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第4話「乙女夢魔の秘密」

「ん、お、難しいなこれ」

 お互いの心をさらけ出し、これまで以上に仲良くなった盗賊たちを見送った後、もらった鍵で手枷を外そうとするがうまくいかない。

「マスター、人に任せた方が良いかと」

「だな。イリスさん、ちょっとお願いしてもいいですか?」

 イリスさんに頼もうと振り返ると、思っていたよりも近くにいた。

「手枷の鍵ですね、任せてください」

 笑顔で鍵を受け取るイリスさん。

「それにしてもカッコよかったですよマオさん」

「え?」

 鍵を使いながらイリスさんは急に話し出した。

「過程はまぁ、カッコよくとは行きませんでしたけど、私のために前に出て、助けようとしてくれたこと。一生忘れません」

 手枷を外すために少し屈んだイリスさんは、下から見上げるように、いわゆる上目遣いで微笑んだ。

 日本どころか、世界中を探しても滅多にお目にかかれないほどの美貌を持つイリスさん。そんな人が近くにいることを意識すると急に緊張してきた。

「運が良かっただけですよ、アイがいなかったら俺には何もできなかった」

 そうだ。

 今回は運が良かっただけ。

 運良く、アイがいた。

 運良く、相手に秘密があった。

 運良く、相性が良かった。

 運良く、ツイていた。

 それだけ。

 ……改めて考えると結構運が良かった。運の良い魔王もアリかもしれない。


「そして、運良くマサキさんとアイさんがいてくれた」

 ガチャリと手枷が外れる。そして自由になった俺の両手をイリスさんが優しく包む。

「誰かを助けることを当然と言えるあなただから、私を守るために動いてくれたマオさんに私」

 ゆっくりと顔が近く。

 思わず惹かれるほどの魅力が身体を満たす。

「あの、イリスさん」

「どうぞ、イリスと呼び捨てに」

 程よく長い睫毛、宝石のように輝く瞳、スラリとした鼻、水気のある唇。遠目からも綺麗だった顔のパーツが細かく見えるほどの距離。無意識に俺からも近づいていた。

 ゆっくりと目を閉じて顔を傾けるイリスさん。

 こんな美人にここまでされて、男として何もしないわけにはいかない。

 そう決意した。

「イリスさん」

「イリスと」

 お互いの吐息が伝わるほどの距離。

「イリス」

「はい、マサキさん」

 そして二人の影は重なり……、


「イリスさんは自分の手枷、いつ外したんですか?」

 近づいてきたイリスさんが目の前で止まる。

 手枷のついていない手を握りながら、笑顔で微笑む。

 今キスするのも面白そうだ。


「い、いやぁさっきですよ? 盗賊の方がいなくなる前に自分で頑張って」

 目を合わせると、下にそらした。

 俯いたイリスさんの顔を覗き込むと目が泳いでいる。

 もう少し、泳がせたいがこの後を考えると遊びすぎるのも良くない。

「大丈夫ですよイリスさん、全部知ってますから」

「え?」

「一人であの盗賊全員を倒せる力を持っていることも」

「は、え? な、何をおっしゃられているのか」

 イリスさんが、ビクリと震えた。

「わざと捕まったことも」

「ま、まさかぁ、そんなバカなこと」

 ゆっくりと後ろに下がるが手を掴んだままだ。

 逃さないようにゆっくりと近づく。

「イリスさんがサキュバスだってことも」

「なんで、あ、アイさんが!?」

 ようやく気づいたイリスさんはアイを探そうと辺りを見渡すが、見て欲しいのはアイじゃない。

「イリスさん」

「あ、あの私が悪かったので」

 少し涙目になってきた。美人は泣いていても美人、これはどの世界でも変わらないみたいだ。

「大丈夫ですよ、イリスさん。僕はこんな美人をいじめるなんて、そんな非道なことができる人間ではないです。例え……」

「目が笑ってますよぉ!? 勘弁してください! 何でも! 何でもするのでその先は勘弁!」

 全く、悪い人だ。そんなことを言われたら大抵の男はコロっと落ちてしまう。

 魔王となるために見習おう。

 にこりと笑う。するとにこりと、引きつった笑みをイリスさんは返してくれた。


「白馬の王子に助けられることを夢見ている、拗らせ乙女だとしても」

「アンギャアアアアアアアアアアア!」

 イリスさんの甲高い叫び声が響く。

 美人は叫び声もすごい。




「魔族とは人と容姿や能力が異なるも、意思疎通のできる者たちの総称です。その中の一つであるサキュバス、夢魔は雄の性欲をエネルギーとして食す種族です。そのため肌の出る服を着るなど、雄を誘惑する習性があります」

