変われないボクの変わった日常
誰かの声が聞こえる
遠くで誰かが呼んでいるんだ…
少しづつ近づいてくる…
…何を聞いているんだ…?
ダメだ、まだ聞こえない。もう少し側で話してよ…
ー●●●●●●●●●●●ー
お願い、もう少しで聞こえそうなんだ、もう少し近くでー
また同じ夢を見ていた。
あと少しで何を喋っているのか分かるのに、その直前で目が覚める。いつもの夢。
多分…女の人の声。声音からはそう思える。ただ、何故かもの悲しい声だった気がする。いつも大切な事は覚えていないんだ。
もう一度眠りにつけば続きが見られるかも、なんて事を思いながら時計を見て焦る。物思いにふけっている場合じゃなかった。
ー完全に遅刻だ…。しかしボクは諦めのいい方だ。面倒臭がりともいうが。
早々に自主休講を決め、特に焦る事も無く朝の身支度を整える。相変わらず冴えない顔してるな…
今からなら余裕を持って午後の講義には間に合うだろう。早めの昼食代わりにいつもの携帯栄養食を口にする。うん、特に美味しくもないが不味くもない。結局ご飯なんてお腹が膨れればそれでいいのだ。
午後の講義の準備をして、重役出勤さながらのんびりとした足取りで学校に向かう。
今日も退屈な1日の始まりだ。
学校に着いたからといって、別に誰かと喋るという事も殆どない。気の置けない友人以外は、別に交友関係なんて広げなくてもいいのだ。
断じてボッチな訳じゃない。人よりコミユニケーション能力が少し低いだけだ。断じてボッチなどではない…ハズ…きっと…
あぁ、自分で自分が悲しくなってきた。こんな時は何か他の事に頭を使おう。
例えば…そう、最近よく見る夢の事でも考えてみよう。
もちろん自分に夢診断なんて出来はしないから、考察と言ってもそれはただの感想に過ぎない。
声の感じからするに…女の人なのは間違いないはず。歳の頃は自分と同じくらいか?でも、何処かで聞いた声とかではないと思う。いつももの悲しそうに聞こえるのはなんでだ?何かをボクに訴えかけている?どうしてこんなコミュ障のボクに?友達なんて片手で余る程しか居ないボクに何を訴える?
そこまで考えて少し、いやかなり悲しくなってきた。と同時に1つの可能性に思い当たるが、そこで思考は中断した。いや、正確に言おう。中断せざるを得なかったのだ。
いくらコミュ障ボッチのボクとはいえ、講義の合間の時間をトイレで過ごすほどレベルは高くない。学校には必ずある静かな場所、図書館で過ごしていたのだ。当然少ないながらも人はいる。
コミュ障は人の視線には敏感なものだ。誰がいつ自分に襲いかかってくるのかをこれでもかと警戒しているから。
ー見られている。しかもわりとガッツリとー
しかし当のボクにはまるで見当がつかない。ボクにはそんな見られる理由など存在しないと言ってもいい。所詮ボクなんて、どこにでもいるただのコミュ障ボッチだ(認めてしまった…自己嫌悪…)。何故そんなボクを観察するのか?よろしいならば戦争…はしないが、こちらも観察し返してやる…と思った途端、その視線は霧のように消えた。なんだったんだ?いったい…
その後、午後の講義にはキチンと出席して時間を潰し、数少ない友人と一言二言会話をして学校を出たのだか、その時に不思議な事を聞かれてしまった。
曰く「あれ?さっきまで女と一緒じゃなかった?」と。生まれてこの方彼女の1人もいなかった訳では無いが、今は当然ボッチだ。女の人どころか男の人も殆ど近くにいないのは友人も知っているはずだと思っていたのだが…。女どころか男も一緒じゃない旨を友人に伝えると「それもそうか」と納得されてしまった。自分でコミュ障ボッチを自覚する分にはいいのだか、それを人に肯定されるとやはり来るものがあるなぁ…
自己嫌悪に陥り、若干ふらつきながらも家路に向かう途中、また視線を感じた。間違いないとは言いきれないが、図書館で感じた視線と同じ感じ。もしかして同一人物?図書館の時のような一定の距離ではなく、少しずつ近づいてきている気がする。どうする?コミュ障の自分に全くの他人と言葉を交わすなんて紐なしバンジーよりも難易度高いよ!
