51 面倒ごとは忘れた頃にやってくる(後)
そこに作為的なものを感じたことは得心が行くだろう。
理不尽。
そう、理不尽なまでの数。
膨大で圧倒的な数という名の暴力――にもかかわらず、スライムはどの個体も一様だった。スライムに限らず、特定のモンスターが大量発生することは時折ある。だが、よく観察すれば、各個体には若干の差異があることに気付けるはずだ。故に、ザインはそこに「神に選ばれし者」の影を見た。
ネフェルテム大森林の北側から来て、かつ第三者の介入を拒むようなやり方で接触してきた以上、相手はラプラスの使徒である可能性が高い。
ザイン達が法都リスティングを発ってから早四か月弱――ソレイユがラプラス皇国に宛てた手紙類は寺院兵団の力で止めさせていたが、それもクーデターが成功するまでのこと。法都から皇都エミールのどこかに手紙が届けられ、その内容をあの教皇ないしラプラスが知るまでおよそ一か月半。都市国家連合内に皇国の間者がいたとして、ザインが遺跡都市アメンに味方していることは――おそらく年始めに知ったはず。皇都エミールからチュロ辺境伯領まではおよそ一か月。もっと早くに知っているだろう交易路整備の件と結び付け(ボルト獣帝国と皇国の間には魔術道具を用いた長距離通信が存在している)、何かしらの指示をしたとすれば――確かに使徒がいてもおかしくはない。
ならば狙いは何か?
ことごとく逃げられた、というジェイドの感覚を信じるならば、当初のスライム達の動きはまるで偵察しているかのように感じられる。だが、交易路整備をボルト獣帝国側が承諾している以上、これを皇国が邪魔する理由はない。つまり、狙いはそれではない。
加えて、次に大群を用いてザイン以外を排除するかのような動きを見せたとなれば、狙いが彼にあるのは明白だろう。
ザインがメビウスを殺害した時、あの場にソレイユはいなかった。故に、経緯はヒバリを経由してしか知れず、彼女がメビウスの言葉に違和感を覚える可能性は低い。伝聞の伝聞ともなれば、些細な言い回しの違いなど消えている。
つまり、あの教皇やラプラスに知られるとザインが困るようなことは伝わっていないとみなしていい。となれば、少なくとも命の危険はないだろう。
(……せめて面倒ごとでなければいいが)
結論は「わからない」である。
冒険者や剣闘士達が我先にと逃げ、マックスの背中も見えなくなり、スライムの大群が過ぎ去ったあと、ザインはようやく北へと視線を戻し、再び走り始めた。請けた以上は依頼を完遂する――冒険者の矜持をもって、黒い鎧の巨人とともに。
ネフェルテム大森林は確かに広大な密林だが、しっかりと鍛錬を積んだ者であれば、真っすぐ走り抜けるのに四日はかからない。無論、途中の休息や睡眠も含めてだ。
スライムの大群に遭遇した時点で、道のりはすでに残り三分の一を切っていた。故に、マックス達と別れた翌日には、ザインはボルト獣帝国側の端にたどり着いていた。
そして、そこに彼らはいた。
「――よっ、待ってたぜ」
「あら、本当に走り抜けてきたのね。ここまで長かったでしょうに……お疲れ様」
(子ども……? と……中世的な顔立ち――男にしては背が低いが、女にしては背が高い……判別はできんな)
片手を挙げてノリの軽いあいさつをしてきたのは見た目八歳ほどの少年で、労いの言葉をかけてきたのは男性か女性か一目では判断に悩む三十歳ほどの人物だった。
少年はベージュ色の髪をオールバックにまとめ、緑色の瞳を年齢不相応に鋭く細めている。身に着けている金属鎧には、ところどころに細かい意匠が見て取れ、その様はまるで騎士のようだ。となれば、すぐに手に取れそうな位置に刺さっているのは槍か。左脇には兜を抱え、よく見れば左腰には短剣も携えている。顔立ちが整っていることや金属鎧という格好も相まって、見た目からは性別が判断できなかったが――胸当てに大きな字で「おれは男だ!!」と書いてある以上、男性なのだろう。
性別不詳の方は髪も瞳も薄い青色で、長く伸ばした髪を先の方で結んでいる。中世的な顔立ちやゆったりとした神官服を着ていることがさらに性別不詳度を上げていた。癖か何かなのか、日中で日当たりも良く、大して寒くもないのに、左右の腕をそれぞれ逆の袖に深く入れている。神官服を着ている以上は神官なのだろうが。
