかる。

「そ、レオポルド。ボクもレオポルド。カレもレオポルド」

「……ややこしいな」

「だろう?」

「「でも(だが)それがいい」」

 奇しくも声の重なった二人はキョトンとして目を合わせた。どちらにとっても意外なことだったらしい。

 まあ、ボスの目は閉じているか開いているかわからないくらい細いから、あくまで俺が思っただけだがな。

「……ザインザード・ブラッドハイドだ。ザインでいい」

「よろしく、ザイン。キミとは気が合いそうだね」

 ボスは朗らかにそう言ったが、互いにどこが良いと思ったのかという話になった途端、似て非なる点から評価していたことが明らかになった。

「ボスと取りまとめ役の名が同じであれば、容易に敵対組織を困惑させられる。どれだけ痛めつけても自白剤を飲ませても、『ボスの名はレオポルド』と、敵対組織からすればただの窓口に過ぎない者の名しか吐かん」

「ボクもレオポルド、カレもレオポルド。幹部の皆がボス呼びをやめて会話すると、盗み聞きしている人は段々段々混乱してくる。その顔を見るのが実に楽しいんだよ、うん」

 言うまでもなく、前者がザインで後者がボスだ。

「……もしや、『棺桶屋』という名も狙いは同じか?」

「そ。組織の名前も『棺桶屋』、窓口である酒場の名前も『棺桶屋』、そしてボクの本業も『棺桶屋』。うん。もちろん、先代も同じさ」

「そこまで俺に教えてしまっていいのか?」

「レオポルドが連れてきた人だからね。うん。それに言っただろう? キミとは気が合いそうだって」

「ふむ……」

 ボサボサで跳ねまくった濃い紫色の髪。絵の具汚れだらけの灰色の作業着と、その上から肩に掛けただけの黒いコート。痩身でありながら筋肉質な肉体。そして非常に細い目。

 それが我々、「棺桶屋」のボスだ。

「それで? レオポルドが連れてきたってことは、ただの依頼じゃないんだろう?」

 この問いはザインに向けられたもんじゃない。客に二度同じ説明をさせるなどあり得ない。

 だから俺が聞いた限りのことを話した。

 もちろん、あの奴隷商人コルネリオ=フェルディナンドが消えるとのたまりやがったことも。

「う~ん…………正直なところ、お金儲けには興味ないんだよね」

 しばらく悩んだ末、ボスが出した結論はそれで、

「でも九割方受けてもいいかなって思ってる」

 二言目にはひっくり返した。

「だって要求が面白いじゃん。ある噂を流してほしい、何それ? って感じで。内容を教えてくれないのも実にいい。キミが何者なのか全然わからないのもホントにいい。うん。すごく琴線に触れる」

 先ほども言ったが、ウチのボスは金に無頓着だ。

 よくわからない理由でよくわからないもんを大金はたいて買ってくるなんてザラだ。

 先代も似たような感じだったが、ボスはさらに酷い。

 毎度毎度、肝が冷えるような金の使い方しかしない。

 ……まあ、その一年後くらいに、さらに大金はたいて買いたがる奇特な奴が現れるのもザラだが。

「……ボクは損得とか金勘定とか全然わからないからさ。うん。そういうのは全部レオポルドに投げてる。――だからボクが欲しいのはキミという人の言葉なんだよ、ザイン」

 それでも俺ら幹部や下っ端連中がボスと慕うのは、ボスも先代も「人を見る目」がずば抜けていたからだ。

 ボスがよくわからない理由で買ってきたよくわからないもんはさらに大金で売れた。

 それと同じように、ボスがよくわからない理由で殺した下っ端は全員裏切りで、ボスがよくわからない理由で助けた奴は良き隣人となった。

 新参の下っ端に洗礼と呼べるもんがあるとすれば、おそらくそれがそうなんだろう。

 だから俺は、ザインがボスの問いに何と答えるか注目していた。

「ぜひ、ボクにキミの棺桶を作らせてくれないかい?」

「……すまんが先約がある」

 そして久々に、ボスの青紫の瞳を見た。

「――わお、その答えは初めて聞いたな。先代からも聞いたことがない。意味は――」

「…………」

「――うん。訊かない方が良さそうだね」

「で?」

「うん。取引を受けよう」

 あの質問の真意を俺は知らない。

 だが、何度か見たことのある相手の反応は二種類だけだった。

 ぜひ作ってくれと世辞を言うか、殺されると勘違いして武器を抜くか。

 さて、ザインはどっちだと思ったのか……。

 ……それこそ知らない方が良いこと、だな。

 話を戻そう。

 つまり、ザインが取引の見返りとした情報についてだが、

「――ふ~ん……戦争ねえ……」

 最悪なことに、フォカッチャ王国とベーグル王国で戦争が起こるというもんだった。

 もちろん、直接的な関係はない。

 だが間違いなく客が減る――酒場の。

 そして面倒な仕事が増える。やれ「あいつはベーグル王国の間者だから殺してくれ」だの、やれ「夫(あるいは息子)を殺したベーグル王国の誰それを殺してくれ」だの、敵国だからの一言で、無償の殺しを強要してくる。断ればなぜか逆恨みが我々に向く。

 徴兵も問題だ。北方小国家群全体に言えることだが、どの国も騎士団や領軍、冒険者だけじゃ兵力が足りない。金を払えば免除されるが、ボスや俺ら幹部は何とかなるにしても、下っ端連中はそうもいかない。本当に大儲けができるなら、それはどうにかなるかもしれないが。

「その報せがキコリッティ侯爵に届くまで、おそらくあと一週間。その間に保存食を大量に買い付ければ間違いなく大儲けだ」

「なるほど……うん?」

 ん?

