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23   立ち向かうべきものを考え続けろ(後)

 ソレイユやヒバリ達が再びザインと思われる人物の目撃証言を得たのは、法都リスティングで情報収集を始めてから半月が経った頃のことだった。

 タイミングとしては非常に幸運だったと言えるだろう。だが、決してそろそろ切り上げようかなどと考えていたわけではない。ソレイユもヒバリも元から一か月ほどは情報収集に専念するつもりだった。メビウス法国は大陸第二位の広さを持つ大国だ。「あの街からこの街まで行くのに一か月かかった」などざらにある。

 だから、タイミングが良かったと言っても、それは「結果的に」であり、もちろん意図してのことではなく、むしろ最初はタイミングが悪いとすら思っていた。

「――ラテ司祭領……確か、コフィー大司教領のさらに東だったか?」

「正確には南東ね。可もなく不可もなくって感じの普通の領地だけれど……そこでモンスターパレード、ねえ……」

「実際にどうかは知りやせんぜ? ただ、黒髪金眼の冒険者が『このままでは近いうちにモンスターパレードが起こる。早急に間引きを行え』ってギルド職員と押し問答してたのを見ただけで」

 そう言った彼女はB級冒険者で、たまたまラテ司祭領へ依頼をこなしに行き、そこでザインらしき人物を目撃したのである。同時に、真っ白な獣人の少女と青髪で大剣を背負った男も目撃していたため、二人も彼女の言う黒髪金眼の冒険者はザインであると確信した。

「さて、どうしたものか……」

「無視するわけにはいかないわよねえ……」

 かなり有用な情報への礼として金貨八枚を受け取った彼女がホクホク顔で去ったあと、だが二人は難しそうな顔で大いに悩んでいた。

 理由は先ほどの彼女がもたらした情報である。彼女がザインを目撃したのは冒険者ギルドでだけではなく、領都マキネッタの町中でもすれ違っていた。そしてその時、このような会話が聞こえたのだと言う。

 ――……が危ねえんだ?――

 ――ミルク司教領、ラッシー枢機……――

 もちろん、これだけでは何が何やらさっぱりだ。だが、冒険者ギルドでギルド職員との押し問答を見ていた彼女は、(ミルク司教領やラッシー枢機卿領でもモンスターパレードが起こるって思ってんのかな)、と二つを結び付けたらしい。二人もその点については同意見である。

 だからこそ二人は迷っていた。

 当初の目的であるザインの行方はいまいちハッキリとしない。そんな中で、不確かだがモンスターパレードが起こる可能性が浮上してきた。モンスターパレードが発生すれば、甚大な被害が出るのは火を見るより明らかである。

 当初の目的を優先すべきか、不確かな情報が基でも人々を守るために行動すべきか。

 二人の悩みを簡略化すれば、つまりはそういうことだった。

「はあ? 悩むまでもないじゃない。後者一択よ!」

 そして、それを聞いたツグミはそう一蹴する。

「大体、あんた達は目の前の不幸を見て見ぬフリできるような性質じゃないんだから。自分の目的を優先したら後悔するのが目に見えているわよ」

「むぅ……しかし」

「しかしもでももないわ! じゃあ聞くけど、ケインにモンスターパレードが迫った時、何で残ったの?」

「それは……その……」

「うぅん……放っておけなかったから……?」

「ふふん。なら今回もそれが答えじゃない」

 微笑むツグミ。

 顔を見合わせたソレイユとヒバリは同時に頷いて、

「問題は誰がどこに行くかだな」

「ザイン君――っぽい人が言及したのは、ラテ司祭領、ミルク司教領、ラッシー枢機卿領の三つね。実際にはもう少し多いのかもしれないけれど……」

「うむ……地図はあるか?」

「簡単なものならあるわよ」

 ツグミが広げたメビウス法国の大まかな地図に、ソレイユはラテ司祭領、ミルク司教領、ラッシー枢機卿領のそれぞれの領都に印をつけていく。

「最も遠いのはラテ司祭領ね」

「ミルク司教領とラッシー枢機卿領は同程度の距離だけれど……ラッシー枢機卿領は広過ぎるわね」

「必ずしも領都が襲われるとは限らないからな……」

 ケインでのことを思い出し、地図上のコーラ枢機卿領を見つめるソレイユ。

「うん……?」

 ふと、その脳裏に何かがよぎった。

 導かれるように、ソレイユはケインにも印をつける。

「これって……!」

 そして全ての印を線で結ぶと、どことなく円の一部のように見える形が浮かび上がった。

「この先は……チャイ大司祭領とルートビア司教領か」

「その二つも危ないのかしら……?」

「可能性はあるわね。けど、そこまで手を出している余裕はないわよ。そのザインという奴が何を根拠にモンスターパレードが起こると言っているのかわからないし、当てずっぽうで戦力を割いて誰かが死んだら元も子もないわ。あたし達は六人しかいないんだもの」

