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第6話「ドクソウの賭け事」

「美味い、材料が何なのかは分からないけど、とりあえず美味い」

 あの後、泣きながら逃げた二人を見送って、異世界初の料理を味わっていた。

 肉や野菜らしきものが煮込まれたシチューのようなものに息つくこともなくがっついてしまう。

 それだけ料理は美味しく、俺は空腹だった。

「これ何の料理?」

「モー獣のシチューですね。育てやすくて美味しい、家畜として一番人気がありますよ」

「猛獣?」

「いえ、モー獣です。モーって鳴くからモー獣です」

 牛じゃん。

 泣き声で区別するのは分かりやすいけどそれ牛じゃん。

 声に出さず内心でイリスに突っ込む。

 声を出すよりシチューをかっ込む方が大事だ。


「ごちそうさま」

 結局シチューを二杯食べてようやく一息ついた。

「ふー、あ、お金が無い」

 そこで気がついた。

 今の俺は一文無しだ。

 財布も無い、あっても使えないだろうが、それなのに食欲の赴くままに食べてしまった。

「ごめんイリス。今手持ちが無い」

 ひとまず謝罪。こればっかりは俺が悪い。

「いえ、大丈夫ですよ。元々私が払うつもりでしたし」

 笑顔でそういうイリス。

 言ってることと笑顔だけを見れば天使のようにも見える。

 ……気がつかなかったけど、尻尾が生えてるんだな。スカートからはみ出る悪魔のような黒い槍のようのな尻尾。

 悪魔と契約する時は魂を差し出さなければいけない。

 そんな言葉が頭をよぎった。

「ちゃんと稼いで返す」

「別に大丈夫ですよ? 私が勝手に頼んだようなものですし」

「返ス。チャント。返ス」

「何でカタコトに?」

 目の前にいるのは自分の夢のためにわざと盗賊に捕まるようなサキュバスだ。借りは返しておかないと何を要求されるのか分かったもんじゃ無い」

「そんなことしませんよ!?」

 うっかり。つい口に出てしまったか。

「いくら私だってちょっとこの後お部屋にお邪魔したりとかできたらいいなぁー、とかそのくらいしか!」

「今日は野宿か」

「何でぇー!?」

 自分の胸に聞いてほしい。


「で、目下の目標というかとりあえず金策だ」

 話を戻す。

「何をするにしてもお金は必要。文明有る限りお金最強」

 マネーイズオール。お金は世界。

「それはまぁ、お金は大事ですけど何に使うんです? 日々暮らすだけならギルド登録して、簡単な依頼をこなすだけで大丈夫ですよ? 商業とかはまた別ですけどね」

 イリスの疑問ももっともだ。ただ暮らすだけなら何とかなるだろう。しかし、俺には目標がある。

「マオ、その事をイリスに伝える必要があります」

 あれ、言ってなかったのか。


「魔王ですか? 魔王はかなり昔に討伐されたとか聞いた事ありますけど。いや魔王になる? 確かに魔王みたいに遠慮ない時もありますけど、魔王になる……?」

 頭の中で整理ができないのか悩むイリス。

「普通の人は魔王になるなんて言いませんからね。マオだけですよ」

 オンリーワンか、最高だな。

 それはともかく。

「魔王ってこう、部下がいて、怖くて強い? イメージがあるだろ?」

「目標にしてる割にはかなりあやふやですね」

 詳しくないからな。

「魔王には部下がいる。つまり組織を形成する必要があるわけだ。そして組織を運営するには金がいる。組織自体、そして人件費が主に。つまり、俺自体がリーダーとなる組織。ギルドを立ち上げるくらいに頑張る必要がある」

「なんでそこははっきりしてるんですか」

 少し勉強した事あるからな。

「そんなわけで金がいる」

 ただし、稼ぐにも金がいる。その資金すらもない。

 ため息しか出ない現状で声をかけられた。

「金ならあるぜ」

 振り向くと片眼鏡をつけたゴブリンが立っていた。


「聞いてたぜお前さんら、金が欲しいんだろ。それもかなりの大金がならいい案があるぜ。ヒェッヒェッヒェッ」

 いかにも胡散臭い。イリスも訝しげにゴブリンを眺めているが、俺には関係ない。

「どんな話だ」

「マオさん!?」

「ヒェッヒェッヒェッ」

 驚くイリスと対照的に笑うゴブリン。

「一気に大金を手に入れる方法ってのは限られる。そこで即座に手に入れるにはあれよ、あれ」

 ゴブリンが指さす方を向くと数人が机に集まって何かをしている。

 お金と一緒に机に置かれているのは……。

「カード、つまりは博打よヒェッヒェッヒェッ」


 なるほど、確かに。この町ならあるだろうなと思っていた。

 お金も知識も無い今この町にしばらく在住することになるだろう。働く、金を稼ぐ方法はギルドで行うしかないと思っていたが、この町で正常に動いているのかは怪しい。そして仮に動いていたとしても、装備を整えるなどの資金もいる。

 だとすれば。

「最初の掛け金はこっちが出す。取り分はその金と勝ちの半分でどうだ」

「乗った」

 博打にかけるのも悪くない。

「交渉成立だな。ヒェッヒェッヒェッ」

 手を差し出す。肝心なことを聞いていなかった。

「俺はマオ。お前は?」

「バイケイだ。頼むぜ、マオウの旦那」

 握り返すバイケイ。

「そこまで聞いてたのかよ」

 なかなか油断ならない奴だな。

「さっき絡まれてた奴らを口だけで追い払ったろ、それを見ててな。ヒェッヒェッヒェッ、さらには魔王になるとか面白そうだと思ったのさ」

 そんなに目立っていたとは思わなかったが、そうでも無かったようだ。

「マオウの旦那、俺には野望があるのさ。そのためには旦那と組むのが良さそうだったからな。とは言ってもだ。先に言っておくが賭けにボロ負けするようじゃ俺は遠慮なく見捨てるぜ。負け犬とは組まない。この町じゃなくても常識だろ?」

 醜悪な笑みを浮かべるバイケイ。

「マオさん! 今からでも遅くないですから辞めておきましょう!」

 イリスが止めに入る。純粋に心から心配してくれているのだろう。

「大丈夫、これくらい乗り越えないと魔王になんかなれないし」

 目の前のゴブリンを見る。

「バイケイ、俺が勝った時報酬を追加だ」

「へぇ、まだ勝負もしていないのに気が強いねぇ旦那」

 頭が良い、目も良い、度胸もある。野望もある。

 そんな奴を放っておけるはずがないだろう。

 真っ直ぐにバイケイを指差して言った。

「俺が勝てばお前、俺の配下になれ」


「ルールは配られた手札と場にある札で役を作り、役が強い奴が勝者だ」

「ポーカーか、なら大丈夫だ」

 バイケイにルールを聞き、賭けを行っていた机に座る。

 座っていた連中は獲物が来た、と言わんばかりに俺を見る。ポーカーのルールは知っているが、遊びでしかやったことがない。

「あー、初めまして。ちょっとお金が欲しくてね。初心者だけどよろしく頼むよ」

 にこやかに笑い、挨拶をする。

「多分ね、頑張っても巻き上げるくらいしかできないだろうけどみんなも頑張ってね」

 一瞬でカードをしていた連中全員が、剣呑な雰囲気に包まれる。その様子を後ろで笑うバイケイと不安そうに眺めるイリス。

「行くぞ、アイ」

「ハイ、マオ」

 小さくアイに声をかけるとゲームを始めた。

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