春なんてこない
いよいよこの時が来た。
今までも幾度となくこの場所に足を運んできたがやはり慣れない。毎度のことだが周りから怪訝な目で見られてしまう。なんせ男がBLコーナーに入るだけでなくBL本を買うのだ。珍しいことこの上ない。なにもおかしいと言うわけではないのでそこのところご理解を。
とにかく俺はこのミッションを出来るだけ目立たず素早くやってしまいたい。今回のお目当ては一番最初に俺が皐に買うのを頼まれたリンリンの最新刊である。リンリンことリンスーアンドリンボーとは美容師とリンボーダンサーの純愛物語だそうだ。もちろん2人とも男だが。
今俺は魔境へと足を踏み入れる。そしてすぐさまリンリンを探す!! あった!! よし、手に取り
「「あっ」」
他にその本を取ろうとした人と手が当たってしまった。しまった、本を取ることに注意して他の人に注意を向けていなかった。
「すみません、どうぞ」
本を手に取ろうとしたら知らない人と手に重なり、しかもその本はBLで手を重ねた人は男。さぞかし相手はびっくりしているだろうなとその人を見ると。
「いえ、こちらこそ……!!」
何故かこちらを見てびっくりしているその人は、上から黒いニット帽、サングラス、マスク、黒いコートというかろうじて女だとはわかるのだがマスク以外全身真っ黒コーデの、まさにわたし不審者です、みたいな格好をしていた。
少し驚いたかのように見えたその女性だったがその後、すぐさまリンリンを手に取りそのコーナーから去っていった。
「なんかどっかで聞いた声だったような」
まあ、気のせいかなと思い、俺もリンリンを手に取り、レジへと向かった。
その翌日、俺は放課後学園の女神様に屋上へと呼び出された。
「高島君!! わ、私と……」
顔と耳を真っ赤にして女神様は言った。俺にもついに春が……!! と思ったこの時の俺を殴ってやりたい。この後、学園の女神様はとんでもないことを言い放ったんだ。
「私とBLについて語り合いませんか!!」
……はい?