 不測の事態を考えれば、二人組を三つつくってそれぞれに行くのがベストだろう。

 もちろん、他の冒険者を頼るということもできなくはないが、達成報酬の低さを考えると申し訳なさの方が強かった。誰しも無理を押してまで戦いたくはないのだ。

「うむ……なら、私とヒバリは別々の方がいいな」

「もう一つはツグミを軸にしましょ」

「それはいいけど……ソレイユさんは大丈夫なの? その……ヒバリから聞いた限りじゃ……」

「ああ……」

 ツグミはソレイユが「神に選ばれし者」であることを知らない。ケインでどのように戦ったかも知らない。だがソレイユもヒバリも教える気はない。

 A級冒険者としての実力しか聞いていないツグミからすれば、本当にモンスターパレードが起こった時のことを考えて不安になるのは当然というものだろう。

「いや、心配無用だ。最近、殲滅力が格段に上がったからな」

「お姉さんも保証するわ。今のソレイユなら大丈夫」

「そ、そう……。なら、あたしはノスリと組むわ。盾役がいた方がいいし」

「うぅん……じゃあ、お姉さんはマヒワと行こうかしら。セッカの方がソレイユとは相性が良さそうだもの」

「セッカ……あの歯切れの良い口調の者か」

「素直に『口が悪い』と言ってもいいわよ?」

「い、いや、そんなことは思っていないとも」

(少なくとも私にとっては端的な説明でありがたかったしな……)

 とは言えず、ソレイユは曖昧に笑うしかない。

「それよりも、私としてはツグミの方が心配なのだが……」

「え? あたし?」

「うふふ、ソレイユ、あなたって結構天然なとこがあったのね」

「へ?」

「あたしの心配するなんて、ヒバリの心配するようなもんよ?」

「だって、ツグミはお姉さんと同じS級冒険者だもの」

 一瞬、ポカンとしたソレイユが慌てて必死に謝ったのは言うまでもない。




 一週間後――ソレイユはラッシー枢機卿領の領都ナムキーンにいた。隣ではセッカが焼き立てのパンを両手に持ってモグモグしている。ちなみに昼食後の六個目である。

「よく食うな……」

「(モグモグ……ゴクン……)。ソレイユさんもなかなかに大食」

「え。冒険者ならこれくらい普通じゃないのか……?」

 今までに知り合った冒険者達を思い出し、やはり同じくらいは食べていたはず、とソレイユは一人頷く。その手には食べかけのパンが一個あった。

「うん。つまり冒険者は基本的に大食。だからセッカもちょっと多く食べるだけ。決して大食いとか食いしん坊とかではない」

「いや、それは冒険者と比べればであって……」

「大食いとか食いしん坊とかではない(モグモグ)」

「……まあ、いろいろと複雑だし認めたくはないよな……」

 心情を察してソレイユは追及をやめた。

「しかし……まさかこうもタイミング良く発生の報せが入るとはな……」

「良過ぎて誤解されて疑いを晴らすのでもう疲れた」

「言いたくはないが確かに同意見だ……」

 モンスターパレードの兆候はないか、とソレイユ達が受付嬢と話していた時のことだったのだ――ミーティーという町がモンスターパレードに襲撃されたという報せが入ったのは。あまりにもタイミングが良過ぎたため、ソレイユ達は一時的に拘束されて尋問を受ける羽目になったのである。

「全く、人為的にモンスターパレードを起こすことなど、できるはずもないのにな……」

「たまたま知り合いがいて助かった」

 とはいえ、拘束時間はさほど長くならずに済んでいる。法都リスティングで情報収集に協力してくれた冒険者が偶然にもその場に居合わせたからだ。彼はソレイユ達が少なくとも十日前には法都リスティングにいたことを証言してくれた。あとは逆算で疑いは晴れる。

