机上の消しカス
私は消しゴムから生まれた消しカス。
誰しも一度は私を生み出した事があるだろう? そう。消しゴムでノートや机に摩擦を加えた時に、消しゴムの表面が削れて細い屑となったアレさ。
皆はただのゴミだと思ってすぐにゴミ箱に葬るけれど、私の存在は皆の思い出でもあるんだよ?
例えば、難しかったあの算数のプリント。何度も計算式を書いては消して、書いた答えも違う事に気付いて消して、紙がボロボロになるまで消したじゃない。
例えば、頑張って描いたキャラクターのイラスト。漫画家さんみたいにアタリを描いてさ、下描きまで何度も描き直してペンでなぞってたよね。その後も、ちゃんといらない線消してさ。コミック用のマーカーで色を付けて、友達に見せたじゃない。
苦しかった事も、楽しかった事も、皆にとっては素敵な思い出。
私はその思い出を纏って、こんなに黒くなったんだよ。黒ってあんまり良いイメージないけどさ。大切な思い出だって思うと、凄く綺麗な色に見えて来るんだよ?
机上に置かれた一枚の紙……そこに転がる私。
今まで大切な思い出だけを纏って来たと思っていたのに、ねえ……どうして?
どうして「好き」を消して、「さよなら」を残したの?
誰も答えてくれる筈もなく、大きく開いたガラス戸から吹き抜けた風が私の身体をそっと揺らした。