挙動不審になっていないか、なんて気にしている場合ではない!気のせいじゃない、間違いなく近づいてる!どうする?逃げる?どうやって?走って?
「…あの…?」
バカな事を考えている場合じゃなかった!話しかけられた!どうする?このまま聞こえなかったふりをしてスルーするか?それが出来るならこんな難儀な性格になっていない。もしかしたらただ何かに困っていて、助けを求めているだけかもしれない。…それでもやっぱりボクにとっては面倒事なのだか…
「…すいません、あの…?」
今ならまだ逃げれるか?でもいきなり走り出したりしたら、相手に失礼なんじゃ?そもそも本当にボクに話しかけているのか?そうだ、きっと誰か別の人に違いない!うん、そうだ!人違い…
「えっと、そこの君。私の声聞こえてるよね?」
…終わった…もう退路は絶たれた…。仕方なくボクは振り返り、その声に反応を…
「ーーーーー」
出来なかった。コミュ障が理由じゃない。いや、コミュ障なのは認めるけれど…。そうではなく、ボクに話しかけてきていた女の人が綺麗だったから、ではない。この世の者とは思えないくらい透き通った白い肌をしていたから。
「あ、あれ?えーっと…私の事見えてます?声、聴こえてます?」
「あ、あの、えっえっと、はい。見えてますし、聴こえてます、ハイ」
「よかった。君をずっと探してたの」
ヤバい、めっちゃどもってる!人と話すのって難易度高すぎる!何か言葉を続けないと!いや待て、今探してるって…
「あの、こんな事突然頼むのは失礼だなってわかってるんだけど、私最近この辺りに来たばかりでよく分からなくて。だから、君みたいな人に出来れば案内して欲しいんだけど…ダメ?」
ちょっと待て。意味がわからない。日本語ってこんなに難しかったっけ?え、この人何言ってるの?何言っちゃってるの?もしかして逆ナン?嘘だ!有り得ない!…そうか、これは何かの勧誘の手口だそうだそうに違いない!危ない危ない、一瞬引っかかりそうになった自分が情けない。そうと分かれば対処は出来る。新聞の勧誘だってなんだって、弱みを見せたらそこで負けだ。
「いえそういうのは間に合っているので、他を当たってください」
「そこをなんとか!誰も私を見てすらくれないの!どうか人助けと思って…」
わかってる、全部あちらの計算なんだろ?いかにも「私困ってます!」オーラを出して人の弱みにつけ込む手口に違いない。
…でも本当に困っていたらどうしようか…本当に知らない土地で、知らない人ばかりで、1人放り出すのは人としてどうなのだろう…
もしボクなら、人に話しかけるなんてハードルが高すぎて出来ない。今だって頭がパニックを起こしそうだし、いつ喋りにボロが出たっておかしくない。それに彼女は本当に真剣にお願いをしている気がする。それを無碍にするのは、うん、人として間違っていると思う。
だからボクはつい「わかりました、どの辺りを案内すればいいんですか?」なんて事を言ってしまった。彼女はとても人好きのする笑顔で感謝をしてくれた。とりあえずはそれだけで自分の行動に間違いはなかったと納得させる。…もし勧誘だったら、その時は迷わず逃げよう…
その後、彼女の求めるままに様々な場所を案内した。勝手に生活に必要な場所を案内すればいいのかと思っていたのだけれど、彼女が案内を求めたのはそんな場所では全くなかった。
かといって観光地を案内して欲しい訳でも無いようで、実際に案内したのはそれこそどこにでもある普通な日常風景ばかりだった。
ー何を考えているんだろう?何か欲しいものを探すでもなし、観光を楽しむでもない…まぁ所詮ボクのようなコミュ障に他人の気持ちなんて知れるわけもないし、別に知る必要もないかー
益体もないことを考えながら、ふと横を並ぶ彼女を見やる。目を見張るような美人という訳でもないし、その逆でもない。どちらかと言えば可愛いと言われるタイプだろう。どちらにしろ今のボクにはまるで縁のない人だ。人なのだがーどこか懐かしい気持ちになるのは何故だろう?何処かで会ったことでもあっただろうか?