 そうして今、ソレイユ達は街門前でミーティーへ送る救援が揃うのを待っているというわけだ。

「…………」

「(モグモグ)…………」

「……本当に起こってしまったな、モンスターパレード」

「(モグモグ)……たぶん、他のとこでも起こる」

「ヒバリはマヒワとともにミルク司教領に着いた頃だろうか」

「ツグミとノスリは、たぶんラテ司祭領に向かう道中」

 つまり、ソレイユ達は間に合わない。

 報せによれば、ミーティーがモンスターパレードに襲撃されたのは三日前。すぐに人員が揃ったとしても、ミーティーへ行くのにさらに三日は確実にかかる。ミーティーの戦力が持ちこたえられるだけ持ちこたえたとしても、ソレイユ達が到着する頃にはとっくにモンスターが町中に入ったあとだろう。

(ケインの時は非戦闘員が多過ぎて避難は避けたが、ミーティーじゃさすがに避難はしているだろうな……)

 ミーティーは普通の宿場町だ。単純に避難しなければ命が危ない。

 さらに戦力不足も重なっている。報せによれば規模は二千といったところだが、高ランク冒険者がほとんどおらず、兵団にも突出した実力者はいないらしい。中核になれる者がいるかいないかでは、集団としての戦力に大きな差が生じる。

 そのため、ソレイユ達はミーティーの戦力だけで撃退できるとは考えていなかった。

 忘れてはならない――確率上は、A級冒険者が一人いただけでも奇跡的だということを。

(防衛戦じゃなく奪還戦になるという点だけは多少気が楽だがな……)

 守るべき平穏を守れなかったがために守らなければならない命がない、という矛盾にさえ目をつむれば。

「でも、上手くすればヒバリ達も来るかも」

「うん……? ……ミルク司教領にも同様の報せが行くからか」

「そう(モグモグ)」

 領都ナムキーンから見ると、ミーティーは北東のミルク司教領へ向かう途中にある。ミルク司教領の領都ジャージーとの距離も同程度だ。報せを聞いたヒバリ達がミーティーへ向かう可能性は充分にある。

「協力すればより早く奪還できる、か……。まあ、あくまで予想だからな、いないつもりで行こう」

「(モグゴクン)……了解」

 セッカがパンを食べ終わり、同時にギルド職員が招集を告げる。

 街門前にはナムキーン兵団の姿もあった。

 ミーティー奪還作戦――開始。




 作戦の第一目標は、当然のように避難民を援護することである。だが、こちらは兵団の仕事だ。ソレイユ達冒険者は、ナムキーン兵団の一部が避難民達に合流するのを横目に、その脇を通り抜けた。

 まばらに襲撃してくるモンスターを討伐しながら街道を進む。

 道中にはいくつもの血の跡が残っていた。時には残骸も。集団から離れてしまった避難民の末路だろう。

 だが、遺体を探している余裕も埋葬している余裕もない。

 後ろ髪を引かれる思いを抱えたまま、救援軍は予定通りにミーティーへと辿り着いた。

「どうだ?」

「結構いる」

「やはり町中に入っているか……」

 セッカの報告にナムキーン兵団員が顔をしかめる。

 翼人である彼女に上空からの偵察を依頼したのだ。結果、町中に相当数のモンスターが入り込んでいることがわかった。

 言うまでもなく、追撃を防ぐために街門は閉じられている。防衛に当たったミーティー兵団や冒険者はほとんどが食い殺されたことだろう。

「ナムキーン兵団で街門を開ける! 冒険者諸君も続けて突入せよ!」

 数人が梯子をかけて街壁を越えていく。しばらくして、重々しい音を立てて街門が開いた。

「音でモンスターどもが寄ってくるぞ! 総員構えぇ!!」

「「「「おおおおおおおおお!!!」」」」

 突入したミーティーの町並みは、ソレイユの想像よりも綺麗に残っていた。

(道中で討伐したモンスターのランクも低かった……レンガ造りの家を壊せるような個体が少なかったと見るべきか……?)

 モンスターがパレードを起こす目的は基本的に食糧の確保だ。食糧源となる人が中にいなければ、わざわざ家屋を破壊することはない。

 だが、そんなことは関係ないとばかりに全てを破壊して突き進むモンスターも中にはいる。体が大きく力も強い個体に多い傾向で、そのほとんどは高ランクモンスターだ。逆に言えば、ソレイユの推測通りになる。

 まあ、そもそもモンスターパレードは大規模な縄張りの移動によって割を食ったモンスターが起こすため、大抵の場合、人里まで押し寄せてくる中に高ランクモンスターは少ないのだが。

