第一話 過去のお話と出会い
暗雲が立ちこめ、雷鳴が響く空。その空に
みえる人影は、片方が長身で、片方は小柄であった。
この二人───否、二柱はお互い睨み合ったまま、暫く無言であった。が、やがて長身の方が口を開けた。
「なぁ、さすがにこれは謝罪くらいしてもよいだろう?」
口調は穏やかなのだが、しかし圧倒的に感じる威圧感。顔には笑みすら浮かんでいるのだが…目が笑っていないとはこのことだろう。
「意味不明。相変わらず沸点が謎」
これに即座に切り返すもう片方。顔には一切の表情がなく、それと同様に声にすら感情は乗っていない。だからこそ、そこにある冷徹なまでの感情の昂りが分かる。
互いの間に緊張が走る。まるで、爆発寸前の爆弾のような緊張感。
もしこの場に人間が居ても、二柱は空の上。姿こそ分かれど会話は聞き取れないであろう。
「今謝れば許すよ。我優しいし。ブチ切れて痛い目に会う前に終わらせた方がいいと思うなぁ。」
と言っているが、背後では雷で形作られた雷龍がとぐろを巻いている。あっ、今後ろの山に雷落としましたよね?
「何回も言わせないで。その辺に投げてたのはそっちでしょ。」
対するもう一方も、周囲の空間がピシピシと叫び、ヒビが入りはじめている。背後には、ドスを持ち白装束を纏った般若の幻影…幻影?が見えた。
「あーあ。もう知らないからね。神様怒らせたらどうなるか教えてやるよォ!」
笑顔か消え、手には雷を抑えつけて創った雷槍が握られていた。
「私も神だし。自己紹介?」
皮肉と共に、しゃらん、と鈴が鳴る様な───言い換えると空間を切り裂いた音がなり、小柄な身長を優に超える大鎌が握られていた。
逼迫する空気、今すぐにでも戦闘が始まりそうな雰囲気、息苦しささえ覚える威圧感のぶつけ合いの中で、遂に両者が動く…
───と、ここで視点を地上へと移す。
先程、もしここに人間が居ても、と言ったが……居たのだ。二柱の闘いを見た人間が。神の作った認識阻害空間に、感情の昂りによってできた一瞬の隙間を偶然通って、一人の人間が入り込んだ。
神々からそこそこ離れた丘の上で一人の人間が愕然とした表情で突っ立っていた。勿論、会話が聞こえていたはずもない。だからこそ勘違いと共に後にほぼ全ての国に広まった伝説に立ち会ったその人間は、歓喜と畏怖に支配されながら、その光景を網膜に焼き付け、ただ涙を流していた。
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「──て、……きて、起きて。」
真っ白い、何も無い空間。全てが白一色に覆われているから、ともすれば平衡感覚すら失ってしまいそうな場所で、一人の少女が黒いもやのようなものに手を触れ、揺すっていた。
「……?誰でしょうか…」
黒いもやが意識を取り戻したようにふるりと震えた。もやに顔があれば、丁度瞼を開けているところだろう。
「ん。起きた?」
……余談だが、起きてすぐにドアップの顔を見せられれば、相手が誰であろうと多少なり驚いてしまうだろう?だから、目の前の少女にビビって後ずさったもやを誰が責め立てようか。
「ぅっ、わぁ…!だ、誰ですか?」
もやが、すぃっーという擬音が付きそうな動きで後ろに下がると、少女が地面に座りながら(いわゆる女の子座りというやつである)こてん、と首を傾げる。
「こいつ何してんだって感じですけど、起きたら目の前に幼女とかそりゃ驚くと思うんです。」
「よう、じょ?」
…そうなのだ。これまで少女少女と頑張って言ったが、どちらかといえば、幼女と言っても別に問題はない容姿(別のところでの問題は置いておく)なのだ。
ここで、この少女…幼女の、容姿を説明しておく。
黒目黒髪ロング黒ワンピのジト目ロリっ娘である。
黒目黒髪ロング黒ワンピのジト目ロリっ娘である!!!!
こほん、話を戻そう。
「あの、ごめんけどどういう状況なのか聞いてもいいですか?」
まだ混乱してはいるが、状況を理解するのは大事だ。例えば、自分の体はどこにいったのか。
「……あなたは死んだ。私はあなたを呼んだ。世界を見てきて。」
「…………」
この幼女…少女は説明下手過ぎないだろうか。こんなので理解できる訳が──
「なるほど。」
超速理解さん!?
「なぜでしょう。妙に納得する節がありますね。僕が死んだのはいいです。けれど、幾つか質問してもいいですか?」
「ん。」
幼女…少女は、こくん、とゆっくり頷いた。
「まず自己紹介をしましょう。僕の名前……は、全然覚えてないな。君の名前は?」
「私、名前なんか、ない」
「……そうだな、ここは一体なんなんですか?」
「……世界の狭間」
「僕の体ってないんでしょうか。」
「あなたを見てない。から、再現できなかった。」
「どうして僕なのでしょう。」
「私がそっちの世界に繋がったとき、輪廻の輪に戻ってなかったのがあなただったの。」
「どうして君は、自分で世界を見ようとしないんですか。見る限り、僕と違って体はありますし。」
それまで明瞭に答えていた口が止まる。相変わらずの無表情であるが困惑している雰囲気が容易にわかる。
「この体は記憶を再現しているだけ、だから。……私、は、見られない。どうしてなのか、分からない。……だから知りたいの。私がどうなってるのか、どうしてなのか。お願い…私の代わりに……」
声がしりすぼみになっていく。断られると不安になっているのだろうか?しかし、既に腹が決まってるモノ…モヤは優しく語りかける
「そんなに不安そうにしないでください。いいですよ。僕が貴女の代わりに世界を見てきます。だからほら、そう不安そうにされると、僕まで悲しくなりそうだ。」
このもや、生前の姿ならさぞ優しく微笑んでいたことだろう。大層モテたに違いない。けっ。
「ん。ありがと…それじゃ、送るから」
幼…少女の顔も幾分か晴れやかになったように思える。終始無表情だったが。
そして、もやの足元に漆黒の魔法陣が現れる。その黒さに反比例するように、魔法陣からでる光は、白一色のこの空間の中でも分かるくらい輝いていた。
「それじゃあ、」と言いかけたところで、もやは思い至る。ここが世界の狭間という、不安定な場所だということ。だからこそ自身の体がなくても平気で居られたんだろう。じゃあしっかりとした世界にいけば?
「ね、ねぇ!僕の体ってどうなるんですか!?」
「……大丈夫、ちゃんと創ったから。」
それってどういう───その言葉を言う前に、目を閃光が塞ぎ、意識すら光に包まれて、黒きもやは異世界へと見送られた。
続きはほぼ出来てないです