「どうかした?」
「あっ、え、いや…その…何処かで会ったこと、ありましたっけ?」
突然話しかけられてキョドってしまったが、たぶん大丈夫。内心いっぱいいっぱいだけど、顔には出てないはずだ…
「?もしかしたら、何処かですれ違ってたかも知れないね?」
嫌味のない、爽やかな笑顔で彼女はそう言った。そう言われればそうかもしれない。特に普段ボクは人と顔を合わせないような過ごし方をしている。そんなボクがすれ違っただけの人の顔など覚えているはずもない。何だか妙に納得してしまった。その時の彼女の笑顔に少し心を掴まれたのは内緒の話だ。
それからも特に変わった場所を案内することも無く、彼女の行きたい場所を案内し続けた。変わった事と言えば、彼女と少し話をするようになった事か。
彼女は体が強い方ではないらしく、少し前までずっと入院していた事。そのせいで碌に友人も居ない事。学校にも殆ど通えなかった事…。彼女は誰に聞かせるという風もなく、淡々と話していた。
「君にとっては珍しくもない景色も、私にとってはとても新鮮なの」
やはり彼女は爽やかな笑顔で言う。続けて「とても感謝している」とも…
何だか自分が情けなくなってきた。自分のコミュ障を棚に上げて、こんな風に笑う彼女を不審者扱いしていたなんて絶対に言えない。そんな事になったら恥ずかしさで死ねる自信がある。
そして彼女が最後に行きたいと言った場所は、そんな彼女が長く過ごしていたという病院だった。
そしてそこはボクもよく知っている場所だった。それはそうだ、だって今立っているのはボクが殆ど毎日使っている通学路なのだから。
「…さっきはあんな事を言ったけど、実は私は君の事を知ってたの…」
ちょっと待って、今なんて?ボクの聞き間違いか?知ってた?なんで?どうして?頭の中が混乱する。
「君、よくこの道を通ってたよね。私はそれをあそこから見てたの」
衝撃的な発言だった。どう贔屓目に見たってボクは一目惚れされるような人間ではない。これは何かの間違いに違いない。問題はどうそれを彼女に説明するか…
「前にね、子供が…たぶん迷子で泣いてたのかな?それを君が一緒になって探してあげてたでしょ?」
そんな事…あったかも…。でもコミュ障だからって泣いてる子供を放っておくような人でなしではないだけで、誰でもそうする事じゃないの?
