表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第2話「異世界初の邂逅」

「おい起きろテメェ」

「ん、ん?」

 気が付くと俺は森の中で倒れていた。揺らぐ草木、暖かい木漏れ日、武装している謎の集団。

「おい何もんだテメェ、見慣れねぇ格好しやがってよぉ」

「貴族か、なら金持ってんだろおい」

 剣や槍を持ち、ゲームの中でしか見たことのないまるで盗賊のような服装。

 夢か。夢だ。夢であって。

「スカしてんじゃねぇぞおい!」

「いて」

 槍の石突で小突かれた痛みが夢ではないことを教えてくる。……それにしてもせっかく異世界に来たと言うのに。理想があったわけじゃないけどこれは違う。


「あー、そのごめんなさい。ちょっと待ってください」

 立ち上がろうとするがふらつき、また座り込む。どうも寝起きのように頭がはっきりしない。

「何してやがる、さっさと立て!」

「お前ら何してんだ」

「頭領、それが、変なガキがいまして」

 盗賊の中でも一際でかく、一際ハゲている盗賊の頭領。盗賊はハゲが頭領になる規則でもあるのか?

「偶然であってそんな規則はありません」

「アイ? いたのか」

「はい、ちなみに眠気は世界転移の後遺症ですね。すぐに治りますよ」

「マジか」

 ようやくはっきりとしてきた頭で改めて周りを見る。武装した盗賊に未知の世界。

 まずい。

 命の危機的な意味で。

「……アイは戦闘手段とか」

「ありません」

「ですよねー」

 さっき聞いたけど。そんな都合の良いこと無いよな。

「何をひとりでぶつぶつと言ってんだ」

 俺が立ち上がっても見上げるほどでかい頭領。向こうには数と武器それに数人の仲間。対するこちらはひとりで武器も無く、戦えない目玉が一つ。考えるまでも無く。

「金も何もないです、見逃してください」

 両手を上げて降参した。

「いや、ほら剥ぐほど身包みも無いですし、ほっとくのが吉ですよ」

「ふーむ、言われてみればそうだな」

 正直に話したのが良かったのか、頭領の反応は良い。このまま言い逃れることができれば何とか。

「しかし、身分も武器も無いガキ。それでも俺たちには金になる。こいつみたいにな」

 頭領の影に隠れていた人が姿を現す。それは手枷をつけられ、角の生えた長い紅色の髪を持つ女性だった。

「えーっと、そちらは?」

「良いだろ魔族の女だ。こいつは高値で売れるぞ」

 盗賊、女、高値、これらから導き出される答え。それはつまり。

「奴隷売買……?」

「理解が早いな」

「あざっす」

 笑い合う俺と頭領。このまま友好関係を築き上げることができれば。

「大人しく捕まれば乱暴はしねぇよ?」

「おっす」

 素直に手枷を受け入れた。人間どの世界でも素直が一番。




「さって、どうしようかなアイ」

 手枷を付けられた後、盗賊は休憩を始めた。

 少し離れた場所で魔族の女性と一緒に座っていた俺はアイに小さな声で話しかける。

「情報収集をしてから検討することを勧めます」

「良いな、それ採用」

 許可を出さなければ他人に見えない、その特徴が今ではとてもプラスに働く。

「偵察において見えないなんて強すぎるね」

 アイが帰ってくるまでどうしようっか。

「あの、すいません」

「え? はい」

 どうするか考えていると、隣から声をかけられた。

 さっきの赤髪の女性。魔族、だっけか。

「お互い災難ですね、こんなことになってしまって」

「まったくですね」

 改みるとかなり女神にも負けず劣らずの美人だ。

「あなたみたいな綺麗な人と出会えるならもっと良い場所があったでしょうに」

 そう、豪華なホテルの一室とか。

「そ、そうですか。綺麗だなんて」

 恥ずかしいのか少し頬を染めた。

「名前、聞いても良いですか」

「正樹と言います。清く正しい樹木と書いて正樹です」

「はい?」

 俺の誠実さをアピールしたかったのだが、彼女には伝わらなかった。まぁ、良いか。

「私はイリス、本当なら捕まることもなかったのですが、ちょっとドジを踏んでしまって。ダメですね私」

 俯くイリス、さん。いくつなんだろう?