「ところでよ――おめえ、今、おれのこと見て『ガキ』って思ったか? いや思ったよな!? じゃなきゃいぶかしげな顔なんざしねえもんな!!」
「ちょっと、ジェイ君落ち着いて……」
「おめえもおめえでいつもいつもガキ扱いすんじゃねえ!! 何度も言うがおれはおめえより年上だからな!!??」
「……!?」
思ったことを見抜かれたことに驚いたわけではなかった。何度も同じような対応をされていれば、相手が最初に何を思うか当てることは案外容易い。
ザインが驚いたのは――本人の言が嘘でなければ――この見た目で三十歳以上だという点だ。
(どう見ても子どもにしか見えん……)
特に絡み方が。
「はいはい、ごめんなさいね、ジェイドさん」
「――おぅ、それでいいんだよ。……何かまだガキ扱いされてる気もすんが勘弁してやる」
これだけのやり取りでも、この少年騎士の扱い方がわかる。
視線を感じて性別不詳の神官を見れば、ウインクを返してきた。
(……なるほど、一度間違えたのはわざとか)
このやり取りを見ていなければ、対応を間違えた結果、話が全く進まないという事態になっていたかもしれない。
今のところ、両者ともに、少なくとも敵対的ではない。
「んんっ――それで、ずいぶんと派手な接触だったが、俺に何か用か? ジェイド殿」
「おっ、どうやらおめえも認識を改めたみてえだな。よしよし、いい奴だな、花丸をくれてやる」
満足気に頷くジェイド。
はっきり言ってチョロい。
性別不詳の神官が名前を漏らしたことも気にしていない。
「んじゃ、まずは自己紹介といこうぜ! おれはジェイド・バスタード! 見ての通り神殿騎士団の騎士だ!」
「アリストテレスよ。アリスって呼んで頂戴。あたしも見ての通りラプラス教の神官ね」
「ふむ……」
アリストテレスが否定しないということは、ジェイドが神殿騎士団の騎士というのは本当らしい。
あるいは二人とも偽物か。
「ザインザード・ブラッドハイド。B級冒険者だ」
「おぅ、知ってるぜ。法国でかなり無茶したらしいじゃねえか」
「いや、あのクーデターは無茶と言うほどのことでは――」
「そっちじゃねえよ、地獄道の方だ」
「…………」
確定。
この二人、ラプラスの使徒だ。
あの戦いについて語れる者は極めて限られている。
「相手がなぶり殺しにしてくれること前提で、しかもメビウスの明王と戦うとは、おめえも大概イカれてやがるな。ま、嫌いじゃねえがよ」
「あたしは嫌いね、そういう賭け事染みた戦い方って。命を懸けているって言えば聞こえはいいけど、結局は命を大切にしてないってことだもの」
(単に最も勝率が高かっただけなんだがな……)
地獄道の切り札と思われた絶鬼神マガツは明らかに異常個体であり、容易に打倒できないことは明白だった。だが一方で、初手から獲れたはずのソレイユを獲らず、巨人の再生を待つなど、その慢心もまた明らかだった。
地獄道の目的はヒバリやカペラをメビウスに辿り着かせないこと。逆に言えば、彼女らの命を奪う必要はなく、その心を折るだけで充分だった。法国の安定という面で見れば、次の法王にほぼ確定していたヒバリを殺すわけにはいかないということもある。故に、地獄道にとって命を奪うべきはザインとソレイユのみであり、その死をヒバリやカペラの心を折るために利用したかったはずだ。
これら二つを合わせて考えれば、ザインやソレイユをなぶり殺しにする可能性が非常に高く、その過程で夜の訪れを狙う可能性も高かった。
(……と説明したところで、こいつらの反応は変わらんだろうな)
そもそも必要性がない。
いくらでも好き勝手に言ってくれ、と黙するザイン。
「…………」
(否定も肯定もなし。黙して語らずか)
(警戒されているわね)
「――っと悪い悪い、用件だったな。ほらよっ」
「……?」
あるいは機嫌を損ねた可能性を考え、さっさと用件を済ませた方がいいとジェイドは判断した。
ジェイドが投げ渡したのは筒状に閉じられた書状である。
(さすがに罠ではないだろうが……)
開けば、どこかで見たような文言と、見覚えのあるマークが記されていた。
冒険者ギルドのマークだ。
「ラプラス様が大層お喜びでな。褒美をくれてやるってよ」
