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魔性の歌声



 令嬢は畳んだ日傘をフェイリスに向ける。魔力が波打って、先端に流れた。


「固有魔法 海獣聖骸。一角!」


 弾みをつけた令嬢が、勢いよく突進してくる。


 フェイリスは回転のかかった突きを、片手で難なく受け止めた。


「危ないじゃないですか。傘ってこういう風に使うものでしたっけ」


「針千本のーます」


 令嬢の影から黒い針が無数に飛び出し、窓や家具に穴を開ける。俺のすぐ側の枕も羽毛を飛び散らせた。


「海の生き物を使う魔法ですか。初めて見ました」


 天井に張り付いていたフェイリスを、令嬢の次なる手が襲う。


「大蛸」


 令嬢の足の間から太縄のような触手が伸び、フェイリスの胴に絡んだ。吸盤のついた触手は軽々と彼女を窓の外に放り投げる。令嬢も窓からすぐ後を追った。


 毒出しがきいたのか、歩けるようになった俺も別荘を出る。


 海岸では二匹の獣がしのぎを削っていた。フェイリスが蛸足を食い破ると、令嬢は鉄砲水で距離を保つ。


「ドラちゃんの弱点知ってます。魔法に弱いのでしょう? 対して私は大得意。結果は見えていますわ」


 令嬢の言うとおり、グリフィンタイガーは魔法の耐性が総じて低い。ヴェーラの爆炎でも、かなりの傷を負った。相性的には最悪だ。


「今回は援護できないが、平気か」


 俺は足手まといになっている。この戦いにフェイリスは本来関係ない。何かできないかと考えていると、隣の彼女は首を振った。


「信じて側にいてくれるだけで十分です。それだけで、わたしは始祖サテラのように海だって越えられる」


「泳いでな。でも嬉しかったよ、来てくれて。やってやれないこともないのかもな」


「はいっ!」


 目を見交わす俺たちを前に、令嬢の怒りが爆発する。


「私を無視して、スミスさんも同罪ですわ。二人とも吹き飛ばしてあげます。大魔法 鬼神風車」


 令嬢の手のひらを中心に、黒い竜巻が起こる。一瞬で長大な高さと勢いを獲得した。あまりの強風に、目を開けているのもつらい。俺は側の岩にしがみつくのがやっとだ。


 フェイリスの動きは早かった。竜巻をよけるように円周を描きながら、それでいて俊敏な動きで令嬢に近づいていく。


 手が届く距離に近づいた瞬間、令嬢から神々しい光が放たれた。そっと、包み込むように歌い出し、情感を乗せ口ずさむ。同時に漂う海月が楽器のように音を奏で、彼女の歌を盛り上げた。


 戦いを忘れさせるような天使の歌声は、同時に数多の人間を海中に沈めた魔性の声でもある。


 俺はとっさに耳を押さえたが、魂を溶かすような旋律に意識をもっていかれそうになった。


「大魔法 亡き王女のための鎮魂歌レクイエム。おやすみなさい、ドラちゃん」


 発動ラグなしの強制昏睡魔法。令嬢は引き出しが多い。


 歌を直に聞いたフェイリスはうつ伏せで倒れている。相性的な問題はどうにもできないのか。ところが、


「えっ……!?」


 令嬢の口から驚愕の声が漏れる。


 フェイリスが立ち上がっている。次に魔法を発動する前に押し倒し、馬乗りになった。


「海に潜ってたから耳に水溜まってたみたいです。覚悟はいいですか。毒出しの刑です!」


「ひいっ……!?」


 猛獣に襲われ、絶体絶命の令嬢。しかも例の毒出しを食らい、阿鼻叫喚となった。神聖な唇を貪られ、捕食される。俺はあれを食らったのか。端から見ても恐ろしい。


 干物のように白くなった令嬢の上で、ドラ猫は勝ち名乗りを上げる。


「スミスの唇を取り返しました。わたしの勝ちです!」


 単純に喜べない。俺も令嬢も、お嫁に行けない体にされてしまった。



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