 俺とボスはほぼ同時に首を傾げた。

「ちょっと待って。保存食を大量に買うのかい? 誰かを殺すんじゃなく?」

「そうだ」

「……我々『棺桶屋』は、殺しを主とする裏仕事の仲介で儲けてる闇ギルドなんだけど?」

「無論、聞いているが?」

「「???」」

 俺とボスは首をさらに傾げた。

 さて、いったい、どういうことなのかと尋ねてみれば、恐るべきことに、ザインはベーグル王国側の奴だった。我々は知らず知らずのうちに敵国との取引を約束していたわけだ。

 だが、そうなるとコルネリオが敵国とつながっていることになる。

「まあ、そう警戒するな。貴様らとの取引は戦争とは無関係だ。商売の方は大いに関係あるが、発注し金を払ったコルネリオはいずれ消える。貴様らに迷惑はかけん」

「「…………」」

 俺はボスと顔を見合わせ――腹をくくることにした。

 たとえここでザインを殺しても、まだマックスがいる。コルネリオもつながっている。

 それに、一度、引き受けると言った取引をあとで断ることは裏社会で死を意味する。相手がたとえ敵国の奴だったとしてもだ。キコリッティ侯爵とつながりの深いボナヴェントゥーラ商会ならあるいは断っただろうが……なるほど、一つ目の条件はそういうことか。

 だが、何より大きな理由は――ここでザインを殺せる気がしなかった、というのが俺とボスの一致した見解だった。

「――となると、我々を選んだ二つ目の条件は、周囲に違和感を与えても問題ないようにかい?」

「それもあるが、領軍の強制徴収を跳ね除けられるかの方が大きいな」

「う~ん……そうなると、一人、厄介なのがいるね」

「ほう?」

「エドモンド・ゼナロ。キコリッティ侯爵を寄り親とする騎士(ナイト)なんだけど、忠誠心が高い上に、結構、強引な奴でね。うん。何より、強い。殺すだけならわけないけど、騎士とはいえ貴族なのは確かだし……ね?」

「なるほど。突然、消えたように見せかけることは難しく、殺された可能性が高いとなれば国の調査が入り、組織ごと潰されかねん。かといって放っておけば間違いなく邪魔してくる、と……。わかった、ちょうど都合のいい者のようだし、そいつは俺の方で何とかしよう」

「ホントに……? ま、キミがそう言うなら任せるけど……」

 ボスのいぶかしげな声にも、ザインは自信に満ちた答えを返していた。

 もちろん、俺も「本当に大丈夫か……?」と懸念したが、ザインは「何なら、失敗した時は取引を中止してもいい」と、いっそ軽薄なほど軽々しく口にした。

 ――そして、その翌朝までに、「騎士(ナイト・)エドモンドが屋敷から姿を消した」という噂が街中に広まり――我々は、腹をくくるどころか、首をくくる覚悟をするハメになる。




「――レオポルドは『虎の威を借る狐』という言葉を知ってるかい?」

「もちろん、知っているが……?」

「うん。裏社会に限らず、暴力を商売道具とする人は、皆、自分は虎だと思って生きてるんだよ。だから狐に化かされないように気を付けるし、化かされたと気付けば苛烈に振舞う。……でも、もしも――もしも、虎より威のある狐がいたら……それに化かされた人はどうすればいいんだろうね?」

 ザインとマックスが領都コテッリを去った日の夜、いつも通り酒場で常連や下っ端連中の騒がしい声を聞きながら、俺は白ワイン片手に、昼間、ボスと話した時のことを思い出していた。

 ボスはなぜ、あんな話をしたのか――と。

 いや、理由はわかっていた。

 ボスがあんな話をしたのは、ザインが取引の最後に意味深な言葉を放ったからだ。

 だが、意味はずっとわからなかった。

 ……ついに、フォカッチャ王国とベーグル王国の戦争が始まる今頃になって、俺はようやくその意味に気付けた気がする。

 本当に、今更だがな。

「――ああ、それから、買い付けた保存食は全てボナヴェントゥーラ商会に売り付けろ。時期は、そうだな……二十日後といったところか。必ず現金一括払いにし、払い戻しには一切応じないという約定も付けろ」

「うん。ずいぶんと具体的だね?」

「くはは、まあな。何せ――」

 鋭く光る金色の瞳を思い出すたび、俺はきっとあの言葉を思い出すだろう。

「――キコリッティ侯爵が戦争に行けなくなったら――困るだろう?」

 あの――寒気がする言葉を。




「……ところで、貴様らは暗殺者と関わり合いが深いわけだが、姿を偽れる魔術道具に心当たりはないか?」

「いくつかあるけど……どの程度をお望みだい?」

「エルフの精鋭相手でも種族を偽れる程度だな」

「う~ん……それだと『虚飾の革マント』が必要だね。ただ……あれはなかなか売りに出されないし、すごく高いよ」

「革マントということは、素材はモンスターの皮だろう。それくらいなら自力で採るが?」

「自力で……!? ヴァニティーコングっていう討伐難易度A級だよ?」

「問題ないな」

 なお、ボスがエドモンド・ゼナロの時よりいぶかしげな声を発したのは言うまでもない。

 細かい話は活動報告にて。

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