「それに、あれはお婆さんだったかな?たくさんの荷物を抱えてたのを持ってあげたりしてたでしょ?」
それだってそうだ。誰かが困っているのに見て見ぬふりなんて、コミュ障だからって放っておけなかっただけの話だ。
「だからね、きっとこの人なら…って、思っちゃったの…」
何だか話が変な方向に行き始めている気がする。でも、この話の流れはさすがになんとなくだけれど分かる。どうして?という気持ちがないわけでもないが、でもやっぱりどうしてだ。内心焦りまくっているボクに彼女は、今日見せた中でも1番の、とびきりの笑顔を向けながら言った。
「ー私と死んでくれないかなー」
最初は随分と間の抜けた顔をしていただろう。でも、直ぐになんとなくだけれど腑に落ちたものがあった。
最近よく見ていた夢。友人の言葉。何よりここまでの道中での雰囲気…
「…キミは…たぶんだけど…もう、死んでいたんだね…?」
半ば確信めいたものを感じながら言葉に出した。
「…やっぱりそうなのかな?いつ死んじゃったのか、自分でもわかんないんだけど…たぶんそんなに遠くない。きっと最近」
彼女は伏し目がちに悲しそうに呟いた。ともすれば聴き逃してしまいそうなか細い声で。
「ずっと寂しかった。覚えているのは病院での風景ばかり。周りの人達は自由に過ごしているのに、私はいつも病室の中。何処にだって、なんだって、みんなが出来ている当たり前が私には無かった。…周りを憎むことさえあった…」
彼女のそんな言葉を、ボクはただ聞いていることしか出来ない。だってボクはその『当たり前』を享受していた人間だから。
「私だって友達が欲しかった。一緒に遊んだりしたかった。恋人だって欲しかった。一緒に笑いあったりしたかった」
淡々と彼女は続ける。かけてあげる言葉なんて、ボクにある訳もない。
「君を見つけたのは、偶然。外を眺めるしか出来なかった私の日常に、君が映ったのは本当に偶然。でも君を見ていたら、思ってしまったの…」
ーきっと本当に偶然なのだろう。病室から見える景色が、きっと彼女の全てだったに違いない。切り取られたその景色だけが彼女の見える世界で、彼女に許されていた日常だったんだろう。
「困っている人をつい助けてしまう。そんな優しい君なら、私を受け入れてくれるかもしれない。病院から出ることも出来なくて…人並みの何もかもが叶わなかった私にも、きっと優しくしてくれるんじゃないかって…死んでしまった私にも、何かを与えてくれるんじゃないかって…」
咄嗟には言葉は浮かばなかった。確かに日頃生きているのか死んでいるのか、なかなかに曖昧な生き方をしてきていたボクだけれど。「一緒に死んで?」と言われて、悩んでしまったボクがいる事も確かだから。普通なら即答でそんな事は受け入れられないんだろうけれど、何故だかすぐには否定する気持ちになれなかった。
ー彼女の言葉はたぶん本当だ。ここまでの道すがら、見てきた当たり前の景色に彼女は、目を輝かせて見入っていた。子供のような表情で、キラキラと光る眩しいものを見るように。
そんな、何一つ『当たり前』を経験出来なかった彼女の、死んでも残ってしまった『当たり前』への未練を、ボクは否定出来なかった。否定する資格さえなかっただろう。
なぜならボクはコミュ障だボッチだと『当たり前』を享受出来る立場に居ながら、それを放棄しているような人間だ。彼女の言葉を否定なんてしてはいけない気さえしてしまう。それでも…
「…ゴメン、さすがにそれは出来ないよ…」
「…やっぱりそうだよね…」
彼女は答えをわかっていたかのようにそう返した。僅かに眦を滲ませながら。それでも確かな笑顔で。
「…本当に…ゴメン…」
「謝らなくてもいいよ?誰だってそう答えるよ。私だって本当に死んでくれるなんて思ってなかったから」
努めて明るい調子で彼女は答える。きっと嘘だとボクは思った。病室でずっと1人だった彼女。日常を知らなかった彼女。『当たり前』を享受出来なかった彼女。だからこそ、1人になってしまったからこそ、誰かに一緒にいて欲しいと願ってしまったのだろう。例えそれが死んでしまった後だったとしても…。それを願うことの罪深さを知りつつも…。
「…色々考えてみたんだ、短い時間だったけど。確かにボクはなんとなく生きてて、いつ死んでもいいやって思ってた」
知らず口が言葉を紡ぐ。