「アイなら分かりますよ」

「マジでか」

 情報収集を終えたのかすぐ隣にアイがいた。

「あの? さっきからどこに話しかけて」

 ……そうかイリスさんにも見えないのか。

 動くなら見えたほうが協力できる、か。

「アイ」

 俺はイリスさんに姿を見せるように合図する。

「良いのですかマスター」

「あぁ、こんな時には協力しないと、な」


「マサキさん? どうか、え?」

「初めまして、マスターの使い魔。アイと言います」

「あ、はい。イリスです。どうも」

 宙に浮かぶ目玉を見ても驚かず、挨拶を返す。肝の座った人だ。……魔族って人? 種族的に肝の据わった魔族?

「アイさん……って、もしかして全てを見透かす魔眼じゃ? それを使い魔にするなんて」

 イリスさんがアイを見てすごく驚いている。

「私はマスターの使い魔アイ、それ以上でもそれ以下でも、それ以外でもありません」

「らしいです」

「えぇ!? イヤイヤ! 本物なら伝承に載るくらいの超常幻物ですよ! その力を使えば世界の謎も神の心も見通すことができるって」

 急にまくし立てるイリスさん。

 ……アイってこの世界じゃそんなに有名なのか。少しミスったかな。

 イリスさんの話を半分くらい聞き流しながら今後について考える、そのため近づく影に気付くことができなかった。

「ほう、他には?」

「例えば……、あっ……」

 流れで返事をしようとしたが、その相手は俺ではない。

「仲間外れは寂しぃなぁ、俺たちにも何の話してるのか教えてくれよ」

 頭領を初め、ぞろぞろと他の盗賊たちも集まってきた。


「何も無いガキだと思ったら不可視の使い魔持ちかよ」

「へ、へへ。どうやらそのようで。今知りましたよ」

「高く売れるな」

「なら丁重にー、とは言いませんけどできれば優しく扱ってほしいなーって」

「確かに商品は大事にしねぇと売れんが」

 そういうと頭領は俺の腕より太い鎖を取り出した。

「逃げ出すような奴は調教しておかねぇとな」

 気色の悪い笑みで近く頭領。……そろそろ動くか。

「待ってください!」

「ほう?」

 イリスさんが俺と頭領の間に割り込んだ。

「罰なら私に」


「ほうお前がガキの代わりになると?」

 頭領は面白そうにイリスさんを見下ろす。

「ことの発端は私が話しかけたからです。それならば、原因である私が罰をうけるのが道理。違いますか」

 イリスさんは一歩も引かない。体格差なんて見れば分かることだが、俺は高校生の平均ほど、イリスさんもあまり変わらない。

 それに比べ頭領は二メートル近い身長にそれに見合ったごつい身体、腕まわりなんて俺の二回りはありそうだ。

 仮に、頭領が本気で殴れば俺もイリスさんも簡単にやられてしまうだろう。そんな相手に堂々と胸を張る。

 かっこいい。心のそこから、素直にそう思えた。

 だから。

「そうです、全部悪いのはイリスさんです。なので俺は見逃してください」


「…………お前なんて言った?」

「悪いのはイリスさんなので、責任は全て! イリスさんにどうぞ」

 だって俺は何もしてない。

 はしゃいで気付かれたのもイリスさんのせいだ。

「女がこうして身を張っているのに、お前は庇うどころか全て押し付けるたぁ、良い度胸押してんな」

「待ってください! マサキさんの言うとおり私が全部悪いので」

「黙ってろ」

 イリスさんの言葉を遮り、俺に向かう。……プレッシャーというか圧がすごい。

 これがハゲの力か。

「潔い素直な奴だと思ってたが、口だけが回る信念も道理もねぇ、お前それでも男か? あ?」

「盗賊に道理を説かれる謂れはないね、坊主になって出直してきな。その頭ならすぐになれるだろ。あ、髪の毛と共に知能も消えた?」

 煽られた頭領だけでなく、部下からも圧がかかってきた。

「もう良い、売り飛ばすのはやめだ。その貧相な身包みだけ置いてあの世に行けや」

 身体に巻きつけていた鎖を外すと、頭上で振り回す。

 バットを振ると風と音が鳴るがその比じゃない。小さな台風みたいだ。

「良いよ、相手になるよ。お前に相手が務まるか怪しいけどな」

 ゆっくりと立ち上がり、自信満々に、そして不敵に笑う。

「俺と遊ぼうぜ」

「まずはその減らず口を聞けないようにしてやる」

 ますます振り回す速度が上がる。防具も何もない俺じゃ一発でお陀仏だ。

「アイ」

「共有終了」

「っ! それがお前の使い魔か、悪いが俺が新しい主はなってやるよ」

 鎖を手首だけでなく一度腕全体で大きくふりかぶりと、俺に向かって振り下ろ、


「なれるもんならなってみろよ、奴隷願望のあるドM野郎」


 されることは無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