「ミルク司教領側はどうだった?」

「誰もいなかった」

「そうか……。まあ、隣領とはいえ他領のことだからな――っと、フッ!」

 魔力を纏った剣がホブゴブリンを両断する。

「いくら救援でも要請がなければ出しづらいか」

「……そもそも知らないかも」

「うん? なぜだ?」

「たぶん、モンスターパレードは北東から来た――ほいっ」

 魔力を纏った長槍がホブゴブリンを串刺しにする。

「空から見た時にそう思ったのか?」

「そう」

「なるほど……ならば、ミルク司教領には伝わっていないかもしれないな」

 会話しつつ、二人は次々とホブゴブリンを屠っていく。

「……妙にホブゴブリンが多いな」

「ゴブリンの大集落があった?」

「モンスターパレードが起こるほどだ、あっても不思議じゃないな」

 大規模な縄張りの移動が起こった際、そこにモンスターの集落があれば集落ごと移動してしまう。結果、パレードに加わるモンスターの総数が大幅に増えることがある。

「問題は、どの程度の個体が集落を率いていたか、だが」

「ホブゴブリン多過ぎ」

「ああ。少なくとも生半可な個体じゃなさそうだ」

(そんな集落が逃げ出すほどのモンスターが近隣にいるのか……)

 ホブゴブリンは討伐難易度D級に位置付けられている。それを複数体率いるとなれば、少なくともB級相当。集落の規模によってはA級にも届くかもしれないが、それほどの個体がいるなら人里まで来ることはないだろう。

「囲め囲め! いかに強力なモンスターであろうと、囲んでしまえば恐れる必要は――なっ!?」

「「「「うわああああぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

 モンスターが跋扈する町中に複数の悲鳴が響く。

(隣の大通りからか!)

「セッカ!」

「了解」

 即答を返したセッカが振り向いた時には、ソレイユはもう近くの路地に飛び込んでいた。

(速っ)

 路地を駆けるソレイユ。その先に倒れ込むナムキーン兵団員達の姿が見えた。

 一人だけに大きな影がかかっている。

「光武創製――」

 状況を把握してからでは間に合わないと判断し、ソレイユは躊躇なく使徒の力を使う。

「――シールド!」

 光輝く盾を構えたまま庇うように飛び出す。

 直後、その身を衝撃が襲った。だがソレイユの体勢はわずかも揺るがない。とっさであろうと、相手を見ていなかろうと、受け流してみせるからこその「武芸百般」である。

 相対したのはゴブリンコマンダーだった。討伐難易度B級――二回り大きな体を得たゴブリンは、闘いの中でそれを鍛え上げ、強靭な肉体をつくる。さらに集団指揮能力を獲得した個体が現れると、集落の規模は加速度的に大きくなり、脅威度が跳ね上がる。

 邪魔者(ソレイユ)を先に潰そうと、ゴブリンコマンダーは再び棍棒を振り上げ、

(もう一度受け流して反撃――いや、必要ないか)

「せいっ――」

 渾身の一撃を振るおうとした右手首を石突が強かに突く。衝撃で棍棒を落としたその姿は隙だらけだった。

 反動を利用して回転するセッカ。

 ゴブリンコマンダーも右腕を振り回して反撃し、

「――ほいっ」

 だが、その前に、長槍が無防備な右脇腹を深々と貫く。

 反撃したはずの右腕は空を切った。真横からの攻撃だったために襲撃者(セッカ)の身長を誤解したのだ。実際には、最初の一撃は飛行しながらのもので、回転の半ばから先は着地していた。

「ガァァァァアアアアアア!!」

「光武創製――」

 最後に大きく腕を回して中身をかき混ぜれば、もはや相手に抵抗する力は残っていない。せいぜいが断末魔代わりに威嚇するくらいだろう。

 当然、頑強な筋肉を貫通できるだけの技術と武具があってこその結果である。

「――ソード!」

 もう一方の手に光輝く剣を創り出したソレイユがそれを振るい、ゴブリンコマンダーの首を斬り飛ばした。




 ミーティーに跋扈していたモンスターの掃討は想定よりも長時間に及んだ。

 理由は一つ――途中からナムキーン兵団が及び腰になったからである。

「部下を助けていただいたこと感謝する。お二人ともお強いのだな。それに比べて――お前達は何だ! たった一体に敵わなかったくらいでへっぴり腰になりおって!」

「「「「……………………」」」」

 反論する兵団員はいない。

「……(兵団長だってビビッてたくせに)……」

 だが、ポツリと呟く声があった。

「うるさいわ! 帰ったら三倍の訓練だからな!」

 威圧するだけで否定しないことが、事実だと言っているようなものである。

 一方、兵団長直々に礼を言われたソレイユはとある受付嬢の言葉を思い出していた。

 ――兵団の仕事は有事に備えることでして――

(もしや、ナムキーン兵団は――いや、法国の兵団は、実戦慣れしていないのか……?)

