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一騎討ち


 時計塔の針が日付の変更を告げる。雲は月を覆い隠して動かない。


 ヴェーラは時計台のある戦勝記念広場にやってきた。フェイリスは左腕を押さえ、浅く呼吸している。


「あの人間は逃げたのか。お前を助けたように見えたが。とんだ腰抜けだったわけだ」


「一騎討ちです、ヴェーラ。決着をつけましょう」


「望むところだ。私はあのお方に見出され、強くなった。もはやお前には負けぬ」


 フェイリスは右手だけでヴェーラに挑むが、たやすく蹴り飛ばされた。地面に叩きつけられる。


 ヴェーラは風をまとい、フェイリスに踊りかかった。己の爪と牙を頼みに。翼持つ虎にふさわしいのは彼女かもしれない。だが、その過信が命取りだ。


 俺は広場を臨む高台にいる。茂みに腹這いになり、銃身を固定。呼吸は最小、引き金を引くまで髪一本分も動かせない。


 弾は一発。フェイリスが稼いでくれた刻で作った弾薬。これで決める。発砲。


 弾道は逸れ、ヴェーラから離れた敷石に突き刺さる。かすりもしない。彼女は足を止め、俺のいる高台を見上げた。せせら笑う。


「とんだ相棒だな、フェイリス。一発も当たらんとは。あいつも八つ裂きにして喰ってやる」


 起き上がったフェイリスが飛びかかる。いなされるかと思いきや、ヴェーラのみぞおちに拳が深く食い込んだ。


「がっ、何……!」


 ヴェーラは足を踏み出そうとしてもできなかった。右足に樹木の硬い根が絡んでいる。がむしゃらに腕を振り回し、フェイリスは吹き飛ぶが、すぐ跳躍し回し蹴りを叩き込む。側頭部に当たりバランスが崩れた。


「何故こんな所に根があるのだ。あの人間の仕業か!? わざと外し、欺いたというのか! この私を」


 例の耳鳴りが来るが、もうその手は食わない。フェイリスの前蹴りが、一瞬早くヴェーラの顎を衝き上げた。


「体が、うごかぬ……、王は私だ。認めぬ、こんな」


「「もう遅い!」」

 

 よろめき膝をついたヴェーラの頭を掴み、顔面に膝蹴り。俺のいる場所まで重たい音が響いた。


 さすがにこれは耐えかねたのか、ヴェーラが立つことはなかった。


「おーい、生きてるか」


 俺が広場に下りると、フェイリスはヴェーラの脇に倒れていた。


「なぜわたしは勝てたのでしょうか」


 地力も気持ちもヴェーラが上。だがそれゆえ彼女は負けた。


 勝負どころで己の力のみを頼りにしたのが悪かった。はじめから爆炎魔法をぶっ放し続ければ勝てたのだ。


「うぬぼれんな。仕込みがあるに決まってるだろ」


 ヴェーラの足に木の根のようなものが張り付いている。ガンビツバメの巣は岩盤を砕くほど強固な根を骨組みに使う。弾丸はその根が瞬間的に広がり動きを止める。樹縛弾。忍の服についていた巣の材料をくすねておいて正解だった。


「どうりで動きが……、ズルいですね」


 ヴェーラの爆炎は、轟音と煙を大量発生させる。耳も鼻もとっくに馬鹿になっていただろう。反応も遅れる。借り物の力にも足を取られ、あいつは負けるべくして負けた。

 

「人間はズルいからな。勝てばいいんだ。それにお前も本気出してなかったよな。威勢がいいのは口だけかよ」


 肉親と本気で殺しあう度胸がなかったから俺を頼ったのだろう。とんでもない甘ちゃんだ。


「ありがとうございます。ヴェーラを殺さない計画を立ててくれて」


 安堵の微笑みは、獣らしくない。可憐にさえ思えた。


「殺るって言ったのお前だろ。俺は火の粉を払っただけ。もういいだろ。じゃあな」


 これ以上の厄介ごとは御免だ。顔を上げると、橋の方から街の住民が集まってくるのが見えた。


 一様に浮かんでいたのは猜疑の目。英雄に向けるものではなかった。

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