「……なるほど、A級への推薦状か……」
「あのメビウス神に一泡吹かせたんだ、ドンッとA級に昇格させてやりゃいいって言ったんだが、ギルドマスターのババアが頑固でな!」
「規則は守るべき大切なことだけど、ラプラス様がケチと思われるのも嫌よね……」
もちろん、本人の意思を確認せずに昇格を決めることはできない。あくまで、そういったことができる権利を与える、というのが通例だ。推薦状という形を取るのもこのためだ。
だが、二人の口調からは、どうにもザインがA級に昇格することは決定事項であるかのような印象を受ける。
ザインが思うに、この二人は冒険者側の事情に明るくないのだろう。
冒険者は当然のことながら――特に狩猟を主とする者は――命がけの職業だ。B級までであれば、その責任は特定の支部及びその周辺程度にとどまる。現代で言えば一つの市を担当するようなものだろうか。だが、ことA級となると、それは数十倍の規模に膨れ上がる。A級への昇格に三名以上(実質的には四名)のギルドマスターの推薦が必要なことからも、それはうかがえるだろう。
そして、これを嫌がる者は多い。――というより、そういった広い視野を持つことが難しい、と言うべきか。
「……いや、むしろ推薦状で良かった」
「ほぉ?」
「交易路整備の件をソプデト王が高く評価してくれてな。褒賞としてA級への推薦状をもらっていたんだ。危うく無駄になるところだった」
逆にゼオライトからは、強引な手段も執ったことを非難され、追加の褒賞はないと言われていた。まあ、ザインはそもそも最初からそんなものはないと思っていたのだが。
「――で、用件が済んだのなら、さっさと帰ってほしいんだが」
「まあ、そうよね……あたし達が工事邪魔しちゃっているわけだし」
「いや影の巨人で走るだけなのに工事っつうのかそれ……?」
「結果的に整地されているわけだし、工事なんじゃないかしら?」
どうでもいいから早く帰れ。
一応、イルドゥンの依頼は果たしているため、別にザインの方から勝手に切り上げてもいいのだが、スライムに未だ追われているだろうマックス達の安全を考えると、彼としてはできるだけそれは避けたいところだった。機嫌を損ねた場合、この二人がどう出てくるかわからないからだ。
「ま、何でもいっか。――で、用件だったな。ま、ラプラス様からのお使いは終わりだ」
「…………」
「が、まだおれの用件がある」
用意しておいたため息をつくザイン。
面倒ごとの予感しかしない。
むしろ、そうでなければ使徒が二人も来るはずはない。
「なぁ、十番目、おめえこのあとどこ行くつもりだ?」
「このあと、か……」
字面通りに受け取れば、答えは森林都市ソプデトだろう。だが、ジェイドが期待している答えはもっと先のことだ。
「……ベーグル王国だが」
「……北方の小国家の一つか……。ま、そこにも確かに行くんだろぉが――最終目的地はそこじゃねえよな? 行くんだろ? 最北の大国に。コルピタゲム大陸最古の魔境――」
もちろん、ザインはあえて少し外した。
ジェイドの気分を良くして、さっさと帰ってもらうために。
「――ゴルトン同盟によ……!」
だが、これは少々失敗だったと言わざるを得ない。強いて原因を言えば、ジェイドの気分を高揚させすぎた。
「だからおれが試してやんよ! おめえがゴルトン同盟行っても簡単にくたばらねえかどうかなぁ!!」
このジェイドという男、見た目からは想像できないほど好戦的。
槍の穂先がザインに向けられる。ここで無視して背を向けたとしても、嬉々として背後から襲うだろう。
だが、ザインはまだ構えない。
ジェイドの実力は未知数だ。
構えた瞬間に攻撃が飛んでくるかもしれないし、構えの予備動作すら察知して攻撃してくるかもしれない。
あくまで自然に――両手のひらを向けるように――「待ってくれ」と今にも言い出しそうな表情を作れ。
「――巨人」
「――突け!」
それでも、互いの初手はほぼ同時だった。
「球!」
「――|BigIV:Aigis!」
影の球に覆われていく視界の中、誰かを呼ぶような声とともに、人間の倍は高さのありそうな巨大なスライムが一瞬だけ映る。
直後、影の球は前方四か所から同時に同程度の攻撃を受けた。
(さて、どちらがどちらだ?)