 思い返してみれば、ケインでも兵団員達は街壁の上から矢や魔法を数任せに振らせるだけだった。多数の弱い敵に対しては有効だろうが、強力な個体に対しては牽制や誘導、嫌がらせ程度にしか使えない。

 これが冒険者パーティーならば、誰か一人が惹き付けている隙に、ヒット&アウェイの要領で確実に削っていくだろう。基本的な身体能力で劣るからこその戦い方である。

 ソレイユは気付いていなかったが、この両者の違いは想定している戦闘の違いにある。端的に言えば、兵団は戦争を、冒険者は討伐を想定している。だが、モンスターパレードという特異な状況下では、両方の想定が必要だ。普段、モンスターの間引きを行っていない兵団は、弱い攻撃でも大量に浴びせればどんな敵も倒せると思い込んでしまっていた。有事とは決して戦争だけではないということを忘れているのだ。

 なお、法国はここ十数年、戦争らしい戦争を経験していない。そのため、若い兵団員は実戦慣れどころか訓練しかしたことがなかったりする。

「敵影なし。このあとどうする?」

「そうだな……当初の予定通り、B級を中心に間引いていこう。だが、今日はもう遅い。どこかを借りて休もう」

 町の上を一飛びして索敵したセッカの問いに、ソレイユは休息を提案する。

 陽はすでに落ちかけていた。

「さあ、お前達、明日からしばらくは復興作業だ! 今日は充分に休んで英気を養え!」

「「「「はっ!!」」」」

「総員解散!」

 全て終わったかのように振舞うナムキーン兵団を横目に、ソレイユとセッカは勝手に間借りする宿屋の物色を始めていた。

「のんき」

「否定はできないな」

 まだ町中に入り込んだモンスターを掃討しただけだ。近隣――特に北東方面――は森や山の奥から逃げてきたモンスターがまだまだ残っていることだろう。それらを討伐して、さらに多くのモンスターを間引かなければ、街道を無事に通ることはできない。

 だからソレイユ達は、しばらくの間、ミーティーに留まるつもりだった。

 ミーティー奪還戦への参加報酬は、領都ナムキーンの冒険者ギルド支部であれば、いつでも受け取ることができる。多少、時間には余裕がある。

(できる限り間引かなければな……)

 ソレイユとしては、できればゴブリンの大集落が逃げ出すことになった元凶も討伐したいところだった。だが、相手は確実に討伐難易度A級以上だ。単独ならともかく、セッカまで危険に晒すわけにはいかない。ソレイユとは違い、セッカは普通のA級冒険者なのだから。




 その夜――ソレイユはなかなか寝付けずにいた。

 明日のことを考えて――というのもある意味では正しいが、本当の理由はその先のことを考えてだった。

(モンスターパレードが起こりそうだから緊急で間引く、モンスターパレードが起こったから緊急で間引く――これらは正しい。冒険者として当然の行為だ。……だが、それはあくまで対処療法であって、根本的な解決じゃない……)

 モンスターパレードをある種の災害だと考えれば、その対策として「起こりそうだから」「起こったから」何かしらをやる、というのは遅過ぎる。本来ならば、「いつ起こってもいいように」備えておくべきなのである。

 たとえとして津波に言い換えれば、地震が起こったあとに、「津波が発生しそうだから堤防を造ろう」――あるいは、「津波が発生して沿岸が壊滅的な被害を受けたから堤防を造ろう」――と言うようなものである。どう考えても遅過ぎる。しかも、堤防の維持管理はしないのだ。

 ある程度、間引いたら、それだけで満足してしまう――法国の兵団の在り方を考えると、ソレイユはそんな気がして仕方がなかった。

(……どうすればいいのだろうか――)

 対処療法には限界がある。ラッシー枢機卿領では間に合わなかったが、ミルク司教領やラテ司祭領では間引きが間に合い、すぐにでもモンスターパレードが起こりそうな事態は回避できるかもしれない。だが、ソレイユやヒバリ、S冒険者パーティー「天輪」だけではそこまでだ。

 法国は広い。わずか六人でその全てのモンスターを間引きすることなど不可能だ。

 冒険者達に訴えても、聞く耳を持つ者はわずかだろう。

 そして、命令無しに兵団は動けない。

(――いや……どう戦えばいいのだろうか……)

 立ち向かうべきは何なのか。

 その答えをとっくに知っているにもかかわらず、どうしても決断が下せないまま、ソレイユは闇の中でもがいていた。

 細かい話は活動報告にて。

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