第3話「ハゲ盗賊団の秘密」
盗賊の頭領はドM。
俺の一言で場の空気が凍りついた。
声も物音も自然の音も全てが無くなり、ただ世界が存在する、そんな感覚。
「奴隷を見ては羨ましいと常々思って」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺の言葉を遮るようにハゲの頭領はたまらず叫んだ。
「何だよ、ドMハゲ。人の話を遮るなって教わってないのか」
まったく、これだからハゲは。
「俺はハゲじゃないスキンヘッドだ、じゃねぇよ! 何の前触れも無くそんなこと言うんじゃねぇ! 見ろよ! 部下だけじゃなく女も固まってるだろうが!」
「そりゃそうだろ、お前の秘密に全員ドン引きだ。何でそんな秘密暴露したんだよ」
「暴露したのはお前だ!」
先ほどまでの空気が無かったかのように俺の言葉にツッコミを入れる頭領。
いじり甲斐がある。
「そもそも何の根拠があって」
「なら最後まで聞けよ。嘘なら嘘と言い張ればいい」
焦る頭領と笑う俺。
「俺たちに手枷をはめるときも羨ましいって思ってたろ」
冷や汗が垂れる。
「気分だけでも、武器の鎖を巻きつけるようにしたろ」
目が泳ぐ。
「娼婦を買う時も手下の手前」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
しばらくの間、ハゲの慟哭が森に響いた。
とても楽しいです。
「マスター既に倒れていますが」
アイに促されるままに見ると、ハゲがこの世の終わりだとでも言うような絶望した顔で膝をついていた。
「……違う」
ポツリと、声が聞こえた。とても小さいが、間違いなくハゲの声だ。
「違う、違うんだ」
壊れたように違うと言い続けるハゲ。
面白いことを言いそうだな。
「何が違う?」
応えずに、口を閉じたハゲ。小さく、次第に大きく身体を奮わせると立ち上がり、大声で言い放った。
「俺はちょっと鎖で縛られたり手錠をはめられたり何なら鞭打ちとかに興味があるだけでそこまで望んでない!」
政治家の街頭演説のごとく、清々しいまでの暴露。
「でも俺の言ったことはあってるんだろ」
そこに振りかざすは正論の刃。トドメとも言う。
「ああああああぁぁぁぁぁぁ!」
ハゲた大男の慟哭。
ここまで心に響かないものもない。
だが、目標は魔王となること。
せっかくなので。
「俺を捕まえたこと、今更後悔しても遅いんだよなハゲェ! おっと、お前にこの言葉はご褒美になるのかぁ!?」
「ならねぇよぉ! もう勘弁してくれぇ!」
むせび泣くハゲ。
高笑いをする俺。
その様子を見ながら周りがドン引きしていたが、それほどまでにハゲの性癖が耐えられなかったのだろう。
視線が俺に集まるのは気のせいだ。
「 」
俺の暴露に涙も声も出し尽くしたハゲは、真っ白に燃え尽きていた。
「そろそろ行くか」
手枷を外すために鍵を取ろうとハゲに近づいた。
「悪いが、頭領をここまで追い込んで、はいさよならとは行かないなぁ」
ハゲと俺の間に立ち塞がる部下たち。
「お前ら……」
打ちひしがれていたハゲの頭領は希望を見つけたように部下を見る。
ま、そうなるよな。と、なると。
「次は手下の秘密だな」
「「「「「え」」」」」
動くどころか声も出なかった手下たちを声がかぶった。
「お前ら全員、ハゲに惚れてるよな」
「え」
燃え尽きたはずのハゲが顔をあげた。
「全員がハゲに惚れて盗賊に入ってるよな。元は精々がチンピラ以下、普通の善人もいる。慕われているな」
「え、え、え」
困惑するハゲの頭領。手下を見るが全員が無言で目を逸らす。気が付きたくなかったが、頬を染めている。
「さっき俺を止めようとしなかっただろ。見逃そうという善意一割、残りが傷心したハゲを慰めるついでにイロイロと計画してたろ。抜け目ないな」
したたかな部下だ。
「お、お前ら嘘だろ」
沈黙が答えを物語っていた。
「お、おい何とか言えよなぁ。こいつらのいうことは嘘だって、ほら。面白いこというよなって。はは、はははははははは」
ハゲの乾いた笑いが響く。
だんだんと面白くなってきた。
「……頭領」
ようやく一人が口を開いた。
「お、おう何だ」
「……俺、頭領の自信溢れるところに憧れて、本当はこんな悪さして欲しくなかったですけど、それでもついて行きたかったんです」
一人の独白に俺も、俺も、と周りが賛同していく。
「そ、そうか。今まで気がつかなくて悪かったな。も、もう良いぞ無理について来なくても。俺は一人で生きてくから」
「でもね、今の話を聞いて思ったんですよ」
「な、何をだ」
腰を引き気味に手下と話すハゲ。気持ちは分からなくもないが、側から見ればハゲの方が下に見える。
言うか言うまいか悩んでいた部下は覚悟を決めたのか、真剣な表情になるとハゲに言い放った。
「頭領、俺たちは奴隷プレイ有りですよ」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
涙と共に走り去るハゲ、その背中を追いかける部下たち。
「待ってくださいよ頭領!」
「これも頭領の希望プレイですか!」
「あ、これ二人の鍵ね。色々迷惑かけたけどごめんね。それときっかけをくれてありがとう」
そう言って部下は俺に手枷の鍵を渡した。
「共有した情報をうまいこと扱いましたね。」
空気を読んでいたのか、静かにしていたアイ。
「さすがですマスター」
「当然だろ」
アイには対象の解析だけでなく、情報共有とテレパシーができる。
テレパシーでアイに指示、イリスさんと盗賊のやりとりに割り込んで情報共有の時間を稼ぐ。
保険としてアイには幻影の準備もしてらっていたが、必要なく終わったのはいいことだ。
「襲ってきた盗賊を言葉だけで撃退、これって魔王っぽいよな」
「魔王もドン引く魔王の所業でしたよ」
つまり魔王っぽい、と。
盗賊撃退、目標闊歩。最高の結果だ。