道中や今の一瞬に見たスライムと、影の球で防いだ何か――もちろん、どちらも同一の力という可能性もあるが、使徒と思われる二人が動き、反応が二つあった以上、別々のものであってほしいところだ。
影の球は突破こそされなかったが、依然として四か所が未知の攻撃によって圧迫されたまま、
「四本じゃ足りねえか……貫け!」
さらに四か所が追加され、それぞれの圧力も増した。
(今のはジェイドの声……スライムと関係があるのはアリストテレスの持つ使徒の力か)
それとほぼ同時に、降り下ろすように操作していた影の巨人の拳が、想定よりもかなり手前で止められたことも認識した。
ザインがとっさに展開した影の球は、影を広範囲に広げていないため、本来のそれよりもかなり狭いが、その分、防御力は高い。
とはいえ、このまま攻撃され続ければ突破されるのは時間の問題だ。
「――杭――っ――鎧……!」
影の球の内側に杭を出現させ、それを両手でつかみ、体を持ち上げ、落ちる反動を利用して勢いそのまま影の球を突き破るように中空へと跳躍する。
と同時に、影の球を影の鎧へと――地面との接続を維持するため一部は細い縄に――変え、纏った、
「……! 薙げ!」
「――ぐっ……!」
刹那、横合いから打ちかかってきた巨大な鞭のような何かによって弾き飛ばされる。
何本かの木にぶつかり、時にはへし折りつつも、ザインは強引に受け身を取った。
空中かつ影の鎧を纏っていたことで痛みはさほどない。
それよりも問題は、いったい何に弾き飛ばされたかわからなかったこと――
「――刺せ!」
「っ……!!」
影の鎧を纏った状態では、相手が攻撃を兜のスリットに集中せざるを得ないことは、ソレイユとの諍いの時に確認済みだ。
故に、ここでジェイドの攻撃の正体を文字通りつかめたことは、その確信がなしたことだった。
「これは……」
木の根である。
木の根が、まるで槍のようにザインの顔面を刺そうとしている。
(……陳腐すぎる……)
確かに少しずつ押し込まれるほど強い力だが、これは本当に使徒の力の一端なのか。
植物を操る程度ならば呪法でも可能だ。あのラプラスが程度の低い使徒を許すとは思えない。
「――呑め!」
「っ……!?」
確かに油断はあったかもしれない。
だが、地を割って現れた攻撃が巨大な丸い口だったのは完全にザインの予想外だった。
驚愕に一瞬、体が固まり、腰の辺りまで呑まれ、だが何とかそれ以上を防ぐ。
(これは……おそらく討伐難易度C級フォレストワーム――人を丸呑みできるほどの大きさではないはずだが)
そのまま地面に叩きつけられる。だが、それは想定内。受け身こそ取れなかったものの、さほどのダメージはない。
巨人による攻撃を継続しつつ、ザインは脱出を試みる。
「っ斬」
勢いをつけ、膝蹴りで影の斬撃を飛ばし、フォレストワームを縦に切断する。
フォレストワームは痛みにのたうち回ったが、それでも放そうとはしない。
だが、締め付けは緩まった。
「斬」
もう一度、今度は膝から下だけを動かし影の斬撃を飛ばす。
切断部分が広がり、脛から先が外に出る。
さらに締め付けが緩まったが、まだ吞もうとする力の方が強い。
「まあ、もはや関係ないがな――斬!」
トドメに、かかと落としの要領で影の斬撃を飛ばせば、のたうち回っていたフォレストワームは縦に両断され、ついに沈黙した。
あとは死体から這い出ればいいわけだが、
「……。領域――迷宮壁」
図らずも姿を隠せたことをザインは好都合と捉えた。
影の壁が乱立し、簡易的な迷宮を造り出す。念のための保険であり、奇襲への布石であり、敵を誘い込む罠でもあった。
これで体勢を立て直す時間は最低でも稼げる、と上体を起こし――
「――|BigIV:Triaina!」
「――っ!!」
――かけたところで、背筋に走った悪寒に従い、後頭部をぶつけそうな勢いで元の体勢に戻る。
直後、眼前を半透明な光線が走った。その光線は、数秒間、ザインの耳に死を想起させる鋭利な音を聞かせ、逃がす気などないとばかりにゆっくりと左右に往復したあと、夢幻のように消えた。
(――冷たい)
頬に落ちた滴が、光線の正体を「水」であると明かす。
慎重に頭だけを上げて周囲を確認すれば、影の壁は膝ほどの高さだけを残し、ことごとく切り裂かれていた。
もしもあのまま上体を起こしたままであったなら、と想像し、ゾッとするザイン。
その耳に、またしてもバチバチと異音が届く。視界に入れるまでもなく、これは何かが帯電している音だとザインは理解していた。
「――|BigIV:Keravnos!」
(さすがにそれは洒落にならん……!)