 確かにサキュバスという種族にはそんな偏見に近いものがある。身体を隠すのではなく、魅せるための服装、コスプレとでも言うべき、そんな服装のイメージが多い。

 だが自分の種族について解説する目の前のサキュバスは肌をほとんど出していない、普通の服だ。異世界の俺からすれば普通の基準もおかしいが。

「あの……、この羞恥プレイそろそろ終わってもいいですか? 自分の種族について説明するのかなり恥ずかしいですけど」

「何でもするって言われたのでつい」

「言いましたけどね!? トドメを刺す代わりにって言ったじゃないですか!」

 涙目で叫ぶイリスさん。だが、自分にはトドメを刺した記憶がない。

 言い掛かりも勘弁してほしい。

「怖いよこの人―、魔族相手に普通に接するだけでもおかしいのに、言葉で人の心平気でえぐってくるよー」

「そんなこと言ってもあざといだけですよ?」

「もうやだこの人、発言が魔王並に鋭くて辛い……」

 ほめ言葉です。


「さて、これからどうしようか」

 拗らせサキュバスで遊ぶのに夢中で、どうするのかを一切考えていないことに気がついた。

「とりあえず町か村を探すべきか」

 周りの木々を見ながらいう。一人で、いや二人だが、サバイバルをする能力は俺には無い。アイの助けである程度はこなせるだろうが、それもずっとでは無い。

「アイは人がいる方向とか分かる?」

「私の検知範囲では確認できません。なので、視界の開けた高所で確認することを提案します」

 そうだなとうなずき二人で行こうとする。

「待って、待ってください」

 一度振り向く。

「あ、お疲れ様でしたー」

「いやいやいや、待ってくださいよ! あんなに私を虐めておいて遊び終わったらポイですか!」

 根拠皆無な悪評だ。この手の問いかけは反応しないほうがいい。気にしないでいいだろう。

「あ、ほんとに置いていかれる? 待って、待ってくださいよ! 私なら近くの町まで案内できますから!」

「ホント?」

 躊躇わず振り向いた。

「あ、はい。そんなに遠く無いのですぐに着きますよ」

 それはありがたいが、さっきまでのやりとりを忘れたのだろうか。…………それとも盗賊頭領と同じ趣味が?

「なんか勘違いの気配が……、違いますからね!? 別にこんな悪党彼氏も悪くないとか思ってませんからね!?」

「思ってるじゃん」

 大丈夫かこのサキュバス。

 ホストにのめり込むダメ女の匂いがする。


「サキュバスは雄を誘惑するために雄の好み、本性を見抜くことにも長けているんですよ。アイさんほどじゃないですけど」

 結局、イリスさんの案内で近くの町に向かうことになった。

「そして何より、私の女の勘が告げているんですよね。フッフッフッフ」

 少し笑うとドヤ顔で告げた。

「マサキさんの本性は人のことを思える優しい人。毒舌を使うツンデレな人であると」

「俺の名前はマオです。名前も見抜けない程度の勘で何を言ってるのか分からないから適当なこと言うな」

「え!? あ、偽名? というか最後敬語が抜けてる!」

 誰がツンデレだ。憶測にも程がある。

「次変なこと言うと町中でイリスの正体大声でバラすからな」

「町中に!? 鬼ですか!?」

「違う、魔王だ」

 そこは譲らない。

「あれぇ? 自信あったのに間違えたかなぁ。でもツンデレっぽいし、飴と鞭を使うドメスティックタイプでは無いだろうし」

 よく分からないことを呟きながら歩くイリスに後ろから付いていく。

 そばを浮いていたアイが近づくと、俺に小声で言ってきた。

「私はマスターの心を知ってますので言いますけど、マスターはツンデレの素質がありますよ」

 何を言ってるのか分かんねぇや。

「今のマスターはイリスが一人であの盗賊全員を倒せる力を持っていることを知っています。ですが、イリスの前に立ち塞がった時、そのことを知りませんでしたよね。私がまだ情報共有を終えていませんでしたから」

 そうだっけか、もう覚えてねぇや。

「マスターの秘密、私は知っていますが、それをバラすつもりはありませんよ」

 そういうと、アイは言い澱んだのか間を開けて再び言った。

「ですので、もしマスターの優しさに気づいた人がいた時は、その人を信用してあげてください」

 ……ノーコメント。

「マオさん大丈夫ですか? 休憩します? そう遠くないので少しくらい休憩しても大丈夫ですよ?」

 顔を覗き込むイリス。

 …………綺麗な顔だ。

「はぁ、大丈夫だから案内してくれイリス」

「顔を見ただけなのにため息つかれた!?」

 口の回る魔眼の使い魔に、騒がしい拗らせサキュバス。

 ……魔王になるには少し騒がしい仲間だな。

 そんなことを考えながら歩く。

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