「でも、キミと出会って、歩いて、こうして話して…。過ごした時間はとても短かったけど、そうじゃないんだって思わされたんだ」
「え?」
「ボクはなんだって出来た。何処にだって行けた。でもそれは『当たり前』の事じゃなく、とても大切な事なんだって気付かされた。それを教えてくれたのはキミだ」
彼女は真剣な顔でボクの話を聞く。ボクは纏まらないままに紡ぎ続ける。
「ボクは今までその『当たり前』に気づかずに、何もせず過ごしてきたんだ。その愚かさをキミは教えてくれた。ここでキミと一緒に死んだら、せっかくキミから教えて貰えた事を無意味なものにしてしまうんだ。だから…」
自分でもよくわからない。それでもボクは言葉を続ける。
「…だから、ありがとう。今日、ボクに出会ってくれて。すぐに変わるなんてきっと出来ない。それでもボクは、次にキミに出会えた時に色んな話が出来るように、キミと笑って会えるように生きていくように約束するよ」
彼女の表情は、なんとも言えないものだった。ボクだってそうだ。言ってしまった後だが、自分でも何を言っているのかわからない。
「アハ、アハハ」
彼女は笑いだした。つられてボクも笑いだす。
「アハハ…君っておかしな人ね?よく言われるでしょ?」
「残念ながら言われるほど友達がいなくてね」
そうしてひとしきり笑いあった後、彼女はトンと頭をボクの胸に当てた。幽霊なのに何故だろう、微かにいい香りがした。
「…私も、最後に君に会えてよかった。ありがとう…」
そして彼女は消えてしまった…。最初からいなかったかのように、あまりに自然に。
「最後に名前くらい、聞きたかったなぁ…」
感じるはずのない残り香を感じながら、ボクは小さなため息をついた。
夜も更けた帰り道を歩きつつ、今日の出来事を振り返る。いや、振り返るまでもなく不思議な出来事だったのは間違いない。今でも本当にあったのか自分でも自信が無い。
けれど自分の中で何かが変わった感じがするのは違いない。ならばあの出来事は本当に体験した事なのだ。例え不思議な出来事だったとしても。
自分も変わらなくてはならない。彼女にそう約束したのだ。笑って会えるように生きていくと。二度と会う事など有り得ない相手だとしても、交わした約束を違えるような事はしたくない。人として。
夕飯を調達がてらコンビニに入ろうとして、止めた。そうだ、たまには自分でご飯でも作ってみよう。食事1つとっても、捉え方次第で如何様にも変わるのだ。せっかくだから、もし生きていたなら彼女に食べさせてみたかった物を作ろう!何故だろう、少しだけ楽しくなった。
ひとしきり買い物を終え、家に帰る。そういえばもうあの夢は見ないのかな…。なんて事を思いながら鍵を開け、中に入って電気を付けた。
「…あれ?」
付けた瞬間人影が見えた気がした。しかし一人暮らしのボクの家に、誰かがいるなんてあるはずがない。自分の影と見間違えたか…
「アハハ、さっきぶり?かな?」
手に持っていた荷物を落とした。慌てて彼女に詰め寄る。
「アハハじゃないよ!?さっき消えたよね?あれって成仏とか、そういうのじゃないの!?」
「それがね、私もわかんない。君の前から消えた時に『あー、もう消えちゃうのかー。もう少しこっちにいたかったかなー』とか思ってたら、ここにいたの」
言いたい事も聞きたい事もあったけれど、驚きが全部を飲み込んでしまった。言葉が何も出て来ない。
「それでね?まだこっちにいられるなら、せっかくだし君の約束を見守ろうと思ってね?もし迷惑じゃなかったら…」
思わず彼女を抱きしめていた。彼女も驚いていたようだけれど、ボク自身も驚いた。
「迷惑じゃない。ここでキミとの約束を見守っていて欲しい。ボクは弱い人間だから、きっと流されてしまう。キミが見ていてくれるなら、ボクは流されずに頑張れるから」
彼女の手が優しく背中を叩いてくれる。まるで子供をあやすかのように。
「君がそう言ってくれるなら、私には断わる理由なんてないよ?むしろ住まわせてくれるお礼を言いたいよ」
幽霊に家がいるのか知らないけど、と彼女は優しく笑いかけてくれる。それでボクは少しだけ落ち着きを取り戻すことが出来た。
「そうだ!さっきは突然消えたから聞けなかったけれど、キミに聞きたかった事があるんだ」
いつまで続くかもわからない同居生活だけれど、そんな事は抜きにしてもこれだけは最初に聞いておかないと…
「ボクは、ボクの名前はー」