先ほどの光線は決して唯一の攻撃方法ではないだろう。口を広げれば水をばら撒くことなど容易なはず。やろうと思えば、周囲一帯を水浸しにすることも可能かもしれない。成分にもよるが、濡れたところに高圧の電流を流せば、どうなるかは火を見るより明らかだ。そして、幸運を期待するほどザインは賭け狂いではない。
影の球では同じ展開になるだけ。影の壁では防ぎきれない。
(だが、これだけの出力があれば――!)
幸いだったのは、影の巨人との接続を維持したままだったこと。やたら硬い巨大スライムとせめぎあい続けていたそれを解除し、そこから影の領域を広げる。
「――球――」
アリストテレスとジェイドが足下の異変に気付いたのは、バチバチと帯電する巨大スライムが影の球に呑まれたあとだった。
「――棺桶!!」
そのまま影の球を狭めていく。
圧縮するように――押し潰すように。
「ケラくん!?」
「チッ、裂け!」
木の根や枝が、その鋭く尖った先端を用いて影の球をこじ開けようと殺到した。
無論、内部の巨大スライムも抵抗するが、
(無駄だ)
元々、巨人は日中における最大瞬間出力で形成している。維持のために用いる出力もそれなりに大きい。とっさに発揮できる程度の出力では小さな穴を空けることすらできない。
たとえあの巨大スライムが同程度の出力を発揮できたとしても、ザインの方が早い。中途半端に維持したままの迷宮壁を解除し、その分の出力も回せば――
その時、アリストテレスがスッと両手を挙げた。
「――降参! 降参よ! 殺し合いじゃないんだもの、ケラくんを失うのは割に合わなすぎるわ」
「…………」
圧縮を止め、だが即座に解除せず、ザインは沈黙でジェイドに問う。
貴様はどうする? と。
「……。……いいぜ、ここまでにしよう」
木の根や枝が元の形に戻っていく。
ジェイドが槍を地面に突き刺し、手放したところで、ザインも影の棺桶を解除した。
その後は特にこれといって言及すべきことはない。
「ごめんなさいね、二人がかりで。大変だったでしょ?」
「まっ、おれら二人相手にあそこまで戦えたんだ、ゴルトン同盟に行ってもそうそう簡単にゃくたばらねえだろ。つまり、合格だ!」
「……ああ……そうか」
「だが慢心すんなよ! おれらだってまだまだ本気じゃなかった。それはおめえも同じだろぉが、自分より強え奴は必ずいる! 仲間がちゃんといんだろ? 頼ってやれよ?」
「………………」
などというやり取りがあった程度だ。
思わずこぼれたため息に、ちょうどいいかと腰を上げ、
「あんだよ、もう行っちまうのか?」
「依頼の途中なんでな。領域――巨人」
「……その影の巨人で森を走るのがか?」
その問いに答える必要はないと判断し、二人の使徒に背を向けて、ザインは再び大森林の中を駆けだした。
「――また会おうぜ、十番目」
「――また会いましょうね、十番目くん」
最後に、後方からそんな声が聞こえた。
(……ああ――全く、別れの言葉で俺をそう呼ぶ時点で、貴様らが俺をどう見ているかがよくわかる)
使徒としての名も名乗らず、終始上から目線で値踏みする。
ラプラスに近しい使徒は――
――殺したくなって仕方がない。
細かい話は活動報告にて




